第28話 光と闇のトルネイド
「ハルさんたちが見えなくなっちゃったッス!!」
俺とメイちゃんはイリュージョン面徒の術を受け、姿が見えなくなってしまった。身体だけでなく身に着けている者や武器まで見えなくなってしまっている。
「これで連携は取れまセーン! 覚悟して戴きマース!」
ぐむう、確かに。しかしメイちゃんに俺と連携する気があるとは思えんがね。そこんとこどうなのメイちゃん。
「何がよ」
誰も居ない場所からあるはずがない返事が返ってきた。ていうか、声漏れてたのか。恥ずかし。
まあ、ヴィブジョーソードを握ってる感触もしっかりあるし、このイリュージョンはあくまで見えなくさせるだけの手品。それなら、物音を立てずに近づいてからの一撃必殺も夢ではない。
ぶつからないように子供の間を掻い潜り、椅子に座ってる方の死面徒に近づく。んでもって必殺技。いつもこの辺なんだけど、見えないからやりづらいな……どこだ、ここか!?
なんかそれっぽい感触した! けど出目が見えねェ!
マジで当てるまでのお楽しみって訳だ!
「あ痛ァ!」
当てた、けど死面徒のリアクションはそれだけ。不意を突かれてびっくりしてしまい、ついオーバーなリアクションをとった程度だろう。
───────{2}───────
これじゃあ大してダメージは与えられない。ならばもう一度だ。
またも子供たちの壁を通り抜け、死面徒に近づく。そして少しもたついてからの運ゲタイム。
「あっづ! あっづ!?」
熱がっている。俺の攻撃で熱を扱えるのは、あれしかない。
───────{6}───────
「イリュージョン面徒めキサマ! オレ様にも見えなさせてどうする!?」
「派手なイリュージョンに代償はつきものデース!」
「キサマァァァァァァ!!!」
GABAは伝染する……!
仲間割れしてるなぁ。この隙にもういっちょ行ってみよう。ノールックでの必殺発動も慣れてきたぜ。
「ぐふぅっ!?」
あ、倒せた。散った死面徒と連動してたのか、子供たちも正気を取り戻した。
───────{12}───────
「カ、カントク面徒様ぁーっ!!」
竜人族の大人がそう叫ぶ。
あー、監督か。確かにあんなイメージあるわ。アレ。
っていうか、お前ら繋がってたんかい。まさかふたつ目が正解だとは思わなかったなぁ。
「こっちは片付いたよー!」
「シッ! 大声で喋らないの!」
え、なんで? ていうか、そなたも大声を出しておるではないか(謎雅口調)。
その答えはすぐに、俺の身をもって知る事になる。
「そこデース!」
イリュージョン面徒がいつの間にか持っていたステッキの先から、ギザギザの怪光線を放ってきた。着弾地点は俺の足元すぐ。咄嗟に飛び退いてなかったらまともに食らっていた。
なるほど。声は聞こえてしまうから、って事だったのか。だとするとメイちゃんヤバくない? 魔法使う時に、詠唱する必要があるんでしょ。……あ、俺もか。
「ミーはイリュージョンの仕掛けも熟知していマース! ユーたちの居場所はまるわかりデース!」
ふざけた喋り方の癖に、強敵っぽいな。この見ただけじゃいまいち強さが分からない辺りが、死面徒の厄介な所でもあるが。
ひとまず、さっきのカントク面徒との戦いで、この見えない体の動かし方についても慣れてきた。メイちゃんも同じだと信じたい。いや、彼女は俺よりも戦闘経験があるように感じたから、もうすっかり慣れ切ってると信じよう。
問題があるとするならば、互いに見えない事による衝突の可能性。これをどう解消するかだなぁ。ぶつかれば口論になるし。いっその事何かで結んじゃう? よし、そうしよう。
「『ジェイルアンカー』」
わお、光の鎖も見えなくなってるよ。これはこれでうってつけだ。
「メイちゃんメイちゃんメイちゃーん!」
大声で連呼していると、俺の体がぐいと持ち上がる。多分胸ぐらをつかまれているんだと思う。
この間にもイリュージョン面徒は怪光線を放ってくる。なので俺たちはそれから逃げつつ、出来る限りのヒソヒソ声で、コミュニケーションを交わす。
(なによ! そんなに呼ばれたら気づかれるじゃない!)
(いやさ、これ持ってほしくて)
俺は鎖の先っぽをメイちゃんに掴むよう頼む。手と手が触れ合うこと数回の後、ようやくメイちゃんは鎖を掴んだ。
(……何なのよコレは)
(見えなくなってるけど鎖。俺が魔法で出した。で、これをしっかり握っててほしいの)
(なんでそんな事する必要があるのよ)
(ぶつかったら大変だから、そうならないように!)
(まさか、戦う気でいるの!? あんたはそこでじっとしてればいいのよ!)
(でも、俺だって魔法が使えるし、正直あいつ、すっごく強いし……俺ひとりでも、メイちゃんひとりでも勝てないよ)
それっきりメイちゃんは何も言わなくなる。鎖からかすかに振動が伝わってくる。「なんで」とか「いっつも」とかの言葉が途切れ途切れにお漏らししている。
(……やってやろうじゃない)
お?
(あんたに心配される程私は落ちぶれてなんかないって言ってんの! それを証明してみせるから、あんたもあいつにひと泡吹かてみせなさい!)
(っ! うん!)
ヤケクソか? まあ、乗ってくれるのならそれでもヨシ!
俺の考えた作戦だが、効果は凄かったぞ。手に伝わってくる感触で、大体どこに居るのかが分かるのだから!
メイちゃんの攻撃でこちらに飛んできたイリュージョン面徒を、俺はヴィブジョーソードをバットに見立て必殺技で打ち返す体制。
シルクハットには何本もの切り傷が付けられた。
───────{11}───────
突然ぐいと強く引っ張られる間隔。これは、俺が振り回されている!
その先にはイリュージョン面徒。俺はもうどうにでもなれと必殺技を発動した。そして、イリュージョン面徒
に最接近。ヴィブジョーソードで斬りつけると、イリュージョン面徒は痺れた。
───────{5}───────
そのまま戻ってきた俺は、メイちゃんに物申す。
(ちょっと! 無言でいきなり振り回すなんてひどいじゃないか!)
(あら、悪かったわね。でも生きて帰ってきてるじゃない)
そういう問題じゃないと思うなぁ俺。まあ、やる事は変わらないか。メイちゃんの攻撃が途切れたら、近づいて運ゲぶっぱなすだけ。今回はあんまし目立った変化は無かったな。
───────{2}───────
(全然効果ないじゃない!)
(運次第ゆえしゃーなし。次行こ次)
俺が鎖に引っ張られて帰って来るとメイちゃんが物申してきた。
雨が降るまで踊り続ければ雨ごいは成立する。つまりこの運ゲー必殺技も、当たりが出るまで降り続ければ100%の一撃必殺だ。その為には、試行回数、すなわち必殺技を発動するチャンスを増やす必要がある。
「無視されっぱなしでは困りマース! 続きましてのイリュージョンデース!」
イリュージョン面徒はどこからか取り出したカードの束を空中でシャッフルし、1枚抜いてから俺たちに絵柄を見せてきた。するとカードの絵柄が実体化して、いっぱいミサイルのように飛んできた! 爆発で鎖が断ち切られたら、ヤバイ!
俺はすぐにメイちゃんの前に立ち、当たりそうなマークを盾で弾く。
(何してくるかわかんないから面倒だなぁ)
(だったら手段を封じればいいのよ)
(当てはあんの?)
(しっかり見てきたわ。今までも妙な術が発動する時、必ず杖が光ってたの)
(あれ、そうだったっけ? 俺そんなによく見てこなかったからわかんない)
(ハァ……とにかく行くわよ)
爆炎の中をふたりで走り抜けながら、俺は必殺技を発動。本体には当たらなかった。けど、メイちゃんはイリュージョン面徒の杖をバラバラに切り裂き、俺が当てた方の持っていたカードの束はみるみるうちに燃え尽きた。
───────{6}───────
「おのれ……ショーの小道具を台無しにするとは許せまセーン!」
「お前が厄介すぎるんだよ!」
「でも、これでもうイリュージョンは使えない!」
強く言い放ったメイちゃんはそのままの勢いで詠唱に入る。負けてらんないな。俺も強く念じながら発動した必殺技。そしてイリュージョン面徒へふたり同時に当てた。
「ファンタスティーック! ショウイズオーバー!」
やったよ倒せた。それと同時に、メイちゃんが見えるようになった。多分、メイちゃんにも俺が見えている事だろう。ヴィブジョーソードの柄に浮かぶ数字を見てみる。
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「ええい我が作戦もこれまでか! だがエナジーは十分集まった! 我らがメサイア様の君臨を振るえて待て!!」
ウデプシーに似たオーラを感じる怪人はそんなセリフを吐き捨て、パッと消えていった。
「マ、マジかよ……クソッ!」
そして犯人側で残ったのは、竜人族の男ひとり。味方がいなくなったのを悟ったのか、この場から逃げ出そうとしている。
「あら、どこへ行くのかしら」
「逃がさないッスよ」
男の行く先にミロアさんとサヴァちゃんが立ちふさがる。ふたりともファイティングポーズをとり、力業で押さえる気マンマンだ。
「控えい控えい! 控えおろう!」
睨み合いが続く中、ハーゲンさんが声を通した。それと同時に、マルス陛下が堂々とした振る舞いで歩き、ハーゲンさんの隣に立った。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る! 畏れ多くもエルツォーン8代目皇帝、マルス・アオスブルフであるぞ! 皆の者頭が高い!」
皇家の紋章を取り出し、そう主張するハーゲンさん。俺が玉座の部屋で見た事があるやつと同じ紋様なのだから、間違いない。
「嘘だろ……あんなガキが皇帝だなんて……!」
ハーゲンさんが紋章を掲げた瞬間、竜人族の男の顔が面白いくらいに青ざめてゆく。終いには額を地べたに擦りつけた。
子供たちもいまいち何が起こっているのか呑み込めないらしく、口をぽかんと開けている。
気持ちはわかるけど、俺たちも頭下げておこう。
「鉱山管理人アードルフ。その方、我が国に住まう幼き子を攫い、その上鉱山で強制的に働かせ更には面妖な輩と結託し法外な取引を行うなど、誇り高き竜人族にあるまじき行為! 恥を知れ!」
威厳たっぷりに叱責が飛ぶ。あんな姉想いの子犬みたいな有り様からは考えられない。お陰で俺は叱りを受けていないというのに、体中が震えてくる。
「そなたの罪状は審議院で定められよう。尤も、重罪は免れぬだろうがな。努々気を抜かぬ事だ」
「気を抜く……? それは陛下、貴方の事では御座いませぬか?」
「何だと?」
「皇帝陛下もここで死ねば只の子供! その命貰い受ける!」
足掻きを見せたアードルフはハーゲンさんの手により、瞬きする間に制圧された。つ、強すぎる。
こうして、エルツォーンの鉱山での件は終わった。さて、帰って汗を流そう。
「おいお前!」
お。そうやって俺を呼び止めたお前はあの時の少年。どしたん?
「お前、皇帝と知り合いだったんだな。今まで悪さばっかりして、その、ごめんなさい」
「……少年。やけに素直だな」
「だから悪いって言ってるだろ!? その、余裕なかったから、つい」
あー、お腹減ってると起こりやすくなるもんね。分かる分かる。
ともかく。
「ごめんなさいって気持ちは受け取っておくよ。あと、俺はただの旅人だからな。『ありがとう』って言う人を間違えるんじゃないよ?」
俺たちは少年の視線を背に受け、部屋に戻るのだった。ちなみにメイちゃんたちは、マルス陛下が裁きを与えた後どこかへ行ってしまった。
* * *
「か~っ!! 何もかも解決した状態で浴びる風呂は最高だな!」
俺たちが泊まっている旅館の、大浴場。そこで俺は寛いでいた。
もちろん男女で分けられており、入る前はかなりの葛藤があったものの、入ってしまえばお湯の心地よさからそんな事などどうでもよくなっていた。でもささやかな抵抗としてタオルを目隠し代わりにしている。蒸気アイマスク代わりにもなるし、かなり癒されるぜ。それと髪の毛が短かったから結ぶ必要が無くて楽だった。
ミロアさんは植物だからか、過度の水はNGなようで、足湯で満足している。サヴァちゃんはかなり深い所まで潜る事があるらしく、温泉には慣れているようだ。今も俺の居る浴槽でバタ足の音が聞こえてくる。
「って、こらこら。湯船で泳ぐのは行儀が悪いでしょ」
「……あっ。そうだったッスね。久々に大量の水を見たもんだから、つい気持ちがアガッちゃったッス」
周囲に人がいるかどうかは、勘に頼るしかない。もし迷惑をかけた人がいたら、ごめんなさいと思いつつ、俺は肩まで湯につかる。
「ふぅ~~~」
人間、気持ちがいい時って、ため息しか出ないんだなって。
思えばこうして入浴するのは、久しぶりだ。野宿の時は川の水だったし、クラスの喫茶店では基本シャワー。
やはり、風呂は最高だ。出汁を取られる昆布のごとく、疲れが身体から抜けてゆく気がする。この、なんとも言い表しにくい間隔が、俺の心をつかんで離さない。
だけど、物語には終わりが来る。
俺がだいぶ温まってきたのだ。
さて、そろそろ上がろうか。身体も髪の毛も洗ったし。
風呂上がりのホカホカな時には、冷たいものが一番だ。休憩所で売っている冷凍した果物でもいいし、キンキンに冷えた牛乳でもいい。どちらにしようかな、と上機嫌で歩いていたら、足の裏から何かを踏んずけた感触が伝わってきた。
なにこれ? と疑問に感じている間に、俺の体はどんどん傾いていき、終いには床の上に転んでしまう。痛いよぅ。
「そんなの巻いて歩くからッスよ~!」
だって仕方ないじゃない。
中身は男子高校生だもの。




