第24話 野宿は嫌だ野宿は嫌だ野宿は嫌だ
ブックマーク、評価、ありがとうございます!
それとは別に後半で例のアレ的な描写があります。分からない人は分からないままでいた方がいいと思います。
使い魔を放ってから数時間ほどで捜索は終了した。それだけ時間が経ったのだから、俺の気分も快復している。
[良いお知らせと、残念なお知らせがある。キミはどちらから先に聞きたいかい?]
「わざわざ2つにわける意味はあるのかしら」
「悪い結果から聞いた方が、良い結果を聞いた時にすっごく喜べるッス!」
「成程そういう事だったのね! だったら悪い知らせから聞きましょう!」
「よしきた! てなわけで、悪い知らせから頼んます」
俺が頭を下げると、ミロアさんとサヴァちゃんも俺の真似をして頭を下げてきた。ファルは困りつつも、咳払いをしてから話しだした。……それ意味ある?
[放った使い魔だが、そのほとんどが鳥に食べられて壊滅してしまった。これが悪い知らせだ]
あっ……。
種が鳥に食われるという可能性、完全に忘れてました。GABAさ……。
良い知らせで、ここから挽回、できるといいな。
「それで……良い知らせは」
[宿泊券を見つけた。今すぐ画像を送ろう]
おおう、それは良い感じの知らせだ。ホッとしていると突然、俺の脳内に浮かび上がる画像。い、いかん! また吐き気が……!
「脳内に直接送りつけてくるのヤメロォ! こちとらまだクラクラしてるんだぞ!」
[すまなかった]
訴えかける俺にファルが謝ると、ファルは屋上の床に画像を投影した。そうそう、最初からそうすれば良かったんだよ。
改めて、投影された画像を3人で見る。
高い位置から撮られた画像らしく、人が多いな。あれか? 赤と白のボーダーシャツを着たメガネのお兄さんを探すヤツなのか?
俺たち3人、眉間にシワ寄せて画像とにらめっこ。日差しは弱くなってるとはいえ、早く見つけるに越したことは無い。だって早くベッドに寝転がりたいもん。サヴァちゃんもミロアさんも、そんな顔をしている。
「あっ! 見つけたッス!」
どうやらサヴァちゃんが見つけたようだ。指さす点に目を向ける俺とミロアさんだが、どこなのかさっぱり分からない。
「どこ? ここ?」
「そこじゃないッス。ファルさん、この辺の写真、拡大できないッス?」
[出来るとも]
画像が拡大され、より鮮明に細部まで見る事ができるようになった。それで、俺もミロアさんもようやく見つける事ができた。
「ああ、あそこか!」
「良く見つけたわね!」
「えっへん!」
……ん?
よく見たらコイツ、俺にぶつかって来た子供じゃないか! って事はひったくりだったのかよ。だったら財布は……盗まれてる!
やべぇよやべぇよ、全財産無くなっちまったよ。
「ファル! そいつが今どこに居るか知らねぇか!?」
[この画像は見ての通り数時間前の物だ。今どこにいるかまでは、残念ながら分からないだろうね]
チクショー!!
こうなったら捜し出してやろうじゃないか!
「絶対見つけ出してやるあああああああああ!!」
「待ちなさい! 相手はまだ子供よ、今もあの周囲にいるとは限らないわ!」
「それでもッ! 男にはなぁ! 無理だとわかっていてもやんなきゃいけない時があるんだよぉ!!」
「自分ら女の子ッス」
「これはそういう事じゃないの!」
こうやって騒いでいる間にも、ターゲットは移動し続けているかもしれない。ファルがそんな感じの事を言ってくれたおかげで、俺たちは静まる事ができた。
「画像の場所はあの辺か……ファルに乗って飛んでった方がいいかな」
[任せてくれ。あと、残っている使い魔から子供を発見したという知らせが届いたら、ワタシがキミに伝えよう]
呪文を唱え変形したファルが宙に浮く。それに俺は跨り、ハンドルを握った。
ミロアさんとサヴァちゃんにもファルからの連絡が伝わるように、2人も俺と同行した方がいいのか。だとすると、バイクの3人乗りをすることになる。バランスとり切れるかな。まあそういうのは、やってみてから考えればいいか。ってな訳で行くぞー!
「ほら、ミロアさんとサヴァちゃんも、乗って乗って」
「え!? いいッスか!?!?」
「私も、前からこれには乗って見たかったのよ!!」
「どうぞどうぞ。危ないから、しっかり掴まっててね」
サヴァちゃんは俺の前で、ミロアさんが俺の後ろに座る。前から順に大・中・小。これならバランスもとりやすいだろう。
アクセルを回し浮上する。ファルのナビで行く方向を確かめることも出来るのだ。これが便利。
あとはこのまま。何事も無ければ、10分で目的地に到着する。しかしこんな事を考えてる時に限って、大体何かが起こる予感がするんだけど……今夜のベッドには代えられない! 俺はこれからもフカフカのベッドで寝ていたい! あれを味わってしまうと、もう硬い地面の上で夜を明かす事はもう苦しくなる!
「待ってろ今夜のベッドォォォ!!」
勢いに任せアクセル全開。スピードが出てる方が、バランスもとりやすいって科学館に行った時聞いたような。
ともかく、この調子ならすぐに到着するのも不可能ではない。懸命に捜せば夕方には無事に見つかるだろう。
野宿がつぶれた可能性に安心していると、突如として強風に煽られ、バイクが大きく傾いてしまい、そんなに安定して捕まれる場所が無かったサヴァちゃんが放り出される。
「サヴァちゃん!!」
俺は咄嗟に左手でサヴァちゃんの手首をつかんだ。ひとり分の体重が俺の左肩にかかる。正直辛いが、この手を放すという選択肢は無い。
ここで問題がもうひとつ。片手でハンドルを操作するのは、かなり整った条件でない限り難しいという点だ。とはいえ、俺の左手は塞がっているし、足を使うのも、バランスを崩すかもしれないので却下。となると残っているのは、俺の口だ。俺は身を乗り出しバイクの左ハンドルに噛みついた。これで操縦してやる。……苦ぇしちょっとしょっぺぇ。
「ねえ大丈夫? いったん降りた方がいいんじゃない?」
「はいひょふ!」
だって、降りたら歩きで目的地まで行く羽目になってしまう。そんな事をしていては日が暮れるまでに間に合わない。それに周囲にはサヴァちゃんが操作できそうな水も存在しない。雲は水の塊みたいなものだと授業で習ったが、あいにく俺たちは雲のある高さまで届いていないのだ。
「ハルさん……どうして自分を助けるッス? 自分はハルさんに迷惑かけるくらいなら、死を選んだ方がマシだと思ってるッス!」
「のほふぁえはひふぉのほほふぁんあえへひお! ほふぇはいふんふぁおふぃふのほ、ひほふぁおふぃふのほひふぁふあひあふぇあ!」
「何言ってるのか全然分かんねッス」
がーんだな。結構いい事言ったつもりなのに。
「ちょっと! だんだん高度が下がってきてるわ!」
「自分はいいから、ハルさんは運転に集中するッス!」
「ほんふぁふぉとふぇいうふぁえふぁいふぁろ!?」
「だって、もう! 足が屋根についてるッス!」
わーお。そんなに下がってたのか。俺が左手を離せば、サヴァちゃんは無事に屋根の上に立つ。誰の屋根かは知らないけど、いったんここに停めて立て直すか。……うわ、左ハンドルがネチャついてて気持ち悪い。もう運転するのやめよ……。
「ファル、バイクモード解除して」
[いいのかい? 目的地までは、あと数百メートルだよ?]
「いいの。今日はもうヤメなの」
そう言い放って左手を勢いよく振るう。ラーメンの湯切りみたいな感じだ。
今諦めると野宿だが、仕方がない。明日できる事は明日になってからやればいいのだ。あーあ、上質なベッドが遠くなっちゃったなぁ。
「ねえ、あれ」
残念に思っていると、指をさしたミロアさんに声をかけられた。指の先には、少年がいる。
「私の身間違いでなければ、あれ……画像にあった子供じゃない?」
マジか。
マジで……?
––––マジだ。
普通に道を歩いている。何かに怯えて居たり、悪びれている様子はない。
「人様のモノを奪っておいてあの有り様とは、お仕置きが必要みたいね!」
「自分らでころしめてやるッス!」
ミロアさんとサヴァちゃんが、ひと足先に少年を捕まえようととびかかった。
それからはドタバタでグダグダだったので、ダイジェストと『こうだったらよかったのにな』的イメージでお送りします。
道行く少年の前に、ミロアさんとサヴァちゃんが立ちふさがる。
「ン何だお前!?」
「んろなぁ! 押さえろ!」
「なにすんだおまっ……はぁらせコラ!」
威勢よく捕まえた2人は、そのまま滅多に人が来なさそうな路地裏に少年を連れ込む。どこからどう見てもヤバい絵面でしかないけど、これはイメージ映像だからセーフ。実際人違いだったらゴメンナサイ。
「〆サバァ!」
「ン何だこいつら!? ……どおへどぉ! や~めろお前! あ~もう!」
「抵抗しても無駄よ!」
「うざってぇ……」
「いやしかし……」
「お前らに、お前ら2人なんかに負けるわけないだろお前オゥ! はぁらせコラ……はぁらせコラ! ユーミンヤゴお前放せコラ!」
2人に任せっきりじゃなくて、そろそろ俺も参加しよう。ほないくどー。
「何だお前っ」
「お前はじっとしてろぉ!」
「コラ……どけコラ!」
「3人に勝てるわけないわ!」
「馬鹿野郎お前オレは勝つぞお前! どけコラ!」
「振り出すッス!」
「ゲホッゲホッ! あーやめろ! あ~! お前らにゅーとりおだな! はぁらせコラ!」
仕上げとばかりに俺が覚えたての光の鎖を使って少年をぐるぐる巻きにする。人に向けて魔法は使わない主義だったんだけど、今夜の安眠が懸かって言う以上、あれこれ言っていられない。
「縛るわ! もう抵抗しても無駄ね!」
「ヤメロォ! なにすぅ! あ~やめろお前どこ触ってんでぃ!どこ触ってんだお前!」
「俺からひったくった宿泊券、どこに隠してんだよ……?」
「やはりヤバい!」
いたいけな子供相手に3人がかり。みっともないけど、俺たちの寝床が懸かってるんだ。卑怯って言わないで欲しい。
物理で問い詰めた結果、少年は宿泊券を持っていた。それも3枚全部。クロで確定だ。
それで現在。
俺たちは少年を縛ったまま座らせ、どうしてこんな盗みごとをやったのか問い詰めている。それが分かり次第、警察に引き渡そう。
「で、何が目的で俺から盗んだんだよ」
「………………」
これがなかなかうまくいかない。捕まえてからずっとこの調子だと、イライラも大分溜まってくる。仕方ない、こんな時は食べるに限るよ。この辺は旅館からの客も多いのか飲食店も充実しているから何か頼んで、お腹いっぱい食べてストレス発散ついでに口を割らせるか。
「サヴァちゃん、出前のお品書きってある?」
「持ってるッス!」
「でかした!」
サヴァちゃんから受け取ったお品書き、メニュー表に目を通す。ふむふむ、寿司にピザに麺類。よりどりみどりだ。ミロアさんが「この土地じゃ作物はあんまり育たないわね」とも言っていたから、だいたい輸入した食べ物で作っているのだろう。どれもが観光客の足元を見ている価格だ。つまり、割とお高め。
価格とにらめっこしていると、丁度よい値段の品を見つけた。それでも高いのは否定できないけれども。
それは、サクサクきつね色に揚げた豚肉を黄金色の卵でとじてふっくら炊いたお米の上に乗せた品。
俺がカツ丼と呼んでいるものだった。地域が違うけどカツ丼で通じるのかはさておき。
「何か頼むッスか?」
「んー、このカツ丼をね。サヴァちゃんも食べる?」
「食べるッス!」
「食事っていいわねぇ。そんな顔されると、味の分かる体が羨ましくなるじゃない。あ、感想は効かせてほしいわ」
「モチロン! そのつもりです」
「ッス!」
電話をかけてから数十分後。3人前のロースカツ丼が岡持ちに入れられてやって来た。
光の鎖をほどき、少年の前にカツ丼を置く。テーブルがあった方が良かったかな?
さておき、蓋を開ければ、出汁のいい香りが鼻に飛び込んでくる。痛い出費だったが、この匂いを嗅ぐとどうでもよくなってくるね。
「おいしい! おいしい! おいしいッス!」
サヴァちゃんなんか、ものすごい勢いで食べ進めている。俺も負けじとひと口。肉のジューシーなうま味とふわふわ卵の食感、そして出汁の風味が口の中いっぱいに広がる。カツ丼ってどうしてこんなに美味いんだろうな。
俺たち2人が食べてるのを見たからか、警戒していた少年もカツ丼を食べ始めた。これは俺の経験則だが、人間お腹が膨れれば、大抵の事はどうでもよくなるものだ。……俺だけじゃないよね?
やがて少年もカツ丼を食べ終えたけど、黙ったまま俯いている。おかしいな? もしかしたら、口に合わなかったのかな? アレルギー……でもないか。
「どうした少年? 食べ終えたのに浮かない顔だぞ?」
「…………ッ!!」
不思議に思って俺が少年の目線に合わせようとしゃがんだ瞬間、空になったどんぶりで思いっきり頭を殴られた。
「待ちなさい!!」
「逃がさないッス!!」
「ならお願い! 私はここでハルの手当てをするわ!」
どうやら少年はそのまま逃走したようだ。俺も追いかけたいけれど、く、くそう……頭がクラクラして……意識が……う~ん…………。
「あいつ、けっこうすばしっこかったッス。自分でも追いつけなかったッス……」
「あら、お帰りなさい」
「……ミロアさん、どうして追いかけなかったッスか? ハルさんが心配なのは、自分もわかるッスけど」
「安心なさい。もう手は打ってあるわ」
「……?」




