1話 受け継がれる物
あたしは、新人類と旧人類の間に生まれた。ナノマシンは入っている。父さんが私の物心つく前に自分のナノマシンを移植したって聞いた。
父さんと母さんが、親がいなくなった子どもや、自分の町を追われた人とかそういった新人類の社会にはじかれた人たちを集めて作った小さな村。
まだできて3世代もたっていない。新人類がいるっていう日本のような、都会のような生活はできないし、父さんと母さんは私の物心つく前に居なくなっても。
それでもここは私の生まれたところで、隣のおばさんも、一緒に畑を耕した子供たちも。かけがえのないものだった。小さいけど、確かな幸せがあった。
だから認めない。こんな光景は認めない。
焦げた肉の臭い。肌を焼く灼熱の風。直視できない程の血。怒号と悲鳴。シェルターへ逃げる人々。許せない。ささやかな生活を、あたしの人生を奪うなんて許さない。
こんなところで、終われない。
だから、あたしはここに来た。「本当に困ったときに使う物」。おじさんたちは私に絶対に見せようとしなかった。中身を聞かせようとしなかった、父さんの贈り物。
いまなら、村の大人たちの気持ちもわかる。こんなものは誰だって使いたくない。
D-roid。新人類に唯一対抗しうる武器。そして、きっと村のみんなの生活を壊してきた呪いの兵器。
「このポンコツ!動きなさいよ!コラッ!あんたもD-roidっていうなら私たちを守りなさい!」
思った物とは違う。それでも私は、こいつを使うと決めたのだ。
Error。
記憶領域が破損しています。想定されていない動作が行われています。今後の戦闘行動に影響が出る恐れがあります。
つまり、ここは旧人類にとっては数少ない、日本の影響を受けない生存圏の一つだった。新人類のある人物が旧人類の子供たちを集めて、教育を始めたのが始まりで、その人物がかつて駆った機体が私らしい。
当時の記憶のない私には、わからないことだが。兵器である私がそんなところにおいてあるということは、彼は私を使うようなことをしていたということなのだろう。
戦いを捨てたのだろうか。それとも捨てきれなかったのだろうか。小さな建物に小規模な畑。彼らは共同生活を大切にしていたのだろう。地面にはすでに削られていたが、落書きのようなものが残っている。戦火を経てなお、そこには平和のぬくもりの残滓があった。
「彼が用意したシェルターがみんなを助けてくれたわ。あんたの場所は父さんが、どうしても武器が必要になった時のためにって伝えていたの。」
父さんは死んじゃったけどね。と付け加える少女。それを見ても私の行動は変わらない。機械に心は宿らない。
「今までもD-roidが来たことが?」
「ないわよ。私達の村は平和に暮らしてた。絡んできたチンピラを追い返したことがあるくらいよ。」
「ならば何らかの理由で新人類に目を付けられたのだろう。今回は何とかなったが、今後も戦うことを考えるなら、対策が必要だ。」
私は主の求める物を提供する。暴力という手段で。