29話 罠
「こちらばかり見てると、危ないぞ」魔王のつぶやき。
振り向くとオーガが棍棒を振り下ろしてきた。
間一髪逃れると、剣を振り、首を切り落とす。
「ナオト!やるしかない!!」
「イザークさん・・・わかりました。マロン必ず助ける!」
マロンを見ると、目は開いているがその瞳には何も映していない。
まずはこの魔物たちを倒す。そしてマロンを助け、魔王を倒す。大丈夫、最初からやることは変わっていない。
エレミアは、風の精霊を使いながら魔物を倒し続けている。ただ魔力がどこまで持つか。
イザークさんとフリッツさんも武器の強さと結界のおかげでまだ余裕はあるが、長引くとまずい。
「聖光魔法!!」
光の壁を魔物にぶつけてつぶす。
剣を振る。そのたびに魔物の命が消えていく。それはそのまま闇の力としてマロンに取り込まれていく。
「くっ、すまん、上位精霊を維持できなく・・・」
「エレミア、大丈夫!」
精霊が消える。エレミアを守るために彼女の近くへ。
「少し休んで」
「すまない・・・」
結界の中なら大丈夫だ。
「聖光魔法、光の剣!!!」
大きく伸びた光の剣を薙ぐ。あたりの魔物が消滅していく。
「雷槍!!!」
「火炎剣!!!」
フリッツさんとイザークさんの攻撃が魔物にとどめを刺す。
残された魔物はあと十数体。
「やるではないか、勇者以外も」
魔王の声が響き渡る。
「お前たちのおかげでだいぶ闇の魔力がだいぶ集まった」
マロンの周りの黒がさらに濃くなっていく。
「そろそろだろう、なあ猫よ」
周囲の黒がマロンの体に入っていく。きれいな茶色の体毛の1本1本が黒く染め上げられていく・・・
「マロン!!!」
すーっと閉じられた目が再度開くと、その瞳は赤に変わっている。
「浄化反転により、これより猫は強化された迷宮核として、この世を迷宮に変え、魔物を生み続ける!!!!」
「にゃーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
マロンの叫び。
「あれは、まずい!!!」
「さあ、その壁をとりはらってやる。ここまで来い勇者よ」
「マロン!!!!」
「あとは俺たちがやる。マロンはまかせたぞ、ナオト!!」
「はい、イザークさん、お願いします!!」
僕は駆け出す。階段を上って魔王に一太刀浴びせるんだ。
なにをしても壊せなかった不可視の壁がなくなっている。
魔王との間に黒いマロンが立ちふさがるように現れる。
「マロン!!!」
「猫よ、その勇者を血祭りにあげて、始めるぞ!」
「にゃー、地獄の幕開けにゃーー!!」
マロンに魔力の発動の気配。
黒の魔力の塊が大きくなる。
「闇魔法!」
魔力の塊が発動される。が、
「何をしている?」
闇魔法は僕じゃなく、魔王に向かって飛び、魔王の掌で握りつぶされる。
「マロン!!!????」
「ふっふっふ、あたしの前に跪け、ニャオト」
「え?」
「にゃんちゃって」
「なんちゃって?」
「ふっ、抵抗できたのか?」
魔王が睨む。
「ええ、それはもう、ばっちりと。変化!!」
マロンが変化を唱えると、茶色の体毛が戻ってきた。
「ど、どういうこと?」
「だから、賢者様のおかげで、なんとかギリギリ抵抗できたの」
「ほ、ほんと?」
「ほんとよ。できるだけ体力奪われないようにじっとして。そもそも闇魔法取得できていたのが大きかったにゃ。反転の原理を解析したにゃ。最後はやられたふりで変化するところまでばっちり計算通り」
マロンに近寄って拾い上げ、力いっぱい抱きしめる。
「ニャオト、痛いにゃ」
「おかえり、マロン」
「ただいま」
「これから魔王を倒すんだけど、一緒にやれる?」
「もちろん。この機会をずっと待ってたんだから」
「よし!」
玉座に座りっぱなしの魔王へ向き直る。
「さあ、魔王、これからが本番だ!!」
「ふっ、余興はこれまでか、精々楽しませてくれよ、菊太郎」
「え!?」