第50話 ぐだぐだな最終決戦前
王城にあった隠し階段。植え込みの下に作られたそれは、人がやっとひとり入れるくらいの幅だった。内田くんが先頭、涌谷さんを最後尾にして俺たちは階段を下る。
「私を待たなくてもよかったのに……」
「そうはいかねぇっての。ラスダンには万全の態勢で乗り込むべきだからな」
途中でメイちゃんが不満を漏らしたけど、俺も体力Maxで挑んだ方がいいかなと思っているので内田くんの言葉に乗っかる。
そういえばシエルちゃん、復帰してから全然喋らないな。喋ったのは意思表示の時だけだし。それに、ずっと俯きっぱなしなのも気になる。いつぞやのメイちゃんみたいな雰囲気はしないし、時期が来れば打ち明けてくれるだろう。シエルたんってばマジ天使。
そうそう、この壁のレンガの組み方、遺跡で見たやつと同じなんだよ。つまり、同時期に建造されたものである可能性が高い。時期としては、先代が戦いに敗れてからだろうか。
そんなことを思いながら階段を下り続ける事、体感で数十分。空気で分かる。開けた空間に出たのだと。……下るだけとはいえ、結構疲れたな。やっぱり狭いから、圧迫感を感じたんだろう。
問題のドアは、探さなくてもありました。空間の中央にポツンと。裏側どうなってんのだし、ちゃんと繋がるの?
「扉があるのに道が無いなんて見た事ないわ! 早速開けてみましょう!?」
「難解。これは扉ですか?」
「確かに奇妙よな。さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
扉を開けると、眩い光が俺たちの視界を包む。教室で最後に見た光景と同じ様に、俺は少し嫌な感じを思い起こす。
それでも、前に進む。光で覆われているので、どちらが前かは分からないが、たぶんこっちだろう。
だんだん光が収まる感覚。どうやら、無事に扉を潜り抜けられたようだ。
足の裏から返って来る、石畳とも土の地面とも違う感触。あの頃毎日感じていたもの。
「すごいッス! 高い建物がいっぱいあるッス!!」
周囲を見れば、高層ビルが立ち並んでいる。けれど、所々にヒビが入っているし人が住んでる気配が無い。
サヴァちゃんは無邪気にはしゃいでるけど、俺はどうもそんな気になれない。どうしようもなく、見覚えがあるのだから。
「あれは……古代文字かしら」
古代文字ってば何かに似てるって思ってたけど、漢字だったのか~! ちなみにメイちゃんが見ている看板には『田中工具店』と書かれている。
「おい……このカレンダー、1989年1月8日から先が無いんだけどよ……」
店内にお邪魔した内田くんが震えた声を上げる。確認してみると、そこには文字通り1月8日から先が抜け落ちたカレンダーが。なんで1月8日から先? 俺としてはそこが引っ掛かる。
40年くらい前か……母さんやじいちゃんなら何か知ってるかな?
「内田くんに涌谷さん、抜け落ちてるにしてもなんで1月8日から先なの?」
「だよな。月の頭からにしては中途半端だ」
「深い意味でもあるのだろうが、それが分からぬのではな……」
うむむ……俺と違ってしっかりしてるふたりが知らないとなると、打つ手なしだなぁ。
「諦めるのかよ? 俺たちは情報社会に生きる現代っ子だぜ? 分からない事があったらスマホで調べるさ。スマホスマホ……どこだ?」
内田くんがカッコいい事を言いながらポケットをまさぐるが、スマホは出てこない。もう片方のポケットも、尻ポケットでも同じだ。まさか……置いてきちゃったの?
「なぁ涌谷、スマホ持ってねぇか?」
「……扉が地下深く故電波が届かぬと思ったからな。置いてきてしまった」
うわぁ……。これはガバですね。間違いない。なんだこれは……。たまげたなあ。
まさかこんな最終決戦直前でガバが発生するとはな……これも俺の力なのか?
「あの……みなさん、ラチ明かないんでわたしから良いですか?」
あ、シエルちゃん。
どうぞどうぞ。
「私の記憶の全てを、お話します……」
物々しい雰囲気を放つシエルに、俺は思わずつばを飲み込む。いったい何が語られようとしているんだ……。
「わたしは1963年、S市の産婦人科で生まれました。3120グラムの赤ん坊でした」
誰が生い立ちから話せって言ったよ。
……ん? いや待てよ。S市って、俺たちが暮らしてる市の名前じゃないか!?
どういう事!? と内田くんと涌谷さんに視線で訴えても、ふたりとも驚いている。
「それからは色々と省きまして……」
あ、省くんだ。
「10才の頃。わたしはいつもの通学路を通っている途中で、穴のようなものを見つけました。当時のわたしは今より幼く、好奇心が勝ってしまい穴を潜る事になったのです。穴を通ると、何やら知らない空間に来てしまって……目の前にはルファドさまが居て……それから人として生きた10年間の記憶を消され、わたしの天使生活は始まったのです」
つまり、シエルちゃんは俺たちと同郷だった!?
「……重要な事を話し忘れていました。わたしの本当の名前は『天宮 ちえり』」
今度はふたりが俺の方を見てきた。いや、ふたりだけじゃない。この場所にいる人全員だ。
ちょっと待ってね。今心当たりを思い出すから。
「……あぁ~っ!!」
それって確か、父方のおじいちゃんの妹の名前だった気がする!
おじいちゃんの妹は神隠しに遭って、行方不明になっていたと聞いた事があるのだ。小さい頃に聞いた話なのに、よく思い出したな俺。
「おい天宮、どういう関係なのか!?」
「ちょっとひと言では表しづらいなぁ……。父さんの父さんの妹。つまり……何だ?」
「えっサダにぃの孫!?」
「……こちらも気づいたようだな」
まさかシエルちゃんと俺が血縁だったとは驚きだ。初対面の時に感じたのは、これが原因だったのか。
「じゃあつまり、俺たちの居た世界とこの世界は前からちょくちょく繋がってたっていうのか?」
「そうであろうな。そして、我らの世とこの世の違いはただひとつ」
「1989年1月8日から先があるかどうか、か……?」
「天宮でもさすがに気づくか」
内田くん。何だねその言い草は? まるで俺がドジでマヌケでおっちょこちょいな人みたいじゃないか。……大体合ってる気がする。
俺が勝手に打ちひしがれていると、ファルが何かを言いたげに前へ出てきた。
「どうした、ファル。何か話?」
[キミとの契約の話さ。キミの血縁者が既にこの世界に来てたから、ワタシはキミと契約できたのだろうね]
「そういう……ものなのか?」
そんな話あったっけ? あったのかも……あったような……あった気がする……。
「ねぇちょっと、私たちにも分かるように話してもらえるかしら?」
「疎外。話について行けない」
「「うんうん」」
あぁゴメン。メイちゃんたちを話から置き去りにしちゃってたね。じゃあ掻い摘んで話すと……。
・ひとつ。この土地の景色が俺たちの故郷にめっちゃ似てる。
・ふたつ。けれど俺たちは1989年1月8日から先の日付を知っている。
・そしてみっつ。シエルちゃんは実は俺たちと同郷で、しかも俺たちの世界の過去からやって来た人物だという事。それとついでに俺の血縁。
こんな事を説明して、返ってきた反応はというと。
「「「「……よく分からないわ」」」」
みんなイマイチのみこめなかった。
けどしょうがないじゃん。俺だってよく分かんないもん。
こんな時は……ヘルプミー! ファル! ヤタ!
[えぇ……ワイもかいな]
「ファルと同じ精霊でしょ。色々知ってるんじゃない?」
「それもそうね。ヤタ、私からもお願い」
[しゃーないなぁ]
主であるメイにお願いされたのが大きかっただろう。ヤタは渋々といった感じでファルの隣に浮かんだ。
[ハルには前話したが、世界と世界を分ける壁は想像しているよりずっと分厚いんだ]
[それがちょくちょく繋がってたいう事は、もう裏と表の関係にあるとしか思えへん]
「裏と表なら、壁が薄くなってるという事かしら?」
[その認識でええよ。ほんでな? こういう世界は互いに影響し合う事があるんや]
[キミたちの世界で1989年1月7日に何が起きたかは……みんな知らないんだったね]
「そりゃそうだろ。だって俺ら生まれてねーし」
[けど、何かが起こったのは事実なんや。その事を前提として頭に叩き込んどいてくれ]
りょーかい。
大まかな謎は解けたし、先に進むか。
[この先だが、大きな反応を示している]
[そこに奴が居るハズや]
しばらく進んだら霧が出てきた。奥に進むにつれて濃くなってきたので、手を繋ぎながらファルとヤタの導きに従って進む。
霧が晴れたと思ったら、そこには向こうにネガルディアの本拠地らしき建物と、地面を埋め尽くすほどのビリー共。それを越えなければ、本拠地に辿り着くのは不可能。
いくらビリーが雑魚とはいえ、いっぺんに相手取るのは骨が折れそうだ。
少しうんざりした気持ちになっていると、ミロアさんとサヴァちゃんとシエルちゃんが俺たちとビリー共の間に割って入った。
「あなたたちは先へ行きなさい」
「ここは自分らにお任せッス!!」
「本当はわたしだって先に行きたいけど、手数の多さはここで生かすべきだから!」
……助かる申し出だけど、何より心配だ。こんな量のビリーを相手に、数の暴力で押し潰される事だってあるんだから。
けど、俺が迷ってる間に、奴はビギニアやパラデイオー、ヴルカーンフォルトへ侵攻していくだろう。それを止めるには、根元を断つしかない。
「……絶対に生き延びてくれよ!」
俺は断腸の思いで、ビリー共の波を掻き分けて進む。
「さあ、私たちが相手よ!」
「ここから先には通さないッス!!」
「そう簡単にやられたりなんてしないんだからね!」
3人が戦ってる音が、段々遠くなる。振り返らずに前へ進め!
ついにビリー共を乗り越え、いよいよ本拠地の目の前までやって来た俺たち。
「よくここまで来れたな! 誉めてやろう!」
本拠地への門番って訳か。ウデプシーの登場だ。強すぎる相手の登場に打ちひしがれていると、アイシーちゃんを肩に乗せ涌谷さんが前に出てきた。
「奴は手練れだ。私が相手取るから先へ行け」
確かに強いウデプシーを相手にするには、強い涌谷さんしかいないだろう……けど、最終決戦にいてくれたら心強く感じるのにな。
しょんぼりする俺に、涌谷さんが声をかけてきた。
「案ずるな。天宮とてこれまで、幾度となく困難に見舞われたが、乗り越えてきたであろう? その心を忘れてどうする。天宮なら、此度もきっと万事うまくいくさ」
「祈願。必ずや作戦を遂行させてください」
俺への激励。そこまで言われちゃ、腐ってなんかいられない。
「必ず生きなさいよね! 生きて……万全の状態で決着つけるんだから!」
「ああ。それも楽しみだな……」
涌谷さん、ミロアさん、サヴァちゃん、アイシーちゃんを置き去りにして、俺たちはネガルディアの本拠地へと乗り込めた。その中には人がひとり入れそうなカプセルがぽつんと置いてある。……思ってたよりしょぼい。
「ええい、ここまで来たか! メサイア様が世界をお救いになろうとしているというのにそれを邪魔するとは!! 全く忌々しい奴め!!」
お次はタクラムのお出ましか。杖を振りかざそうとするタクラムを、内田くんが抑え込んだ。
「!? 内田くん……!」
「俺に構うな! お前らには、世界の命運が懸かってんだろ!? なら、この先に行って、メサイアって奴を運ゲーでぶっとばして来い!!」
「! ……ありがとう内田くん。行ってくる!!」
気づけば、俺はいろんなものを背負っていた。世界の命運だったり、誰かの願いだったり……。顔も知らない誰かに背中を支えられ、俺は前へ走ってゆく。
そしてついに、全世界の命を奪おうとするメサイアと相対した。
「光と闇の魔法使いめ……一度ならず二度までも僕の邪魔をするかッ!」
「じゃないと安心して昼寝も出来ねぇからな!」
「一族の使命……今ここで果たす!」
俺とメイちゃんはそれぞれ相棒の精霊を手に取り、天高く掲げる。
口にするのは、邪を打ち砕く魔法の呪文。
「奇想転身っ!!!」
「チェンジ・ダークネス!!!」
こいつさえ倒せばハッピーエンドだ!
いよいよ最後の戦いです!




