プロローグ 「 純粋な君を守りたくて 」
俺は当たり前の人間を目指していた。
当たり前の人間は当たり前に食事を取り
当たり前の人間は親にも恵まれる。
当たり前の人間は時に恋をし
当たり前の人間は努力し結果を勝ち取る
俺にはそれが出来なかった。そもそも俺の望む
当たり前ってなんなのだ…… なぁ、教えてくれよ。
俺の当たり前ってなんだ?そもそも当たり前という
言葉は?魔王なら、神なら、勇者なら知ってるのか?
当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前当たり前....... 。
この世は不条理で出来てると俺は幼い頃…いや、今も
思っていた。俺は何をやっても平均以下。ロクに
内側の輝きも無い様なクズが才能というアイテムを
片手に楽にこの世を生きている…俺は負け組だ。
モブキャラみたいな容姿、平均的な体型。
努力しても何も無い。普通とまで言えれば良かったが
平均の少し下。赤点ギリギリの生活。
ロクに食欲も無く夢も希望とやらもない。
家に帰れば、帰って来ない父親と精神的に
追い詰められた悲劇のヒロインを演じる母親の暮らす
寒い我が家が待っている。何が温かい我が家だ。
………家に帰るのも馬鹿馬鹿しい。
オレンジ色に染まった嘘の色を見せびらかす世界を
無視して欲と金儲けで出来た建物の出口を出て
俺の手の中で綺麗な色を発している
新発売のゲーム…『 Your own story 』
通称 『 ユースト 』のカセットを片手に帰路につく。
…が、少し寄り道をする事にした。あんなくだらない
家に帰ってもゲームするだけだ。気まぐれに
散歩してみるといいと誰かが俺に言っていた。
さて、家に帰ってしまったらこれで遊ぶとしよう。
自分の生き恥を晒す様な穢らわしい俺の腕の中で
こんな夢と希望に溢れた作品を触れるだけで
俺は幸せだ。ゲームだけ。ゲームの世界だけ
俺を普通に、【 当たり前 】として見てくれる。
まぁ、これがきっと俺の一年で買う最後のゲーム。
アニメで稀に見るゲームがプロゲーマー並に
上手という才能も無いが、エンジョイ勢として
大切に楽しくプレイしようではないか。金が無いから
多分当分は昼は何も食わない生活になるが…。俺は
食えないから別に問題ない。
俺の学校は学食や弁当で昼を済ます事が多い。
が、俺の親は小遣いもくれる脳もなく、弁当は
父が遅くまで帰って来れず、母は御自分の世界に
入って忙しい様子。馬鹿だなぁ。惨めだなぁ。
俺にはお前が行ってる病院も行かせない癖に。
バイトも禁止、金がある裕福な家庭なら少しぐらい
両親の財布から少し貰っても良いだろうが…だが、
俺の父の収入は平均程度。更に俺の通う学校は
私立なのだ。金も無いし別に私立に行っても
自分の才能が開花する訳でも無い。完全に詰んだ。
俺は何度も思う。俺は負け組だと。
相変わらずクズな俺自身に呆れてると
踏切の線路の下に綺麗な白猫がいた。美しい。
この世と本当に対象的な…いや、言葉通りの
真逆の色をしてる。純粋な白。白銀なんて色では無く
本当に……綺麗な程 白 。自分と世間の対象的な
色をした猫を見ているとリズミカルで法則性のある
メロディーが流れる…そして黄色と黒の縞縞が通行を
遮断しそして大きな音を立てた鉄の塊が
決められた道を何も考えず走ってくる。
猫はそれに気付いてるのかそれともその鉄屑なんて
微塵も興味が無いのか黙って俺を見ている。危ない。
白い綺麗な毛並みが赤黒く変化する。見たくない。
見たくないそんな色。お前にだけでもいい。
お前だけ綺麗な白でいて欲しいんだ。
「 ……お前、轢かれるぞ。」
ロクに使ってなかった口が
開いたかと思うと猫に対する言葉が発せられた。
猫が返事をする訳でも無いし俺の言葉を理解出来るとは
思わないが猫に俺はそう一言述べた…が、
猫は電車を見て何を思ってるのか俺を見て
固まっている…。このままこの猫が動かない場合…。
良いだろう。俺なんかの命なんてお前にくれてやる。
その代わりお前は俺の赤には染まらず逃げろ。
俺はロクにない足の筋肉に力を集中させ、
無駄に重いバックを捨て唯一の輝きと思っていた
カセットを片手に猫に向かって
走り出す。黄色と黒の妨害をスライディングで避け
そして白い綺麗な塊を捕まえようとしたが…白い猫は
既に歩き出していた。真っ直ぐ、ただ四本の脚を
規則正しく動かして。嗚呼…良かった。鉄の塊が俺の
右耳の鼓膜を破こうと音を立てる…。
破くだけなら良い。
が、きっとそれ以上の事を俺は受けるだろう。
電車に乗ってたヤツら…俺みたいなクズのせいで
遅刻をしてしまったらすまない…。このクズの死体を
蹴飛ばして鬱憤を晴らしてくれても構わない。
頭の中の住民に蹴飛ばされる俺を頭の中で
思い浮かべながら時は過ぎていく。
俺は眠る様に目を瞑り、そして………この世の中の
一部にお前らの生きてる世界の色を見せつけ、
あるゲームのほんの一部と存在と記憶と
「 俺 」というゴミがこの世から消えた。