第10話 驚きの青さ
ス〇ブラSPにて崖下でホ〇ラの横Bが暴発してしまった感をあなたに……
まいったな……ミロアさんと全ッ然合流できない。お日様も傾いてきてるし、早く何とかしないと。
とはいえ、足が、もう疲れた。パラデイオーって結構広いんだね。あそこにベンチがあるからちょっと休もう。それ位は、許して。
ふぅ。
ねちょり。尻から伝わるこの感覚は……!?
恐る恐る右手をベンチに付けると、さっきの感覚と共に右手が真っ青になった。
なんてこった! このベンチ、ペンキ塗りたてだ!
でも張り紙は無かったし、立ち入り禁止にもなっていない。いったいどういう事なの。
どこか、この近くで怪しい動きをしてる人物は……あそこにいた! 持ってるのも青いペンキだし、アイツが犯人に違いない。
あっ! それによく見たらアイツ、ネガルディアの死面徒じゃねーか! 頭に特徴が無かったから普通に見逃してた!
「やいやい、ネガルディアの死面徒め! よくも俺のケツを青くさせたな!」
「警戒しないキサマが悪い!」
そんなこと言われても……。俺が不注意なのは結構よくある事だし、直そうと思っても中々直らないんだよ、これが。
「まあ良い。青いバラに青色発光ダイオード、不可能とされていた技術は今や可能となった! 即ち青色は不可能を可能にする色! 青色のパワーがこもったこのオレの名前こそ、『アオイロ面徒』!」
「あ、どうも。俺、天宮晴です」
[何を張り合っている。とにかく変身だ!]
だって、挨拶は大事だから。
「奇想転身!」
光に包まれ、目を開けばもう戦いの装い。ヴィブジョーソードを呼び出し、盾を構える。
「変身したとて所詮は小娘。青二才がオレの顔を青ざめさせられると思うか!?」
「アオニサイって、どういう意味だよ! それにお前の顔もともと青いじゃねーか!」
一本取られたとばかりにおどけて頭を擦るアオイロ面徒。奴は何がしたいんだ?
それが気になって辺りを見れば、見るものすべてが青かった。屋根も、観葉植物も、トマトも、ボートも。これら全部アイツの仕業だっていうのか!? ちょっとづつ色合いが違う点にこだわりを感じる。恐るべし。
[現段階だと攻撃の手段が掴めない。警戒して戦うんだ]
わかったよファル。ここはじっと相手の出方を待とう。
構えたままほとんど動かなかったら、じれったくなってきたのかアオイロ面徒がこっちに向かってきた。
「青菜ッ! 青虫ッ! 青信号っ!!」
うわわわっ!
意外と素手派だった。ステゴロは盾で防ぐに限る。それにこっちには剣があるんだ。リーチだってこちらが勝ってる。
「アオミドロッ!」
俺の喉を狙った貫手を剣で上に逸らし、空いた胴体を盾で殴りつける。
「くっ! 中々やるようだが、オレの神髄はこれからだ! キサマもオレ色に染め上げてやる!」
そう言ってアオイロ面徒が取り出したのは、青色のペンキ缶と背丈くらいある筆。オイオイまさか、あれで塗る訳じゃないだろうな?
不安な俺を他所に、アオイロ面徒は筆の穂先をペンキにジャブジャブと浸ける。
ペンキ滴る筆を、アオイロ面徒は思いっきり振り回した。やめろォ! ペンキが飛び散ってるゥ!
使われてるのは一見普通のペンキだけど、それでもあんまし汚れたくはない。盾で防いでるけど、盾の範囲から漏れた部分は汚れてしまう。
「インクシューター、カートリッジロード!」
お次は水鉄砲かよ! 確かそんなゲームがあったような気がする。
逃げる俺を追って次々に放たれるペイント弾。発射間隔も狭く感じるし、どこかに身を潜められる場所は……路地の陰にするか!
これで一息付けそうだ。
「甘いわぁ!」
「うわぁいつの間に!?」
上から来るぞ! 気をつけろぉ!
突然の出来事にびっくりしてしまい、俺は思わずヴィブジョーソードの柄へ手をかざした。
ぶっちゃけやらかしちゃったかも。でも1の目以外ならもう何でもいいや!
───────{5}───────
一応セーフ。電撃纏う刃で目の前に降りたアオイロ面徒を何回も斬りつける。着地狩りだ。
「アオダイショウーッ!!」
おお、痺れてる痺れてる。ではこの隙にもう一回。
───────{1}───────
うわやっべぇ!
咄嗟に身構えたものの、衝撃は未だ伝わってこない。不思議に思ってたけどしばらくしたら積まれていた木箱が崩れ、青いオレンジの濁流にのみ込まれた。金ダライだけじゃないんだね。
……ん? 青なのにオレンジ?
「安心しろ。それらは全部青色2号を使ってある。口に入れても問題ない」
配慮する点が全く違う気がする。そもそも食べ物で遊んじゃいけないんだぞ!
とにかく、この青く塗られたオレンジの山から脱出せねばならない。オレンジを掻き分け外を目指す。
掻き分けても掻き分けても、また上からオレンジが落ちてくる。どれだけ積み上がってるんだ。容赦なく口に入って来るし、落ち着いて息も出来ないよ。
オレンジを防ぐために口を閉じてしばらく息を止めて………………アカン息が続かない! これじゃ死ぬ!
急げ、急げ急げ急げ急げ急げ急げ!
「ぷは!」
出られた―!
ん? オレンジに紛れてあそこに転がってるのは……ファル!? まさかオレンジに飲み込まれる時に落としちゃったのか!?
「ん? 何だコイツは。金属のレリーフ、みたいだが」
アオイロ面徒が近づいても、ファルはピクリとも動かない。どうした? お前浮けるんじゃなかったのか!?
「キサマもオレ色に染め上げてやる!」
アオイロ面徒はファルを鷲掴みにすると、そのままペンキへぶち込んだ。ア゛! 何すんだ!?
あっという間に青く塗られたファルは、ゴミのようにアオイロ面徒に捨てられる。するとそれに連れられるかのように、俺の変身も解けてしまった。まずい。
俺はすぐにオレンジの山から飛び出し、ペンキに濡れたファルを拾う。
「おいファル! 一体どうなってんだよ!?」
[……すまない、着地のショックで一部機能が乱れていた。それに今のワタシだと、魔法の力を万全の状態でキミへ渡す事が不可能になっている]
マジかよ大ピンチじゃん。
考えても考えても打つ手が見つからない。街が青く塗られるのを黙って見てるか、こうなったら変身しなくても、ヤツに食い下がってやるしかないのか?
なら、やるしかない。
「いい加減に……しろッ!」
「ほう、マルハダカでオレに勝とうってか? やめておけ、無謀にも程がある」
「俺がやめたら、お前はどうするんだよ!?」
「無論、全てを青に染めるまで」
「俺は全部が青いオムライスなんてお断りだあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
今の俺にあるのは、その想いだけ。
色とりどりの食べ物が全部青色になる。もしそんな事になったら、食欲もなくなってしまう。
その想いがあれば、俺は戦える。ありったけの感情と、意思と、パワーをこめて俺は拳を貫き通す。
「これが俺の、答えだあああああああああああああ!!」
ダメでした。
あえなく俺は蹴飛ばされ、地面を何度も転がる。痛いよう。
「もう見てらんない、行くよヤタ。チェンジ・ダークネス!」
[合点承知!]
そんな声が聞こえると、青の世界に現れ出でた闇。
この前俺にあれこれ言ってきた女の子が、目の前に立っていた。
「まずは攻撃の手段を絶つ!」
低い姿勢で弧を描くように走り抜ける。そのまま段々アオイロ面徒に近づいていき、一閃。
「オレのインクカートリッジちゃんが斬られちまった!」
「次はもっと痛くなるわ!」
ここまであの女の子は、一滴たりともインクを体に浴びてはいない。
「こんな強いヤツと戦ってられるか! もう帰る!!」
「! 待ちなさい!」
俺もすぐに追いかけるけど、アオイロ面徒は路地に一歩入ったらもう消えていた。
アオイロ面徒を取り逃がした女の子は大きなため息をつくと、俺に剣を向けてきた。
すっごく怖いです。
「ちょっと待って! まずはその武器下ろそ? 今、俺、生身。OK?」
俺の必死の願いは届かず、目と鼻の先に刃を突き付けられた。
こ、殺される。
「ずっとつけさせてもらったけど、相変わらずひどい戦いだったわ。考えが安直で筒抜け。駆け引きも何もあったものじゃない。正直、ふざけてるとしか思えないわ」
「それは仕方なくない? ぶっちゃけ仕様なんだしさ」
「何よりもふざけているのは、あなた自身よ。自覚してるかどうかは分からないけど、改善する姿勢すら見せようとしない」
「でも、死面徒の勝手を許したくない気持ちは本物だよ」
「よくそこまでほざけるわね。私よりずっと弱いくせに」
名前も知らない女の子からの言葉一つひとつが、俺の胸に深く突き刺さる。
「そんなに言わなくてもいいじゃないか……」
「よくない。魔法の力を得るっていう事がどれほどの事なのか、あなたはまるで分かっちゃいない」
これまたバッサリと。
だったら教えてくれてもいいんじゃないのとは思ったけど、圧が凄かったので、なんか深い事情がありそうだと感じた。
俺の反応も待たずに、女の子は言葉を連ねた。
「それとも、あなたにはあるの? 自分の全てを投げ打っても構わないって覚悟が」
「そ、それは……」
出来るわけがない。俺だって家に帰りたいし。
それに、そんな覚悟があっていい事なんてあるだろうか。履歴書のアピールポイントとして書くのも、ちょっと気が進まない。
残業OKマンみたいだし。
「とにかく、軽い気持ちで魔法を使わないでちょうだい」
女の子はこれで話は終わりだとばかりに離れていくけど、ファルも何か言ってやってよ。
って、おーい。ファル?
あ、いたいた。……隣のそれは、カラス?
[久しぶりどすなぁ。ファルはんもお元気どしたか]
[ああ。しばらくは眠ってて、起きたばかりだけれどね]
何? ファルってば、そのカラスのレリーフと知り合いなの?
知り合いだっていうなら、会うのもしばらくぶりになるのだろう。ここはひとつ、ファルの思うように過ごさせてみましょうか。
[あんさんが選んだんや思うけど、ほんまにこれでいけるのでっしゃろか?]
[少々楽天家なきらいはあるが、前向きさと切り替えの速さは彼女以上だ。素質はかなり、ある]
[へえ。あんさんとあろう人がそこまで言いはるんやったら、ワイも安心できるのぉ]
俺はファルたちの会話に耳を傾けつつ、空を眺める。いい青空なんだけど、う~ん、アオイロ面徒との戦いを思い出しちゃうなぁ。
「ちょっとヤタ、何時まで話してんのよ! もう行くわよ」
[メイはんすんまへん。話弾んでまいました]
なるほど。あの女の子はメイちゃんっていうのか。そしてカラスのレリーフがヤタ、と。
メイちゃんはよほど俺たちに名前を知られたくなかったのか、『しまった』なんて顔をして去っていった。
一応手を振って見送りはしたけど、また難癖付けるだけならあんまり来てほしくはないなあ。
ばいばい。
そして戦いの跡を目の当たりにして、俺はあまりのひどさに軽く引いた。
「……掃除するかぁ」
思い立った日が吉日。早速その辺からモップとバケツを拝借し、インク汚れを落とし始める。
いつの間にかお店や近所の人たちも加わり、俺1人で始めた掃除はそこそこの規模になっていた。それだけアオイロ面徒の被害が大きかったって事なんだろうけど、やー懐かしいね。町内会の清掃を思い出すよ。
もうすぐ日が暮れ始める頃には、インクは綺麗さっぱり掃除されていた。気持ちいいぜ。
「皆さんお疲れ様です。手伝ってくれて本当にありがとうございました!」
「お礼なんていいって。俺も自分から始めた訳だしさ!」
やだ、漁師のおっちゃんってば男前! 惚れてまうやろ。
「でも、ちょっと勿体ない気もするねぇ」
「おばちゃん……それって、どういう事なんです?」
「ホラ、青色が澄み渡る海や空みたいで、なーんかこの国の印象に合ってる気がしてね」
「言われてみれば、確かにそうだったかも」
透き通る程青一面の世界を思い浮かべる。水面に反射した光が青い壁に……うーん映えそう。
人混みの中に、見知った姿を見つけた。あれはミロアさんだ。こっちに気づいたらしく、緑色の髪の毛を潮風にたなびかせてこちらへやって来る。どこ行ってたのよ。
「ハルってばここにいた! ようやく合流できたわね!」
「ミロアさんこそ。こっちだって随分探しましたよ~」
「あら、ごめんなさいね。皆でお掃除してるって噂が気になって、つい、ね」
「もしかして、ちょっとした騒ぎになってたから再会できた?」
「そうかもしれないわね。さ、帰りましょ」
何だろう、この25歳くらいのお姉さんなのに行動が子供並なの。まあ気にしてても仕方ないか。
ミロアさんと並んで宿までの道を歩く途中、俺はあることを思い出した。
「そういえばお金無くなったんだった……」
「…………はっ! すっかり忘れてたわ!!」
するしかないか……ッ! 野宿ッ!
今回登場した死面徒のイメージに近いのはサ□ンパスCMの青い人でしょうか。




