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第42話 精霊族の本性

前回の更新分でユニークアクセス数が3000を突破いたしました! これも見ていてくださってるみなさんのおかげです!


 サンショクダンゴ面徒を撃破し平和が戻ったと安心したのも束の間。俺たちは拘束され、この国を治める女王様の所へ連行されることになってしまった。


 壁も床も透き通るような氷でできた宮殿の中は、精霊族の騎士が働いている。精霊ってどの属性を司っているかがわかりやすいから、中々華があるなぁ。それに壁に取り付けられた燭台の光を反射し、建物全体がシャンデリアのように輝いて見える。

 手を縄で縛られてさえなければ、その幻想的な輝きに足を止めていただろうなぁ。


「キビキビ歩け!」

「ひゃっ! すいません!」


 訂正。縛られても足が止まっていました。


 それからは足を止めずに歩く事、体感で10数分。俺たちは宮殿の謁見室へ連れてこられた。出入り口の扉の両側にはガチムチの守衛が立っており、抵抗しようという気を削いでくる。


 そして玉座の正面へ座らせられた。玉座に座っているのは、氷の女王。なんていうか、グレイシャさんのすごい偉いバージョンって感じだ。女王だから実際偉いんだけど。


 そんな女王様は、鋭い目つきで俺たちを睨みつけている。まるで全方向から針でチクチク刺されてるような感覚。胃がキリキリしてきた。


 静かな空間が重苦しい。俺の体感で数時間が経った頃、女王様がゆっくりと口を開く。


「先ほど、広場で騒ぎがあったそうではないか。そちらが騒ぎを鎮めた事も、わらわの耳にも届いておる」

「しかしながら、その功績者に対しこの扱いとは如何なものかと思います。もし正当な理由があるのでしたら、伺いたく存じます」

「たわけ。それを今からはなそうとしておる」


 実家が道場で礼節を重んじている涌谷さんは、こんな時でも冷静に動いていた。ここは涌谷さんに任せておけばいいのかな。

 それで、俺たちを拒否権なく縛った理由って?


「面妖な輩が現れた原因。そちらではないか?」


 厳しい目つきで、責めるように問うてくる女王様。けど、そんな話はあり得ない。死面徒は俺がこれまで来た国全てで活動している。今回の件はそれがここハロデヌィにも魔の手が伸びたという事なのだろう。


 あれ? けどサンショクダンゴ面徒は『俺たちを倒すためにわざわざやって来た』みたいなことを言っていたな。つまり、街があんな風になったのは俺たちのせいでもある……!?


「どうしようメイちゃん。女王様の言ってる事、本当かも」

「……そうみたいね。かといってどうするの? 馬鹿正直に頷く気?」


 メイちゃんと小声での相談。メイちゃんの問いかけに、俺はすぐに答えが出せずに俯く。

 『絶対にタダでは帰さない』的な雰囲気が女王様の周囲に漂っているのだ。正直者には定評がある俺だけど、今回ばかりは怖すぎて言い出せない。


 重苦しい空気の中、俺は視線で涌谷さんに助けを求める。その時の俺は、言いようのない恐怖に若干泣いていた。

 俺の視線を受けた涌谷さんは少しの間目を見開いてからふぅと息を吐き、凛々しい顔つきで女王様に向かい合う。


「彼らの狙いは確かに私たちです。此度の混乱、私たちが招いたと言ってもいいでしょう。ですが私たちにも目的があり、その為にこの国へやってきている。その点を承諾して戴きたいのです」

「ほう。その目的とは何ぞ?」

「……天宮」

「ひゃい!? あ、えっと、遺跡の碑文を調査する事です!」


 突然呼ばれたので声が裏返ってしまったが、そうだ、その通りだ。俺たちはハロデヌィに眠る遺跡の碑文を探しに来たのだ。

 逆にそれさえ果たせれば、言い方は悪いがこの国に用はない。女王様がこれ以上死面徒による被害を望まないならば、俺たちをさっさと返したいだろうし、すんなり遺跡に入れてくれるだろうか。


「あの遺跡に入ると申すか。しかしあれは童ら精霊族にとって神聖な場所。足を踏み入れるとなれば、それなりの儀式をしなければならぬというしきたりがあっての……」

「初耳」

「重要事項だからのう。そちが知らぬのも無理はない」


 ハロデヌィの住民であるグレイシャさんが知らないとなると、俺では全貌が掴めなくなってくる。いったいどんなヤバい儀式なんだろうか。緊張と怖さ、あと寒さで体が震えてくる。


「して、碑文を見つけたら真っ先に帰るのか?」

「天宮」

「は、はい。持ち込んだ食料も限られておりますし、そんなに長くは留まらない予定でござりまする」


 この国は普通の人間が生きていくには過酷な環境だ。それどころか、長期滞在すらままならない環境なのだと。

 地形が詳細に描かれていない地図からも、その事が何となく分かってしまう。

 首都ザミルシッチではどんなのが主食なのか。俺たちは連行されてきたから未だ分からない。俺たちが食せる品がザミルシッチで調達できなければ、食料が無くなり次第ゲームオーバーです。

 だから早めに終わらせる必要があるんですね。


 因みに遭難やメイちゃんの感情爆発、死面徒の対処で大幅ロスなのは内緒。

 でもここからノーミスで突破するとお釣りがくるからセーフ!


「儀式の次第は追って伝える。それまでは、首都の宿泊施設で体を休めると良い。これまで、長旅であっただろうからな」

「……痛み入ります」

「えっと、ありがとうございます」


 女王様の心遣いを受け取った俺たちは、深々と頭を下げる。

 女王様ってば目つきとは違って案外いい人っぽい?


* * *


 宮殿から解放された俺たちは、指定された宿を目指し首都ザミルシッチを歩いていた。流石、首都なだけあってお店も多い。なんか、よく分からないものも売ってるし、都会って感じだぁ。クラスメイトへのお土産も、ここで買いそろえようかな。


「きゃっ!」

「ぶへっ!?」


 考え事をしていたからだろうか。俺の鳩尾に走る衝撃。相手に謝ろうと前を向いたら、獣の耳と毛皮を生やした幼女が座り込んでいた。

 っと、いけない。物珍しさに黙ってしまった。


「大丈夫!? 怪我とかしてない?」

「大丈夫だクマ! けど、お母ちゃんの薬を落っことしちゃったクマ……」


 この子自身には何も問題ないか。それなら良かった……クマ?

 それより、薬、か。何か重い病気にかかっていたら大変だ。すぐに探さなきゃ。


「薬って、これの事かしら?」

「そっ、それだクマ! お姉ちゃん、ありがとうだクマ! 感謝感激クマ!」

「! うん……こっちこそあ、りがとう……」


 俺が薬を探し出そうと立ち上がると、メイちゃんが横から袋を差し出してきた。どうやら、俺の後ろで薬を確保していたらしい。本当、頼りになるよ。

 メイちゃんもメイちゃんで、あまり感謝の言葉を言われた経験が無かったのか、顔を赤くしながら呟いている。


「おい見ろよ。獣人族だぞ……」

「本当だわ……汚らわしい」

「あんま関わんないようにしようぜ……都の中心に獣人族がいるなんて不吉だ」


 俺が和やかな気持ちになっていると、そんな声がそこかしこから聞こえてきた。

 見た目10歳前後だろうか。そんな年頃の女の子がひとりで居るのに、街の精霊たちはあまり積極的に関わろうとしていない。

 ていうか、この辺精霊しかいないじゃないか。この子以外の獣人族はどこに居るんだよ。


「ここで話を続けるのも考え物だな。所を移そうぞ」


 了解だよ涌谷さん。今の空気、完全にアウェーだもんね。


 そうして俺たちは、あまり人が通ってこないような路地裏へ場所を移した。例え悪人が襲ってきても、涌谷さんが成敗してくれるから安心だ。


「それで……どうして街中を歩いてたの?」

「お母ちゃんの薬を買うためクマ。ここでしか買えないクマ」

「しかしひとりで出かけるとはな……信頼できる父方は居なかったのか?」

「お父ちゃんは……今は居ないクマ。お母ちゃんも病気で寝込んでるクマ」


 父がいなくて、母が病気であまり体が動かせない……。そんな彼女の事情は、俺には他人事とは思えなかった。


「よし……じゃあこうしよう! 俺はこの子についてくから、ふたりは別で宿に行ってて! あと涌谷さん、クラスへのお土産よろしく!」

「はぁ? どういう意味よ」

「俺も母親しかいなかったからさ、何となくわかる気がするんだよ。家でも遊び相手が居ればいいのにな……って」

「……ならば天宮の好きにすると良い。私が級友への土産選びを請け負おう」

「ちょっとセラ、こいつ野放しにする気?」

「何。天宮は確かに無計画でおっちょこちょいな上にうつけ者だが、人の痛みに関しては常人よりも敏感だ。信頼できる」

[それ、ほんまに褒めてはります?]


 俺の名誉については、この際捨て置こう。もっと大事なものがあるからな。

 俺は熊の幼女へ振り向き、彼女に同行を持ち掛ける。


「まぁ、そういう訳だから、家に遊びに行ってもいいかな?」

「えーでも、母ちゃんから『知らない人について行っちゃダメ』って言われてるクマ」

「そっか……お利口だね。じゃあ、ちゃんと挨拶しなきゃね。俺は天宮晴。晴が名前で、天宮が名字だ。これで知らない人じゃなくなったし、そもそも俺が招かれる側だしその辺は問題ないんじゃない?」

「そうだったクマ! わーい! お姉ちゃんが来てくれるクマ!」


 俺がそんな考えを言うと、熊の幼女は了解してくれた。

 そして俺は涌谷さんとメイちゃんにしばしの別れを告げ、薬を抱え帰宅する幼女の後に続く。道を歩きながら感じる視線は、『近寄りたくない』『関わりたくない』といった負の感情がこもったものが多いような。直接的な嫌がらせに走ってこない点を考慮すれば、悪意よりかは無関心の方が近い気がする。

 考えても埒が明かないと判断した俺は、思い切って熊の幼女に聞いてみることにした。


「でさ、俺らなーんか差別されてるっぽくない?」

「そう? いつものことクマ」


 え、これいつもの事なの? ちょっとこの子メンタル大丈夫?


「精霊族は同じ種族以外の存在を見下しているクマ。だから獣人族のわたしが転んでも、みんな知らんぷりを続けてるクマ」


 そんな……じゃあファルも、先代に力を貸していた精霊たちもみんなそうだったっていうのか!?


「ファル……何とか言ってくれよ……」

[カノジョの言った言葉は、概ね事実だよ。ワタシ達は精霊族の中では変わり者として扱われてきたからね]

「変わり者……?」

[ああ。人間を見捨てずに力を貸し与える変わり者さ。勿論、ワタシの思いは今でも変わらないさ]

「ファルたちはその辺にいる精霊族とは違うって事か、なーんだ。ま、取り敢えずこれからもよろしく頼むぜ」


 俺はにかっと笑いながらファルを軽く小突く。板みたいな形状のファルとはハイタッチとかグータッチができないからな。その代わりだ。

 それに、涌谷さんにグレイシャさんが力を貸したって事は、ファルたちと同じ事を思っているのかな。


「お姉ちゃんが持ってるそれ、もしかして精霊クマ?」

[あぁ、そうだよ。獣人族のお嬢さん]

「すごいクマ! 質問に答えてくれる精霊なんてはじめて見たクマ!」


 それからはファルも会話の輪に加わり、賑やかな帰り道を送ったのだった。

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