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第38話 番組マックス怒りの駅伝ロード


 謎の霧に包まれたネガルディア本拠地。今回も新たな作戦が動き出そうとしていた。


「今回の作戦は上出来だ! ニンゲン共を大量に殺せる上にエナジーも大量に集める事ができる!」

「はっ! 頭でっかちなキサマの事だ。どうせ紙に書いたケーキでしかないだろう!」

「駅伝という競技を知っているか? 走るコースが道路の長距離リレーで、日本では元旦に行われる箱根駅伝が最も有名だと思われるのだが」

「救世主の元の文化か。それがどう今回の作戦に関わってくる……まさか!」

「そのまさかだ! 今回の死面徒はその駅伝の意をこめられたもの! 襷を強制的にニンゲンへかけ、それが繋がらなかった場合か走り続けられなかった場合に問答無用で爆発し死に至らしめる! さらにニンゲン共が走る際に消費する栄養をメサイア様へ捧げるエナジーへ変換することも可能だ!」


 タクラムが悦に浸り高笑いするのと同時刻。小高い丘の上でエキデン面徒が動いていた。

 エキデン面徒の頭部は、ランナーがタスキをつなぐ瞬間を模ったものになっている。例に漏れず奇抜なデザイン。何をやっているかを初見で見抜ける人物はいるかもしれないが、これが果たして駅伝に繋がる事はありうるのか。


「今ここに! 第1回ネガルディア駅伝大会の開催を宣言する!」


 高らかに言い放ち、エキデン面徒は握った襷の束を上空へと投げる。襷の束はバラバラに別れ、風に乗って何処かへと飛んで行く。そして手ごろな人間にかかり、生死をかけた駅伝が始まるという訳だ。


* * *


 今日はお休みの日。接客業である我らが喫茶店は普通のお休みが取れないので、結構世間一般の休みとずれてたりしてるが、それでも休みは休みだ。思いっきり羽を伸ばそうじゃないか。


 この休日を利用して揃えるは、モコモコの防寒着に脂肪分たっぷりの携帯食。どれもお店に売っていれば楽なんだけど、携帯食に限ってはそういかないらしい。バターを作るにしても、1リットルの牛乳から作られるバターの量はおよそ45グラム。これではハロデヌィの寒さをしのぐには足りないので、野生の動物を狩って入手する事になっちまってる。


 ターゲットは『成金ダック』。その名の通りまるまると肥えたアヒルさんで、肝がフォアグラ並なんだとか。食った事ねぇや、フォアグラ。

 しかしこの成金ダック、警戒心が極めて高いらしい。他人前には全く現れず、下手な罠でもかければすぐに見破られて以降全然近づかないんだとか。ダックなのにチキンなのか。いや、ダックだからチキンなのか?

 ともかく、俺たちはそんな捕獲難度Sランクの獲物を3匹分仕留めなければならないのだ。ハンターを雇うお金も無いので。


「ハルさんミロアさん、アレ見るッス!」


 長期戦を覚悟で森の中をうろついてたら、サヴァちゃんが何かを見つけた。彼女が指差しした方を向くと、なんとターゲットの方から俺の方へ走ってきているではないか。しかも3羽だ。

 俺ってば人畜無害なオーラには定評があるからな。そのおかげかも知れない。

 すぐさま飛びつきゲットすると、何やら変なタスキらしきものがかけられてるのを見つけた。


「何かしら、これ」

「ともかく捕まえられたんなら上出来だ。サヴァちゃん、こいつら〆てもらえる?」

「了解ッス!」


 サヴァちゃんが血抜きを行っている間、俺たちはタスキらしき物体を観察していた。ミロアさんが興味を示していたから、俺がタスキのかけ方を教えると、ミロアさんはすぐにタスキを3本一気につけた。その瞬間だった。


『『『タスキが渡りました。これより一定速度で走り続けなければ爆発します』』』


 タスキからそんな音声と、ブザーのような電子音が鳴ったのは。

 ひとまず成金ダックを届けに喫茶店へ戻るぞ!



 天宮晴一行ダッシュ中……。



 王都でも大変な事になっていた。なんとミロアさんと同じタスキをかけた人たちが走り回っているのだ。あれが全部同じなら、走り続けないと爆発……?

 こんなろくでもない事企てるのはネガルディアしかいねぇ! 死面徒出て来いやぁ!!


 ともかく俺は、委員長に今回の出来事と推測を説明した。委員長も死面徒は見かけてるから、話が通じるのだ。


「それでミロアさんが走り続けているという訳か」

「これはまるでリレー、いや駅伝だな」

「駅伝だとぉ!?」


 駅伝という言葉を聞き、大きな声を出したのは登米くん。並々ならぬ想いがあるのだろうか。そこんとこを聞いてみた。


「登米くん?! 駅伝に何か恨みでもあるのか!?」

「もちろんだよ! 何度楽しみにしてた番組がお休みになったかと思うと……!」


 お、おう。


「でも、駅伝だって楽しみにしてる人が居ると思うな」

「そうだとしても! 俺の絶望は計り知れないだろう。盛り上がってきたところでの一週休みの辛さを! 午前中から虚無感に見舞われて過ごす日曜日を!!」


 大空さんの言葉にもこの噛みつきよう。相当根に持ってるね。


「頼む! 天宮って確か死面徒とかいう訳の分からん連中と戦ってるんだろ? 俺の恨み辛みを託すから、倒してきてくれ!」


 登米くんは膝を折り俺に縋りついてくる。その目も半分べそかき状態だ。そうまでされたら、断る訳にはいかないなぁ。


「よし分かった。俺に任せてくれ!」

「ちょっと、死面徒と戦えるのは私もなんだけど。どうしてよりによってコイツな訳?」

「そりゃやっぱり、見知ってる分頼みやすいと言いますか……」

「はぁ……まぁいいわ」

「天宮の話を聞く限りだと、このタスキは何処かから風に乗って流れてきたんじゃないかな。となると、小高い丘の上に居そうだけど……」

「お~! さすがイインチョ! 物知りッス!」

「けど、つまり死面徒がどこの丘に居るかは分からない、という訳ね。ハル・アマミヤ、作戦くらいあるんでしょうね?」

「走ってる人のタスキを、俺に集める!」

「……何考えてるか分からないけど、まぁいいでしょう。賭けてあげるわ。その代わり、絶対に成功させなさい」

「よし来た!」


 俺は早速外に出て、走ってばて気味なミロアさんからタスキを受け取り肩にかける。そして王都を駆けまわり、タスキをかけて走ってる人からタスキを受けつぐ。そうして王都の門を出た頃には、俺は10数本のタスキをかけていた。

 王都を走り回っても死面徒らしき人物はいなかった。メイちゃんもヤタに乗って上空から探してもらってる。発見され次第ファルに連絡が届くように決めてあるのだ。


「奇想転身!」


 変身も済ませて身体機能も底上げし、準備完了。

 こうして俺は、これまでの旅路を振り返りながら死面徒を探すのだった。


 とはいえ長い事走るだなんてやってられないぜ。ファルをホバーバイクモードに変形させ、さっさとまたがる。

 そうしたらタスキから音声が鳴った。


『足の裏が地面を離れたのを確認しました。すぐさま足裏を接地させないと爆発します』


 ……つまり走り続けないといけないって事かよ。軽い気持ちで請け負うんじゃなかった。俺はすぐさまファルを戻し、再び走り出す。


[ヤタから連絡だ。流石にジャッポジア、ハロデヌィ、ジザニオンではタスキを観測できなかったらしい]


 まあ、ジザニオンは樹海に覆われてるし、ハロデヌィは高い山の上、そしてジャッポジアはこの国の裏側だもんね。となると捜索範囲はグラージュとその国境までかな。

 そう判断した俺は、今はエルツォーンとの国境へ向かって走っている。すると、街道を向こうから走ってくる人影が。


「ああ丁度いい機会に! こちら、エルツォーンでかき集めたものになります! それと、本国内でも死面徒らしき人影は見当たりませんでした!」


 走ってきたのは、なんとエルツォーンのお役人。いつの間に連絡が……ってメイちゃんか。


 合流した俺は役人さんから、エルツォーンでかき集められたタスキを受け取り肩にかける。タスキも重なると、結構、重い。これを身に付けながら走らなきゃあかんのか。自分から言い出したとはいえキツ過ぎませんかね?


 ともかくエルツォーン方面は心配なさそうだ。となればコートクラン方面か。行くぞおおおおおおおおおおおうおおおおおおおおおおお気合振り絞って走れえええええええええええええええ!



 天宮晴激走中……



 コートクランまで走り続けて全てのタスキを回収いたしました。かなり重いです。もう走り続けるのきついわ。頭の中で負けなかったり桜吹雪だったりの曲がヘビロテしている。そのおかげで何とか走り続けている現状だ。


「ファル……メイちゃんからの連絡は……!?」

[まだ着信は無いよ]

「そっか……もう、休んでもいいかな……?」

[許可したいのは山々だが足を止めると大爆発だ! キミは木っ端みじんになってしまう!]

「そうだね……それは、嫌だねぇ……」

[頑張れ! 頑張れ!!]


 ゴールが見えねェ。それに世界の命運が懸かってるからシャトルランより厳しい孤独な戦いだ。幸いにも俺の隣ではファルが声援を送ってくれている。ちょっと安っぽい気もするけど、それだけでも元気が出るんだなって。


 1歩踏み出すごとに気力を振り絞る。こうでもしないと、走ってられないのだ。息も大分上がってきたし。メイちゃんよ、早くエキデン面徒の居場所を突き止めてくれ。道が舗装されてないから走り続けるのは辛いんだよ。やんぬるかな。


 そして、遂に希望が届く。


[メイたちがエキデン面徒の居場所を発見した! ここから南西に10キロの丘の上だ!]

「分かったよ……!」


 タスキをばら撒いた点から、丘の上にエキデン面徒がいると判断したけど、この残り体力で10キロを走り切ってその上で丘を登り切れるか?


「やるしかねぇなぁ!!」


 このタスキひとつひとつに込められた思いは、俺では計り知れない。けど、みんな死にたくないから走り続けたっていう事だけは想像できる。ならば俺も走り切るまで。


 緩やかな上り坂を走り続け、とうとう丘の上へ。そこでは、もうエキデン面徒とメイちゃんが戦っていた。ゴール地点はあそこだ。


「あの量の襷ををひとりでだと!? ニンゲンも死なずエナジーもあまり集まらなかったのはこの所為だったか!」

「最適解のようね。どうせ本人は何も考えてないんでしょうけど」


 エキデン面徒とメイちゃんが何か言ってるけど無視。俺はもう疲れた。運ゲやってる場合じゃねぇ! 俺は最後の気力を使い果たし、エキデン面徒へ接近する!


「何をするか!」

「暴れんな……!」


 俺はタスキを全て脱ぎ、エキデン面徒の肩に無理やりかけた。


「人々の想い、ようやく繋げられたぜ……!」

『タスキが渡りました。これより一定速度で走らなければ爆発します』

「しまった! こうなれば誰かに擦り付けて――」

「させると思う? アビサル・ガタゾル・ルルエスタ。深淵より出でし闇よ、彼の者を永劫の檻へ誘え!」


 メイちゃんが呪文を唱えると、エキデン面徒の足元に闇らしき物体が広がる。そこから幾つもの触手がうごめき出て、エキデン面徒を縛り上げた。怪人の触手プレイとか誰得やねん。


「!? これは、体が動かん……!」

「あなたを闇に縛ったわ。さあ、闇に溺れて沈みなさい」

「おのれ…………ッ!!」


 エキデン面徒は闇から必死に抜け出そうとしたものの、抵抗空しくタスキは多重で大爆発。エキデン面徒は俺がゴールテープを切った祝砲となった。にしては派手過ぎないか?


「ほら。終わったからいつまでも寝そべってないで、帰るわよ」

「もぅマヂ無理。動けん」

「はぁ……。ったく、しょうがないから送ってってあげるわ」


 あざーっす!

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