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落ちこぼれの蝉

作者: みるきーうぇい

私は昔から昆虫が大好きで、友達や家族がセミの鳴き声をうるさいとひとことできっぱり言い切ってしまうのがなにかと納得できなかったのでこれを書いてそいつらに片っ端から送り付けてやってました。

とある日の週末の夕方です。蒸し暑く、低い角度から日のさす夕方でした。私は仕事からかえる

ところだったんです。家まで 10 歩とかからないところで、声が聞こえました。

???「おい。そこのお前。」

私「(?今声が聞こえたような・・・)」

???「止まったのに見向きはしやがらねえんだな」

私「え?私のことですか?」

???「え?もしかしてホントに聞こえてる?」

私「(どうしよう。病院いったほうがいいのかな)」

???「待って待ってそんないぶかしげな顔しないで!左後ろの木見て!」

ふいっと振り返って見たんです。確かに声は左後ろから聞こえたかもしれないといえばそうかも

しれませんが、ほんとに振り返っても、木とに自分の肩ほどの高さにとまっていた熊蝉くらいし

かありませんでした。私は途端に恐ろしくなったんです。足元を救われたような、幽霊でもいた

のかと想像すると、逃げ出したくなって当然だと思ったんですが、不思議とそんな気は起こらな

かったんです。次の思考が回る前に、また声が聞こえてしまいました。

???「今目が合ったな。ここだよ。ここにいるセミだよ。」

私「え?」

思わず声が出てしまいました。もしこの道理が現実になってしまうのならば、蝉が私に語り掛け

ているということになってしまいます。なんせ私は虫が嫌いでして。さらには人も嫌いなんです。

蝉「信じられねえならそれでもいいけどよ。お前さん、随分と退屈そうな顔してるじゃねえか。

俺だって人間に心を読まれたのは初めてさ。お互い暇つぶしに喋ってかねえか?」

私「はぁ・・・」

私はこのよくしゃべる蝉にことばをかけてやろうか迷っていましたが、かけてやろうと決意しま

した。退屈そうな顔と言われたのは上司にもでした。あの腹立たしいこの世の塵と同じことをい

われたのが悔しかったというか。とにかく言ってやります。」

私「その・・・暑いところがすきではないので・・・遠慮しておきます。」

蝉「そういわずにぃー。じゃあお前の家まで行ってやるからさ!な!それでどうだ?お前の家の

ベランダでまっててやるからさ!」

私「もう・・・わかりましたよ。」

何故自分の住所をしられているのか疑問でしたがまあいいでしょう。これでじぶんが病気かどう

かが確かめられます。」

マンションに入って、いつもののろまなエレベーターに乗って三階にあがりました。自宅の鍵を

開けて、すぐにベランダに向かうと、本当に熊蝉が汚れた薄い灰色の壁にとまっていました。

蝉「45 秒も待たせんなよなぁ。かりんとうになっちまうぜ。」

私「あの、どういうことです?」

蝉「まあいいや。俺のこと信じてくれたんだな。あんがとよ。」

私「はい。」

蝉「そんなかしこまらなくたっていいぜ、今更だけどよ。ま、お前がそのほうがやりやすいんな

らそれでいいけどな。」

私は啞然としていました。病気ではなくて安心した反面で理屈からなにがなんやらわからず、複

雑な気持ちでした。

蝉「少し、俺の身の上話をさせてくれねえか?」

私「ええ。」

もう考えを張り巡らすことを諦めました。どうでも良くなりました。、虫は苦手ですが、やはりこ

の熊蝉を拒む気になれなかったんです。

蝉「俺は只の熊蝉だ。オスのな。6歳三ヶ月 25 日だ。もうすぐ死ぬだろう。元気に見えるか?だ

ったらいいぜ。人間だって若く見えるって言うと喜ぶだろ?うーん悪ぃ、こんなもんしか思いつ

かねえわ。あっさりしてんな俺ったら。次はお前について教えてくれよ。」

私「え、私ですか。私は・・・つまらないただの男です。」

蝉「俺の声が聞こえるって時点でつまらないことなんか俺にとってはねぇよ。」

私「あ、ありがとうございます。」

蝉「つーかさ、そんなことどうでもいいんだよ。俺が一番聞きたいのはよ、名前だよ名前。自己

紹介で名乗りもしねぇなんて、変なやつだな。」

私「私の名前は鳩川純一郎です。25 歳会社員、独身です。趣味は読書です。」

蝉「なんだいっぱいあるじゃねえか。そういうのが聞きたかったんだよ。つっても聞いたところ

で何にもしねえけどよ。まあお互いについてちょっと知ったところで人間のことについてすこし

教えてくれやしねえか?冥土の土産・・・つぅうと逆になるけどな。」

鳩川「わかりました。なにについてから話せば・・・いいでしょうか。」

蝉「一番俺がしりてえのはよ、人間ってなんか儀式みたいなのを踏んでから交尾するだろ?

あれなんなんだ?きになってしかたねえ。」

鳩川「儀式ってのは・・・結婚式のことでしょうか。」

蝉「そうそうそれ!あんた独身なんだっけ?じゃあ急がなきゃなんねぇんじゃねえか?通りすが

りのどっかの人間がよ、やっぱり 20 代までには結婚しとかなきゃとかなんとか言ってたぜ。顔

はよく覚えてねぇ。雌・・・じゃなくて、女がな。」

鳩川「ですが別に結婚しなくても問題ないでしょう。私のような人間、結婚なんて夢のまた夢で

すから・・・」

酷く恥の多い人生・・・といえば大げさなもんですが、つまらないことしか起こらなかった人生

でした。身長は170cm 程で、顔はまあ、普通です。簡単に言えば、金融の仲介をする会社に勤

めて、こき使われています。とは言ってもべつに、ブラックではありませんがね。人間どころか、

知性のあるもの全てが苦手になっていきました。何もかも平凡です。ただ、コミュニケーション

だけが、どうしても、駄目でした。

蝉「はえー!子孫を残さなくてもいいのかよ!人間って変な生き物だな!俺なんかさ、やっと成

虫になったってのに、子供も残せず死んでいくのがみじめだって思ってたんだよ。」

鳩川「そりゃあまあ、本能ですから。」

蝉「人間には理性ってもんがあるらしいな。本能に抗おうとするって、聞いたことあるぜ。」

鳩川「あなたにも、理性があるんじゃないですか?」

蝉「うーん、そうなのか?だから雌も見つけられなかったのか?」

鳩川「多分運がなかったんじゃないでしょうか。」

蝉「そんな一言じゃあ片付けられねぇよ。」

少し私と似たような境遇なきがして、同情でもしてやろうと思ったんです。でも、何かが違う気

がしたので、やめました。

蝉「なぁお前のこと、名前で呼んでもいいか?突然だけどよ。」

鳩川「え、ええ。構いませんが。」

蝉「へへっ。じゃあ鳩吉なんてのはどうだ?」

鳩川「とても渋いですね。悪くないと思います。」

蝉「俺はもうじじいだぜ。渋いくらいしか取り柄はねえよ。」

なんだか少し、嬉しくなりました。学生の頃なんて、「鳩」としか呼ばれませんでしたから。それ

も憎たらしいことに適当に呼ぶんです。「黙ってて鳩みたいだな」なんていじめられたこともあり

ました。でも社会人になって、あだ名で呼ばれるような友達はいないことに気づきました。だか

ら新鮮さでもなく、なつかしさでもない、何か別の嬉しさがありました。

蝉「鳩吉。俺たち熊蝉の一生がどんなもんか、知ってるか?」

鳩川「昔教えてもらったことがありますが、うろ覚えです。」

蝉「そっか。なら話して損はねぇな。」

鳩川「はい・・。」

蝉「俺たちはな、まず地中の卵から孵化するんだ。そのあと木の根っこからストロー口を刺して、

養分を吸うんだ。それで 5 年かそれ以上か。ずうっといたからわかんねえ。味付けもされてねぇ

もんだから、退屈だった。丁度さっきの鳩吉みたいな顔してただろうよ。はっ。それで体がかゆ

くなった頃に地中から出てくるんだ。この時が羽化だ。木を登ろうと地面を這いずり回っていた

ら、俺の真横にいたやつが自転車に轢かれて、死んだ。あっけなかったよ。そん時運転していた

やつは、当然見向きもしねぇんだ。そりゃそうだ、そいつにとって、俺らの苦労なんざ知ったこ

っちゃねえ。」

今まで、蝉なんてうるさいだけとしか思って来ませんでした。自分の知識の浅さをおもいしり、

痛感しました。

蝉「悪ぃ、話が脱線事故を起こしちまった。んで、俺は木を登って、何事もなく、羽化に成功し

た。この時俺の右斜め下にいたやつがうっかりもうすぐ成功するってとこで落ちて、また死んだ

よ。あの時俺は、どうしたらいいのかわからなかったんだ。脱皮をしたつやのあるくりっとした

両目で、つぶさに俺を見つめてきやがるんだ。俺に何ができるってんだ。助けられもしねえのに、

ただじっと見つめてくるんだ。俺は見なかったことにして、反り返った体をなんとか、力を振り

絞って抜け殻にしがみついたんだ。その後恐る恐る下をみていたら、一匹のありんこがうれしそ

うな顔をして、堕ちちまったあいつに飛びついていった。それ以上はみてねぇ。というか、見ら

れなかった。」

私には黙って彼の話を聞くほかありませんでした。彼の無力感、恐怖心と後ろめたさが、ひしひ

しと

私の肌に伝わってきて、鳥肌が立ちました。鳩だけに。何でもありません。ただこの鳥肌は、ゴ

キブリを見てしまった時とはまた別の感じ方でした。

蝉「そのまま何事もなく、俺の肌は段々黒光りしていった。運が良かったんだ。そしたら無性に、

鳴きたくなった。だからいっぱい鳴いた。向かい側の木にとまっていたやつがカラスに食われち

まったことなんか気にせずに。勝利の雄たけびをあげているつもりでいたんだ。でもよ、ここか

らだってことを思い知らされたんだ。俺よりもっとでけぇやつがいた。声も大きさもだぜ。おれ

は勝ち誇った気でいたんだ。そいつは成虫になって三日くらいでいい雌を見つけて子孫を残して、

死んだ。そうそう、交尾を終えた雄に、生きる理由なんてないんだぜ。そいつは幸せそうな顔で

死んでいったよ。安堵してたのかもなぁ。そのあともいっぱい鳴いた。でも雌なんて一匹もこな

かったよ。でさ、俺思ったんだ。一匹体がでかすぎて抜け殻から抜け出せなくて死んだ奴がいて

よ、そいつのほうが俺より何十倍もでけぇ声で鳴けたんじゃなかったのか?・・・ってな。なあ

鳩吉、俺なんかが生きているより、あいつが代わりに羽化した方が良かったと思わねえか?」

なんといってやるべきかわかりませんでした。この状況でかけるべき言葉が見つかっている人の

ほうが、少ないでしょう。哀れで仕方なかったんです。それでも私は必死に言葉を探しました。

鳩吉「こんなことを言っても慰めにもならないと思いませんが・・・あなたが生きていることは

神様が何か理由をもって生かしているということではないでしょうか。」

蝉「はっはっは。その神様ってのは、多分自然のことだろうな。わかんねぇ。考えるのが怖くて、

考えてこなかった。なんかごめんな。返答になってなくて。さてと、そろそろつかまってるのも

きつくなってきたな。出来たらでいいんだけどよ、床でも何でもいいから、俺を置いてくれねぇ

か?なるべく水平な所に。

鳩吉「私の掌でもいいですか?」

蝉「本当かよ?一度人間に触れてみたかったんだ。」

鳩吉「ええ。少し失礼しますね。」

どうやって触ったらいいのかもわからなくて、右手でかぶせてやりました。この微妙に生えてい

る毛が特に苦手でしたが、そんなわがままをこの蝉に対して突きつけるのは悪い気がして、そっ

とつかんでみたんです。

こうして家に客人、いや客蝉を迎えてやりました。

蝉「アハハっ!くすぐってぇ!」

鳩吉「あっちょっと。大人しくしてください。」

蝉「ふう。これで少しは楽になったよ。これが人間の手かぁ。なんかぶよぶよしててちょっと気

持ち悪ぃけど、悪くねぇな。」

鳩吉「力になれて何よりです。」

蝉「いやぁ俺がまさか人間と会話できるなんて、思いもしなかったぜ。」

鳩吉「そうですね。私も熊蝉と会話できるなんて、思いもしませんでした。」

蝉「というかさ、鳩吉ももっと自分の話してくれよ。こっちばっかりしゃべってて、なんかまず

い気がすんだよ。」

鳩吉「は、はぁ。そうですね。私は子孫を残すことだけが生き物の存在理由ではない気がするん

です。自己弁護になってしまいますが、両親にしつこく結婚しろと言われて、それが嫌でしたか

ら、反抗心から結婚したくないというきもちに変わっていました。」

蝉「水をさすようだけどよ、結婚せずに子孫を残すことはできねぇのか?」

鳩吉「できないこともないですが、現実的では無いですね。あと結婚相手を養うお金が要ります

から、結婚して子供つくりゃあいいってもんでもないんですよ。」

蝉「はぁーん。交尾相手と卵の事まで考えて子孫残さなきゃなんねぇんだな、大変だなー人間っ

て。」

鳩吉「いえいえ。恐縮です。そういえば、掌の居心地はどうです?」

蝉「なんというか、あったけぇ。俺は暑さを知ってるが、この気持ちは・・・気遣ってくれて嬉

しいんだけどよ、ちょっと逃げ出したいような感じが。」

鳩吉「それは多分温もりじゃないでしょうか。」

蝉「よくわかんねぇや。はぁ、そろそろ俺は、死ぬだろう。でも今、鳩吉の言ってた、存在理由

ってもんが、分かった気がする。」

鳩吉「そうですか。それは何よりです。」

蝉「もっと言うと、俺たち生き物に存在理由なんてないのかもしれねぇ。俺は存在理由を求めて

たから、この結論にたどり着きたくなかったんだろうな。」

鳩吉「私たちは、広い生命の熱循環に携わる一部に過ぎません。別にあなたくらい子孫を残さな

くてもいいんじゃないでしょうか。」

蝉「さすがだ。人間の言うことは違うぜ。心の余裕がな。お前まだ26歳だろ?まだってなんだ

よまだって。俺たちゃあ5年で精一杯だぜ?」

鳩吉「貴方と出会ったことは、私はこれからもずっと忘れませんよ。何年生きていようと。」

蝉「鳩吉ぃやっぱりお前いいやつだな!」

蝉「俺たちもっと早く出会ってればな。友達になれたんじゃねえか?」

鳩吉「私はもう友達と思っていたんですが・・・」

蝉「マジかよ!じゃあもう俺たち友達だな!」

鳩吉「そうですね!・・・」

蝉「またさっきのだ。温もりってんだっけ?これ。なんかクセになっちまうよ。」

蝉「鳩吉ぃーせっかくダチになったんだから踏み込んだこというけどよ、人間ってせっかく何年

も生きられんだからさ、子孫を残して一緒に過ごしたほうがいいんじゃねえか?俺そういうのあ

こがれててよ、なんせ親の顔も知らねえ、おまけに雌も近寄って来やしねえし、温もりをしった

のも今日が初めてだ。鳩吉は俺の友達だからこそ、指をくわえて理想にあこがれるだけの惨めな

一生を送ってほしくねえ。俺薄々わかってるぜ。鳩吉、結婚して子供欲しいって思ってるだろ?

本能だもんな。仕方ねえよ。」

鳩吉「!」

確かにそうかもしれません。私は他者との共同生活を幸せに送ることにあこがれていました。私

はリスクを背負わない代わりに幸せもつかもうとせず、平凡でいいと自分にいいきかせてきまし

たから。見破られて悔しかったですが、友達というのはこんなもんなのかなと、納得しました。

鳩吉「図星です・・・参りました。でも、頑張ってみようと思います。」

蝉「おう!」

蝉「なあ鳩吉。」

鳩吉「どうしましたか?」

蝉「ありがとな。俺に大切なもんを色々おしえてくれて。」

鳩吉「こ、こちらこそ。」

蝉「こんな負け組の老いぼれの話を聞いてくれて、ダチにまでなってくれて、俺の生き方を認め

てくれた。もし鳩吉に出会ってなかったら俺は・・・

蝉「落ちこぼれのまんまだったよ。」

眠りました。少し疲れているようです。最期を看取るのが私で、よかったんでしょうか。彼は黒光りしたままでした。

鳩川「そうですか・・・」

届いていない言葉でしょう。なんだか視界が揺れてきました。まだ私の掌にしがみついています。

本当に、困った友達です。本当に、本当に。私の人生で初めて出来た友達は、少しばかり早とち

りしてしまったようです。

鳩川「ねぇ、蝉さん」

鳩川「私、どうして」

こんなにも涙が止まらないんです?


終わり

初投稿です。中3のやつをコピペしただけなのであんまり面白くないと思います…

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