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お騒がせ真名ちゃん  作者: 智二香苓
第1章:それぞれの価値観
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第2話 怒りの理由

 それから授業が終わり、ホームルームが始まるまでの時間。

 真名は再び野々花の教室に訪れると、元気な声とともに姿を現した。


「あぁ~んみんな~! また来たよぉ~!」

「ざっけんな帰れよ!! お前どういう神経してんだ!? 自分の教室でやってろバカ!」

「ヴェ!?」


 教室に入るなり大声で急き立てられ、真名は驚いて変な声を出す。

 これには他の女子たちも黙ってなかった。女子たちは眉間にしわを寄せると、すぐに真名を庇うように立ち、永井を睨みつける。


「ちょっと永井君、なに急に!? 別に真名ちゃんなにも悪いことしてないじゃん!」

「まさかまだハムスターのことでイライラしてんの?」

「ペットが見つからないからって八つ当たりしないでくれる? 迷惑なんだけど」

「な、なんだお前ら……っ」


 立て続けに反感を買うと永井はたじろいだ。また、図星を突かれたこともあり、思わず尻込みしてしまう。

 対する女子陣は仲間がいることで気が大きなったのか、尻込みせずに永井に文句を言えた。

 だがそこは男子のプライド。数で圧倒されようとも、永井は負けじと反論する。


「お前らも早く帰りの準備しろよ! いつまでも帰れないだろ!」

「別にまだ先生来ないじゃん。急ぐことでもないし」

「みんないつも先生が来てから準備始めるだろ! それだと時間かかるし、先生も早く終われないじゃないかっ」

「先生先生って、永井君が早く帰りたいだけでしょ」

「元はと言えば、ちゃんとペットの面倒見ずに逃がしちゃった永井君が悪いんじゃん。それに私たちを巻き込まないでよ」

「逃がしたのは俺じゃない! お父さんとお母さんも世話が好きで、家族みんなで面倒見てんだ! 昨日逃げたのだって、俺が学校にいる間にお母さんが籠を掃除したときに逃げちゃったんだよ!」

「なら学校にいる間はお母さん家に探してもらえばいいんじゃない? もしかしたら、今頃見つかってるかもしれないし」

「昨日から餌あげてないんだぞ! お腹空かして死んでたらどうすんだ!?」

「そんな一日くらいじゃ簡単に死なないって」

「俺にとっては大切な家族なんだよ! 動物だからって軽く見てんじゃねえ!」

「いやあああああああああああああん! 真名ちゃんのために争わないでぇ~!」


 と、そこにヒロインぶった真名が仲裁に入って来る。

 が、しかし。


「黙ってろテメェが入って来るとややこしくなんだよ!」

「真名ちゃん邪魔しないでよ! 今の真名ちゃんすっごくブサイクだよ!?」

「臭そう」

「エギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 容姿を指摘されると、真名は破壊的なダメージを受けてすぐに退場した。

 だがお陰で両者の心に余裕ができる。

 すると永井も、自分の置かれている立場が不利であることに気づいたのか、不意に怒りの矛先を別のクラスメイトへ変えた。


「おい、お前日直だろ! 早くホームルーム始めろよ!」

「ええ!? でもチャイム鳴らないと先生来ないし……」

「じゃあ早く先生呼んで来い! 俺は早く帰らなきゃいけないんだ!」

「ちょっとやめなよ! なんでみんなに当たり散らすの!?」

「そういう永井君だって支度してないくせに」

「あーもーうるせぇなあ! お前らが早くしないからだろ! 黙ってろよッ!!」


 正論を言われると、永井は顔を真っ赤にして叫んだ。現に周りの生徒たちが着々と帰りの準備を進める中、永井の机にはランドセルすら置かれていない。

 永井は机を乱暴に退かすと、上履きを鳴らしながら後ろのロッカーに向かう。生徒たちはこれ以上永井を刺激しないよう、横にずれて道を開けた。

 永井はひったくるようにランドセルを取ると、肩を怒らせて足早に席に戻る。そして怒りを表すようにランドセルを机に叩きつけて、わざと大きな音を出した。


「うっわ、キモ」

「でかい音出せば強いと思ってそうでほんと無理なんだけど」

「しつけぇんだよブスが! お前らの方が気持ち悪ぃんだよッ!!」


 女子たちに陰口を言われると、ついに永井の堪忍袋の緒が切れた。小学生の未熟な精神がストレスに耐えることなどできなかった。永井は荒々しく机を蹴り倒す。

 そしてランドセルを手に取ると、女子たちに向かって思いっきりぶん投げた。


「きゃああああー!?」


 女子たちは悲鳴を上げると咄嗟に身を屈めた。幸いランドセルは誰にも直撃することはなく、勢いよく壁に当たると、錠が外れて中身が外にぶちまけられた。

 教科書やノート類が床に散乱した刹那、一緒に出てきた小さな影がさっと走る。

 それを見るや、生徒たちはあっと声を出し、永井は驚愕に目を見開いた。


「おい、今なにかそっちに逃げたぞ!?」

「ハムスターだ! ランドセルの中に隠れてたんだ!」

「きゃあ!?」


 クラス内はあっという間に騒然とした。小さな毛玉が足元を通過する度に、女子たちは互いに身を寄せ、男子たちは我先に捕まえようと追いかけ回す。


「やめろお前ら、走んな! 踏み潰したらどうすんだよ!?」


 ばたばたと足を動かす一同に、永井は必死になって叫んだ。そして自身もハムスターを捕まえようと駆け出し、男子たちを追って自分のペットの姿を探す。


「やばい、廊下に向かったぞ!」


 誰かの叫びに全員の視線が集中する。

 その先には廊下へ向かって直走るハムスターが。

 向かって廊下側からは、こちらに入って来る影が一つ。

 その人物を見るや、女子たちは声を上げた。


「野々花ちゃん、そのハムスター捕まえて! 外に出ちゃう!」

「足元にいるから気をつけて!」

「え?」


 トイレに行っていたのだろうか。野々花はハンカチで手を拭きながら教室に入ろうとすると、周囲の騒ぎに気づいて呆けた顔をした。

 そして足元を見て、今まさに廊下へ飛び出そうとしているハムスターと目が合う。


「嫌ぁ! ネズミ!」


 ダアァァァン!! と、凄まじい音が反響した瞬間。

 永井のハムスターは、勢いよく閉められたドアに挟まれて潰れた。

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