第14話 雨上がりにはパーティーを
ふぁ~あ。よく寝た。枕もベッドも硬かったけど。
今、何時ぐらいかなぁ。夜更かしはあまりした事ないから、時間の感覚が狂っている。
「お昼ッスよ」
「サヴァちゃん!」
「とれたてピチピチのお魚食べて、元気出すッス。あ、内臓はお魚をとってすぐに取り除いたッス」
洗われた葉っぱに乗せられて、俺の前に魚1匹分のお刺身が運ばれてきた。しかも頭付き。
「ミロアさんは、水ッスよね。海の水汲んできたッス」
「あはは……私、海水はちょっと……枯れちゃうわ」
「しょぼーんッス……」
津波で畑や田んぼがダメになった事もあるからね。
さておきここでフォローに入ってかないと、サヴァちゃんが落ち込みそうだ。
そんな事はさせない。サヴァちゃんはとびっきりの笑顔が1番なんだ。
「じゃあ真水を作ればいいんだよ」
「作るって……どうするッスか?」
「任せなさいな、バラエティ番組の無人島コーナーを見続けてきた俺にいい考えがある」
まず基地の中からよく燃えそうなものをかき集める。編み込まれたロープがあったので、それを解いて火種にする。
そして壊れた機械内にある配電盤のスパークを利用して火を起こす。
最後にサヴァちゃんが組んできた海水を火にかけ、蒸発した水を集めて冷やせば飲める水になる。
「これで大丈夫。あとは時間が経てば、その器に水が溜まるはず」
「蒸留型浄水器ってヤツね! 文献で見た事あるわ!」
「なんだ、知ってたんなら言ってくださいよ」
「『ありあわせでなんとかしよう』なんて思ったこと無かったってコト!」
さて、今回俺がいただくのは、サヴァちゃんが獲ってきた魚の刺身です。身にツヤがあって、とても美味しそう。
ではいただきます。
海水を少し振りかけただけの刺身を味わう。白身の淡白な甘みが口の中に広がって……おいしい! けど、やっぱり醤油が欲しいね。あとワサビ。
「ためらいなく生でいったッスね……」
「当たり前の事じゃないの?」
「この辺の人たちは、普通生で魚は食べないッス」
「そうなんだ。なーんかもったいない気もするなぁ……」
「おいしく食べてる事には変わりないッスよ」
「それもそうか」
俺がいた国の中だけでさえ、食文化はいろいろあるんだ。案外、それが世界レベルに広がってるだけかもしれない。
と、考えている内に刺身を完食。お魚自体が大きかったからか、これだけで結構まんぷくだ。いくら食べても飽きが来なかったよ。
「ごちそうさまでした」
「じゃあ……自分は、ここまでッスね。今までお世話になったッス」
え?
俺の前には、今にも沈みそうな表情のサヴァちゃんが。深刻そうだ。
「自分、2人のお金を使いきっちゃったッス。それに、敵に捕まって……。ハッキリ言って、迷惑ッスよね。こんな迷惑な奴、いない方がいいに決まってるッス……」
「そんな事ない!!」
俺としては珍しく大声をあげてしまった。けど、こうでもしないとサヴァちゃんは前を向けない、と思いたい。
サヴァちゃんは訳が分からなそうな顔をしている。どうしてそう判断できるかって? 見慣れた顔だからだ。
よろしい。分からないというなら、もう1度教えよう。
「前にも言っただろ? 俺はサヴァちゃんを迷惑に思った事ないって。それに、俺は迷惑な人をそのまま近くに置いて置くほど、おおらかな人間じゃないんだ」
「迷惑じゃない……って事は自分、これからもハルさんたちと一緒にいてもいいッスか!?」
「ん。まあ、サヴァちゃんがそうしたいならそうしなよ。とにかく、俺からは何も言わない。ミロアさんはどうよ?」
「私? そうねぇ……」
顎に人差し指を添え、考えるミロアさん。考える姿も絵になるなぁ。
「サヴァちゃんから受けた刺激も悪くなかったし、大歓迎よ!」
ミロアさんの返事を聞き、サヴァちゃんの目が潤み始めた。どこか痛いのかな、なんて思ったのも束の間。サヴァちゃんは滝のような涙を流し始めた。
「嬉しいッスよ~! 幸せッスよ~! 嬉しくて幸せなのに、涙が止まらないッス~!!」
大声でわんわんと泣いたサヴァちゃんだったが、泣き終えるとすっかり元気を取り戻していた。やはりサヴァちゃんにはそっちの方が合ってるよ。
元気が1番、笑顔が2番、3時のおやつでグーグーグー。って感じで!
「ところでさ、食べ残しはどうすればいい? 捨てる?」
「ああ捨てちゃダメッス! 食べ残しは自分が持つッス!」
「まさかサヴァちゃん……そんな性癖だったとは……」
「何考えてるか知らないけど違うッス! 残った頭としっぽと骨はスープの出汁に使えるッス。この魚だと、いい出汁がでるッスよ~」
「そうなの!? それは楽しみね!」
「ミロアさんてば味覚無いんじゃありませんでしたっけ」
「あららそうだったわ。という訳でハル、その時は教えて頂戴ね!」
「腕によりをかけるッス! 期待してていいッスよ!」
「伝わるかなぁ……」
感覚が無い人にそれを伝えるっていうのは、かなり難しいからね。何故なら経験が無いんだから。俺も相当、伝える側の人に苦労させてきたなぁ……。
そういえば蒸留型浄水器はどんな具合かな。コップ1杯分くらいは、溜まってると嬉しいんだけど。
試しに中を見てみると、コップの半分くらいまでは溜まっていた。まだ足りないかな。
という事で俺は、この基地を探検することにした。機械を動かしていたということは、エネルギー源があるはずだから、もしこれが自由に使えるようになったら、かなり楽ができると思う。
ミロアさんもサヴァちゃんもついてくる気満々だったけど、火の様子を見たり、ミロアさんが動いた結果干乾びても大変な事になるので、ファルと一緒に置いてきた。
あれだけビリーがうじゃうじゃいた基地の中、今では誰かしらの気配もない。ちょっと怖いな。
それに聞こえてくるのは……風が吹く音? なーんか壁が薄そうな場所を見つけてみるか。
いい感じの角材があったのでそれを拝借。壁を叩いて音を確かめる。俺ってば耳はいいんだよな。
壁の向こうが空っぽなら、音は鈍くなる。わずかな違いすら聞き分けてみせるぜ。
コンコン。コンコン。ドンドン。
今のが『当たり』だ。そうと決まれば早速壁を壊そう。
壊す手段を考えてる間に忘れないように、サインペンで×印をつけて、これで良し。
さて、どうやって壁を壊そう。
どうせなら派手に爆破とかしてみたいな。でも爆弾ってどうやって作るんだろう?
テレビでも火薬の作り方なんてやってなかったしなぁ……。残念。
となると残る手段は、物理での破壊だ。この手に限る。
とにかく重そうなものを持ってこないと。あと頑丈な紐。ついでに火薬もあるか探してこよ。
てなわけでいざ調達。イクゾー!!(デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!)
* * *
昨夜の激突が嘘のよう。メインルーム跡地は穏やかな時間に包まれていた。
ここに居るのは、ミロア、ファル、サヴァの3名。晴は「ちょっとその辺うろうろしてくる」と言った後、部屋を出たのだ。
「水、けっこう溜まったッスよ!」
蒸留型浄水器の側には、サヴァが新たに汲んできた海水がバケツ2杯分置かれている。
「本当! これならしばらく活動できるわ!」
ミロアはコップを取り出すと、腰に手を当ててぐいっと飲み干す。
「くはぁ~っ、生き返るわぁ~!」
そしてこの感想。缶チューハイ飲んだOLか何かで?
『酒は命の水』という言葉もあるし、あながち間違いではないのかも。これはウイスキーにまつわる言葉であって、決してス〇ゼロの事をさしている訳ではない。
閑話休題。
数時間ぶりの給水をしたミロアは、以前よりも肌のみずみずしさが増したように感じる。彼女が植物由来の知的生命体だからだろう。
余裕が戻ったミロアは、蒸留型浄水器に新しく海水を注ぐサヴァを見つめる。
自分とは全く異なる種族に、ミロアは好奇心を隠し切れないのだ。
「サヴァちゃんって、海の中で暮らしてるのよね」
「ん、まあ、そうッスね。時々陸に上がるけど、大体は海の中ッス」
「ねえ、海の中での暮らしってどんな感じなの? よかったら教えてくれないかしら!」
サヴァも基本、お人好し。聞かれたら答えない理由はない。
「水棲族は、だいたいお魚とか貝とかをとって食べるッス。食べ残しは海底に置いて置くと、『ビセーブツ』ってのが分解してくれるらしいッス。んでその『ビセーブツ』ってのはお魚さんたちの食べ物になるッス」
「自然界の食物連鎖! 憧れちゃうけど、やっぱり私に食べ物の話はピンとこないわ……」
「食べること以外でとなると……寝るときッスかね」
「まさか、寝る時も海の中なの!?」
「そうッスよ! けど、海では潮の流れが速いッスから、海藻を体に巻き付けてから寝るッス。こうすると、寝てる間に遠くまで流される事は無いッス」
「なるほどねぇ……けど、海藻が千切れたりはしない訳?」
「あー、ちぎれる時もあるッスよ」
「あるの!? その時はどうなるのよ!」
「その時はその時ッス。流された場所で、新しく住み始めるッス。自分のご先祖様たちもそうやってきたらしいッスからね!」
「なんだか植物の種と似てるわねぇ……。勉強になったわ、教えてくれてありがとう」
「これくらいなら楽勝ッス!」
「逆に、サヴァちゃんにやりたい事があったら、いつでも私を頼って頂戴♪」
「やりたい事……」
むむむ……と呻きながら悩むサヴァ。「今すぐじゃなくてもいいのよ」とミロアが付け足すも、サヴァは悩み続けている。
時間をかけてひねり出した、答えとは。
「自分、パーティーやりたいッス! せっかくハルさんと旅が出来るんスから、パアーッと! 手伝ってくれるッスか?」
「もちろん! 大歓迎よ!」
「あ。ファルは、この事黙っててくださいッス」
[了解した。キミとの約束、絶対に守ってみせよう]
「なんか重いわねぇ……」
晴に内緒で、宴会の準備は進む。
* * *
いいのが見つかった。
見てよこの鉄球。ここまで運んでくるの、すげー重かった。けど、これだけ重いなら中々の威力が期待できる。
それでは行きますよ! せーの!
ダイナミック☆玉ころがし!
壁を粉砕。俺の見立て通り、通路に繋がっていた。鉄球はそのまま奥に転がって行っちゃったけど……まあいいか。ヨシ!
それに。
「これは……どう見ても人の手が入ってる!」
しかも積まれてる石はこの前の遺跡と同じである、気がする。
という事はこの先に例の碑文が!?
ぐぅ~
……これは、お腹が空いた音。鉄球運ぶのにも疲れたし、報告ついでに戻るか。
あれ? 電気が暗い。
おかしいな。つけっぱなしのままで出たはずなのに。
「うおっまぶしっ」
電気が付くと、俺の目の前にはごちそうが並んでいた。たくさんの魚介類に木の実たち。どれも美味しそう。
「さあ! パーティーを始めましょう!」
「腕によりをかけて作ったッス! 遠慮せず、ガンガン食べちゃってくださいッスよ!」
「ぱーてぃー? 何かめでたい事でもあったの?」
「自分、ハルさんについて行くことにしたッス。だからここから、3人で頑張っていくッス!」
「つまり旅立ちを祝うのよ!」
その為にこんなごちそうを……?
2人からの心遣い……なんか、あったかくてイイな。
「そういえばさ、碑文ありそうな遺跡をこの近くに見つけたんだよ」
「それって確か、ハルさんがさがしてるものだったッスよね。見つかるなんておめでたいッス! パーティーにピッタリッス!」
「放っておいても、いいのかしら?」
「いいのいいの! 今はパーティーとごちそうの方が先だから!」
それじゃあ乾杯!
明日でもできる事は、明日にやればいい。明日になって忘れちゃってたら、仕方ないか。
晴くん現代社会で就職できるんですかね……




