表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/51

第5話 黒衣の者《こくいのもの》

 僕達は二体目の火鼠ひねずみを倒して進んでいた。



「それにしても鉄狒狒と火鼠とは......このクラスの妖は、結界で入れないようにしてるはずなのに、学園側は死人が出る事もいとわないということでしょうか......」



 歩きながら雅は疑問を口にした。



「確かに実戦試験とはいえ、気を抜いてると全滅もあり得る妖だな、それぐらい即戦力が必要ってことかもな」



 灰も同意してる。 



「人を育てたいのはそうなんだろうけど、死人を出すつもりはないと思うよ」



 僕がそういうと、二人は不思議そうに聞いてきた。



「何故ですか、神無様」



「三人一組だけど、それ以外に別の霊力を感じるからね。 多分、先生か誰かが見守ってるんだと思う。 僕達にも一人付いてるよ」



「何でそんな事わかるんだ? そういやさっきも猿や鼠が近づいてるの早く気づいてたな」



「僕は広く薄くこの森全体に霊力を放出してる、それで感知してるんだ。 ほら霊力の形を留める応用さ、まあ霊力の大きさまではわからないけどね」



「まじかよ......そんなこともできんのか......お前スゲーな」



「さすが! 神無様!」


 

 二人は驚きながら感嘆している。



「じゃあ、次の妖もわかるんだな! この試験、楽勝じゃねーか!」



「それが......妖達がいないんだ。 近くに一体も......離れた場所にはいるのに」



「どういうことでしょう? 私たちを避けているということでしょうか?」



 首をかしげ、雅が聞いてくる。



「わからない、ある程度までは近づいてくるんだけど......」



 僕はそこまでいって黙った。 僕達に一人付いてる近づいてくる。



「僕達に付いてる人が近くに来てる......」



「終わりってことじゃないのか」



「でも......なにも感じません......何かおかしい、少し距離をとりましょう......」



 僕達は歩きながら、その近づいてくる者から離れた。



「ぴったり付いてくる。 この距離で音がしないなんて......」



 歩いていくと、何もない場所のはずがぶつかった。



「これは!? 壁!」



「結界です、神無様......壊せない! かなりの手練れが作ったものです!」



「て、ことは逃がさないつもりって事かよ」



 僕達はそれぞれ構えた。



 音もさせず、それは茂みの中から現れた。 その人物は黒い衣を頭から被る異様な姿をしていた。



「なぜ、つけているのに気づいた......」 


 

 それはとても落ち着いた低い声で呟いた。



(こいつは危険だ、この落ち着き、多分人殺しに慣れてる。 それにこの匂い腐敗臭......)



 僕はそう直感した。 そして灰と雅は動けずにいる、無理もないあの猿や鼠とは霊力が桁違いだ。 



「灰、煙幕! 雅攻撃を!」



 僕が叫ぶと、灰と雅はハッとして、



「火行、灰珠陣かいじゅじん!」



「土行、牙礫弾がれきだん!」


 

 二人は術式を使い灰が周囲を包み、石の雨を降らせた。



「やったか!」 



 そう言う灰の背後に黒い影が動き一瞬で灰の首を切りおとした。 



「まず、一人......」



 黒衣の者はそう言うと気づいた。 煙幕がはれると、僕に霊刃で刺されていることに、



「なに......」



 だが、それ以外、何も言葉を発することもなく崩れ落ちた。



「ふう、上手く行った......大丈夫だった、灰」



「ああ、助かったぜ神無......」



「きゃあ! 何で斬られたあなたがいるんですか!?」



 雅が死人をみるような目で灰を見ている。



「斬られたのはあっちさ」



 僕が指差すと、首を斬られた灰の体は消えてなくなった。



「どういうことですか!」



 混乱してる雅に、



「あの黒い奴は、僕が感知してるのを気づかなかったんだろう。 自分は姿を消して、分身みたいなものを置いておいてから、灰の後ろに移動したんだ。 僕は灰に煙幕を張って貰ってる内に、霊力で作ったダミーを灰と入れ換えたんだ」



「そんなこともできたんですか!?」



 驚く雅に、



「いいや、分身はとっさに真似させてもらったんだよ。 形はそこまで正確じゃないけど煙幕がはられてる中なら騙せるし」



「そういや、霊刃もあの金形代の真似だったな」



「うん、正直どんな能力かもわからないから一撃で倒さないと......でも」


 

 僕が思っていることを、灰は察し、



「まあ、しょうがないぜ、人を殺そうとした奴だしな。 お前がやらなかったら、多分俺は死んでた」


 

「......気に病むことはありませんよ神無様......この人もっと前に死んでますから」



 死体を見ていた雅がそう言った。



「......どういうこと!?」



「つまり、元々死体だったということです......」



 僕達は沈黙した。





 それから数時間後 学園内の会議室に教師達が集められていた。

 


「試験付きの上級生一名が、何者かに重症を負わされた」



 虎堂 風音が話すと会議室はざわついた。



「どういうことだ?」


 

 次々疑問を口にする教師に、虎堂は続けて言った。



「生徒を殺す為に邪魔だったのだろう、襲われたのは鬼灯、犬境、土光薙の三人」



「鬼灯は五行家、火具槌ひぐつち家の分家から下ろされた家で関係はないだろう」



 巽 雷火が答える。



「では、やはり犬境か土光薙のどちらか......おそらく土光薙だろうな」



「五行家筆頭の土光薙家を蹴落とすために、他の家が仕掛けたのか」



「どうかな? もう土光薙家は前当主の死で力を失い始めた。 わざわざ飾りの当主を狙うかね?」



「まあ均衡が崩れたのは確かだ。五行家以外の有力家が何か画策してもおかしくはあるまい」



「それは我々の家もということだぞ」



 一堂は沈黙した。 



「ただでさえ、魔物や怨霊が増えて不安定な情勢なのに、この上、陰陽師同士の内輪揉めとはな......術士原理主義者も勢力をのばしておる。 厄介事ばかりじゃな......それと、襲った賊のことだが......どうやら死体を操る術式じゃったらしいの。 操られたのは、つとのと 石矢せきや、おそらく土光薙家の諜報員の手練れじゃ」



 そう水瀞みとろ理事長が言うと一堂は驚きを隠さなかった。



「土光薙家の諜報員が......まさかかばね 無名むめい......いや、そんなはずはあるまい......」



「ありえん、10年前の亡霊など......」



「たまたまだろうがな......」



 会議が終わり、虎堂に巽が話しかける。



「お前はどう思う......」 



「貴様とて知っているだろう。 術士が関わるならどんな不条理でも大抵のことはあり得ると......」



「だが、五行家がかつて手を取り合って滅ぼした化物が甦えるなんて、ありえんだろ」



「私だって信じたくはないさ、が奴ら程、楽観主義にはなれん。 とりあえず、土光薙の坊っちゃんを注視する必要はあるな」



「そうだな、手をうつなら早い方がいい」



 そう二人が話し、窓から見える空は怪しい雲行きになっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ