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第5話 宿場町オッテル近郊での禍福


 俺は魔法の力を手に入れ、村を蹂躙したシール面徒を打ち倒した。だがその代償に、女の子になってしまったのだった……。


* * *


 歩いて歩いて歩き続けて、俺は村の人たちと宿場町オッテルにやって来た。

 コートクランの首都パラデイオーとグラージュの王都ビギニアを結ぶ街道の途中にあり、宿場町として栄えているのだとか。

 シプル村との関係は、この町へ実った作物を売っている、仕入れ先と顧客みたいなものだそうだ。


 でも、何か様子がおかしい。

 活気溢れているはずの町は人が少なく、生活感がまるで感じられないのだ。


「変だな。この時間なら、宿泊客やらで賑わってるはずなんだが」

「それに、店も宿も閉まってます。何かあったんでしょうか?」


 どうやら村の人たちも不思議に感じているらしい。

 何が起こっているのかを明らかにすべく、俺は調査を開始した。

 

 まず建物は……どこも閉まってるな。裏口も……開いてないか。防犯意識が高くて良いね。


 次に人がいそうな家の扉をガンガンと叩きまくって、大声で誰かいないか呼んでみる。けれど、いくらやっても出てくる気配ナシ。

 このままじゃ手詰まりだよ。


 そんな時、ポーチにしまっていたファルが話しかけてきた。


[死面徒の気配だ! 近くにいるぞ!]


 まさか、前のアイツみたいな変なのがこの町にも!?


「だったら、この町の異変も……」

[死面徒の仕業である可能性が高いな]

「やっぱり……」


 前に戦ったヤツは、シールだったよな。今回のは、人が消えてるから消しゴム面徒なのかな?

 俺はそれっぽい怪人を探すのだった。


「ややっ、何奴!?」

「あ、こんにちは。急いでるんで、じゃ」


 消しゴム……消しゴム……見つからないや。途中で変な人は見つけたんだけど、頭部のデザインは富士山に、鷹に、ナス。どう見ても消しゴムではない。


[いやいや待て待て! さっきのヤツ、どこからどう見ても死面徒だっただろう!]

「でも頭のデザインが消しゴムじゃないし……。人がいなくなるのと、富士山と鷹とナス。これに何の関係があるのさ」

[逆に聞こう。キミの知る限り、それら3つに共通点はあるかい?]


 富士山と、鷹と、ナスかぁ。この3つに共通点……。

 確か、『何か』で見るとおめでたいランキングトップ3に入っていたような……。


「ええい貴様! この『ハツユメ面徒』様を見ておきながら無視する気か!」


 そうそう初夢だ!

 教えてくれてありがとう、ハツユメ面徒さん!


 にしても、初夢と町の人たちがいなくなるのと何の関係が?


[ハル。キミはいい夢を見たらどう思う?]

「え? えっと、起きずにずっとこのままでいたいと思うんじゃない?」

[それだよ! 町の人たちはハツユメ面徒の術で夢の世界にいるまま起きてこられないようになってる! だから店も宿も開店できない!]

「あーそういう事だったかぁ。で、実際どうなの?」

「ぐぬぬ……」


 ハツユメ面徒は体を小刻みに震わせたまま、何も言わない。ファルの推測が正解だったらしい。

 けど確かに、眠ってる最中に術を施されちゃったら防ぎようがないもんね。

 それにしても夢の世界かぁ。どんなものなのか、ちょっと見て見たい気がするかも。


「くっ……秘密の作戦を知ったからには生かして返さん! ここで死ねぃ!」


 危なっ!

 飛んできたハツユメ面徒のパンチを俺は前転して避けると、ファルを天に掲げて叫んだ。


「奇想転身!」


 変身にかかる体感時間は1秒にも満たない。


「ヴィブジョーソード!」


 左腕には盾を、右手には七色に光る剣を。

 ファルにはあれから剣の正式名称と発音を移動中にじっくり教わった。


 前回の戦いから、必殺技を頼りにしていたら時間が掛かると知った。

 今回は最初から飛ばしていこう!


───────{12}───────


 いきなりかよ。

 

「そんな攻撃でやられぐわあああああああああああああああ!?」


 なんか、ごめんね。

 前回の泥仕合が嘘のよう。今回はかなりあっけなく終わった。


* * *


 ハツユメ面徒が倒され、術が解けた事でオッテルの人たちは目を覚まし、活気が戻った。


 シプル村の人たちも働き手として快く受け入れてもらったし、これで万事解決って訳だ。


 さてさて、俺が今まで着ていた服は男性用なので、この身体じゃサイズが大きくて歩くのも一苦労だ。なので服屋に行き、この身体に合った服を調達しようという訳だ。幸いこの町は店も豊富で、探すのには困らなかった。


 そして俺が訪れる事にしたのはこの店!

 町一番のファッションリーダーが手掛けているらしく、服屋を探している時にも地元住民からオススメされまくった。


 ドアを開ければ、来店を知らせるベルがカランコロンと店内に響く。

 いろんな商品があるなぁ。あ、さすがにスカート履くのは抵抗あるかも。フリルがいっぱいついてるのも恥ずかしいからNG。あと長い事歩くだろうし、歩きやすい服装の方がいいな。


「あらいらっしゃい♡」


 キョロキョロと店内を見渡す俺に声をかけてきたのは、見た目30歳はいってそうなムキムキのオッサン。けど化粧とか口紅とかしてるし、何より着ている服が女物だ。それに腋や脛の毛の処理もちゃんとしてある。


 もしや、オカマさんなのでは?

 実際に見るのは初めてだなぁ。


「カワイイ娘ね♡ ここに来るのは初めてかしらん?」

「え、あ、ハイ」

「服装について分からない事があったら、いつでもオバちゃんに聞いていいわよ?」

「あ、アザッス」


 未知との遭遇に、思わずきょどった返事をしてしまう。

 オカマのオバちゃんだから、オカバちゃん? なんかそういう名前の有名人がいた気がする。


「気のない返事ね。そ・れ・よ・り・も」


 背筋がゾワワッ!ってなった。どこかから絶望の音が聞こえてきそう。本能が身の危険を感じている。俺はまるで野獣に睨まれたカエルだ。


「何かしらそのクソダサファッション! ほとんど男物じゃない!」

「その、サーセン」

「謝らなくていいのよ♡ アタシが1から10までみっちり教えてあ・げ・る♡」

「っ! やめ、やめてー! 放して!下ろして!!」


 力で抵抗しようにもまるで歯が立たない!

 あの筋肉は伊達じゃなかった!


 俺は試着室へドナドナされ、足掻く暇もなく服を手渡された。広げてみると、いわゆる現代のアイドルが着ていそうな服だった。けどそんなにヒラヒラしてないからまだ助かるまだ助かる……。


「あらー似合ってるじゃない! ほら、次はこれとか着てみましょう?」

「やめてーっ! そんなにフリフリしたやつや穴とか切れ込みがバックリ開いてるやつなんて、さすがに恥ずかしいし!」

「大丈夫。初めはみんなそう言うのよ♡」

「アッー!」


 この後滅茶苦茶着せ替え人形にされた。


* * *


 ファル曰く俺が解放された時、いつもの3割増しでゲッソリしていたといか。

 けどおかげで念願の、動きやすい服装をタダでゲットできたぞ!

 下もズボンみたいだし、そんなに違和感を感じない。


 町の人から聞いた、ちょっと気になる話。町の近く、そう遠くない場所には小さな遺跡があるという。

 俺の勘では、そこに何かがあるに違いない。


「聞いた話によると、確かこの辺りなんだけど……」


 見渡す中でふと、それらしき建造物を見つけた。

 長い事放置されていたのか、植物が生い茂っちゃってるよ。その所為で想像よりもかなりみすぼらしく感じる。


「とりあえず入ってみるか……」


 お邪魔しまーす。


 結構暗いな、ここ。ちょっと進んだだけでもうお先真っ暗闇だ。


「なあファル、光の魔法でなんとか明るくできないのか?」

[キミ、だいぶ人使いが荒いね。そんなにこの遺跡が重要なのかい?]

「当然! 一番奥には何があるのか知りたいし!」


 遺跡があったら先に進みたい。例えお宝が無くったってもね。

 それが男のロマンってやつだよ。


[仕方ない、な]


 ファル自体が発光し、そのまま俺の周囲の空間に留まる。

 おー明るい。そんなに先までは見通せないけど、これでも十分な気がする。

 では行くぞー!


[棲み付いた原生生物が潜んでいるかもしれないが、大丈夫か?]

「問題ナシ! 逃げ足には自信あるんで!」


 それから俺たちは、途中で何度か棲み付いた野生動物に出くわしながらも、その都度に何とかして、だいぶ奥までやって来た。


 それでも違和感はある。

 遺跡内の造りが、地上とほぼ同一なのだ。レンガの積まれ方も町や王都で見かけたものと同じだし。

 遺跡なら、もっと古い建築様式なんじゃないかと思っていたけど。竪穴式住居とか。

 これ、もっと詳しい人なら何か解るかもしれないけど、残念ながらここに居るのは俺とファルだけ。メモって今度詳しい人に聞いてみるか。

 

 無い物についてあれこれ考えるのはもうおしまい。

 風の感じからして、あの扉の向こうが一番奥の部屋、なのかな?


 意気揚々と進んでいると、ゾクリ。突然首筋に雫が落ちてきて身の毛がよだった。地下水でも垂れてきてるのだろうか。それにしては、何かヌメッっとしている。

 また落ちてきた。いい加減この雫の正体が気になる。じゃないと夜も眠れやしない。

 ふと上を見上げ、俺はこの行動を後悔する。


 何故ならそれは、目がない大口の化け物であったからに他ならない。

 大きく開いた口の端から、粘液が垂れている。


「きっきき奇想転身!」


 ビックリして思わず死面徒じゃない相手に変身しちゃったけど、いいのかな。

 ファル以外の誰かに頼るなんて事は不可能だ!


「思わず変身しちゃった。どーしよ」

[逃げ場もないし、キミの命に係わる事態だ。やむを得ない]

「ありがとさん! 来い、ヴィブジョーソード!」


 剣を構えつつ、相手をよく観察する。まず目につくのは大きな口だ。俺なんかでは、あっけなく丸呑みにされてしまうだろう。それにヌルヌルしてるし、蛇にしては鱗がない。

 脇の水路から入ってきちゃったのかな。んで、大きくなりすぎて出られなくなったと。


 これは、ウナギやアナゴの仲間かな? だとすると、大口ウナギか大口アナゴ?


 個人的にはウナギの方が1段階上のグレードを感じられるので、採用。君の名前は大口ウナギだ!


 あれほど長くて太いウナギ、さぞ弾力マシマシで食べ応えがあるに違いない。


「しかし、かなり食いしん坊さんだな!」

[どうやらキミをエサだと思っているようだ!]

「何だって!? 俺だってウナギ食べたいのに!」

[アレを食べるのかい!?]


 やはり王道を征く蒲焼きで……ダメだ! タレが無い! あとお米も!

 現状では干物にするしかないか。かなり残念。


 食らいつく大口ウナギを翻しながら攻撃しているが、体表のヌメヌメした粘液で剣が滑ってまともにダメージを与えられない。


 攻撃に手こずっていると、大口ウナギが口から粘液の塊を吐き出してきた!

 そう簡単に当たってたまるか。そう意気込んで1度避けるも、粘液の塊は連続して吐き出される。走って避け続けていたらヌメヌメ粘液で足が滑り、転んだところで直撃してしまった。


「ううぇ……気持ち悪い……」


 つるつる滑ってまともに起き上がれやしない。そこを狙ったのか大口ウナギが迫って来る。

 俺はまともに抵抗する事すら敵わず、頭から丸呑みにされた。暗いし狭いしよく見えない。


 なんだかジュージューと、何かが溶かされる時の音が聞こえてきた。

 もしかしてこれ、かなりヤバい状況なのでは?


 しかし、剣を持ったままでも丸呑みだなんて、かなりの食いしん坊さんだったな。

 ん……待てよ。剣?


 武器あるじゃん!

 ここはいっちょ、必殺技に賭けてみるか!


───────{12}───────


 また12だ! また12だ!!


 いつかこのツケを払いそうで怖くなってくる。

 けどこのピンチを打ち破るにはもってこいだ!


「はああっ!」


 俺は力を籠めると、大口ウナギの体内にヴィブジョーソードを突き立てた!

 外側はヌルヌルしてたけど、内側はさほどそうでもありませんように!


 俺の願いが通じたのか、体内から脱出に成功した。けれど身体中、もういろんな粘液まみれで、早く帰ってシャワーでも浴びたい気分だ。

 そもそもあの一撃、肉を切り裂くまでには至らなかったが、命を奪うには充分だったらしい。

 命を奪ったからには、ちゃんと美味しく食べてあげるからね。


 あの扉の先には何が待っているかは分からない。今のうちに大口ウナギの内臓を取り出しておこう。

やったぜ。

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