第53話 お前の敵は
ネガルディア本拠地の最深部。淡い光に包まれた空間の中で、俺とメイちゃんは、俺たち2年1組を誘拐した犯人と対峙していた。
「奇想転身っ!!!」
「チェンジ・ダークネス!!!」
変身を果たし、居間こそすべての決着をつける時。
けど、その前に問わなければならない事がある。
「ひとつ聞きたい事がある」
俺が口を開けば、あいつはその場に留まった。どうやら、話を聞く余裕があるようだ。
「お前は確かに、世界を救った英雄だったはずだ。なのに、どうしてこんなむごい事を平気な顔で行えるんだ……!」
「簡単な事さ。皆から僕の記憶が薄れてきているから、僕の力を知らしめて僕という存在を保つためだよ。いかに神と言えど、記憶なくしては存在できないからね」
奴の口からあっさりと語られる、奴の目的。奪われる命を何とも思ってないなんて、コイツって本当に世界を救った英雄なのか?
理不尽に奪われる命を見て立ち上がったんじゃなかったのか!?
「それに僕が居なければ、より良い未来なんて訪れない。僕には、僕が視たより良い未来へ導く責任があるんだ」
「それはあなたの勝手な思い上がりよ。あなたが居なくても世界は回るわ。だって、あなたが生まれる前がそうだったのだから」
確かに、メイちゃんの言う通りだ。
それにあいつの主張は矛盾している。命が無い世界が、本当により良い未来なのかっていう疑問が残るし。
「分かってないな。僕が生まれてから、世界が僕を中心に回りだしたんじゃないか」
「――もういい。もう、黙ってくれ」
話はこれで終わりだ。
この哀れな英雄のなれの果てを、俺たちで介錯してやろう。それがきっと、彼にとっても救いになるはずだから。
「たったふたりで、僕に挑むというのか」
「ふたりだけじゃない! お前の敵は――」
そこまで言うと俺は剣先を奴に突きつけ、吠える。
「俺たちの世界とメイちゃんたちの世界……ふたつの世界丸ごと全部だ!!」
俺の先祖に飽き足らず俺たちまで攫いやがって! いくら人を巻き込めば気が済むんだコイツは!
「行くよ、メイちゃん。最後の戦いだ」
「ええ。アンタの顔を見るのも、これで最後になるわね」
俺の顔を見るなりそう言ってきたメイちゃん。
えぇ……こんな時くらいデレたっていいじゃない。
なんだかすっかり緊張が解けてしまった気がするけど、こっちの方が俺らしいや。今なら全力全開で光の魔法を扱えそうだ。
「あくまでも戦う気なのか。ならばひと思いに散らせてやる」
ひと振りの剣を携えて奴が俺たちの目の前に立つ。
あれは、ルファドを貫いた剣だ。俺たちも直撃してしまえばタダじゃすまないかもな……。
俺とメイちゃんが畳みかけて攻撃するも、すべて躱されてしまう。やっぱり、俺たちの動きが見切られてるな。
斬り合いがいくらか続くと、奴はゆるりと離脱して、腰だめに剣を構えた。
「覇神剣聖斬波!!」
奴が剣を横薙ぎに振ると、俺たち目掛けて三日月型の斬撃が飛んでくる。技の名前は上手く聞き取れなかったけど、こめられたパワーは相当なものだと分かる。
けど、こんな時に役立つ魔法があったような……何だっけ。えーっと、えーっと……。
「ちょっと何してんのよ! さっさとアレ使いなさいよ!」
「アレ……何だっけ。喉の奥あたりまでは出かかってるんだけど……!」
「……はあぁぁぁぁぁ。リフシールドよ、リフシールド!」
「そうだった! 『リフシールド』!」
ギリギリで発動が間に合った。表面が鏡のようになった盾で、斬撃を跳ね返す。
そして跳ね返された斬撃を追って、俺たちは奴に向けて走り出す。斬撃は、奴の攻撃からの盾代わりだ。
「アンタはとにかく運を信じ続けなさい!」
「わかった!」
運ゲをするのもこの戦いが最後だ。いっちょ決めてやりますか!
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奴を逃さないように、ヴィブジョーソードから拡散するように電撃を放つ。
出目は視れても、雷の軌道は見切れまい!
そう思ってたけど、奴はあっさりと避けてくる。それどころか、雷撃にかすりもしなかった。えぇ……。
「貴様らがどう動くかは既に視えている! 抵抗は無駄と知れ!」
「それはどうかしら!?」
奴の剣が振り上げられ、俺に降ろされようとした時、メイちゃんが間に入って剣を防いだ。それからメイちゃんは剣を踏んで床に埋め込み、動きを制限して刀を振るう。
今がチャンスだ!
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この目も、もう見えてるんだろうな。だとしたら、俺が攻撃すべきなのはあいつじゃない。
奴の手を離れ、そこに突き刺さっている剣だ。
幸いにもこの目なら、剣に宿るパワーをいくらか吸収できるかもしれない。やってみよう。
「えい」
ヴィブジョーソードをバットのように扱い、刺さった剣に打ちつける。
すると俺に、剣の持つエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。あ、これ以上はパンクしそうなので、もういいです。
「元気満タン! いくぞおおおおおおおおおおおおおおお!」
いつもよりみなぎってる俺の攻撃!
───────{6}───────
炎だっていつもより勢いが増している。燃え盛るヴィブジョーソードを扱い、奴に斬り込んでいく。
「どんな力を得ようと、当たらなければ意味が無い!」
むう。確かにその通りだ。
それに相手は、こちらの手の内が全部視えている。俺は当たりもしない相手に、ただひたすら運ゲでぶつかっていくしかないのか。
メイちゃんの方は怒涛の攻めを見せているけど、奴はそれすらも全部視えているらしい。次々にメイちゃんの刃を避け続けている。これじゃあメイちゃんのスタミナが心配だ。
あれこれ考えていても仕方ない。俺は俺にできることをやるだけだ。
すなわち、運ゲあるのみ。
「メイちゃん、交代だ!」
奴とメイちゃんの間に滑り込み、ヴィブジョーソードを横へ薙ぐ。
「ちょっと、まだ余裕だったのに!」
「その余裕は残しておく!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ! 舐めた戦いで勝てる相手じゃないでしょ!?」
「……そうだね。ならいっしょにやろう!」
肩を並べて走りながら運ゲタイム。何が出るかな?
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「いでっ!」
俺の頭に走る衝撃。俺がバランスを崩して前のめりになった所に、メイちゃんが俺の背中を踏み台にして高く舞い上がる。
「アビサル・ガタゾル・ルルエスタ。悠久に漂う闇よ、我が刀に集まりて常夜の帳を下ろせ! ヒドゥンスラッシャー!」
高い位置からの落下速度も加えたメイちゃんの魔法攻撃が奴を襲う。奴は上段に剣を構えてそれを防いで見せた。メイちゃんと奴の力は拮抗し、激しい火花が散る。
……? 避けられるはずなのに、なんでそうしなかったんだろう。
まあいいや。奴がメイちゃんの攻撃に集中している今がチャンスだ。運ゲの時間はーじまーるよー。
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連続の必殺技で少しでも奴の体勢を崩す。しかし5回目の攻撃を当てようとした所、奴はメイちゃんの攻撃を弾き俺の攻撃もあしらって見せた。
「……何してくれてんだァ! 見切るのに少し時間が掛かっただろ!?」
つまり、少ない時間に運ゲを連発すると未来が見切れないという訳か。けれど奴の弱点が分かった所で、俺ひとりじゃどうしようもないな。
『私たちの助けが必要みたいだね!』
この声は……ファルから聞こえてきたな。けど、ファルの声じゃない。え、誰?
俺とメイちゃんが不思議に感じていると、ファルとヤタから何かが飛び出てきた。
俺の前に立つのは、俺そっくりな女の子。これって、まさか先代では?
「よく頑張ったね! ここから逆転……って、うわぁ!? 私じゃん!」
「設定弄ってなかったもので……」
先代が俺の方を振り向くと、飛んで驚く。そりゃあ、自分そっくりの別人が居たらそうなるよね。
「あなたは……まさか本当に……」
「う、うん……。ご先祖様だね……」
唖然とするメイちゃんに、気弱そうな女の子が答える。
「馬鹿な……何故お前たちがここにいる! 肉体はとっくに滅びたはずだ!」
「そ、そうだけど……死ぬ直前に魂をカーくんとファルに移していたの……」
「そして何年も何年も、この瞬間を待っていたんだよ!」
はえ―すっごい。どんなメンタルしてるんだろうね。
俺が感心していると、ふたりが前に出て決めポーズをとる。
「天走る光! ダイヤ・ブランシュ!」
「天包む闇! ホタル・フカミ!」
よっしゃ、俺もやるか。
「天駆ける光! 天宮晴だ!」
「……天覆う闇。メイ・フカミ」
俺はノリノリで、メイちゃんは渋々といった感じで名乗りを上げる。
ここまで来たら負ける気がしねぇ! 運ゲ祭りの始まりだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
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「おっ、やる気だね! なら私も!」
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ダブルの電撃攻撃を食らえ!
「その程度、まだどうとでもなる!」
避けられた。けど、奴から余裕は失われつつある。攻め時だ。
俺たちが運ゲする間は、メイちゃんと先代が戦って俺たちに攻撃が届かないようにしている。ありがたいぜ。
「ここからは同時に行くよ!」
「おう!」
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また被った。しかも大して強くない。
「ちょっと! 気合入れなさいよ!」
「完全に運だから仕方ないだろ!?」
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俺は炎攻撃で、先代が防御を削る攻撃。ガードが解かれた隙にヴィブジョーソードをぶち込む。焼きごてじゃー!
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ふたりとも中々強い目が出たな。この調子で次、行ってみよう。
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「いたたっ!」
「大丈夫か!?」
「うん、平気!」
俺は体力を回復したけど、先代はダメージを負ってしまった。
……やっぱりハズレいらないんじゃねーの?
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……弱い。
「ああああああああああああ! お前ら、何してくれてんだあああああああああああ! 未来が……未来が霞んでいくうううううううううう!」
お、発狂したか?
奴の冷静さは、もうなくなっている。冷静な至高が出来なければ、それだけ隙もデカくなる。という訳で続けてゴー。
───────{12}───────
───────{12}───────
ついに出た必殺の攻撃。しかもふたり同時だ。虹色に光り輝く剣を突き上げ、ふたりに合図する。
「アビサル・ガタゾル・ルルエスタ! 深淵より出でし闇よ、彼の者を永劫の檻へ誘え!」
「えと……お願いです! 捕まっててくださいぃ!」
メイちゃんと先代が魔法で奴の動きを縛った。後はこの刃を当てるだけだぜ。
「やめろ……来るな……来るなぁぁぁぁぁぁ!」
こうなってしまえば、奴の視る未来とやらも、『破滅』しかないだろう。怯える表情がとてもかわいそうだけど、お前は十分頑張ったよ。だからもう休め。
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「これでトドメだあああああああああああああ!」
俺たちがひと思いにヴィブジョーソードを振り下ろすと、奴は光に飲まれて消えてゆく。
「僕は……僕は、消えるのか……? そんな事あってはならないのに……!」
「そう思ってるのはお前だけじゃないの?」
「これまでお勤めご苦労さま。後はゆっくり休みなさい」
消えゆく奴に、今を生きる俺とメイちゃんが言葉を投げた。もう、聞こえていないとしても、伝えておきたかった。人間って、そんなに弱くないんだって。あと、あれこれ口出しされると余計に反発したくなる生き物だという事も。
奴が完全に消え、この空間には俺とメイちゃんと先代ふたりしかいなくなった。
戦いは、終わった。
もうちょっとだけ続きます。




