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第26話 ぶつかる二人


 エルツォーン中心街に戻ってきた俺は、早速手紙を書いていた。内容は死面徒が鉱山で動いているという事。

 ミロアさんとサヴァちゃんは、半ば強引にメイちゃんを引きつれ、子供が誘拐された事件が無いか聞いて回っている。


 今、俺がいるのは今日から泊まる予定の宿。もうチェックインも済ませて、部屋のカギは俺が落とさないように持っている。

 それにしても、この宿は本当にすごい。でっかい温泉もあるから、今日の疲れをたちまち癒やせそうだ。けどそういった思いっきり羽を伸ばすのは、この死面徒の事件を解決してからになりそうだ。だって、そっちの方が気分がいい。心配事なく温泉を満喫できる。充実した温泉の為にも、この事件をちゃちゃっと解決しちゃいましょうか。


 手紙の方はだいぶ順調。

 最後に、お返事お待ちしております……と。


「よし! これで完璧だ!」


 季節の挨拶から始まってるし、我ながら見事な手紙が書けた。後やるべきことといえば、これを速達で送ってもらうだけ。そうなれば早速郵便局へGO!

 気になる料金の方は……うげ。特別郵便物という扱いをされるらしいのでお金が掛かってしまった。最近出費が多い。お金、足りるかなぁ。

 俺が財布の心配をしていると、調査に向かっていたミロアさんたちが戻ってきた。


「あ、おかえり。どうだった?」

「的中ッス。攫われたのは、人間族の子供だけッス」

「竜人族は子供が生まれにくい体質だとは聞いた事があるけど、ここまで偏るのは不自然よ」


 なるほど。やはり、死面徒は人間の子供を狙っていると。

 俺が考えを固めていると、メイちゃんが俺の手の中からハガキを奪い取るかのように持って行った。後でちゃんと返してね。


「何この汚い字。こんな出来で人様に差し出すなんて恥ずかしくないの? ……ん? ちょっと待ちなさい。この住所……」

「皇帝に送ろうと思ってね」

「…………はあぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁああああぁあ!?!?!?!?」


 声が大きい!


「いやっ、えっ、なんであんたがエルツォーン皇室と繋がってる訳!?」

「なんとなーく、成り行きで?」

「『何となく』で済ませていい問題じゃないでしょう……!」


 え、何何? そんなにマズいの?


「大問題よ。私たちの力は常軌を遥かに逸脱した物。それなのにひとつの国家に手を貸してしまえば、周辺諸国との軋轢の原因になるのよ」

「そうッスよハルさん! ジョーキをイッパツッス!」

「あー。いいよね、アツレキ?」


 サヴァちゃんと俺の言葉にずっこけるメイちゃん。アツレキって、ゲイレキやショクレキと同じようなものだよね。言葉の感じからして。アツ……厚……どれだけ分厚いステーキを食べれたかの記録なんじゃないかな。もしくは分厚い本を読めたか。


「こいつら事の重大さを何も分かっちゃねェ……!」

「大丈夫よ。根はいい子たちだから、ちゃんと話せば分かってくれるわ」


 メイちゃんの背中から何かが立ち上っているのが見える。あれが俗にいう『怒りのオーラ』ってやつなのか。

 しかし怒りんぼってのは損だね。しょっちゅう腹を立ててたら、楽しい事も楽しくなくなるのに。


「友達相手ならともかく! どうして私があんなの相手にそこまでしなくちゃいけないの!?」

「それは酷いなぁ。確かに俺たちは友だちって訳じゃないかもだけど、全くの他人って訳でもないっしょ?」


 俺がそう言ってすり寄ると、メイちゃんに突き飛ばされた。せめて手を出す時に何か言って欲しかったよ。


「あんたみたいな能天気を見てると反吐が出るのよ」


 そう吐き捨ててメイちゃんはクルリとつま先をあっちへ向ける。どこ行こうとしてるんだい。


「待って待って! ちょい待ってってば! どこ行くつもりなの!?」

「死面徒を倒しに行くのよ! それとも何!? 後回しにしなきゃいけない理由なんてあるの!?」

「ある! エルツォーンの皇帝さんは、死面徒の対処にも意欲的なんだ。知らせてからの方が絶対にいい!」

「だからなんで皇帝陛下とあんたが知り合いなのよ……!」

「偶然……?」

「そんな訳ないでしょ。あんた如きと皇帝陛下が偶然たまたまお知り合いになるだなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないもの」


 そんなにボロカスいう必要ある? 俺のメンタルだって無敵じゃないんだぞ。傷つく事もあれば、ヘコむ事だってあるんだ。……まあ、美味しいご飯食べてぐっすり眠れば、大抵はどうでもよくなってそのうち忘れてるんだけど。


「とにかく、今死面徒を倒したって何も解決しないんだよ! そんな気がする!」


 そして解決にはマルス陛下のお力が必要。そんな事をメイちゃんに力説する。

 実は竜人族の子供なら誰でもいいんだけど、それなりの権力者で教養がある方が成功する確率は高いので。


 頭の中ではいろいろ考えているんだけど、口から出てくるのは途切れ途切れで、正直説得という形が成り立っているのかさえ怪しい。


「ふーん……」


 ひと通り話し終えたら、この態度。少しは通じたかな。


「だったら好きなようにやりなさい。その代わり、私も好きなようにやるわ」


 去り際に言い渡されたのは、相互不干渉……ってやつ? 手紙は返してもらえたので、すぐに郵便カウンターへ行き速達で頼んでおいた。

 手紙の内容は無理のある役目を頼む事なんだけど、たぶん断られるだろうな。でも、駄目な結果にばかり囚われちゃいけないってのを、俺は今まで何度も感じてきた。


 これからメイちゃんは死面徒の撃退に向かうのだろう。けど、相手はそんなにバカじゃ無い筈。何か対策を持ってきているだろう。……やっぱ初手で仕留めた方が良かったのかな。

 まあいい。こういう時は、ちょっとふり返ってみるか。

 まず、このエルツォーン周辺で目撃した死面徒――といっても2体だけだが。を洗い出す。ドリルと、あと今回の正体不明。……共通点が全然わからん。

 頭を抱えていると、ミロアさんとサヴァちゃんがこちらに近づいてくるのが見えた。ではファルも交えて作戦会議を始めようじゃないか。


* * *


 メイは晴と別れてから、すぐに死面徒が出現した鉱山へ向かった。迅速な行動こそ死面徒の撃退に繋がると考えているからである。

 ここまで飛ばしてきたホバーバイクモードのヤタから降り、周囲を見渡す。


「……誰も居ない!」


 事務所は存在するが、その隣の掘っ立て小屋は消失していた。攫われた子供達も、死面徒も、その影すらない。


 それもそのはず。この状況こそ、死面徒の策略なのだから。

 鉱山の管理事務所。その中にはアードルフとタクラムが居座っていた。


「新たな死面徒を追加しました。これで奴らも発見しにくくなるでしょう」

「それは有り難いな」

「感謝の言葉よりも先に、差し出すものがあるでしょう?」


 そう言われアードルフが差し出したのは、この鉱山で採れるパワーストーンの塊。それも一つや二つ程度ではない。

 これは地球で採れるような開運などのラッキーアイテムではなく、文字通りに生物にとって無害な未知のパワーを秘めているのだ。


「おお、素晴らしい……! この鉱石から精錬されるエナジーを全て注げば、メサイア様の復活もそれだけお早くなる……!」


 恍惚とした表情でパワーストーン塊を掲げるタクラム。


「確かに。ではこちらからも、対価を差し上げます」


 アードルフの目の前。机の上に分厚い札束がポンと置かれる。アードルフはそれをめくりながら一枚一枚数え、枚数分有ることを確認する。偽札でもない。


「フフフ。これだからウデプシーの奴はいかんのだ。例え目的にそぐわない死面徒が生み出されたからと言って粛清していては、このような状況に対処することも出来んのだからな。やはり、持ち駒は多ければ多いほど良い……!」


 震えるタクラムの傍らに立つのは、頭部そのものがシルクハットの死面徒。彼はシルクハットを脱ぐと、その中から白い鳩を飛び立たせる。シルクハットの下には、何も無い。


「良くやったぞイリュージョン面徒よ」

「ホホホ! ミーのイリュージョンからは、誰も逃れる事などできないのデース!」


 胡散臭い口調だ。しかもテノールの美声なのが余計にそれを加速させている。


「してアードルフよ。縛ったままでいたそやつは」

「はっ。先ほど捕えてきた小僧であります」


 子供は、十代前半のまだ幼さが残りつつも精悍な顔立ちをしている。種族は人間に見える。

 アードルフの返答にタクラムは「ふむ」とだけ返すと、もう一人の死面徒――晴と戦った方へ指示を出した。


「カントク面徒。そやつの世話もしておくのだぞ」

「承知しましたタクラム様」


 カントク面徒は嫌がる子供を無理やり引きつれ、隣の掘っ立て小屋へ移動を始めた。

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