EX.2年1組とネガルディア
前回言ったように、ほんのおまけ
本日の2年1組の話題は持ち切りだった。
天宮晴が拾ったコインのせいで落ちて行方不明。ただそれだけ。
そして三度クラス会議が開かれ、これからどう活動していくか討論を重ねている。
「ねえねえ委員長、誰か助けようとはしなかったの?」
「それが一瞬の出来事すぎて、誰も全然動けなかったと言いますか……」
壇上に立つのは和正、岳、恵、秀斗、瀬良の5人。あの時の顛末を、実際に見てきた5人だ。
そして及川先生とテラ神官、グレン団長も会議に加わっている。
誰かの力が及ばなかったとか、彼がもっと強かったら結末は変わっていたかという話ではない。ただこれは、不幸な事故だったと誰もが思っている。もしくは、金に目が眩んだ者の自業自得。
「救世主の中から死亡者が出たとなると、その名の看板に響きます。ここは、最初から彼をなかったものにすべきではないかと」
「そんなの、あんまりじゃないか! あいつは出来る事を頑張ろうとしてたんだぞ!」
テラ神官の見識に異を唱えるのは、晴とも交流があった本田遊人。軽薄そうな言動とは裏腹に、情には厚い人物である。
「天宮は水脈に落ちたんだろ? だったら水脈を辿れば、いずれ見つかるかもしれない」
「しかし、この地の水脈は複雑怪奇。途中で何本にも枝分かれしてます故、探索は難しいかと……」
経路の探索まで難しいと告げられ、クラスの雰囲気が一気に落ち込む。議論の結果、天宮晴は限りなく死亡に近い行方不明扱いとなった。
それ以外に晴へ出来る事といえば、彼の無事を天に祈るしかない。
救世主として戦うなら、常に死の危険がつき纏う。その現実を、皆が直視しなければならなかった。
救世主としてこの地に呼ばれた事と、僅かでもある死にたくないという想い。
「皆、俺に考えがある!」
沈黙の中口を開いたのは、担任の及川信司。その目には決意が宿っている。犠牲者が出てしまった以上、ここからは誰一人として欠けさせはしないという、クラス担任としての矜持がそうさせた。
後日、王都ビギニアにはカフェレストランが開店した。店名は『セイヴァーズ』。教師及川の提案で実行された策がこれだ。
「実は俺、教師になる前はチェーン店のレストランで働いてたんだよ。でもそこへ食べに来る教育大学の学生を見てね、先生になる夢を思い出した訳だ」
要するに、昔取った杵柄。
そこでは、2年1組の生徒の一部がスタッフとして働いている。彼らを纏めているのが、主に本田遊人と大空優希では驚くだろうか。案外彼は他人の感情に敏感なのだし、彼女は快活で人当たりがいい。遊人や優希のように人づきあいが上手い生徒は接客を、数学が得意な者は経理を、それ以外は厨房を担当している。各々が得意分野を生かして活躍しているのは、バトルチームと何ら変わりない。
それと天宮晴ならば、料理の匂いに釣られてひょっこり帰って来る。そんな願いが込められている、かもしれない。
「いらっしゃいませ! セイヴァーズへようこそ!」
カフェレストラン『セイヴァーズ』、本日も営業開始。
* * *
ネガルディアの本拠地は濃い霧に包まれており、果たしてどこにあるのかわからなくさせている。
さて、そんな本拠地内では、カプセルを前にタクラムとウデプシーが話し合っていた。
「メサイア様からの通達です。何でも『グラージュには救世主がいるから手を出すな』との事」
「何だぁ、その救世主ってやつ、それほどヤバいのか? 一度戦ってみたいぜ」
「メサイア様に叱られても知りませんよ」
己の欲を優先すれば、慕うメサイアの機嫌を損ない、叱られる。その様を想像したウデプシーは、腕を組み「むぅ」と唸った。
「……では、これからどうするというのだ。オレ様たちゃ地上に住まうニンゲンを皆殺しにしなきゃなんねぇだろ?」
「グラージュ意外に死面徒を送り込めばよいのですよ」
「その手があったか! 流石タクラム、冴えてやがる!」
「この程度赤子でも思いつけるでしょうに……」というタクラムのぼやきを他所に、ウデプシーはカプセルから死面徒を招集しようとた。
「お待ちなさいウデプシー。まずは作戦の段取りを考えてですね」
「頭ばっかで考えっから邪魔されて負けるんだろうが!」
「……はぁ。でしたら、どこの国から皆殺しにするかだけは、決めた方が良いと思いますよ」
「オレ様、そこまでバカじゃないぜ? ちゃーんとどこから攻めるかは考えてある」
「ほう?」
「海の国コートクランだ! ウマいモンが多いなら、それに群がるニンゲンも多い筈だからな! 良さげな死面徒は借りてくぜ!」
「どうぞご自由に。返せなくとも結構ですよ」
改めてウデプシーは、死面徒を招集。今度はどんな奴が出てくるのやら。
「お呼びで御座いますか、ウデプシー様!」
ウデプシーによって統率される、新たな死面徒の軍団。奴らの行く先は晴と同じ、コートクランであった。
次から新展開の連続です。お楽しみに。