第27話 イッツショウターイム!
手紙を出してから数日後。俺たちは皇室直属の使用人から、マルス陛下にお会いするようにと連絡を受けた。んで、今日がその日だ。
招かれたのは、ある物の全部がクッソ高そうな部屋。皇帝の執務室だそうだ。
「本来なら皇帝陛下は非常にお忙しい身。くれぐれも迷惑をかけぬようにな」
と姉のハーゲンさんから前もって注意を受けている。ならば言うべきことは決まったようなものだ。
「お久しぶりでございます陛下。この度は……えと、謎の怪人についての対処を、存じ上げたく思います」
「ふむ。面を上げよ」
ミロアさんから渡されたカンペを思い出しながら、跪いて俺が述べると、馬鹿でかい玉座に座ったマルス陛下が命令なされた。俺はそれに従い顔を上げる。
「では、申すがよい」
そして俺は、鉱山での出来事を話しだした。子供たちが劣悪な環境で働いている事。顔を見られたという事。そして、怪人の一味がまだ何か企んでいるかもしれないという事。
俺がすべて話し終わった後、マルス陛下の表情は複雑そうだ。調査が必要だというのに、俺たちの顔が知られていては、簡単に見破られてしまうからだろう。調査にうってつけなのは、死面徒らに顔が知られていなくて、なおかつ、幼げな人物。そんな都合のいい存在なんているわけが……チラ。じー。
「……? 我の顔に何かついておるのか?」
「い、いえ!? 本日も大変麗しゅう思います!」
――いたわ。思いっきり目の前に。人間と竜人族という違いはあるけど、そこさえ誤魔化せば何とかなるだろう。
最大の問題は、これを提案したとして承諾されるかどうかという点だ。皇帝って総理大臣みたいなものだし、俺の考えはハッキリ言って、『総理大臣に変装させてブラック企業を成敗いたす』のようなものだし。マスコミにも取り上げられるし、国民からは『遊んでばかりいる』といったイメージを凭れやすい。正直、リスクとリターンが成り立たないのだ。
「どうかしたか? 何か考えているようだが」
しまった顔に出ていたか。ええい、こうなったら駄目で元々。一か八か言ってみよう!
「い、いえ! 俺はただ、陛下が人間に変装して潜り込めば最良なんじゃないかと考えただけであります!」
「ふむ…………」
かなり考え込んでらっしゃる。ジャッジメントタイムが終わるまでの宇宙の犯罪者てこんな感じなのかな。実際、ハーゲンさんからの視線が痛いくらいに刺さっているし。
「我が願いは少しでも多くの国民が不自由なく生活出来る事。その為ならこの身、惜しむものか」
「しかし陛下……!」
「但し、此度の戦闘で完全に決着をつける事。姉者、それなら問題あるまいな?」
「…………承知いたしました。その際は私も同行させていただきます」
マジかよ通っちまった。けれどちらりと見えた素はお人好しな性格だし、そこに付け込んだみたいでなんかもにょる。
それからはスムーズに事が運んだ。まずマルス陛下が人間の子供――それもみすぼらしい格好に変装し、くもり空の街をうろつく。そして攫われる。この時、陛下が所持していた種をミロアさんが感知し、俺たちが死面徒の居場所まで追いかけるといった手はずだ。
まずは変装したマルス陛下をさらわせる段階。見事に成功。この間ハーゲンさんが今にも飛び出してしまいそうな顔して見守っていたのは、印象にがっちり残っている。
次に相手方から悟られないように尾行する。この作戦の成否を背負ったミロアさんの様子は、今でも忘れられない。
『身体検査の際に見つからないよう、種は舌の裏に隠してあるわ』
『ほう。流石だなミロアよ』
『あれ、ミロアさんってハーゲンさんと知り合いだったの? どっちも長生きだから?』
『気になるッス! 教えて欲しいッス!』
『そ、それはまた今度教えてあげるから……』
何か隠してる感じだったけど、同時に後ろめたさも感じた。悪気があって隠してるわけじゃなさそうだし、俺は時間経過での解決に委ねた。
まあそれはそれとして。
辿り着いたのは、前に死面徒が現れた鉱山。どうやら先客がいるようだ。
「げっ……!」
人の顔見るなりその反応は傷つくなぁメイちゃん。俺が気に食わないことは分かったけど、そんなに睨まなくてもいいでしょ。
「どうしてあんたがここにいるのよ!」
「死面徒倒しに来たんだよ。今回こそ決着つける!」
「12分の1でしか倒せないクセに、そんな事言うのね」
「待った! 出るか出ないかの2択だから実質2分の1やぞ」
「……こんなに頭がおめでたいとは思わなかったわ」
ぶつくさ言ってるメイちゃんはさておき、周囲を見渡す。けれど死面徒の姿はどこにもない。おかしいな?
「ミロアさん、反応はここで合ってますよね?」
「ええ。何か秘密があるのかしら……」
あの謎モチーフ死面徒の隠された力なのか……?
考えていると、サヴァちゃんが脇腹をつついてきた。何か用事でも?
「ハルさん空を見るッス! すっごく晴れてるッスよ!」
「おーほんとだ。ヴルカーンフォルトはくもりだったのになぁ」
空を仰げば、雲ひとつない晴天が広がっている。太陽がまぶしいぜ。……ちょっと待て。それっていくらなんでもおかしくないか。
[ハル。もしかしたらワタシたちは、すでに敵の術中にあるのかもしれない]
何だって!?
この事はメイちゃんにも伝えた方がいい気がする!
そう思い立って駆け寄ると、メイちゃんは小さく舌打ちしてホバーバイクに跨ろうとする。
「待って待って、帰ろうとしないで! これは死面徒の罠だよ!」
「死面徒って……どこにもいないじゃない」
「それは、たぶん、能力を使って俺たちには見えないようにしてるんだと思う!」
「そんな能力、都合よくあるもんですか」
「ある! 実際、初夢とかわけわかんない能力もあったし! メイちゃんもこれまで死面徒と戦ってきたんなら、心当たりがあるでしょ!?」
「ハァ……どんな能力かなんて、倒せればそれでいいから。覚えていないわ」
確かに……。死面徒を倒せば能力による被害は大抵元に戻るからね。
「とにかく! 死面徒はちゃんとここに居るんだよ! 何かの能力で見えなくなってるだけで!」
「『何かの能力』って、何の能力なのよ」
「そ、それは、その、えと」
物を消すように見せる能力……考えろ……考えろ……!
物理的に消してるわけじゃないから『消しゴム』は違うし……他に何かあるのか?
「答えられないのならもういいわ。帰る」
このままだとメイちゃんが帰ってしまう! 危機を感じ爆速で回転させた俺の頭脳は、ひとつの結論に辿り着いた。
「――て!」
「『て』……?」
「手品、とか……?」
「はぁ~…………」
「いや、そうでもないぞ?」
ハーゲンさん?
ハーゲンさんは空間をしばらく摩ると、「このあたりか」と呟く。何をなさるおつもりなのでしょうか。
「はァッ!!!」
突然空間に攻撃した! しかも結構な威力!
ハーゲンさんが攻撃した空間はガラスめいてひび割れ、やがて人がひとり行き来できるだけの穴が開いた。
そして穴の先に居るのは、頭そのものがシルクハットの死面徒。シルクハットには、『?』の記号が模られている。
「まさか、ミーのイリュージョンが破れるだなんて! そんな事あり得まセーン!」
「奇術師か。あながち、遠からずといった答えだな」
さらに死面徒の奥に、先日の死面徒と子供たちが固まっている。ミロアさんたちは子供たちの救出に向かった。
「大事ないか?」
「うん、問題ありません」
「……よく、頑張ったな……!」
ハーゲンさんに固く抱きつかれると、マルス陛下もにこりと笑って抱き返す。きょうだいの絆ってやつかね。感動して泣けちゃうな。
「やられた……ッ! まさか私が、だなんて……!」
「まあまあ、失敗したならこれから取り返していこう!」
「言われなくてもそのつもりよ! ヤタ!」
ふたりで並ぶように死面徒の前に立ち、それぞれの相方を構え、天に叫んだ。
「奇想転身!」
「チェンジ・ダークネス!」
変身を完了させた俺たちは、どちらからともなく死面徒へ飛びかかる。……ヤベ、どっち攻撃するか考えてなかった。とりあえずイリュージョンの方にちょっかいかけに行くか。
呼び出したヴィブジョーソードを目掛けて振るうが、手ごたえがない。そこに居たはずのイリュージョン面徒は煙となって消えたのだ。
「ミーのイリュージョンは無敵デース!」
俺の背後からそんな言葉が聞こえてくる。この口調は振り返って確認するまでも無いだろう。
後ろに向かって剣を薙ぐが、またしても手ごたえナシ。いったん心を落ち着かせ、気配の察知に全神経を集中させる。それと、大体こういう能力持ちの敵って、背後にばかりワープしてくるよね。
しばらくすると、死面徒の気配を俺の背中から感じ取った。読み通り!
「ちぇりゃあ!」と力を籠めてヴィブジョーソードで攻撃したが、またまた空振り。
「ユーの考えなどミーにはお見通しデース!」
連続使用も可能とか、そんなのアリかよ。エンドレスにワープし続ける敵とか鬱陶しいなぁ……。
「子供よ! オレ様を守るのだ!」
歯噛みしていると、向こうからそんな声が聞こえた。マズイ!
マルス陛下までも術にかけられている……俺の推理ははずれだったのか……!
それにメイちゃんなら、どんな犠牲を出しても必ず死面徒を倒すという気持ちが感じられるから、子供たちなんて気にせず切り捨ててしまいそうだ。もしそうなっては、大変よろしくない事態になる!
メイちゃんに目を向ければ、前かがみになって攻撃の体勢。咄嗟にジェイルアンカーを詠唱し、光の鎖で縛りつける。
「なにする気!?」
「だって、こうでもしないと攻撃しに行ったでしょ!?」
「そうだけど、問題でもあるの!?」
「大ありだよ! 『死面徒は倒せたけど子供たちは犠牲になりました』じゃ、後味が悪いでしょ!」
「私は後味なんか求めちゃいないわ!」
「今こそショウターイム! 消失イリュージョンをお見せしマース!」
口論になっていると、イリュージョンが仕掛けてきた。言い争いに頭がいっぱいな俺は、もちろんそれに気づかず、まんまとイリュージョン面徒の術にはめられてしまう。
「――って、どこに行った!?」
「あんたこそどこ行ったのよ!?」
次の瞬間には、お互いの姿が見えなくなってしまっていた。
イリュージョン空間は一定の技量さえあれば力尽くで打ち破れます。よって涌谷瀬良も同じ事ができるでしょう。
次はアニメ化すると放送事故レベルの戦闘からお届けします。




