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最終話 分かたれた世界

文字通り最終回です。


「僕は……僕は、消えるのか……? そんな事あってはならないのに……!」


 神と名乗るあいつは消えた。

 俺たちの戦いは、終わったのだ。


「本当にやったんだよな? 復活とか第二形態とかしてこないよな?」

[いや、もう完全に反応が消失している]


 俺は奴の最期が呆気なさ過ぎて疑ってるんだが、ファルがそう断定してくる。ならばファルの言葉を信じよう。


[これで、ワイらとの契約も完了したことになるなぁ]

[巻き込んでしまってすまなかった。しかし、これでもう戦わずに済む]

[魔法の力は返してもらうで]


 ヤタとファルがそう言ってくる。

 俺は光に包まれ、気が付いた頃には


「あ、戻った」


 俺は元の姿に戻っていた。何だか久しぶりの感覚だ。少し体操でもしておこう。

 俺が体をほぐしていると、メイちゃんがこちらを見て目を丸くさせる。


「はぁ!? アンタ男だったの!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ!!」


 メイちゃんは「あ~もう!」とこぼしながら俺に背を向けて蹲る。後ろからでも分かるくらいに耳が赤くなってるけど、どうしたんだろう。


「別にあのままでもよかったんだけど、どうして魔法を返す必要があるのさ」

[それはもうじきわかる事さ]


 不思議に思っていると、俺たちの足元にグラージュの大地が広がる。いつの間に……? ていうか、俺ら浮いてるし。


「これはいったい……!?」

[それよか見てはれ。もう始まってもうてるで]


 しばらく見下ろしていると、やがて地は裂け、川は氾濫し、嵐が街を襲う。


 どういう事だよ!? 元凶が居なくなって、めでたしめでたしって訳じゃないのか!?


「神が居なくなったことで、世界が不安定になってるんだよ」

「世界を安定させるには……対になる力が必要だから……」


 俺の疑問に答えるのは、先代の光と闇の魔法使い。居なくなるだけでバランスが大きく崩れるとは、あいつも神様だったんだな。

 待てよ。このふたりの魂が無かったら、俺とメイちゃんがその役目を背負ってたって事か?


「まさか俺達の代わりに……?」

「そういう事! あなたたちは被害者みたいなものだからね。犠牲になるなんて認められないよ」

「私たちで……ケリをつけるの……」

「ご先祖様……」


 聖人だなぁ。ファルが力を貸すのも頷ける。俺は、この人みたいに立派な人間じゃないからなぁ。


「ってか、そんな事して大丈夫なのかよ。あいつだって、長い時間を経て狂ったんだろうし」

「大丈夫大丈夫。別にずっと一人ぼっちで居る訳じゃないし、ホタルちゃんだってついてるんだから!」

「嬉しいけど、カーくんとファルも忘れないでね……」

[それに、彼女らに世界を任せれば、キミたちだって帰れるんだ]

[得しかせんやろ? 乗っとき乗っとき]


 良かった。やっと帰れるんだ。


「って事は、お別れなのか……」

「そんな……っ! せっかく、手に入れたのに……!」

「大丈夫! 世界ごと別々になるけど、無かったことにはならないから!」


 ミロアさんにもサヴァちゃんにも別れを告げていないというのに。そう落ち込んでいたら、ブランシュさんがフォローしてきた。なんだかこの人の言う「大丈夫」には安心感があるなぁ。

 俺が感心していると、目の前に険しい顔をしたメイちゃんがやって来る。


「いい?! 1回しか言わないからちゃんと聞いてなさいよ! 後で『ごめん。聞いてなかった』なんて無しなんだから!」

「は、はい」


 メイちゃんは両手で俺の顔を挟みこむと、怒鳴るように言いつけてきた。退路が塞がれ、俺はただ頷く事しかできない。


「………………ありがとう。私、アンタに会えてよかった」

「お、おう……」


 メイちゃんが深呼吸してから紡がれる言葉に、俺は何も言えなかった。メイちゃんの瞳は潤み、その中に俺が映りこんでいる。身長差も相まって、メイちゃんが俺を見上げている形なのも、言葉が出ない原因だろうか。


[別れは済んだみたいだね]

[ほな、始めよか]

「天よ地よ水よ火よ。我らの意に従い、我らの声に応えよ」

「そして、もう二度とこのような事が無いよう、裏表の世界を別々に……!」


 そうして、次第に俺の意識は薄れていった……。



* * *



 風が気持ちいい。うたた寝をするつもりが、すっかり長い時間眠っていたらしい。でも、外だってぽかぽかだし、今目覚めてしまうのはもったいない気がする。もうひと眠りでもするか……。


「って、いつまで寝てんのよ!」


 寝ている俺の頭に走る衝撃。こんな事をしてくる奴は、俺の知る限りならふたりくらいいるけど、声で分かる。多分あの子だろう。


「おはよー、冥ちゃん」


 彼女は深海冥。俺、天宮晴の……子供からの付き合いがある女友達だ。家が近所なのもあってか、何かと俺に構ってくる。いわゆる、異性の幼馴染って奴かもしれない。


「『おはよう』じゃないわよ。もうとっくに皆下校してるわ」


 冥ちゃんはそう言いながら、俺に鞄を投げ渡してくる。外を見れば、確かに人通りは少なくなっていた。


「あっ、本当だ……」

「ったく……岳も遊人も先に帰っちゃったし、私だって恵ちゃんに頼まれてなかったら、こんな時間まで残らないんだからね。感謝しときなさい」

「うん、いつもありがとう」


 という訳で俺は鞄を手に下校する。

 いつもの登下校ルートには、必ず通る花屋が存在するのだ。


「あら、ふたりとも」

「あ、どうもです」

「こんにちは」


 このお姉さんは唐梨美玲さん。この花屋の看板娘で、好奇心に火が付くと暴走しがちなお姉さんだ。


「丁度いい所に来てくれたわ! 見てくれないかしらこのブーケ! 花の大きさや色合いに細かく注意して作った自信作なの!」

「お~、いいんじゃねーの?」

「本当にそう思ってんのか分からない返事ね……」

「大丈夫。この子は物事を隠さずありのまま伝えてくるから、絶対に良いと思ってるはずよ」

「確かに……コイツが嘘ついたところ見た事ないわね……」

「? 何の話してるの?」

「何でもないわよ。それより、返らなくていいのかしら。宿題とかもあるんでしょう?」

「……そうだった! 早く帰ろう!」

「ちょっと! 待ちなさいよ!!」


 やべぇ宿題の事すっかり忘れてた! けど、何の話だったんだか……。

 美玲さんは本当に作った花束を見せたかっただけらしい。立ち話もここまでにして、再び帰り道を歩く。


「おつかれッス! 先輩も今帰りッスか?」


 この子は鯖江湊。俺の中学校の後輩で、俺が3年生の時に入学してきた、活発で元気な女の子だ。何かと俺を慕ってくるし、卒業してもこんな風に登下校の時間で絡んでくる。


「この時間という事は……また居眠りでもしてたんですか?」


 ジト目で俺を見つめてくるのは、天宮しえり。鯖ちゃんと同じ学校に通ってる、俺の親戚だ。


「おー、お疲れ鯖ちゃん、それにしえり」

「お疲れ。今日も元気ね」

「はい! それが自分の取り柄ッスから!」

「あと、しえりの予想は当たってるわ」

「やっぱり……」


 夕方だというのに、まだまだ元気だ。鯖ちゃんがぐったりしている場面なんて見た事ないけど、そんな事が本当にあるんだろうか。

 それとしえり、何だいその残念なものを見る目は。


「じゃあ俺、宿題やんなきゃだから……」

「あっ! 自分も宿題とテストの補修課題やんなきゃだったッス! では!」

「待ってよ湊! 私に教わるんじゃなかったの!?」


 駆け出す鯖ちゃんをしえりが追いかける。

 鯖ちゃん、今回のテストも駄目だったのか。聞くところによると赤点常連だからなぁ。将来が心配だ。


「それ、アンタが気にする事?」

「あれ、声に出てた?」

「思いっきり出てたわ。ってか、アンタもちょっとは自分の成績気にしなさいよ」

「大丈夫だって。ちゃんと授業は聞いてるし、課題だって期日までにこなして提出してるし」

「……アンタそれで取った化学のテストの点数言ってみなさいよ」

「2点」

「……はあぁぁぁぁぁぁぁ…………」


 俺がピースサインと共に点数を伝えると、冥ちゃんがクソデカいため息を出しながら肩を落とす。


 通学路の途中にはまだ色々あるけど、あとひとつだけ挙げるとするならば、涌谷さんと仲がいい竜崎さんの空手道場だろう。どちらも女性からの人気が高く、バレンタインには俺より多い量のチョコを貰っているのを見た事がある。


 そんなことを思っている内に、もうそろそろ家も近づいてきた。俺はこっちの道で、冥ちゃんはあっちの道だ。


「それじゃ、また明日」

「…………ん」


 冥ちゃんはそれだけ返すと、あっちの道を歩いてゆく。俺は今日の晩飯の事を考えながら、こっちの道を歩みだす。

 道は分かれてるけれど、明日になればまた顔を合わせることになる。


 ……そういえば羽衣母さん、今日は仕事で遅くなるって言ってたな。



* * *



 グラージュの王都ビギニアに構えた喫茶店。そこに勤める、艶やかな金髪を肩の上で切りそろえている美少女。それが俺、ハル・アマミヤだ。

 この喫茶店は、ミタケくんやホンダくんといった地元の友だちと協力して開店させたもので、今では結構な知名度を得ている。さて、今日も開店の時間だ。


 さっそくドアが開く。本日の第1お客様だ。あなたラッキーですねー! 今なら金髪ショート美少女がお出迎えしちゃいますよー!


「いらっしゃいませー!」


 そこにいたのは、メイちゃんだった。


「お、メイちゃん。いらっしゃい、何にすんの? いつものにしとく?」

「……勝手に決めないでくれないかしら。それに、『いつもの』って何よ」

「ポテトとドリンクのセット。いつも頼むじゃん」

「そんなに頼んでる……?」


 世間話もここまでにして、座席へご案内。

 オーダーをとり厨房に伝える。


「で、注文は?」

「ポテトとミルク抹茶ラテ」

「畏まりました! ポテトとミルク抹茶ラテ入りまーす!」

「はーい!」


 メイちゃんってばこれが好きなんだろうか。いつも注文している。

 オーダーを伝票に書いて厨房まで持って行く所までが、俺の仕事だ。ちなみに厨房は俺に刃物を扱わせると危なっかしいという理由、会計は計算をうっかり間違えることが多すぎるとの理由で却下されている。


「みんな! 今朝採れたばかりの新鮮野菜よ!」

「いやぁ、重かったぁ……」

「お魚もピチピチッスよ!」

「血抜きと冷凍は向こうで済ませてきたのでな。いつでも調理できるぞ」

「大漁。これなら何だろうと作れる」


 俺が注文を伝えてしばらく経つと、ミロアさんとミタケくんが畑で採れた作物を、サヴァちゃんとワクヤさん、それと精霊のアイシーちゃんが水揚げされたばかりの魚を、それぞれ抱えて裏口から入ってきた。

 ワクヤさんとアイシーちゃんがサヴァちゃんに同行しているのは、魚の鮮度を保つために氷が必要だからだ。3人は朝早くから起きて、海岸まで行って戻ってきたところだろう。

 それと、うちの野菜は自然由来の農薬を使用している。じゃないと悪い虫が付いちゃうからね。


「…………今日もいい出来だ」


 料理長のスナオシくんが、運ばれてきた食材を見てそう判断する。彼のお墨付きなら間違いない。


「そういえばウチダくんとサイトウくん、牧場との契約の件ってどうなったの?」

「あぁ、あとはオーナー・オイカワの判子があれば成立するところまで来てるぞ」

「これで牛乳だけじゃなくて、チーズを使ったメニューも提供できるね」

「はえ~、夢が広がるなぁ」


 チーズを使ったメニューかぁ……やっぱりパリッとしたピザなんかどうだろうか。


「ほら、ボーっとしないで仕事する!」


 俺が夢を膨らませていた所、タカハシさんに釘を刺された。はい、気をつけます。


「けど、慌てないで下さいね! それで怪我をされたら元も子もないです!」


 シエルちゃんもありがとうね。気をつけるよ。


「……よし! 今日もやるか!」


 気合を入れなおすと、また喫茶店の扉が開く。どんな人が来るんだろうか。なるべく問題起こさない人がいいなぁ。


「いらっしゃいませー!」

 約一年のお付き合い、非常にありがとうございました。皆様の閲覧やブクマ、評価も多大なモチベーションとなった事をここに感謝します。

 機会があれば、次の作品の方もよろしくお願いいたします。

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