第29話 出立と追加戦士と新たな策謀
今回はエルツォーンでの事件が終わり、各陣営での一コマ。
鉱山での件以来、エルツォーンで死面徒が活動することは無くなったようだ。
俺は協力した礼として、エルツォーンの遺跡の碑文を受け取った。なんでも、それを研究する専門の機関があるらしい。
陛下からは「それだけでいいのか」なんて言われたけど、実際に遺跡に行く手間とかが省けるのだから丁度よかったのだ。
碑文には、こう書かれていた。
『6人の少女が災厄に立ち向かうも、打倒は叶わず力尽きた』
バッドエンドみてーな文だな、と思った。今のところ集まった碑文の順序は分からないし、そもそも『彼』についての内容がグラージュの遺跡以外で見てないのが気になる。もう少し集めれば何か分かるかな。
だとすると真っ先に考えなきゃならないのは、次の目的地。俺たちは宿のラウンジに腰かけ、相談している。
「この地図によると、エルツォーンから一番近くて道が整ってるのはジザニオンだね」
「そ、そんな! ジザニオンなんてやめときましょう!?」
「どうしたッスかミロアさん。何か問題でもあるッスか?」
「特に何も問題ないと思うんだけど……」
「えーと、それは、ほら! ジザニオンなんて樹海しか見どころ無いし、ロクな場所じゃないのよ! ジザニオン出身である私が言うのだから間違いないわ!」
ミロアさんの様子がおかしいけど、そんなに故郷をボロクソに言う必要あるかなぁ。日本でいう埼玉や栃木みたいなものなのかも。
「怪しいッス……」
「まあまあサヴァちゃん、その内分かる日が来るっしょ」
という訳でジザニオンは却下。残るは、ハロデヌィとジャッポジアの二か国。
ジャッポジアはここから東にずっと言った地点にある島国らしい。エルツォーンから出発するとなると、地図の左端と右端なのでかなり遠い。
ハロデヌィは、一年中雪と氷に覆われた銀世界だそうだ。平均して標高が高いのが、その環境を作り出しているらしい。
それを話したら、
「自分水棲族だから、高い山とかに登ると口から内臓吐き出して気絶するッス」
「私も極端に寒いのはダメねぇ。霜が付いちゃう」
との事でハロデヌィもアウト。
なんてこった。選択肢がひとつしか残っていないじゃないか。
車なんかの乗り物も無しに大陸を横断だなんて、何日かかる事やら。
「旅やめよっかな~」
なんかもう、救世主として世界を救うとか、この世界の謎を紐解くとか、どうでもよくなってきた。
「そ、そりゃないッスよハルさん! 今のところ集めた碑文がみっつで、まだ行ってない国もみっつッス! もう半分ッスよ!」
「そうよ! こんな中途半端な所で終わるなんて、勿体ないにも程があるわ!」
何の気なしに溢した言葉だったけど、こんなに拾われるなんて思っていなかった。
「や、だってさ、このまま行ってもいずれハロデヌィでお別れでしょ?」
「「……う!」」
図星をつかれたのか、固まるサヴァちゃんとミロアさん。
「『私たちの分まで頑張って』って言っちゃうと、ハルにとっては重荷になるかしら?」
「んにゃ……よくわかんないです。今までそういう経験なかったから」
「まあまあ! おみやげ期待してる程度の気持ちで待てばいいッスよ!」
「それはちょっと俺の扱い軽くない……?」
「サヴァ、油断はできないわよ。ハルだもの。到着した頃には、うっかりお土産を買うのを忘れてるわ」
「そんな!」
「ちょっと待って。どうしてミロアさんは俺がうっかり屋だって知ってるんだよ。まだ話してないでしょ!?」
「喫茶店で働いている時に、いろいろ聞いたのよ」
「クラスメイツッ!!」
俺の知らない所で学校生活が流出していた。クラスの俺に対する謎の信頼は何なんだよ。去年うっかり教科書を忘れて、先生から借りた回数が合計28回ってだけでしょうが。
ともかく、次の目的地はジャッポジア。ジャパンな響きを思わせるこの国では、何が待っているのだろうか。
……遠いしホバーバイクモードのファルでかっ飛ばすか。
* * *
晴たちがジャッポジアへ向けてアクセル全開でかっ飛ばした丁度その頃。グラージュの王都ビギニアの城に、晴を除く2年1組全員が集められた。
玉座の前で跪く2年1組。代表して、委員長の斎藤が話題を切り出す。
「それで、王様。僕達が集められたという事は、救世主に関して何か動きがあったんですね?」
「うむ、その通りだ。先刻、自分を『救世主の一味』だと名乗る少女が現れたのだ」
「それは、確かにおかしいですね。王様が僕たちを呼びつけた理由は解りました。その救世主と僕らを会わせる為に呼んだのですね?」
「察しが良くて助かる」
バルケット王がハンドサインを送ると、何人かの衛士が部屋の外へ出ていった。
王城の衛士に連れられてやって来たのは、青空に浮かぶ月を思わせる銀の髪を靡かせる少女。彼女は2年1組を前に、キメッキメのポーズで宣言した。
「我が名は、シエル! 世界を救うべくルファド様から地上へ派遣された、謂わば天の使いです!」
言い終わると同時に彼女の背中から純白の翼が大きく広がる。天の使いというのは、本当の事だろう。
そして2年1組はシエルを連れ、喫茶『セイヴァーズ』へと戻ってきた。ここからは私語もOK。
クラスに転校生がやって来た場合によくあるように、シエルへの質問タイムが開始された。
「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」
「今までドコ住んでたの? やっぱり天界?」
「要するに『シエルたんマジ天使』って事?」
「そんな装備で大丈夫か?」
「お菓子好きかい?」
「彼氏いる?w」
「オレも何か言っとこ。え~と、ご趣味は?」
「武術の心得はあるのか?」
「ってか、そもそも戦えんのかよ?」
インタビューは混沌を極めてゆく。ガヤは伝染し、最早収拾がつかなくなりそうだった。
その時、高橋恵が立ち上がった。
「みんないい加減にしなさい。シエルちゃん困ってるでしょ」
『学園のオカン』という異名のルーツを、相変わらず発揮する高橋恵。
「大丈夫だった? うちのクラス、たま~にふざけすぎる事もあるけど、基本いい人ばかりだから」
「は、はい! ありがとうございますっ! わたしは、大丈夫ですっ!!」
恵は持ち前のスキルで、早速シエルの世話を焼いている。ペコペコと小動物のように頭を下げ続けるシエルの姿も、人ならざる者のようには見えない。
恵によって治まった場が明け渡されたように、クラス担任の及川信司による説明が行われる。
「世界を救う救世主の仕事だけど、我々は基本依頼で動いているからね。依頼が無くて暇な時は、ここで働いてもらうよ」
「ええっ!?」
「心配しなくても、分からない事があったらクラスの誰かに聞けばいい。きっと教えてくれるはずだから」
「えっと、その、それはありがたいんですけど違うんです!」
驚くシエルに、経験のない業務だからかと見当つけた及川担任がフォローするも、彼女が驚いた原因は他にあるようだ。
「わたし、天使の中でもまだまだ下っ端で……でも! 救世主についてはしっかり勉強してきたんです! だのに、そんな仕事でいいんですか!?」
この質問は、まだ18にも満たない彼彼女らが答えても意味は無い。そう判断した及川担任は、脳内で考えを整理し組み立ててから口を開く。
「いいんだよ。第一、俺達は右も左も分からないままここへやって来た。だから、生きる為にもお金が必要なんだ。けど、お金を溜めるだけに生きている人間なんて虚しいんだ。お金を稼ぎつつ、困っている人がいたらその手を掴む、泣いている人がいたら笑わせる。それが、俺の思う人間の価値ってやつだ」
自己愛だけでない、博愛も併せ持つ精神。それが、彼の思い描く『救世主』。その一環としての喫茶店経営。
高校2年生という、大人と子供の境に存在する生徒らにとって、この言葉は今後の指標になるかもしれない。多くの生徒が神妙な顔で頷いた。
「なるほど……それが救世主の役目なのですね!!」
及川担任の言葉に、シエルも感銘を受けたようだ。
「でしたらこのシエル、異論は挟みません! 全力で皆さんと同じ道を歩みましょう!!」
シエルは2年1組としての『救世主』の在り方に賛同し、その一員として加わった。
喫茶店が、より賑やかになりそうだ。
* * *
ネガルディア本拠地。死面徒を生み出すカプセルの前で、ウデプシーとタクラムがもめていた。
「自信たっぷりに語った割には、あまり成果が出なかったな。タクラムよ、そんなんで本当にメサイア様のお役に立てると思ってんのかよ?」
「五月蠅い! 第一貴様も、生命を根絶やしにする作戦を阻止されていたではないか!」
「ええい! まともに戦っていれば楽々勝てていたわ! 機械が壊されたのがイカンのだ!」
「フン! そういう小手先も揃っての作戦ではないか! 貴様だけの腕っぷしが強くともどうにもならんのだ!」
グダグダと言い争いを繰り広げたウデプシーとタクラム。今はすっかり肩で息をしている。
「結局は魔法少女だ。奴らがいる限り、計画は潰される一方だ」
「それは同感だ」
「奴らのどちらかでも再起不能にできれば、エナジーを集める効率も上がり、メサイア様君臨も大幅に近づく筈」
「その通りだな」
「で、魔法少女ってのは今、どこに居るんだ? 今すぐにでもこの鬱憤をぶつけてやりたい!」
「闇の方は行方が知れんが、光の魔法少女なら東方へ爆速で進行中だ」
タクラムからその情報を聞いたウデプシーは、外見では分からないが確かに嗤った。
「待っていろよ光の魔法少女! オレ様直々に鍛えた超・戦闘特化型死面徒軍団で捻り潰してくれるわ!!」
唸りを上げるウデプシー。彼の最凶最悪な軍団が、晴達に牙を剥く。果たして晴達は、誰も欠けずに生き延びる事ができるのだろうか。




