4話 振りかざされる物
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記憶領域が破損しています。想定されていない動作が行われています。今後の戦闘行動に影響を及ぼす可能性があります。
村はそう簡単には戻らない。当然だ。私という動力不要な重機代わりがあろうと、1日2日で作物は育たない。金を稼ぐ必要があった。襲われるたびに村に被害はでる。プラスにはならない。
幸いというべきか。不幸にもというべきか。鉄屑には困らなかった。襲撃者の機体は鉄くずになり、それをジャンク屋に売る。鑑定も例の襲撃者たちがそれなりに高い鑑識眼を持っており、それはキャンピングカーという足も伴い、なんとか集団を維持することはできた。
しかし、零れ落ちる命は止められない。少女はいつも皆が眠った後に涙を流す。
だからこそ、この状況はいずれ訪れるはずだった状況が前倒しになっただけになったことなのかもしれない。
「右だ。マスター。」
「わかってるわよ!」
マシンガンを死角から迫りくるD-roidに撃ち込む。関節部を打ち抜かれ、振りかざされるブレードアームは明後日の方向にちぎれ跳ぶ。
腕を失い体制を崩した機体は機銃の餌食となる。
「仲間がいる。撃った後まで見る必要はない。常に意識を全方位にまわせ。でなければ、君の仲間が不要に死ぬ。集中しろ。」
「無茶苦茶いうわね!あんたは!!」
ラインを防衛する少年。固定砲台はお粗末にすぎ、身を護る物などない。一発でもくらえば死ぬ。それでも村の何人かの少年たちは自ら武器を取って抵抗した。少年兵ということすら憚られるほどの年齢の子供達が武器を取って戦っている。
こんなものはまともな感性が残っている大人がいれば許されはしなかったことだろう。だが、今は当たり前に起こる光景だ。いや、あるいは。はるか昔からいつも繰り返される狂気なのかもしれない。
敵を取らんと死が迫る。5秒後には乗り手の少女にとって大きな心の傷を残す物を作り出すだろう。
それでも。
「やあああああ!」
「敵機撃墜。」
脚部にアラートが出る程の高出力の突撃。乱暴に振るわれた右腕のブレード。私の鋼鉄の体の摩耗と引き換えに、彼女は仲間の命を救うことが許される。
「もう少し丁寧に扱ってくれないか。マスター。」
「あんたD-roidでしょうが!泣き言うんじゃないわよ!」
「了解した。地獄に堕ちろ。マスター。」
これはバグだ。私がこのように音声を出力しつつも、私の中に存在するのは歓喜だ。コアCPUの内が打ち震えるのがわかる。
戦いへの高揚ではない。そんな野蛮な機能は備えていなければ、リンク先の彼女もそんな性格ではない。
私はもしかしたら、今度は、今度こそは。誰かを守れるかもしれない。そんな予感が私を討ち震わせていた。この思考こそが、私の不具合そのものだと自覚する。
両断する刃は無慈悲にコクピットを通り抜け、その肉と骨を鉄の感触を余すことなく、リンクは彼女に伝える。
同族殺し。新人類も旧人類も変わらない。人間という生き物に与えられた業。これはどのような時代にあっても捨てきれなかった人の営みだ。
それ自体に否はない。そのためにこそ私は作られた。だが、私そのものがその人の業を産むのなら、私はただの禍だ。私彼女が、そして彼が、憤ったあの光景こそ、私自身が作り出すものではなかったか。歓喜が冷めていく。
「これで!とまりなさい!」
「前方より4機。増援。」
「まだっ!!しつっこいのよ!」
振るわれるブレード。火を噴く銃。あるべき世界の平穏を守り、その外を地獄に変える。地獄から不定期に現れるD-roidは数多く、亡者じみている。それらを屠り続けるにもすでに一機のD-roidでは追いつかなくなるような数の敵が襲ってくるのは時間の問題だった。
「これで・・・終わりっ!!」
「状況終了。」
それでも、やるしかないのだろう。彼女がそれを望むなら。
村を境にして外で燃える炎はその不穏を暗示するように揺らめいていた。