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第2話 取り敢えずのクラス会議

1週間連続投稿の2日目。


 あんなに強かった光が弱くなり、周りの景色が見える程度までになってくると、独特の浮遊感もなくなっていた。


 っ!

 ここは、教室じゃない!!


 大理石っぽい素材で出来ているこの空間は、たとえ素人が見ても荘厳さを感じるだろう。


 こんな時はどうするんだったっけかな。

1,念仏を唱える。

2,素数を数える。

3,円周率を思い出す。

 せっかくだから、全部やってみるか。

 南無阿弥陀仏3.141592653589南無阿弥陀仏2、3、5、7、11、13南無阿弥陀仏793238462643南無阿弥陀仏17、19、23、29、31南無阿弥陀仏…………まずい、もう飽きてきた。


「何がどうなってんだよ……」

「私たち、これからどうなっちゃうの……?」

「というかここは何処なんだよ……!」


 クラスのみんなも何が何だか分からない様子。あ、そういえばこんな時に矢面に立たされるクラス委員長を決めたばかりだったんだ。委員長助けて~!


「こんな時こそ、ほら委員長の出番!」

「えぇ~、僕ぅ?」


 見るからに渋々とした顔をして出てきたのは、厳正なる投票によって決められた我らが2年1組委員長、斎藤和正!


「はぁ。えー、では、緊急クラス会議を始めたいと思います」


 音頭の後、湧き上がる拍手。


「とはいえどうしたものか……。とりあえず、不平不満意外で何か気づいた事とか言いたい事ある人はいますか?」


 何に気づいたか、かぁ。

 ………………サッパリ分からん。周りを見れば、誰も挙手するそぶりを見せない。

 こんなに不毛なクラス会議があっただろうか。


 クラス会議の結果は、情報が入るまでその場で待機という事になった。鞄があったのが不幸中の幸いだったと切に思う。ジャージとはいえ着替えがあるのは有り難い。


 そんな時、クラスの誰もが近寄らなかった扉が開かれた。

 あれはいかにも、ザ・神官といった出で立ちをした二人。


「おおっ、召喚されてるぞ!」

「神託は確かだったんだ!」


 俺らを見るなり、そう言って駆けだしていく神官みたいな人たちの片っぽ。多分、誰かに何かを伝えに行ったんじゃないかな。


「あの、あなた方は……?」

「申し遅れました。私、唯一神ルファド様にお仕えする神官。テラという者です」


 クラスを代表して質問した斎藤くんに、テラさんが答える。

 神官かあ。あまりイメージ湧かないや。


「テラ神官、どうして僕たちはこんなところへ来たんですか?」

「それについては、話すと長くなります」


 話が長いという事は、それだけ引き出せる情報も多くなるって事だ。ちらりと隣を見れば、鞄からノートと筆記用具を取り出して書く姿勢になっている。

 俺もノートにメモ取ろうかな。


「ある日、穏やかな日でした。突如大陸全土の野生動物が狂暴化。各国は狂暴化した野生動物に立ち向かおうとしましたが、力も数もあちら方が圧倒的に上。出来うる限りの対処は施しましたが、人員も次第にすり減らされ、被害に苦しんでおりました。そんな折、我らが神から、救世主を遣わすとの報せが届きました。そしていらっしゃったのが、あなた方という事なのです」


 ?????

 なんとかメモは書けたけど、多分言ってる内容の五割くらいしか書けてないよ……後で聞きに行ったり調べたりしよ。

 それに、俺が救世主?

 あまり実感湧かないなぁ。


「ちょっと待ってくれ。ここから帰る手段はあるのかい?」


 テラさんが言い終わったタイミングで、我らが担任及川教諭が口を開いた。その疑問は真っ当なもので、周りのクラスメイトも頷いているっぽい。


「ルファド様の信託によると、『科の者ら救世主として現れ、務めを果たし、皆光のように帰る』とあります」

「それってつまり、生徒らに害獣駆除をさせようってのか?」


 狂暴な野生動物と戦う。それを目の当たりにすると、クラスのみんながざわめきだす。

 当然だよ。皆だってそう思ってる。

 誰だって戦った先に何があるのかは見えているから。

 もしそうなってしまったら、どうしようか、不安で堪らないから。


 口をつぐんだ及川先生は体の前で腕を組み、険しい表情をしている。腹が立っていそうだ、とも言い表せるかな。


「確かに15歳そこらで大人と扱われることもあったさ。けど、それはあくまで形式上のものだ。教師の立場からすると、生徒を危険な目に遭わせるような事なんざ、はっきり言って反対だ」


 でも戦わなかったら、どうなるんだろう。『役立たずだ』と判断された暁には……何も知らない世界で、1人きり。そんなの考えたくもない。

 何もしない人たちを匿うほど、神官さんも余裕があるとは思わない方がいいだろうから。


 そして開かれる第2回クラス会議。暗黙の了解からか、座席の位置はクラスのまんまだ。

 議題はズバリ、『戦いについてどう思うか』。そして手元には、自由帳をハサミで切って作った即興のアンケート用紙。これに議題についての回答を匿名で記入するわけだ。


「えー、『どう思うか』が争点なので、賛成か反対かどうか書くかは、各自の判断に任せます。どっちの意見が多いかで今後の判断はしないので、気楽に書いてください」


 クラス全員にアンケート用紙が渡ったのを確認し、斎藤くんが要点を話す。

 気楽にと言われたので、俺はさっき思っていた事を書き留めて紙を裏返しにする。

 みんなの手が止まったタイミングを見計らい、それぞれの列の一番後ろの人が用紙を回収していく。

 回収されたアンケートの結果は、クラス委員書記の富田佑助くんがノートに記入している。


 クラス委員のメンバーは四人いる。委員長で何かと誰かから頼られる斎藤くん、副委員長で実家が戦国時代から続く武士の家系の涌谷瀬良さん。真面目で縁の下の力持ちな富田くん。気配り上手で手先が器用な菊池彩花さん。


 閑話休題。

 どうやら全員分の意見に目を通し終えたみたいだ。けれどここには黒板がないから板書ができない。これが結構不便なんだ。こんなところに持ち運べる黒板かホワイトボードがある訳なんてないし。


「えー、じゃあこれから、クラス委員が気になったものを、抜粋して読み上げたいと思います」


 書記の富田くんがいるとはいえ、しっかり聞くに越したことは無いだろう。

 俺は全神経を耳に集中させてそれを待った。


「『マンガの続きが気になるし、早く帰りたい』」

「『どれくらいの被害状況なのかが見えないから、その辺が明らかになったら戦うか決める』」

「『ネットに繋がらないみたいだし、Vtuberぴるっぴの配信が見れないのはつらい』」

「『戦いなんてしたくないけど、たたかわなかったらどんな扱いを受けるのか不安』」

「『役目を果たせば帰れるなら、すぐに実行するべき』」

「『ルファドの気分次第なら、無事に帰れる保証がない』」


 4番目のは俺が書いたやつだ。その他にも、みんなああいう事を考えていたのか。

 これでクラス全体としての答えを出すのは、まだまだかかりそうだ。

 正直な所、俺もどうすればいいのか悩んでいる最中だ。何が正解なのか。何が最良の選択なのかが全く分からない。


 そういえば神官さんはどうしてるんだろう。

 こっそりそっちの方へ意識を向けてみた。


「おおトシゾー、今戻られたか」

「ええ。たった今各所への伝令を終え、戻ってまいりました」


 あの俺たちを見るなりすぐに走り出した人、トシゾーさんっていうのか。着ている服からして、テラさんの同僚、もしくは同門だろうね。


「えー、オホン!」


 テラさんが大きく咳ばらいをすると、クラスのみんなもそっちを向く。知らない間に増えてたトシゾーさんに驚いてるのかな?


「皆様、お初にお目にかかります。私はルファド様に仕えるトシゾーと申します。以後、お見知りおきを」


 俺たちに向かって、深く腰を折るトシゾーさん。礼儀作法は俺たちとほとんど変わらないらしい。


「あなた方の身柄は、グラージュ王国が保護することになりました。ここから一番近い国ですね」


 移動するのか。だったら荷物を全部持たないと。

 こうして俺たちは出席番号順に並び、テラさんとトシゾーさんの後に続いてグラージュ王国へと向かう。

 一体どんな国なんだろう。あれこれ想像するだけならタダだよね?


* * *


 神官であるテラさんとトシゾーさんの後に続き、俺たち2年1組は番号順に2列になって進む。

 ドアの先に広がっていたのは、ヨーロピアンな街並み。遠くに見えるのは、防衛用の壁かな。だとするとここは城下町に居を構える聖堂って事でいいのだろうか。お城はあるのか気になり、キョロキョロと見渡すと、何やらそれっぽいのが見えた。列もその方へ向かっているっぽい。

 道行く人の視線が突き刺さる。そりゃそうだよ。こんなところに制服のままだなんて場違いだし。


 歩く事数十分。俺たちはお城の一歩手前まで辿り着いた。お堀の水面には浮き草がたゆたい、水中では魚が泳いでいる。


「何用だ!」

「我らルファド様の僕! 神託の救世主らを、今ここに連れてまいりました!」

「取次ぎを行う! しばし待たれよ!」


 待ってる間は暇なので、のんびりお堀の様子を眺めていよう。お、魚がはねた。


「入れ!」


 城門での審査が終わり橋が架けられて、いよいよあの荘厳なお城に足を踏み入れる。汚さないようにしなんと。今すぐに履いている靴の裏をタオルでゴシゴシしたい。


「うわぁ~、すごく綺麗!」

「おお……これまた壮観だな」

「すんごぉい……」


 お城の中は、正に絢爛。クラスの何名かも見惚れている。何せこれまで見たことの無いような光景だ。小学生並みの感想が出てしまうのも仕方ない。


 やがて謁見の間まで来てしまった。厳かな雰囲気に思わず飲まれ、体が縮こまる。

 玉座にはダンディなおじさまが座り、傍らにはマダムと、俺たちと同年代かやや下の青年と女子が控えている。


「ちょっとちょっと。これ、座った方がよくない?」

「あ~確かに。王様の前だもんね」

「だよな。座ろ座ろ」


 周りの人とヒソヒソ相談。俺は背筋を伸ばした正座で王様が口を開くのを待つ。

 そして前の人に倣うのが、日本人の習性。やがてクラス全員は失礼のない正座の姿勢で畏まった。


「その者ら、面を上げよ」


 促され、その通りにする。

 クラスの人たちは……青年のイケメンさやら少女の可憐さに見惚れている。


「儂がこの国『グラージュ』の国王、バルケット・シールである。話は既に聞いた。救世主らよ、よく参られた」


 首を垂れる王様に、思わず「ははーっ!」と畏まる。クラスのみんなも、同じらしい。


「そして、我が妃ヘレーネと我が子レイヴ、クピノだ。せっかくだから、自己紹介なさい」

「ヘレーネと申します。そこのバルの妻、やってます」

「僕はレイヴ。救世主のみんな、グラージュをよろしく!」

「私はクピノです。救世主さん達は慣れない土地で不便だと思うけど、何か要望があればいつでもいらして下さいね」


 王子様にお姫様!

 すっごい! 本物だ! 俺初めて見たよ!

 レイヴ王子は爽やかさMAX、クピノ姫は清楚さカンストって所だ。


「さてセルバンデス、あれを配っておやり」

「はっ」


 セルバンデスさんと何人かのメイドさんの手で、俺たちの手に通学ICカード程の板が配られた。

 ?

 何も書いてない。試しに叩いてみても反応しない。とても不思議な板。


「それは『クラスカード』といっての、まあじゃ。額に当てると、情報が書きだされる仕組みになっておる」


 早速やってみよう。

 このカードを額に当てて……どれくらい待てばいいんだろう?

 …………ん?


「熱っ!? あっつ! あ゛っ゛っ゛っ゛っ゛つ゛!!」


 熱すぎて思わず落っことしてしまった。周りを見ても、みんな熱がっている様子はない。もしかして、俺のだけが不良品? そうだったら困るなぁ。


「大丈夫?」

「ああうん、平気。でもおでこは冷やしたいかな」

「よし、ちょっと待ってな」


 我がクラスの佐藤五人衆が一人、佐藤樹とメイドさんの協力により、自前のタオルを流水で濡らしたら鉢巻のように額に結ぶ。ひんやりして気持ちがいい。


 さてさて、問題のクラスカードだ。指で突いても、完全に冷えてることが分かる。

 カードにはこう書かれていた。


─────────────────


 天宮晴人間 16歳


 技能

 ・一般四則演算

 ・一般文章読解

 ・無垢な器


─────────────────


 上二つは何の事か想像がつくけど、一番下がよく分からない。得体の知れないナニカのイケニエにされるんだったら、怖くて寝れなくなっちゃうよ。


「全員クラスカードは確認し終えたかの。それには名前、年齢、あとは『自分こういうことできますよ!』といった事が書かれておる。古代文明の産物を解析して作ったものでの。開発費用は……」

「そこまでですよ。バル」

「ああ、スマンスマン。話しだすと長くなるのが、年寄りの悪いクセじゃの」


 スイッチが入ったらしいバルケット国王をヘレーネ王妃が諫める。かかあ天下なのかな。


「成程な。新規実装された星5限のキャラほとんどの性能がSとしか書かれてないwikiよりはマシか」


 真顔で何言うのさ内田秀斗くん。俺もそう思うけど。


「当然だが『出来る事』が増えるとそこに書かれてる項目も増えるからの」

「定期的な更新を心掛けてくださいまし」


 月に一度くらいの頻度でいいのかな?


 これから頑張って出来る事を増やそうと意気込んでいると、涌谷さんが王様たちの前に出た。

 トラブルでもあったのかな?


「失礼。涌谷瀬良という者だが、クラスカードの表記について不明な点があった故質問致す」


 いかにも武人といった口調で、涌谷さんは自らのカードを挙げてみせた。

 それには、こう書かれている。


─────────────────


 涌谷瀬良人間 16歳


 技能

 ・一般四則演算

 ・一般文章読解

 ・涌谷流剣術

 ・涌谷流槍術

 ・涌谷流格闘術

 ・明鏡止水の心得

 ・氷適正


─────────────────


 さすが涌谷さん。俺よりできる事が多いや。でも一番下の表記は、確かに変だ。


「この『氷適正』とは一体?」

「『適正』技能はそれに対応する属性との親和度を示しておる。カードに表記される程なのだから、さぞ良い相性なのだろう」

「承知しました。ご回答、感謝します」


 すっごいファンタジックな力だぁ……。

 一礼をして涌谷さんは下がった。他にもこの『〇適正』を持ったのがクラスにはいるのかな。いるとしたら、何人に一人の割合なのだろう。


 せっかくだし、この流れに便乗して俺の技能についても聞いておこう。早速手を挙げながら、王様にクラスカードを見せて質問した。


「あの、この『無垢の器』ってどんな技能なんですか?」


 王様はしばらく顔を伏せると、荘厳さがこもった眼でこちらを見てきた。


「その者、自然体にして無垢。故に何事も受け入れる。そんな心構えをカードが読み取ったのだろう」


 はえー、なんか凄そう。自分にそんな力があるとは知らなかったなぁ。

 教えてもらったお礼はちゃんと伝えないと。


「ありがとうございますっ!」


 腰を90度に折り曲げ、いそいそと後ろに戻る。


「戦いに参加したい者がいるなら、王宮騎士団長のグレンを頼ればよい。彼にはとりなすよう伝えておく」


 こうしてそれぞれに『出来る事』がハッキリ見えた今、自ら前に出て戦いたいって思う人はどれくらいいるのかな。


「では、本日はこれにてお開きとする!」


 しばらく質問大会が繰り広げられた後、王様の言葉を発し、俺たちは謁見の間を出た。

 これからは王都の宿舎で寝泊まりする事になるようだ。戦いに参加するかどうかも、そこの広間で確認する。

 慣れない環境、枕も寝具も違う。今夜ぐっすり寝られるか不安で仕方ない。

ステータスはどうせそのうち意味がなくなるから無くても平気平気

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