8話
「さあ、そろそろお開きにしましょう。残ってるものは食べちゃってください。」
梛木店長の一声で皆んな残りの食べ物を詰め込んだり、散らかした荷物を片付けたりと動き始める。
「きーちゃんは忘れないうちにお薬飲んでね。」
梛木店長の言葉にきーちゃんがしかめっ面をする。
「きーちゃん風邪でも引いたの?」
いや、風邪ならここには来ていないだろうが、他に思いつかなくてそう尋ねてみる。
「うーん。持病みたいなものだよね。僕もこの歳になると結構いろんな薬とかサプリにお世話になってますよ。」
「え、梛木店長が飲んでるサプリは気になります。不老の妙薬とか飲んでそうです。」
これはかなり本気で思っていることだ。
だって何度見ても年齢と外見が噛み合わないのだから。
「あっはっはっは。ただのビタミン剤と老眼防止サプリですよ。」
「梛木店長の顔で老眼で言葉が似合わなすぎて逆に面白いです…。」
梛木店長のサプリ話しに気を取られたうちに、きーちゃんはお薬とやらを飲み終えたのか他のスタッフのところへいっていた。
そうこうしてる間に残り物も片付いて、大原さんもいつのまにかシャンとしていて帰り支度が済んでいた。
アンジーさんは食べすぎたようで、消化のためか省エネモードになっている。
「A駅方面の人はいつもタクシーを乗り合わせますが、灯里さんはどっち方面ですか?」
誘ってくれた梛木店長、大原さん、友紀さんがそちらのようだ。
「残念ながらB駅です。」
「じゃあ尊くん、ちゃんと途中まで送ってあげて下さいね。アンジーはくれぐれも事故に気をつけてくださいね。」
「え、アンジーさん車なんですか?」
「いいえ!ワタシはこの愛車がありマス!」
ちょっぴり元気を取り戻したアンジーさんがドヤ顔で見せてくれた先には、フレームに芸術的にアニメキャラのステッカーが貼られたスポーツ自転車があった。
「な、なんだかどこまででも行けそうですね。」
「そーなんデス!ワタシの食費も浮きマスし、なんと言ってもコノ子はですね…」
「アンジー、高校生のきーちゃんもいるんで僕たちはこの辺で。」
「オー、そうでシタ!きーちゃんが警察に捕まったら大変デス!また明日デス!」
「毎回俺を引き合いに出さないでくださいよ!」と小声できーちゃんは言うが、尊さんが止めに入らなければ朝まで止まらなそうなスタートダッシュだった。
「それじゃあ、皆んな明日からも宜しくお願いします。」
タクシーが到着したようで、梛木店長が声をかけると同時に皆んな各方向に散っていく。
「では僕たちも帰りましょう。灯里さんはどちらまで?僕ときーちゃんはD駅までです。」
「偶然!私もD駅までです。」
そこからはまた他愛のない話をしながら3人で帰る。
3人ともに気が合うようで、どうでも良いようなことでもすごく話が進む。
流石に駅に着いたら2人とは逆方向だったが、今までできた友達とは違う、本物の仲の良さ、みたいなものを築けそうな予感がした。