4話 迷宮の中では
あたしは馬車の中では姫の膝に乗って寝てたにゃ。勝気な感じとは違い、あたしを撫でる手は優しい。
そのうち馬車が止まったので外に出る。
迷宮の入り口の見た目はただの洞窟ぐらいにしか見えないんだけど、中から魔物の気配がたくさんする。
「イザークさん、さっきまでの魔物の襲撃は珍しいことなんですか?」
「ん~、出来立ての迷宮のそばで魔物が増える、なんて事例は今までないな。氾濫ならともかく。どうみてもまだほやほやだぞ、この迷宮は。」
「わかるんですか?」
「あー。迷宮は育つほどに入口の形が変わってくるからな。この洞窟みたいな感じはまだまだだ。大きな扉が付く場合もあるぞ。」
門構えが大事だってことなのかにゃ。人間の家と同じだ。
「行くわよ。」姫が馬車から降りてくる。
イザークたちが手際よく停めた馬車の周りに小さな石を置いていく。
「これは、なんですか?」
「これは『気配遮断』の効果を持たせた魔法石というんだ。これに囲まれた場所は魔物に感知されずらくなる。」
「便利ですね。」
「高価だし、一般にはあまり流通しないがな。泥棒なんかが持ってると危ないだろ?」
「そうですね。」
「魔石に高位の付与魔法で効果を付けるのだが、まあ出来る魔法使いはあまりいないからな。この国では宮廷魔術師ぐらいしかいないんじゃなか?」
馬車の気配遮断が完了すると、全員で迷宮に入る。迷宮の通路はかなり広く、10人ほどが並んで歩ける程度だ。入口から少しの間は暗かったが、20mほど進むと壁や天井がほのかに明るくなる。これは岩の中に魔力を持った光る石が混ざっているためで、多くの迷宮はこのようなつくりをしているみたいだ。さらに奥に進むと曲がり角が見えた。
―魔物ヲ感知シマシター
「いるにゃ。」
「あの先に魔物がいるみたいです。」ニャオトの言葉に緊張が走る。待ち伏せをしているみたいでしばらく待っても出てこない。ならこっちから仕掛けるにゃ。
火の玉をいくつか目の前に浮かばせ、飛ばす。角まで行ったところで曲げる。
「ギャー!!」命中したみたいにゃ。王女の護衛に2人残し、イザークたち3人とニャオトが走る。後を追って角を曲がると、
―鑑定シマスー
種族:ホブゴブリン 性別:男 ジョブ:なし
レベル15
所持スキル:「棍棒攻撃」レベル5
ホブゴブリン。見た目はゴブリンに似ているけど、身長が大きく、ニャオトと同じぐらい。額の角はゴブリンより少し大きくなっている。今立っているのは5匹。火の玉の直撃を受けて数匹は焼け焦げている。
混乱しているうちに先手必勝。イザークたちは1人1匹を受け持ち、ニャオトが2匹。
乱戦になっているので少し様子を見る。前に会ったゴブリンよりさすがに強いけど、みんなまだ大丈夫。さすがに姫の護衛をしているだけあって強いにゃ。
ニャオトの横薙ぎで2匹同時に切り裂かれ胴体が上下に分かれる。護衛たちは1撃では倒せないが、ダメージを積み重ねて倒す。
「ホブゴブリンだな。やはり外にいたのとは違う。」イザークたちが話し合っている。
よくわからないからとりあえずドロップアイテム回収。ホブゴブリンのドロップは、ホブゴブリンの棍棒とホブゴブリンの角、そして、
―鑑定シマスー
魔石。魔力ガ魔物ノ体内デ結晶化シタモノ。強イ魔物カラ出現スル。レアドロップ。
魔石?また知らないのが出た。
「魔石持ちだったのか、これは錬金の素材にもなるから高く売れるぞ。魔法石の原料にもなるからな。」
魔石と魔法石。わかりづらいけど、ピカピカ光ってるから大事なものにゃ。回収、回収。
「迷宮は同じ階に出てくる魔物はほぼ同じ種類で同じレベルなのです。やはり普通に攻略できそうですね。」姫様がニャオトに教えている。
「あ、あの、すみません、この迷宮は何階ぐらいまであるんですか?」
「そうですね、たぶん次の階まで、というところでしょうか。」
「な、なるほど。」
「でも、油断は禁物だぞ。何があるかわからん。」
「は、はい、すみません。」
―地図を確認します―
頭の中に迷宮の地図が現れる。そんなに複雑なつくりではなく、確かに2階までのようにゃ。ニャオトにも共有する。
「ほんとだ。」
「ん?」
「あ、いえ、すみません何でもないです。」
簡単な地図だからあえて教えることもないにゃ。うん。ニャオトが余計なこと言わなくて正解だ。
ホブゴブリンは数こそ多いが、特にてこずることもなく。迷宮を進むと階下に降りる階段が現れ、みんなで降りる。
地図で確認するとほぼ一本道、奥に少し広い空間があるみたい。そこに迷宮核があるのかにゃ。
ん?魔物の気配がさっきと違う。道の途中にはいなくて奥の広間に固まってる。
―感知シマシター
最奥ニゴブリンロード、ゴブリンメイジ、ゴブリンファイターガイマス。
―鑑定シマスー
種族:ゴブリンロード 性別:男 ジョブ:「ゴブリンの王」
レベル50
所持スキル:「棍棒攻撃」レベル50 「威圧」レベル30「土魔法」レベル10
種族:ゴブリンメイジ 性別:女 ジョブ:「魔導士」
レベル40
所持スキル:「水魔法」レベル50 「風魔法」レベル50「回復魔法」レベル20
種族:ゴブリンファイター 性別:男 ジョブ:「剣闘士」
レベル40
所持スキル:「斬攻撃」レベル30 「身体強化」レベル20
ちょ、ちょっと待って、やばい、これまずい。全然レベルが違うにゃ。
あたしたちのレベルも上がったとはいえ、これはまずい。
―鑑定シマス-
名前:ナオト 種族:人間 年齢:16歳 性別:男 ジョブ:「剣士」
レベル8
所持スキル:「幸運」MAX「斬攻撃」レベル10 「物理強化」レベル5 「集中」レベル6
所持スペシャルスキル:「剣帝」レベル2
名前:マロン 種族:猫? 年齢:3歳 性別:女 ジョブ:「獣」「魔法使い」
レベル8
所持スキル:「MP自動回復」レベル3「火魔法」レベル5「水魔法」レベル3「土魔法」レベル3「風魔法」レベル2「雷魔法」レベル2「回復魔法」レベル2「獣攻撃」レベル1「空間収納」レベル8
所持スペシャルスキル:「賢者」レベル2
鑑定結果をニャオトに共有する。
「え??」
「どうしました?」
「あ、いや、その~、この先に強い魔物がいるみたいです。」
「あ~、またその猫か?すごいんだな本当に。でも、迷宮核の守護ボスは迷宮の中ではけた違いに強いもんだ。まあ、ホブゴブリンのボスだからハイゴブリンとかな。」
「あ、いや、その、ゴブリン・・・ロード・・・」
「え??今なんと??」
「・・・ゴブリンロードとゴブリンメイジとゴブリンファイターが、いるみたいです、すみません。」
みんなの足取りが止まる。
「ゴブリンロード!!!」
―感知デキマセンー
ソノホカニ感知デキナイ魔物ガイマス。高度ナ隠蔽系ノスキルガ使用サレテイマス。
賢者スキルでも感知できない魔物もいるみたいだ。それも初めてのことでびっくりにゃ。
「え~と、その他にもいるみたいですけど、わからなくてすみません。」
「おいおい本当かよ・・・姫、どうしますか?」
「撤退・・・しかし、迷宮核を浄化しないとさらに強くなる可能性もあります。ここは・・・どうしたら・・・」
姫たちもどうしていいのかわからないのか。
ー何カ来マス!!ー
突然の賢者スキルからの警報。前方を見ると、空気のゆがみ?みたいなものがうごめき・・・
「きゃ~~~~~!!!!」
姫が空中に浮いて、迷宮の奥に引き込まれていく。慌ててニャオトが手を伸ばすが、間一髪届かない。なにか透明な手みたいなものが姫をつかんでいったようだ・
「姫~~~!!!!」護衛たちの叫びも届かないぐらいあっという間に連れていかれた。
「追うぞ!!」
「ちょっと待ってください!!!!」
姫たちに会ってからずっとぼそぼそしゃべっていたニャオトが大きな声で護衛たちを止めた。
「相手の策が見えないのに飛び込むのは危険です。」
「でも、姫が・・・」
「あれは攻撃も出来たはずですが、姫だけを連れ去った。まだなにかあるはずです。たぶん魔物でしょうが、なにか聞いたことはありませんか?隠蔽系のスキルを使っているみたいなんですが。」
「隠蔽系スキルだと?誰か、どうだ?」
「気配遮断より強いスキルとなると・・・たしか、エルフの一部に自然と同化するように見えるスキルがあったような」一人の護衛が答える。
「エルフですか・・・」
「しかし、エルフがゴブリンたちと一緒だとは考えられないな・・・ん?もしかして」
「なんですか?」
「・・・ダークエルフ、かもしれんな」
―解説シマスー
ダークエルフ。エルフノ一種。自然精霊ノ力ヲ源ニスルエルフトハ違イ、闇ノ精霊ノ力ヲ持ッタエルフ。
「ダークエルフ・・・定番ですね。」
「この辺りにダークエルフがいるなんて聞いたことがない。でも、ん~」
「とにかく、この奥にはゴブリンロードなどと一緒にたぶんダークエルフもいて、姫をさらった、ということ、ですよね。」
「正直ダークエルフなんて見たこともないからな、よくわからんが現状認識はそれで合っていると思う。」
「目的は何か・・・。情報が少なすぎてわかりませんね・・・。」
敵の目的はよくわからないが、攫われた姫は助けなきゃいけないよね。う~ん、どうしたらいいかにゃ。
―隠蔽スキルヲ取得シマシター
「空間同調」周囲の空間に同調し、姿と気配を消す。術者のほかに2人まで可能。
にゃ?????