プロローグ 目覚め
プログラム機動。型式番号G7G2I.be.
起動デバイス認証・・・
該当。
識別ナノマシン認証・・・
パイロットデータ確認・・・
未確認のデータが確認されました。機体の起動に不具合が生じる可能性があります。
Error。Error。Error。
―――うるさい。
緊急コードを確認。操作を続行します。
―――私を起こすな。
Error。
記録領域に不具合を確認。動作に深刻な不具合が起こる可能性があります。
デバイスの操作を確認。強制機動します。
何年振りだろうか。半身を失ったかのような喪失感と共に、エンジンに熱が灯る。私のプログラムが起動する。「私」という自我とは別のプログラムが記憶領域を検索する。私が振り返るべき過去を記録した記憶領域は破損していた。
それは、人間でいえば眠りから目を覚ますようなものだったのだろう。しかし、私は人間ではない。私が起動したということは、私に誰かが乗り込んだということだ。
「このポンコツ!動きなさいよ!コラッ!あんたもD-roidっていうならわたしたちを守りなさい!」
ずいぶんな言い草だった。記憶がないとはいえ、ナノマシンによるリンクも中途半端で、これほど不快な起動は製造時からそれなりにたった私にとっても記録にないものだろう。
少なくともあの同一化するような、一つの形となるようなあの感覚には程遠い。
ノイズがかかる。あの感覚とはなんだ?いや、どうでもいいことだ。
「半端者か。」
「わっ!喋った!?」
ナノマシンに適応した人類と、そうでない人類の交配によって生まれた人類。ナノマシンを後付けされた新人類に至らない、しかし旧人類から半歩踏み出した。半端者。
「お前が何の用で私を起動したのか知らないが、さっさと降りろ。私はお前のような子どもを載せる気はない。」
「誰が子どもよ!このポンコツ!!あんたもD-roidなんでしょ!?リンクして!!ほら!あんたすごいセンサーがあるんでしょ!?」
不快極まるが、それでも現状を見てからでも電源を落とすのは遅くない。センサーを稼働させ世界から情報を受け取る。彼女のナノマシンとリンクする。そして後悔した。
ああ。人類は何も変わらない。
燃え盛る炎。迫りくる巨人。蹂躙される営み。怒声と悲鳴とそれらを無感情に量産する者。強者が弱者を虐げる。そうとも。何一つ。『彼』が私から降りてからも何一つ。変わっていないのだ。
気に入らない。全く持って気に入らない。状況を同じく確認した少女の声は焦りを帯びる。
「早く動きなさいよ!じゃないとみんなが!!」
「了解した。」
全く持って乱暴極まるこの少女に従うのは業腹だが、それでも、それ以上にこの光景は我慢ならない。なんのために『彼』が私から降りたかわからないではないか。いや、彼とは誰だ。
機体を駆動させる。10年単位で動かしていないであろうこの躰の動きは本来の主を失ってなお、さび付きはしない。
ドッグをぶち破り、私は戦場に踊りでる。
「きゃあああああああ!」
「口を閉じろ。舌をかむぞ。」
5機のD-roidは突如現れた私に一瞬の間すらなくマシンガンを向ける。冷静な判断。いつか私達も行ったそれ。しかし、何一つ脅威にはならない。
「そういうのはさきにいいなさいよ・・痛っ!」
少女の悪態をシャットアウトし、さらに加速する。
脚部の噴射口が唸る。火を噴き襲い掛かる銃弾は私を捉えることなく通り過ぎる。
全く脅威にはなりえない。ブレードを展開し、まず一機を胴から両断。マシンガンを奪い取ってそのまま2機のコクピットを打ち抜く。接近する2機を跳んでかわし、片方を撃ち落とし、もう片方は空から踏みつぶす。
センサーにはそれ以外のD-roidの反応はない。
おそらく文句を言っているのだろう。少女の怒りの表情を内部カメラがとらえている。いつまでも無視するわけにもいかない。
「これで満足か?」
「もっと丁寧に扱いなさいよ!ポンコツロボ!」
「お前の言うように村から兵を追い払っただろう。」
むくれた表情で少女は応える。こんどはどんな文句がでてくるのか。
「・・・そうね。それは・・・ありがとう。」
以外にも素直だ。これは計算外だった。
「事情を・・聞かせてもらえるか?」
少女が目を見開く。
「助けて・・・くれるの?」
「内容次第だな。」
ためらいがちに少女が語り始める。それが、彼女と私の出会いだった。