第22話 火山の国へ!
時刻は早朝の5時ごろ。俺は変身して庭でポーズをとっていた。
[……何をしているんだい]
呆れたような口調でファルが話しかけてくる。
「いや、適当にポーズとったら新しい魔法が出てくるかなぁ~、って」
[何故そんな事を?]
「エルツォーンで死面徒が現れて、竜人族だけじゃ対処できないから俺が助っ人として呼ばれたんだろ? だったら手札は増やしときたいじゃん」
そう、あれは昨晩の事。涌谷さんとハーゲンさんの試合後に遡る。
* * *
「「乾杯~っ!」」
小さな樽で作ったコップを互いに高らかにぶつけ合う涌谷さんとハーゲンさん。そのままグビグビと飲み干し、コップの底をテーブルに打ちつけた。
「「おかわりっ!」」
「はーい! ただいま伺いまーす!」
俺は返事して、2人が座ってるテーブルへコップを回収しに行く。飲み物を運ぶところまで俺がやっちゃうと、転んで溢してしまいそうだという意見から、俺の仕事は失敗してもあまり実害がないようなものがほとんどだ。
なのでお盆に乗せた2つのコップをキッチンまで運べば、俺の仕事はそこで終わり。みんながハッピーでいるには、こうするのがよほどいいから、俺に不満はない。
「3番テーブル、おかわりです」
「了解! またあったらよろしくね♪」
「はいっ!」
今このホールには、俺たち2年1組とアオスブルフ姉弟しかいない。喫茶『セイヴァーズ』、本日貸し切りである。まあ、試合終わりにパァーっとパーティーでもしようって話だ。
「でさー、皇帝って普段は何してんの?」
「ぼ、ぼくは皇帝と言えども若輩者ですし……でも学んだ帝王学を生かして国家運営に努めたいと思っております」
「見た所あたしらより年下っぽいのに、立派だねぇ。きっとお姉さんも、そんな弟を持てて誇りに思ってるよ」
「やっぱり、1300歳程度じゃそう思われますよね?」
「……え。今なんて?」
「嘘でしょわたし達よりずっと年上じゃん」
あそこのテーブルではマルス陛下が、王子様に憧れてるクラスの女子たちに囲まれて座っている。キャバレーかな? ハーゲンさんはお酒が回っているのか、気がついていない。「弟なら目に入れても痛くない」と豪語するハーゲンさんの事だ。もし気づかれてしまったとなると……全く恐ろしいねえ。
そうそう、ハーゲンさんはお酒を飲んでるけど、涌谷さんはジュースを飲んでいる。涌谷さん曰く、
『確かにここは私たちの居た地域ではないし、法も違う。しかし、それは私達の地域の法を破って良い理由にはならない』
––––そうだ。カッコいいねぇ、惚れ惚れしちゃうよ。
……俺も、家に帰ったらバイクの免許取るかぁ。
あそこのテーブルは……御嶽くんたち。涌谷さん以外のチームメンバーか。真ん中に居るのは、ファル!?
何故。仕事中はロッカー室に置いてあるはずなのに。
「それで、『適正』と『魔法』の違いって何なんだよ。『あとで教える』って言われてから、もう結構経ったぞ」
[そうだね。せっかくの機会だから、ここで言おうか]
あ、それ俺も気になる。神妙な雰囲気の御嶽くんたちに、俺はこっそり近づいて聞き耳を立てた。
[まず、『適正』は存在するものを操る力だ。例えば、冷気だったり水だったり。それに対して『魔法』は、存在しないものを生み出す力。これで大体は説明が付く筈だよ]
「要は『適正』がパレットエディタ系で、『魔法』がチートみたいなもんか。理解できた」
「あんただけに分かる表現されても困るんですけど」
頬を膨らませた高橋さんに「つい、クセだ。悪ぃ悪ぃ」と謝る内田くん。クセってのは、中々直らないよね。分かる分かる、超分かる。分かりすぎてわかるマンになっちゃたよ。
訳知り顔で頷いていると、テーブルを離れこちらへおいでなさったマルス陛下に呼びかけられた。何の御用でしょうか。
「そなたを面妖な輩に対処できる職人と見込んで頼みがある」
面妖な輩……死面徒の事かな?
それなら、話はファルも交えた方がいいな。呼んでおこう。
「ファル、ちょっと裏行くよ」
[承諾した。それでは皆、またあとの機会で]
そう言うとファルは飛んできて俺の手の中に収まる。挨拶も出来るなんて、しっかりしてるなぁ。
それで俺は、失礼の無いよう仕事着から学校の制服に着替えて、マルス陛下の御前に腰かけるのだった。ここへやって来る時に来ていた制服はサイズが合わないので、今の俺と同じような体形の女子生徒から承諾を得て借りている。後で洗って返そう。
「話、というのは……?」
「以前からあのような輩が我が国で謀を働いていると報せがあるのでな」
「あの、本性バレてるんですし、そっちの喋り方でも構いませんよ?」
「そういう訳にはいかん。これは国家に関する行動なのでな」
はえー、見た目は俺より幼いくらいなのにきっちりしてるなぁ。育ちの違いってやつが見えてくるね。
「ともかく、あ奴らは我ら竜人族の肉体をもってしても碌に太刀打ちが出来ん。一国の主としてこのような事を言うのは憚られるかも知れぬが、どうかそなたの力を貸していただけぬだろうか」
マジか。見ただけで竜人族はクッソ強そうなのが分かるのに、死面徒の力はさらに上を行ってるなんて。
正直、マルス陛下のお力になりたいと思う心がほとんどだ。エルツォーンの遺跡についても情報が得られるし、碑文の続きだって見つかるかもしれない。
でもどうしよう。俺が今ここに居るのは、クラスのみんなに沢山迷惑をかけた償いであって、それも終わっていないのに持ち場を離れるなんて、許してくれるかな?
それで、クラスみんなの前で話してみたら、案外あっさり目の反応を頂いた。
「どうしても天宮である必要ってあるのか?」
「他にもう1人、魔法が使える女の子がいるけど、こっち側から連絡する手段は無いし会う約束もしてないし、そもそも会う機会も滅多にないし……」
「そっか。ならしゃーないなぁ」
「サヴァさんとミロアさんはどうしますか? 以前から天宮さんと同行していたようですが」
「じっとしているのは私の性じゃないわ! モチロンついて行くわよ!」
「自分はどこまでもハルさんにお供するッス!」
という訳で、クラスのみんなからお許しを得て、俺たちは旅立つことになったのだ。
* * *
以上、回想終わり。
そんな事があったんだけど、もしかしてファルってば忘れちゃったの?
[昨日はいろいろな事が起こったからね。あまりメモリーに保存できていないものもあるようだ]
「メモリーねぇ。ファルってパソコンなの?」
[ぱそ……? それは、キミの故郷にあったものなのかい?]
「ん。まあ、そう」
[どんな道具だい?]
「…………下の方にボタンがいっぱいあって、上は絵とか映像が見れて、マウス……ねずみでこう、カチカチッってやるやつ」
[キミの説明は、毎度ながら伝わり辛いな]
「いやぁ……そんなに言われると照れるね」
[褒めてはいないね。そもそも、キミは誰かに物を伝えようとする努力をしたことが無いのかい]
「努力して『コレ』だとしたら……驚く?」
それっきりファルは黙っちゃった。何とか言って欲しかったなぁ。
会話を続けてた間にも、新しい魔法の研究は行っていた。
さっきから、波〇拳とかファイアマ〇オとか太〇拳とかスペシ〇ム光線とかゼ〇リオン光線とかサイコ〇ンとかレイジン〇ストームとか二重の〇みとかゴッ〇ハンドとかチャージ〇ンとか鼻〇神拳とか覇王翔〇拳とかマイティ〇ックとか北斗〇情破顔拳とか……いろんなポーズをやってるんだけど一向にそれらしき魔法は出てこない。
[他の人を真似るだけじゃ、魔法は使えないさ]
どうしたんだよファル、急に喋りだして。
[キミがキミらしくある事。それが魔法のチカラの源さ]
「でもさ、俺が欲しいのは今使えるようになる魔法なんだよね」
[ワタシのメモリーには、もう魔法の記録は残ってないんだ。すまない]
そんなぁ。
……待てよ。無いんだったら新しく作ればいいだけの話じゃん。
「よし。ファル、新しく魔法を作るにはどうすればいい!?」
[え!? えーと、そうだな……。まずは、キミがもう経験したくない出来事を思い浮かべてくれないだろうか]
「吊り橋から落ちるのは、もう御免だね」
[キミの身に一体何があったんだ……。ともかく、思い浮かべたかい]
「うん!」
[では、『今のキミがその立場にあったら欲しいモノ』を想起してくれないだろうか]
「あの時欲しかったものと言えば……丈夫な命綱だなぁ。それさえあったら落ちなかっただろうし」
[よし! ならばそれを基に魔法を作ろう! まずは精神を研ぎ澄まして、想像を練るんだ]
とりあえず目を閉じて、それっぽい事をやってみる。
むむむ……こうか?
[そう! その感じだ! あとはこのまま、思い描いた事を強く念じるんだ!]
俺が思い浮かべるのは、滅多な事では千切れない頑丈なロープ。安全性を重視し、公園の遊具とかに使われているやつだ。
……そういや近所の公園のブランコ、無くなっていたな。この前散歩してる時に気づいた。あのブランコで一回転できるか試し続けた、少年の日が懐かしいぜ。ブランコと言えば、あれ、ロープがチェーンになってるやつもあるんだよな。自宅からちょっと遠い場所にある公園のブランコが、丁度そんな感じだった。チェーンだと引っ掛かりが多いから、普通のロープより持ちやすくて疲れにくいんだよな(※あくまで個人の感想です)。
[––––できたぞ!]
ん。おお、もう出来たのか。案外早かったな。手からは、細長い物体を持っている感覚がしっかりと伝わってくる。これは期待できそうだ。
俺が目を開けると、手の中にあったのは、光で出来た鎖。
––––なんで?
[ハル、もしかして何か別の事を考えたりしてなかったかい?]
「うぇ!? ま、まあ、ぶっちゃけしてました」
[ならばそれが原因だ。しかし、目的は達成したと考えてもいいだろう]
「確かに。ロープもチェーンも、材質以外は似たようなもんか」
それにしてもこのチェーン、ほんとよく出来てるね。変身した後の強敵は力でも引きちぎれないぐらい丈夫だし、何より思いっきり振り回してみても手からすっぽ抜けない。命綱の代わりに使う他には、何かに引っ掛けて物を取ったり、死面徒を縛る事に使えたりもできそうだ。
ファルの助言を受けて、このチェーンを発射するギミックを盾の裏側に取り付けた。これで、使う時は盾を持った方の腕を向けて技名を言えばいい。
あ、そうだ。技名どうしよっか。全然考えてないや。
「で、どうする。名前」
[ワタシに聞かれても困るな。新しい魔法の名前は、キミの心に浮かんだ言葉で構わない]
「そっか。サンキュ」
ファルの言うままに、俺は腕を組んで心に問いかけ始めた。
チェーン……くさり……メタル……メッキ……タングステン……チタニウム……やめよ。ああいうチェーンが使われてる物の名前から拝借しよう。だとするとブランコ……雨どい……自転車……碇……アンカー!
「そうだ! 『ジェイルアンカー』! 自分の命を繋ぎ止める碇と、敵を縛るチェーンって意味!」
[いい名前だ!]
よし! これでエルツォーンに行く準備は整った。
ミロアさんとサヴァちゃんの準備が終わり次第、俺たちはマルス陛下とハーゲンさんと一緒にエルツォーンへ向かうのだった。
ちなみに、おやつは1人あたり500円程度まででした。これも増税や材料費高騰の影響ってやつでしょうか。




