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第21話 真剣勝負大一番

今回は少なめですがオール三人称視点です。


 王国軍訓練場の片隅。いつもはあまり人気のないこの空間も、今日は見渡す限りの人だかりで賑わっていた。

 『救世主』の一行・涌谷瀬良と『エルツォーン皇帝特別補佐官』ハーゲン・アオスブルフ。そこらのイケメンに勝るとも劣らない美貌の持ち主が試合をするという噂は、既に王都中を駆け巡っていた。


「観戦のお供に、お茶とお弁当いかがですかー!」

「スナックコーンの味は二種類、塩と焦がし砂糖がありますよー!」

「喫茶『セイヴァーズ』特製弁当! お求め易い価格となっておりまーす!」


 売り子も声を張って宣伝している。弁当の売れ行きも上々だ。

 本日の喫茶店本店は臨時休業。代わりにこの演習場で臨時販売を行っている。瀬良とハーゲンによる手合わせが王都の大イベントとなる。それが発覚し次第の決断であった。


 騒音の真っただ中、二人が見合う空間は静寂に包まれている。やがて瀬良が口を開いた。


「本日はよろしくお願いします」

「ああ。よろしく頼む」


 互いに一礼の後、再び無言が続く

。それ以上の言葉は、この戦いで語れという事なのだろうか。

 瀬良はハーゲンを深く観察する。大きく広がる翼に、強靭な尻尾。肘と膝から先は鱗で覆われており、指の先には鋭利な爪がきらりと輝く。これが彼女ら竜人族の武器だ。

 対し、己の武器は腰に携えた模擬刀一本のみ。


 さらさらと落ちゆく砂。あれが落ち切った時が、試合開始のサインだ。観客もその時を、今か今かと見守っている。


 やがて砂は落ち切った。あれほど賑やかだった空間が、しんと静まり返る。皆、二人の動きに莫大な全神経を使っているのだ。しかし二人に動きはない。


 赤い風船が子どもの緩んだ手を離れ、空へ飛び立つ。それが、幕開けのサインとなった。


 言葉も交わさずぶつかり合う両者。響く打撲音。涌谷一刀流剣術から成る木刀の殴打をハーゲンは強靭な肉体でもって受け止める。この一撃で、互いに互いの力量が知れただろう。しかしどちらが上か、なんて、そんなものはどうでもいい。2人の心には既に、薪をくべられ煌々と燃え続ける闘志しか存在していなかった。


(この身体、まるで鋼のようだ。あの言葉は比喩や伊達では無かったという事か)

(鋭い一撃だ。実物の刀なら、鱗を通り越し肉を切り裂くのも容易かっただろう)

((––––面白い!!))


 2人は更にヒートアップ。時に防御や手加減すら忘れ、攻撃は苛烈さを増してゆく。

 何の捻りもない渾身の右ストレート。これを瀬良は軽い様子でいなし、返しの木刀で一撃を胴へ入れる。そのまま流れるように腋下へ木刀を差し込んだ瀬良。関節を無理矢理固定してハーゲンを拘束する気だ。瀬良の目論見に気づいたハーゲンはしなやかに肢体を動かし拘束を逃れ、一瞬で瀬良の背後に回り込み腕に手を伸ばす。後ろに気配を感じ取った瀬良はハーゲンがお返しする気だと悟り、直感に従い素早く裏拳を放つ。死角から不意を突こうとしたハーゲンはこれに驚き防御してしまい、瀬良に自分から離れる時間を与えてしまった。


(ヴぉーすげー)


 熟達した二人の手合わせを見ている晴。見入ってしまい、語彙力が消滅し口を開けたアホロートルみたいな顔をしている。晴の隣ではサヴァが純真な目で、そのまた隣でミロアが興味深そうに試合を見つめていた。


 眼前で繰り広げられる激闘に、観衆の目も釘付けだ。中には、どちらが勝利するかを賭け事にする人も現れだした。それも盛り上がっている。観戦のお供にエールを欲しがる人も多く、出店の売れ行きも好調だ。


 目を試合に戻そう。ハーゲンの胆力から繰り出される一撃は、瀬良の木刀を容易く破壊できる力を持っている。それが先のぶつかり合いで判明した。では、瀬良が出した答えとは。

 それは、『相手の攻撃を全部避け続ける』事だった。狂気が見える答えだが、瀬良は見事にそれを今の今までやってのけている。常人とは思えない脅威のスタミナが鍵だ。それも今だ底は見えず、だが確実に消耗を続けている。

 涌谷流剣術道場に生まれた一人娘。幼少期から重ねてきた修行の成果が、この世界で生かされているとは、彼女の両親も想像できなかっただろう。現に涌谷瀬良は、2年1組で最高の戦闘力を誇っている。


 対しハーゲン。竜人族はえてしてプライドが高く、我慢という行為が得意ではない。要するに頭に血が上りやすいのだ。並の竜人族なら、ここまで試合が長引くと攻撃の精細さを欠いて形勢逆転されてしまいがちなのだが、ハーゲンにその様子は見られない。今でも的確な攻撃を続けられている。

 『王たるもの、強くあるべし』––––幼い頃からそう育てられてきたハーゲン。エルツォーンの皇帝の座は基本的に男性優位だが、先代皇帝とその妃の間に生まれたのは女だけだった。竜人族においてきょうだいは珍しいものであるから、ハーゲンが皇帝になるだろうと、そう信じて疑わなかった。皇帝と妃の間に、第二子が生まれてくるまでは。


 両者も、まだ子供だった時からみっちりしごかれてきた身。名家に生まれた理不尽もあっただろう。しかしそれすら踏み越えて、ここで相対している。戦いぶりから、互いに今までどうやって暮らしてきたかが伝わってくる。最大の理解者足りうる存在と出会えた感動が身体を貫く。その喜びが為に脳内でドバドバ湧き出すアドレナリン。二人はもう誰にも止められなくなっていた。いずれ訪れる決着の刻以外には。


 とある観客が抱えている、試合開始前に買った山盛りのスナックコーンが底をついた。

 風を切る回し蹴りを瀬良は最低限の動きをもって受け流す。衝撃をなるべく刀へ伝えないようにする為だ。しかし元のパワーが大きいだけに分散してもそれなりのダメージが残った事から、受けに徹し続けるのはマズいと結論付け、ハーゲンが二撃目の蹴りの体勢に入ったのを見てから素早く飛び退く。ハーゲンはこれを見逃すまいと蹴りの体勢から跳躍し、雷光の如く瀬良の懐へ蹴りこんだ。地面が窪むほどの蹴りを、瀬良は紙一重で動作を見破り回避してみせた。勢い余ってしゃがみ込んでしまったハーゲンは、立て直しつつ振り向き拳骨を放つ。強烈な拳に瀬良が飛び退くかと思われたが実態は逆。その場でしゃがみながら踏み込む事によって、回避と納刀状態への移行を両立させる。居合抜きで勝負に出た。ハーゲンも指を隙間なく揃え、仕留めにかかる。


「せいッ!」


 貫手と木刀が、互いの首筋ミリメートル前で止められる。暫し睨み合っていた両者だったが、やがてどちらからでもなく構えを解いた。


「手合わせ、ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとう」


 一礼した瀬良が差し出した手を、ハーゲンが硬く握る。


「ふたりともサイコー!」

「いいもん見せてもらえたぜー! ありがとよー!」

「よ゛か゛っ゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」


 二人の決着に、観衆のボルテージも最高潮を突破した。どっと歓声が沸き上がり、指笛が高らかに鳴らされる。

 その後の二人が親睦を深めたのは想像に容易い。

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