5話
本日2話分投稿しています。
「じゃあ、灯里さん。今日から正式採用ということで宜しくお願いしますね。昨日大雑把なことは教わってるかと思いますが、やってみないことの方が多いので遠慮なく聞いてください。きーちゃんのシフトは灯里さんと同じなので今日もきーちゃんが基本的にはお世話がかりです。」
今日は友紀さんとアンジーさんは午前シフトだったらしく居ないががその他のメンバーは集まっていた。
もちろん爆弾を落として去っていった尊さんも。
「皆さん、改めて今日から宜しくお願いします!」
-cafe Snow Fall-(カフェ スノーフォール)にはそれなりにお客さんが入っているが、ゆったりと過ごす人が多く注文などでバタバタすることはあまりないようだ。
今も、のんびり読書をする紳士、向かいのお客様と穏やかにおしゃべりしている2人組のおばさま、ゆっくりとコーヒーを味わういかついおじさん、曲を聴きながらケーキを食べる美人さん、それと優しげなカップルが1組という感じだ。
前のコンビニではやることがなければ皆んなでおしゃべりに興じていたが、ここではそういったことは少ないようだ。
キャンパスでの爆弾投下にお小言を添えたかったが、そういう雰囲気ではない。
「灯里さん、ちょっとこっちへ。」
梛木店長に呼ばれて行くと、手にはコーヒーカップが2つ握られていた。
「はい。これ、きーちゃんが淹れてくれたんですよ。」
渡されたカップを受け取って、ありがとうございます、と一言添えて口をつける。
「美味しい。」
それは意識せずに溢れた言葉だった。
確かに昨日飲んだ梛木店長のコーヒーはもっと上品に香りが立っており、それと比べてしまうと物足りなさもあるだろうが、それでもこのコーヒーは何か特別に美味しく感じられた。
「そうでしょう。後もう少しでお客様に出せるようになりますよ。きーちゃんのバリスタになりたい心は本物で本気ですから。」
嬉しそうに自分の手にもつカップに口をつける梛木店長は、見た目の若さとは裏腹にお父さん感が出ていて少し笑ってしまった。
そしてこんなに美味しいコーヒーが淹れられて、将来のために本気で頑張れる喜一くんにちょっとばかりの嫉妬も感じたのだった。
「羨ましいですね。」
これも意図せず漏れた言葉だった。
「ふふ。そうしたら灯里さんも色んな事に手をつけて好きなことを見つけると良いですよ。…それにきっときーちゃんは灯里さんのこと羨ましいと思うと思いますよ。」
後半の言葉にハテナを浮かべると
「ちょっと口が滑りました。忘れてください。コーヒーのカップは飲み終わったらキッチンへ持ってきてください。」
なんだろうと気になってはいたのだが、そのすぐ後にうっかり手を洗うのを忘れてキッチンに入りそうになってしまい梛木店長の恐ろしさにすっかりそれは忘れ去られた。
いや、顔は笑顔だし口調は丁寧なのになんであんなに恐ろしくなるの?
そして喜一くんは「あーあ、やらかした」って顔をしてこっちを見ないで。