6話
週4でバイトを入れていたので2週間もすれば新しいバイト先にも慣れてくる。
ちなみに今日もバイトだ。
梛木店長と大原さんが毎日いるのは何となく分かるが、喜一くんも毎日出勤と聞いて驚いた。
なんでもはやく梛木店長に認められる一人前になってこのお店に似合う人になりたいんだとか。
すごく厚い信頼関係だ。
大体1日の業務で重なるのは5人くらいだが、今日は歓迎会を開いてくれるとのことで全員で夕飯会が開かれる。
飲み会でないのは喜一くんが高校生だからだ。
私と尊さんは講義がどちらも4限までなので、少し時間を潰しながら一緒に行く事になっていた。
講義が終わると同時に友達を先に帰し、それを確認してから待ち合わせ場所へ行く。
また質問攻めに会うのも嫌だし、付き合ってるとか言われるのはめんどくさい。
恋愛に全く興味がないかと言われればそうでもないとは思うが、皆んなが言うほど彼氏が欲しいともきゃっきゃしたいとも思わない。
そのからかいを自分に向けられると鬱陶しいと思ってしまう。
だからこその避難策だ。
「灯里さん。」
待ち合わせ場所にはすでに尊さんがおり、私を見つけると笑顔で手を振ってくる。
あの人は自分の顔が良いことと、そのせいで超目立つことを自覚していないのだろうか?
「遅れてすみません。待ちましたか?」
「そうでもないですよ。僕の方は少し授業が伸びましてさっき終わったとこなんです。」
「尊さんいつも思うんですが、私の方が後輩なんでタメ語でいいですよ?」
「あー、女性にあまり慣れてなくて。もう少し慣れてからでもいいでしょうか?」
あー、確かに尊さんがなんかしなくとも周りが勝手にトラブってくれそうだもんな。
変に拗らせてても不思議ではない。
「慣れてからで大丈夫です。」
「ありがとうございます。暇つぶしはどうしますか?」
仕方ないので爆弾のことは水に流し、他愛のない話をしながら尊さんが入りたそうにしていた本屋へ入る。
店内では別行動をして、雑誌を見て回っていたが特に欲しいものもないと分かると尊さんを探す事にした。
案外早くに見つかった彼は小説をこれまで見たこともないくらい真剣に見ている。
スマホでチラリと時間を確認するとそれなりに良い時間だったので、気は引けるが声をかける事にする。
「尊さん、真剣に悩んでいるところすみません。そろそろ出た方が良いのでは、と。」
「灯里さん、すみません!つい夢中になってしまいまして。これだけ購入してきても良いでしょうか?」
よく見ると手元には7〜8冊の本があった。
中にはハードカバーの本もあってそれなりに重そうだ。
「全然構いませんが、今から夕飯会に行くのに重くないですか?」
「問題ありません。むしろ買わなかった時の方が後悔します。」
そう言いながらレジに向かい本当に全てを購入してしまう。
道すがらまた話をして店に向かう。
「僕は小説家になりたいんです。なので本屋に入るとついつい買いすぎちゃいまして。びっくりされましたよね。」
「そうなんですね。大丈夫ですよ。」
「今日買ったのも、次の新人賞に応募する小説のための資料とか参考になりそうなギミックを使った小説なんです。あとは……」
普段の尊さんからは考えられないほど饒舌に喋る彼を見て、最近どこかでも感じた、嫉妬のような焦りのような感情が芽生える。
私のやりたい事か。
止まらなくなってしまったマシンガントークをかわしながらふとそんなことを考えた。