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第7話 水の都でハナ咲き乱れ

旅の仲間が登場します。華やかな旅路になりそうですね。


 うーん……ねむねむ……んがっ!

 ありゃりゃ、馬車に揺られてたら眠っちゃてたよ。寝てた時の姿勢が悪かったせいか、首らへんが痛い。湿布が欲しいね。


 今どの辺走ってるのかな。荷台から覗いてみると、大きな運河に架かる跳ね橋の上、丁度そのド真ん中。うっ、頭が。


[おはようハル。よく眠れなかったのか? 顔色が悪いぞ]

「ちょっとね……嫌なこと思い出しちゃって」


 うう……しばらく長い橋は見たくないなぁ。落ちそうで怖くなる。

 俺がビクビクしてる中、馬車は橋を無事渡り切った。心配しすぎて寿命がどっと減った気がする。

 こんな時はリラックスリラックス。丁度いい所にフローラルな香りも飛んできたし。でも、周囲に花は見当たらないな。


 不思議に思っていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。


「キャー! 誰か助けてー!」


 頭そのものがでっかい鼻な不審者に追い回されているお姉さん。あれどう見ても死面徒だろ!


[どうする? 助けに行くのかい?]

「当然! 目の前でやられちゃ目覚めが悪くなる!」


 そうと決まれば即実行。


「すみませんここで降ります! 乗せてくれてありがとうございました!」


 ここまで運んでくれた御者さんへのお礼も忘れずに。

 お代は前払いだったので必要ナシ!


 俺は荷台から飛び降り、駆け付けながらファルを天に掲げて叫ぶ。


「奇想転身!」


 変身すると、俺の身体能力もぐんと上がる。今の俺なら100mを3秒くらいで走り抜けられそうだ。

 そろそろ届きそうになった時、ハナ面徒がアクションを起こしてきた。


「鼻毛捕縛術!」


 お姉さんは鼻の穴から伸びた鼻毛に巻き付かれ、身動きが取れなくなってしまう。お姉さんの表情は恐怖に包まれている。


「ハナ面徒、そのお姉さんを解放するんだ!」

「ワシは『ハナ面徒』ではない。『ハナメガネ面徒』だ、訂正を要求する!」

「どっちでも同じようなもんだろ!」

「違うのだ!!」


 どこが違うって言うんだ! 毎度毎度ギャグ漫画みたいなデザインしやがって!


[鼻毛を切断できれば、カノジョも解放されるはずだ!]

「了解! ヴィブジョーソード!」


 ヴィブジョーソードを呼び出し、ヤツの鼻から伸びる毛を斬りつける。が、中々うまく切れない。ここは包丁みたいに引いてみるべきか?


「ハハハハ、無駄な事だ。ワシの鼻毛は鋼鉄製ワイヤーより強靭なのだ!」


 何だって!? じゃあそれ専用のハサミでも無ければ切れないじゃん! 電気作業員が使ってるイメージあるけど。


[こんな時こそ、必殺技に賭けるんだ!]


 確かにハナメガネ面徒を倒せば、お姉さんもついでに解放される。いっちょやってみっか。


───────{4}───────


 うーん微妙。

 それでも攻撃はしてみたものの、強化された斬撃ではヤツの鼻毛に切れ込みが入る程度に終わった。

 これを何回も行えば切断できるだろうけど、それまでお姉さんが無事な保証はない。


 いったん必殺技の事は頭の隅に置き、俺はハナメガネ面徒の本体へ攻撃を行う。

 伸びる鼻毛を足場に駆け抜け、ハナメガネ面徒へ迫る。走った勢いで剣を振り下ろすも、ハナメガネ面徒の強烈な鼻息で横に逸らされた。バランスを崩した俺は波打つ鼻毛から落ちて地面に横たわる。ハナメガネ面徒は俺を踏みつけようと足を上げた。

 転がった事で踏みつけの直撃を免れた俺は立ち上がりながら×字に斬りつけ、〆に鼻っ面を盾で殴り上げる。鼻の脂が付いたのか、刃や縦の表面がテカりだした。なんか気持ち悪いなぁ。


「中々やるな……ならこれではどうだ!?」

「キャアッ!」

「お、お姉さん!?」


 ハナメガネ面徒は鼻毛の締め付けを更にキツくしたらしく、お姉さんはとても苦しそうな表情を浮かべている。

 あのままじゃお姉さんが危ない!


「ハハハハ! もはや打つ手なしか! ハハハハハハハハハ!」


 まだだ……考えろ。まだ出来る事はあるはず。

 そんな時、お姉さんが髪に挿してる花から花粉らしきものが飛来してきた。あ、鼻がムズムズしてきて……


「はくちゅ!」

「ハハハハハ! ハハハハ……ハ……ハックショイ!」


 この身体になったせいか、くしゃみもかわいらしくなってらっしゃる。

 相手もズビズビ、鼻水が止まらないようだ。あんなに伸びていた鼻毛も、すっかり鼻の穴に収まっている。


「こ、今回はこの辺にしておいてやる! タクラム様から花粉症に効くお薬を頂戴するのだ!」


 そう言い残して退散していくハナメガネ面徒。お姉さんだけで撃退できたんなら、もしかして俺必要なかったんじゃ。


「ありがとう! あなたが注意を引いてくれたおかげで助かったわ!」


 俺の手を取って、ぶんぶんと振ってくるお姉さん。

 はえー結構スタイルいいっすね。引き締まってるけど、出るとこはしっかり出てる感じだ。まじまじと見つめてしまうのは、男のサガなのだろうか。それにこのフローラルな香り、どうやらお姉さんから放たれているらしい。


「それよりも! さっきのアレ、どうやって戦ってたの!?」

「多分、光の魔法の力じゃないかと思います」

「魔法? それって『適正』とどう違うの!?」

「えっとそれは、俺もよく知らん。ファル、どうなってんの?」

[厳密に言えば違うな。それについては、話すと長くなるが……]

「それって喋るのね! こんなに小さいのに、中に人が入ってるの!?」


 近い近い近い近い!

 このお姉さん、かなりグイグイ迫って来る。今も顔と顔の距離が近い。しかもすっごい美人。おかげでこちらはドギマギしっぱなしだ。


「ああ、外に出てきて本当によかったわ!」

「あの勝手に盛り上がらないでもらえます?

「あらごめんなさい。助けてくれたのに名乗らないのは、失礼よね。私はミロア、花茎族よ」

「俺は天宮晴。天宮が名字で、晴が名前だ。それで、花茎族って……?」

「いわば植物人間ね。この花とかは自前なのよ」


 となるとミロアさんは普通の人間じゃない……?

 マジか。初めて見た。


[花茎族か……]

「ファル、何か知ってるの?」

[ああ。前の戦いの際、少し交流があってな。しかし珍しい。花茎族は滅多に外に出てこない種族なのだが]

「そうなのよ! おじい様も『儂らはこの森から外に出てはいかん』って頭がカタいし、もう嫌になって飛び出してきちゃった」

「中々アグレッシブなお姉さんだな……」

「あなた達こそ、こんな所で何するつもりだったの?」

「んー、たまたま通りすがっただけというか」

「という事は、本来の目的があるのね?」


 そりゃ、遺跡廻ったりが目的で。

 そういえばさっきからやけに背中が軽いな……ん? あ、あれ?


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

「何事よ?」

[どうしたんだい!?]

「俺の荷物、馬車の中に置きっぱなしだったー!!!」


 あのバッグの中には俺の全財産が入っているんだ! 誰かに盗まれたら俺はもう……! 急げ―!


「面白そうだし私もついて行くわー!」


 マジですかー!

 大歓迎だぜー!

 ミロアさんを加え、俺たちは馬車を追いかけてパラデイオーへと急いだ。


* * *


 コートクラン共和国の首都パラデイオー。街全体に水路が張り巡らされており、ちょっとした迷路になっている。この水路をゴンドラで辿るツアーも開かれているらしい。今回はあいにく時間が採れなさそうだが。


 街では普通の人とヒレが付いた人の2種類が暮らしているようだ。聞くところによると、ヒレの付いた人は水棲族といって、水の中でも息が続くらしい。それを生かして漁師になってる人もいるとか。なのでここの海鮮料理はとれたてで美味しい。久しぶりに刺身や寿司が食べたくなってきたが、ポワレやアクアパッツァはあったけど、俺が求めているメニューは無かった。南無。


 お求めやすい価格の宿、そのラウンジカフェ的な空間で俺は旅行者向けのパンフレットを眺めつつ、今後の大まかな予定を組み立てている。書かれている文字の内容は、何となく読める。

 遺跡の情報は、と。お、あったあった。パラデイオーから歩いて30分くらいか。近いのか遠いのかよくわからん。


 そして何故俺がこんなに落ち着いていられるかというと、俺の荷物が無事だった事に他ならない。ありがとう、御者さん。


「遺跡、行くんじゃないの?」

「行きたいけど、今日はもう疲れた。明日でもいい?」

「疲れた頭には何も入ってこないものね。仕方ないし、ここは我慢するわ」

「そうしてくれると助かります」


 そういう訳になり、他にやる事といえば情報交換くらいだろう。となると、やはりアレが最適か。


「そういえばミロアさん、クラスカードって持ってます?」

「何かしらそれは?」

「えっと、こういうヤツです」


 俺は懐から現物をミロアさんに差し出す。それを見たミロアさんは、心当たりがある顔で彼女の荷物を探っている。


「コレの事かしら?」

「そうそう、それそれ!」


 ミロアさんから渡されたカードに目を通す。


─────────────────


 ミロア花茎族 256歳


 技能

 ・一般文章読解

 ・麻痺毒花粉

 ・芳醇な香り


─────────────────


「え゛っ゛」


 そこに書かれていた内容に、思わずおったまげてしまう。256歳って、ええ……見た感じ20代くらいなんだけど……。


「あら、びっくりさせちゃったかしら? 花茎族の10歳は、人間でいう1歳なのよ」

「長生きなんすね」


 そ、そうだったのか。ならばミロアさんの年齢も10で割ったら25歳だし、見た目とも辻褄が合う。

 今日だけで人間以外の様々な種族に出会ったし、これからは種族間に生じるギャップについても慣れていく必要があるのかも。


「それにしても、あの時あなたが来てくれて本当に助かったわ」

「いやいや、別に俺がいなくても何とかなったでしょう」

「そうでもないのよ。実はあの時の花粉も、麻痺させる作用だったのだけれど。あなた達2人には効果が無かったわね」


 そうだったのか。だとすると、やはり死面徒に一般人が立ち向かうのは無謀な事かもしれない。そうなると彼女が言った『覚悟』についても納得がいくような気がする。

 そういえば彼女って何者なんだ?

 ファルなら何か知ってるかもしれない。聞いてみよう。


「なあファル、こないだのアレについて、何か知ってないか?」

[言語がえらく抽象的だね]

「あー、あの、俺に襲い掛かってきた死面徒じゃない女の子だよ」

[あの娘か。所持しているパートナーからして、闇の魔法少女だろうね。キミを光とするならば、彼女は闇。それぞれ対になっている存在さ]

「だったら彼女が襲ってきたのは、俺が光だったからか? なんか光と闇って常に相争ってるイメージあるし」

「何を話してるのかしら?」


 おっと、つい話し込んでしまった。

 話に置いて行かれたミロアさんに、闇の女の子についてのあれこれを話した。ミロアさんは俺の話にしっかり耳を傾け、聞き終えるとこう言った。


「ハルはその女の子と仲良くなりたいの?」


 それに対する俺の気持ちは、よく分からない。そして出てきたのは、できれば攻撃してくるのはやめて欲しいという、消極的な考え。


「はぁ、あれこれ考えても仕方ない、今日はここで部屋とるか」

「そうねぇ」

「俺の部屋と、ミロアさんの部屋。2つとるから料金は……」

「ちょっと待って。同室じゃないのかしら。私はそのつもりだったのだけれど」

「いやいやそんな訳にはいかんでしょう」

「どうして? 女同士だし、問題ない筈よ」

「だってミロアさんてば結構いい匂いするし美人だし、俺だって何するかわかんないし!」

「あら、私に何かしたいの?」


 俺だって、健全な男子高校生だ。そういう事に興味が無いと言えば嘘になる。

 それにその言い方! まるで何かされても問題ないみたいじゃないか!

 俺だって男なんだぞ! あ、あれ。今は女の子なんだっけ? でも、俺はちゃんと男。女? 男? 女? 男女男女男女男女男女男女??????


「ホアアアアアァァァァァァァ!!!」


 わからぬ……。


「え? あの? 倒れるだなんて……ちょっとー! 揶揄いすぎたわー! ゴメンねー!」

Q.花に対抗する怪人は?

A.鼻


いつか言ったように、次回は来週となります。来週、またこの時間にお会いしましょう。

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