第31話 ハンドスピナー面徒との決着
いつの間にか、俺は眠っていたらしい。ぐっすり寝たからか、目覚めも気持ちいい、けどまだ寝足りない気もするし、もう一度寝るか悩む。
この独特な臭いは……畳と布団だ。落ち着くなぁ。
「気が付いたかい?」
「あと15分くらい寝かせて……」
「それはダメだ」
ちくしょう、掛け布団を引っぺがされてしまった。こうなっては起きるほかない。
辺りを見れば、障子張りの窓に扉はふすまで床が畳。いかにも和室、って感じだ。それよりも。
「ここどこ?」
[キミは気絶し、カレに運ばれてきたんだ]
「へぇ。で、誰?」
俺を運んできた人は、成人男性。俺よりふた回りくらい年上っぽい。
「私は現フカミ家当主。コウジ・フカミだ」
はえ―当主か。という事は、俺が今いるのは、すごく立派なお屋敷ではないか?
生まれてこの方、ブルジョワには縁が無かった身。普通にビビるわ。
「ちょっとパパ! どういう事よ!!」
お、この声はメイちゃん。名字が同じだし、家族なのかな。
ふすまを勢いよく開いておいでなすったメイちゃんは、ものすごく怒ってらっしゃる。
待てよ。メイちゃんがこの家の子供って事は、実はすごいお嬢様なんじゃ……。
俺にはメイちゃんに粗相をしでかした覚えがある。このままでは俺の首を切られかねない。どうしよう……御嶽くん、本田くん、高橋さん、委員長、ファル、サヴァちゃん、ミロアさん……!
「ズタボロ拾ってきたと思ったら看病してさ。こんなのなんて、その辺にほっといとけばいいのよ!」
「で、でも、彼女も魔法使いなのだろう? 先代と同様に、ふたりで仲良く戦っていけばいいじゃないか……」
「先代はともかく、私はこんな奴と仲良しやってくつもりはないから!」
おおう。反抗期の娘とその父親、って感じがする。俺には母親しかいなかったからよく分からんね。
ていうかメイちゃん。俺を『こんなの』扱いって。分かりきってたことだけど、俺ってば嫌われすぎでしょ。
メイちゃんはふすまをピシャリと閉め、行ってしまった。この部屋にいるのは、俺とファルとコウジさんだけ。
「あー、すまないね。娘はちょっと気難しい部分があるけど、基本いい子だから、これからもうんざりせず付き合ってやってくれ。この通りだ」
真剣な表情で頭を下げてくるコウジさん。
俺的には、そんな頼まれ方されると、断りづらい。そもそも、今のところ断る理由なんて思いつかないけど。
「あー、いいっすよ」
「! 本当か!?」
「まあ、特に断る理由もないですし。けど、メイちゃん本人の意思は尊重してやってくださいね。今のまま関わっても、メイちゃんは多分怒るだけだと思いますから」
「そうか……」
コウジさんと比べたら俺なんてまだまだ若者。それでも嫌な顔ひとつせずに、俺の言葉を聞き入れてくれる。かなりの人格者だ。
こんなに良いお父さんがいたのに、なんでメイちゃんは今あんなに荒んでいるんだろうな。自ら進んで虐待をするようにも見えないし。
これ以上は考えても仕方がない。考えるのを止めて寝返りを打つと、綺麗な木箱が俺の目に飛び込んできた。
「寄木細工の謎合わせだ。やってみるかい?」
「ぜひぜひ」
俺が答えるとコウジさんは箱を俺に渡してくる。箱を開けると、パーツがバラバラな状態で入っていた。面白そうだし、いっちょ組み立ててやりますか。
えっと、ここがこうだな! あれ、でもそうなるとパーツが余る……。ならばこう! ……ハマらねぇなぁ。パーツ回してみるか。
悪戦苦闘すること……時間覚えてないや。とにかく、かなりの時間が経った。お腹空いちゃったな。
結局パズルは出来ずじまい。かなり難しかったよ。
「初めて触れたにしては、よくできた方だ。組み立てるにはちょっと、コツがいるんでね」
落ち込む俺にコウジさんがそう声をかけてくる。俺はといえば、ハンドスピナー面徒の言葉を思い出していた。
『真の玩具は精巧なギミック等で自ら輝きを放つ物!』
今思えば、その通りだ。ギミックが無ければ、こんな何時間も夢中になることは無かっただろうから。おもちゃを作ってる人たちは、どうすれば楽しく遊べるかをいつも考えながら仕事してるのかな。
そんな事を考えている時、ちょうどお腹が鳴った。
「昼餉も近い。よかったら食べていくかい?」
「あ、いえ、大丈夫です」
ありがたいけど、さすがにお昼まで厄介になる訳にはいかないかな。
そんな事を伝え、俺は屋敷の外に出た。……は、いいが、道がさっぱりわからん。これじゃあ飲食店を探すのも一苦労だ。いや、美味しそうな匂いをたどれば行けるか……!?
では美味しそうな匂いを求め出発。お団子の失敗を繰り返してたまるか。
そう意気込んで見たはいいが、どこからも美味しそうな匂いなんて漂ってこない。どことなくケミカルな香りだけが風に乗ってやって来る。まさか食品全部がバイオクローンとかいうSF的食生活じゃないだろうな。給食でオートミール食べた事はあるけど、何とも言い難い味だったし。温かかったから完食は出来たけど。
ともかく、食事には食感も大事な要素なのだ。栄養素だけを再現しただけで、妙にネチョネチョしたたこ焼きなんて、箸が進まないから。
グチグチ言ってても腹は膨らまない。感覚とずれ切ってるだけで栄養は完璧な食事を摂るか、このまま国を出るまで飢えをしのぎ切るかの選択。
何も食べないのは現実的じゃないなぁ。かといって気分が乗らない食事はなぁ。
『食事程度でそんな大げさに悩むなんて』と思う人もいるだろう。しかし俺にとっては、それだけ重大な問題なのだ。
悩んでいたからか、飛んできたハンドスピナーに気づくのが遅れてしまった。俺は咄嗟にその場から飛び退いて何とか無事。
ハンドスピナーという事は、当然あいつのお出ましだろう。
「遊び相手も連れずに街を歩くとは不用心よ!」
おいでなすったか、ハンドスピナー面徒……!
さっそく変身し、立ち向かう。その前に。
「俺も『おもちゃ』ってのを改めて知って、お前に言いたい事ができた!」
声を上げると、ハンドスピナー面徒が止まった。俺の話に耳を傾けてくれるようだ。ありがたい。
「俺も、おもちゃに夢中になって時間を忘れて遊べた。そんなおもちゃを作ってくれた職人さんには頭が上がらない!」
これは俺の本当の気持ち。おもちゃの楽しさを思い出したら、ハンドスピナー面徒へ言いたい事がひとつ。それを今、ここで、言わせてもらおう。
「ハンドスピナーがおもちゃを語るなあああああああああ!」
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「ぐっ!」
「手の上で回るだけで、何が面白いんだ!」
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「があっ!」
「俺だったら正直1分くらいで飽きるね!」
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「はぁぁぁん!」
胸の内を晒してみたら、ハンドスピナー面徒は既に痙攣しているだけの状態。でも次の攻撃で倒せるかは分かんないし……不本意だけど12が出るまでボロクソに言い続けよう。
「えっと……画が地味!」
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「ぐわーっ!」
「ぶっちゃけもうブームは終わってる! オワコン!」
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「ア……ア……」
「あとは、あとは……正直色変えても面白さはたいして変わらない!」
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「ミ゜(この時点で息を引き取る)」
「どうして流行ったのかよく分からない!」
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「」ビクンビクン
「捨て方に困る!」
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「プレゼントされても困る!」
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「数年後押し入れで見つけたら『何だっけ?』ってなるやつ第1位!」
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最早それらしい抵抗をすることなく、ハンドスピナー面徒は光に消えた。俺の命の危機は去ったのだ。
そういえば、メイちゃん来なかったな。死面徒が出現したから、いつかは来ると思ってたんだけど。その辺、後で聞いてみるか。メイちゃんが答えてくれるかは別として。
だとするとこれからの行き先は、あの屋敷か。道順は覚えている。適当に腹を満たしたら出発だ。
この国での味は諦めたよ。うん。




