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5話 簒奪する者

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記憶領域が破損しています。想定されていない動作が行われています。今後の戦闘行動に影響を及ぼす可能性があります。


 私のような出来損ないのAIの考えくらいは人間にも思いつくのだろう。村の大人たちは思索していた。どうすれば、子供達を守れるのか。自分達には何ができるのか。

 一度は襲撃者として現れた旧人類の大人は、それでも子供達が自分で自分達の生活を何とかしていく姿に、自分から武器を取り、子供達を少しでも荒事から遠ざけようと。こんな世界でも、少しでも自由に過ごせるようにと。

 そして、そんな大人を見て少しずつ理解を深めていく。敵ではない、対等な仲間として。あるいはこういったものをこの村を起こした彼は求めたのかもしれない。

 全く根拠もないのにも関わらず、なぜかそれは私という電子頭脳にするりと入り込む。

ああ、ならばやはり、私の役割はこの光景を守ることなのだろう。この旧人類の言うところの温かいものを守ることが、灼熱の中で動くことを求められる鋼の体と、熱を持たない機械の知能に求められたものなのだろう。

 だから、そう。これは必然なのだ。彼女が守りたいと思った物は、私のあらゆるものをもって守らねばならないのだ。


 夜の闇を引き裂いて、対D-roid用の弾丸が飛来する。私を保管するドッグの隔壁をぶち抜いたそれは、勢いを殺すことなく私の機能を停止させんと風を切る。

 だが、この手の奇襲を私は既に超越している。右腕のブレードにプラズマを纏わせ、その弾丸を叩き落とした。

 弾丸の方向にセンサーを集中させる。

 鈍い銀色のボディは、特徴的な装甲で覆われ、砂や傷でその輝きをくすませている。だが、それが逆に敵の強さを示している。

 致命傷とそうでないダメージを嗅ぎ分け、最小限の摩耗で敵を倒してきた証明だ。特徴的なバイザーを頭部に着けており、手にした大型のスナイパーライフルはまだ硝煙を上げている。

 広域通信を受信する。

「この村の住民へ!今のは警告だ!!ここにあるD-roidとパイロットをよこしな!!」

 交渉にすらなっていない恫喝を行う男。なぜここの来客はこういった無法者がおおいのか。

その内容に反して無駄にさわやかな声の男はそのままさらに私に狙いを定める。

 騒ぎを聞きつけ彼女は私に乗り込み、通信を返す。

「できるわけないでしょ!いきなりやってきて何様のつもり!?」

 その強い心は彼女の美徳だ。しかしあの時のチンピラとは状況が異なる。分が悪い。

「あん?なんだお前。その機体のパイロットはどうした?」

 男は通信に驚きを漏らす。まるで私を知っているかのようだった。彼女と出会う前の私は一体どういうものだったのか。

「あたしがパイロットよ!!」

 そうだ。彼女こそが今の私のマスターだ。余分はいらない。アレは敵だ。

「クソガキ。冗談じゃ済まねえぞ?」

 男は軽薄なチンピラのような声に歴戦の戦士だけが持つ冷徹が宿る。

「アイビーを返してもらうぞ。それは、お前なんかがおもちゃにしていい機体じゃねえ。どこから奪い取ったのかしらねーが……殺すぜ?」

「アイビー?」

 会話がうち切られ、センサーの先の機体が突貫する。スナイパーライフルは置き去りにされ、ブーストされる機体が放つ衝撃波が周りの建築物を揺らし、すでに弾丸の穴が開いたドックをさらに機銃の雨でぶち破る勢いだった。

「ひっ・・・」

 トップクラスの傭兵の放つ殺意とそれを載せた機体。恐怖にすくむ彼女を無視して、私は形をもった死を迎え撃つ。こちらからドックをぶち破る。急造の盾は機銃に破壊されたが何とか建物の外での戦う場を作る。

 弾丸そのものとなった機体の体当たりを受け止める。

「お前は、だれだ?」

「しゃべった!?」

 私の問いに、男は驚愕を浮かべる。彼女の実力では挟み込めない動揺も、私の機械の目は見逃さない。拮抗を崩し、体勢を崩した相手にさらに刃を振るう。

「チィ!機械風情が!!わきまえやがれ!」

 刃はボディに浅い擦り傷を残して終わる。そうだ。彼を失った抜け殻の躰にはこの程度しか為すことができない。彼と共にあった傭兵であるならば、この程度も受けられない者であるはずがない。

「生意気なんだよ!!オラァ!」

 機銃の返礼は私を右腕を損傷させ、刃は腕ごと無為に空を切る。刃が重なるこの距離でもこのままでは負ける。

 冷徹に私のシミュレータが戦いの結末をはじき出す。

今までのような有象無象とは違う。これほど歴戦の戦士であるなら、私のようなAIの振るう刃は脅威になっても致命足りえない。私だけでは彼を討つことはできない。徐々に機能停止に追い込まれる戦況は一瞬の予想外で覆る。

「ああ、もう!調子のんじゃないわよ!!」

 彼女の操作に従い、私の体は私の意志から離れて左腕を展開する。

「あんだと!?」

 プラズマキャノンが輝きを解き放つ。ブレードで切り合うような距離でのプラズマキャノンは出力操作が難しい。大出力ならばその余波で自分自身すら致命傷になりうる破壊力があるからだ。しかし、出力を絞ればダメージを与えるのが難しい。ナノマシンの細かな制御が十分にされて可能になる技術だ。こんな愚かなことをやる人間がまだいたとは。

「クソッたれ!正気か!?」

 炸裂するプラズマの超高温は私ごと、敵の外装を溶かしていく。敵対者はブースターをふかし、距離を置いたが、それを逃さんと彼女はさらに踏み込む。

「いきなり因縁つけてくるアンタよりはよっぽど正気よ!!この機体にどんな過去があるのか、乗り手がなんだか知らないけど、アンタなんなのよ!」

「さっきまでおびえてたのに強気だな。マスター。」

「うっさい!」

 彼女はこの数刻で自分を取り戻していた。やはりこの少女の強さは機械の私でもってしても予想を超えていく。

 武装が焼き切れた躯体を強引に動かし、右の機拳を腹に叩き込む。

 彼女の精神が私とのリンクが、触れ合った機体を通して混線する。

「グッ……!?なんだ、これは!?」

 地面にたたきつけられた機体の主は困惑とともに、立ち上がる。

「まだやるってなら、こんなもんじゃ済まさないわよ!!」

 本当にすさまじい精神力だった。それに対して男は何を思ったのか、私達に背を向ける。

「チッ…おい、クソガキ。見逃してやる。そいつはおもちゃじゃねえ。使うってんならちゃんと使ってやれ。」

 そういうとメモリデータが送られてくる。私の送受信アドレスを知っているということだ。この男は本当に私や、私の乗り手との交流があったのだろう。

「ちょっと!帰るっていうならここの修理して行きなさいよ!」

「知るかよ。」

 その機体はその殺人的加速をもって村から離れていった。


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