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第18話 接客キツイよ休憩短いよ給料ないよ


 俺の名は天宮晴。ひょんなことから異世界に飛ばされて、今は知り合いの喫茶店で接客をしている。


 ……なんて、ふざけるのはもうやめよう。どんなに嘆いても、現実は変わらないんだ。


 こんな短いスカートのメイド服を着ているって現実はな!


 露出している太ももがほんのり肌寒いし、どことなく落ち着かない。


「ハルさんにだけ、苦労はさせないッスよ!」

「私達も手伝うわ♪」


 2人も制服を着て並んでいる。うーん、サヴァちゃんは目に優しいや。

 それにしてもミロアさん、執事服かいな。いいなー、ズボン履けていいなー!


「なー、俺もミロアさんと同じヤツ着たい」

「今の天宮っちに合うサイズ、それしかないでしょ」


 うぐ。

 そう。ミロアさんは、低めの男性くらい身長あるからな。執事服が様になっている。


 せめて、せめてスカートの下に何か履いてないと、どこまでも気持ちが浮ついてしまう。あ、パンツはもちろん履いてるよ。

 タイツやスパッツとかっていつ頃出来たんだろう。こんな世界観でも存在するんだろうか。


 ぐずぐずしてる内に、開店時間を迎えてしまった。

 ええい、俺も男だ。腹を括ろう。


 今日から始まる、俺のお仕事。働いてもおちんぎんがもらえないのは、モチベーションに関わる。けど、ここに居られる事が報酬だというのなら、働くしかない。


 ミロアさんとサヴァちゃんも制服に着替えてる事から分かるように、2人もこの店の手伝いをする事になった。

 俺たちに任されたのは、ホールでの接客業務。お冷を運んだり、注文の伝票をキッチンに伝えたり、出来上がった料理を運んだり、お会計をする仕事だ。こうして並べてみるとやることが多いが、忙しいのはピークの時間帯だけだろうし、何とかなるかもしれない。


 天宮晴16歳、120%の営業スマイルで頑張りますっ!


* * *


 ランチタイムが近づき、カフェ『セイヴァーズ』は賑わうようになっていった。


 このキッチンを仕切るのは、クラスで1番寡黙な砂押兼宗(すなおしけんぞう)。沈黙のコックだが、別に体術に秀でてるわけではない。


 さて、そんな今話題のお店に、今にも足を踏み込もうとする者がいた。


「この国に来てからのアイツの消息は此処で途絶えてる……。絶対とっ捕まえて、魔法少女の自負ってものを叩き込んでやる……!」


 晴のあまりにあんまりな態度を目の当たりにし怒り心頭なメイ・フカミである。あのアホロートルじみた顔つきを思い出すだけで、心が波立つ程、彼女は苛立っていた。


 天宮晴に繋がる情報が手に入ればという執念にも似た期待を込めて、メイはドアを開く。


「いらっしゃいませーっ! 何名様ですかー?」


 さっそく遭遇、アホロートル顔。

 ミニスカメイド服を身に纏い、とびきりのスマイルでメイを迎える。


「………………は?」


 メイは視界から入ってくる情報量の多さに、しばらく硬直した。


「1名様ですね! 空いてる席へご案内しますっ!」

「冷たいお水です。注文が決まりましたら、それ押して呼んでください。ではごゆっくり!」


 あれよあれよという内に事は運ぶ。気が付けばメイは座らされ、目の前には硝子のコップに入った水とメニュー表が並んでいた。


 とりあえずメニューを見てみるメイ。メニューには料理名と併せて料理のイラストが載せられており、どんな物なのかがひと目で分かるようになっている。


 メニューはどれも、砂押兼宗が現地にある食材で現代日本の料理を再現したものである。実際に食材を嗅ぎ、舐め、記憶にある味に限りなく近づけるという神業。味見役はクラスのみんなで行いました。


 サイドメニュー、メイン、デザート、ドリンク及びお酒。ひと通り眺め終えた所で、最初のページに戻る。そこには、『定番』と銘打たれてポテトフライが載せられていた。カフェってよりかはファミレスじゃねーか。でも学生にとっては、そっちの方が馴染み深いよね。


 テーブルの端に置いてあるボタンを押すと、ベルが鳴り響き、伝票とペンを手に持った晴がやって来た。


「ご注文、お伺いします!」

「えっと……このポテトフライを1つ」

「ポテト1……っと」

「以上で」

「はい。ではご注文を繰り返します。ポテトフライが1つ、以上でよろしいですね?」

「はい」

「注文入りましたー! ポテト1!」


 伝票にメニュー名を書き終えた晴は、小走りでキッチンへと向かう。ルート上に、やけに綺麗な床があるのを気にせずに。


「待って天宮君! そこ、掃除したてで滑りやすいの!」

「ゑ?」


 危険に気づいた店員(クラスメイト)に注意されるも、時すでに遅し。

 ツルツルな床に足を滑らせて転倒。手から離れた伝票の札が、うつ伏せになっている晴の頭に落下した。


「ちょっとちょっと、大丈夫!?」

「あーうん。なんとか。痛たたた……」

「大丈夫って、ひざ擦りむいてるじゃん! 傷口からばい菌入るとマジでヤバいし、ちょっと手当てしてきなよ。天宮君の抜けた穴くらい余裕でリカバリー効くしさ」

「じゃあそうさせてもらうわ……」


 注意してくれた店員の肩を借りて立ち上がった晴は、びっこ引きながらもキッチンへ伝票を届けた。


「ごめんなさい! お先休憩入りまーす!」


 休憩室へと縺れ込んだ晴は、緑十字の救護箱から、薬草の搾り汁に浸した布を取り出して膝に宛がう。


「あ゛ぁ^~」


 風呂に入ったおやじみたいな声を出しつつ、晴は薬効成分が作用するのを待っていると、私物を入れるロッカーに押し込まれたファルが話しかけてくる。


[そういえば、ここで働いてる人たち、名前の法則がキミと同じじゃないか。何か関係はあるのかい?]

「あー、それ? ま、クラスメイト……つまり同じ土地から来たって事」

[なるほど……。キミの故郷には、中々素晴らしい人が多いんだな]

「いやぁ…………えへへ」


 故郷が褒められるのは、悪い気分ではない。自分が褒められてるのだと錯覚しそうになる位だ。


[しかし全員が土地も王の名も知らないとなると、まるで別の世界から来たように思えるな]

「『まるで』? こっちも感覚としては『まるっきり別の世界に来たなー』ってやつだけど」

[世界と世界を隔てる壁は、キミが思っている以上に分厚く、そして堅牢だ。たかだか1つの世界を統べる存在が無視できる大きさではない]

「はえー」


 唐突に大きくなったスケールに、置き去りにされてしまったかのような反応を見せる晴。

 きっと脳内では、くだらない事を考えているであろう。


[しかし、キミたちが別の世界からやって来たという事になると、新しい疑問が生じる]

「……それは一体?」

[文字が普通に読めてる点だ。ヒトが違えば文化も、文明も違ってくる。だが、キミたちは文字を問題なく読めてるじゃないか]


 ファルの言う通り、晴自身もくさび形文字やヒエログリフは、何を書いてあるかなんてさっぱり分からない。

 それなのに、まったく違う世界の文字が読めるなんて、不思議にも程がある。


[それに、キミが古代文字をあっさり読めた点も謎だ]

「……やっぱ、遺跡に潜り続けるしかないかねぇ」


 古代文字はすんなり読めるから、遺跡を辿ればやがて謎は解けるかも知れない。

 

 今までに入った遺跡は2つで、見つけた碑文も2つ。それに、行った国も2つだ。


 これから考えると、1つの国に1つの碑文があるって事になる。

 ここでばっと世界地図を広げる。……見た事ない形の大陸だ。大陸はそれに1つしかない。その事実が、晴の『別の世界にやって来た』という認識を加速させる。

 ちょっと……かなり間の抜けてる晴が気付いてるという事は、クラスのみんなはもう知ってるかもしれない。


「今まで行ったことがあるのは、グラージュとコートクラン。となると残りは……ジザニオン、ハロデヌィ、エルツォーン、そしてジャッポジアか。……んん?」


 よく見たらジャッポジアの形が、そのまんま日本だという事を発見した。だとすると、お米もあるかもしれないと勘づく。

 期待に胸が膨らむ晴。だが、時計を見ればもう休憩時間は終わりかけていた。


「うわっ話してたらもう休憩終わりじゃん! 急がねば!」


 ファルを雑にロッカーへ押し込み、髪の毛をバンダナで纏めエプロンを着てキッチンへ向かう。休憩後の業務はキッチンの調理補助なのだ。


* * *


「天宮晴、ただいま休憩上がりました!」


 メイド服の上からエプロンを着て、キッチンに立つ。髪の毛は料理に入っちゃうとまずい事になるので、バンダナで纏めている。


 しかし、この格好してると調理実習を思い出すなぁ。「危なっかしい」って言われてお皿すらまともに運ばせてもらえなかったっけ。じゃあ何をやってたかって言うと、土鍋手炊くお米の火加減見てました。今でもちゃんと覚えてます。


「この業務では包丁……っていうかナイフ使うけど、使い方分かる?」

「任せとけって! こう見えて実は、たま~にだけど家で料理することもあるんだ!」


 ふふん。俺の炊事力にひれ伏せ!


 でも、キッチンで最高の権力を持つのはコックの砂押くんだ。でも、飛行機のキャプテンと同じで、けっこう厳しい上下関係ではない。PCRは徹底させないとね。(本来はCRM。Crew Resource Managmentの略称をさして言っている。ちなみにPCRはPolymerase Chain Reactionの略称。任意のDNA領域を研究サンプルに十分な量まで増幅する事を目的とする反応または技術。こちらの世界にやって来る前、テレビで頻繁に耳にした事から、晴の脳内でこれら2つの名称と意味がごちゃ混ぜになったと思われる)


「にんじんは乱切り。玉ねぎはみじん切りだ」

「わかった!」


 勤務初日の新人だからか、任されるのは付け合わせとか、ソースに使われる野菜。

 包丁は引いて切るけど、ナイフも同じなのかな? まあ同じだろ。


 えーとにんじんは乱切りだから最初ナナメ45度に切って、そしたらにんじんを90度回転させてまたナナメ45度に切る。これを繰り返してヘタの方まで行ったら、後は適当にカット。

 このにんじんは、付け合わせのソテーだったりポトフとかの煮物に使われるそうだ。脇役とはいえ、残さずに食べて欲しいな。


 玉ねぎを切る時は、前もって鼻に詰め物をしておくと、ツンとせずに済む。眼鏡をかけるのもいいけど。

 みじん切りした玉ねぎは、大体あめ色になるまで炒められるケースが多いという、俺の偏見。時間も光熱費もかかるけど、美味しいんだよな~これが。あ、生の玉ねぎはそんなに好きじゃないです。スーパーで買ってきたポテトサラダに生の玉ねぎが入ってると、ね……テンションが落っこちてしまいます。だから、自分で作る必要があったんですね。


 ただ黙々と野菜を切り続ける時間が続く。俺が切るのは、にんじんだったり玉ねぎだったりじゃが芋だったりしていました。


 このまま順調にいけば、無事に今日の務めが終わる。悲劇が起こったのは、まさにそんな時だったのです。……俺ってば誰に向かって言ってんでしょうね。


 まあ、次から次へと流れてくる野菜を、言われた通りの切り方で切っていたわけですよ。

 それでですね、つい集中しちゃいまして。その時には、野菜しか見えなくなってしまいました。


 気がついたら、左手の人差し指から血がダラダラと流れていたんです。ナイフで、こう。そこそこ深くまでザックリいってしまいましたね。


 あれだけ血を流した事は、俺の人生で初めての経験でしたので、頭が真っ白になって軽くパニックを起こしてしまいました。


 助けを求めようにも、周りの人は普通どおりに働いていますし。そんな時です。

 砂押くんが声をかけてくれたのは。


「天宮。もう休め」

「ごめんなさい……先上がります……」


 そして俺は休憩室へ戻り、傷口に処理をして、それからは安静に過ごしました。


 どうしよう。俺……こっちに来てから、クラスに迷惑しかかけてないや。

 夕方だからか、ついそんな事を考えてしまう。こんな時は、美味しい物でも食べて元気を出すに限る。

 ……そういやお金無いんだった。


 仕方ない。晩飯の調達だ。


「これは食べられる草。これはヤバい毒があるから食べちゃいけない草。これは……食べられるけどエグみが強いから食べたくない草」


 雑草ひとつひとつをじっくり観察し、経験と照らし合わせる。なるべく、ミロアさんが採ってきたものと同じヤツを……。


「なにしょぼくれた雰囲気出してんのよ」


 ふと、上の方から声がかけられた。顔を上げてみると、そこには逆さまになったメイちゃんの顔が。


「メイちゃん……草や木の実探すの手伝いに来たの?」

「勘違いしないで。私はただ伝言を届けに来ただけ」


 伝言……?

 誰からだろう。


「もうすぐ夕飯だから帰って来なさい、って。……こんな事になるんなら問いただしに行かなきゃよかった」


 夕飯、だって?

 その後の言葉は小さくてよく聞こえなかったけど、迷惑ばかりかけてきた俺にも、夕飯が用意されているのか……?


「……教えてくれて、ありがとう」

「~~ッ! 貸し1つだからね!」


 そう吐き捨てて、メイちゃんはずけずけと去っていった。俺も戻ってみよう。

 小走りでお店の前まで来て、いざ突入。店の奥が学生寮みたいな生活スペースになっており、みんなは教室にいた時の席順で座っていた。

 だとすると俺の席は、あそこか。ちゃんと机に配膳されている。本当に、食べてもいいの?


 香るソースのコク。独特な楕円形のフォルム。

 メインディッシュは、もしかしなくても、そう!

 ハ、ハンバーグだぁ~!


 み、みんなもう食べ始めてるし、俺も食べていいよね?


「うぅ……いただきます!」


 切り分けて、一口。噛んだ瞬間、肉の旨みが口の中いっぱいに広がって……おいしい……幸せだよぉ……。

 アカン涙が出てきた。幸せ過ぎて涙が出るなんて、本当にあるんだね。


 どうした?

 付け合わせのミックスベジタブルを見るような眼で俺を見やがって。


「ちょっと、天宮ってば今まで何喰ってきたんだよ」

「えーと、草と実と魚と貝」


 近くに座ってた相田くんに尋ねられたので、正直に答える。そしたらちょっと引かれた。解せぬ。

は?

運ゲして

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