26話 四天王、その1
天馬馬車に乗った僕とエルフの姫エレミア、近衛隊のイザーク隊長とフリッツさんの4人は諜報部隊から聞いた「魔王城」へ向けて空を飛んでいた。
「初めて乗りましたが、早いですね」
フリッツさんからは緊張感があまり見えない。
「お前はほんと大物だよ・・・」
イザークさんは緊張しているのが丸わかりだ。
「そんなことはないですよ。ナオトさんが落ち着いているのにはびっくりしていますけど」
「焦ってますよ、正直。でも必ずマロンを助けるって決めているので。今騒いでも仕方ないと」
「それはそうだが・・・」
「そろそろ報告のあった場所に近づいている」
エレミアの言葉に外を見ると、土だらけの荒野の先に黒い建造物が見えてきた。
「たぶんあれだろう」
「魔王城・・・」
幾重にも連なる城壁の先に大きな城。
「このまま空から行けるとは思わん。手前に降りるぞ」
ゆっくりと降下を始める天馬馬車。
一番手前の城壁の前に止まる。
目の前にはそそりたつ城壁と、その唯一と思われる城門。
「さて、ここから中心部までは大変だろうな」
「そうですね」
「ナオト、もちろん最大戦力はお前だ。マロンを助けるためには魔王を倒さないといけないかもしれない」
「もちろん、その覚悟です」
「露払いは俺たちに任せてもらおう。少しでも奥までお前の体力を温存させる」
「・・・わかりました。でも、無理なら手を出しますよ」
「ああ、それまで高みの見物でもしていてくれ、な、フリッツ」
「ええ、しばらく出番はないですからね」
「お願いします」
「それにしても馬車も見えていただろうに静かだな」
エレミアが言ったとたん、ゆっくり城門が開き始める。
そこに佇んでいるのは一匹の人型の魔物。
「やーやー、我こそは魔王四天王の一人、獣の王ワータイガーである!!」
虎の頭の魔物だ。
「魔王四天王ですか」
「そうだ、我は強いぞ。ここは通さぬ!」
「ここは俺がやる!」
「隊長、別に一人でやる必要は・・・」
「まあ、小手調べだ。無理そうなら頼むぞフリッツ」
「そういうことなら、わかりました」
イザークさんが剣を抜いて前に出る。
「お前は?」
「グラッド王国騎士団近衛隊隊長、イザーク!」
「来いっ!!」
走りながら剣に魔力を通すとイザークさんの剣が赤く光り、炎が吹き上がる。
「火炎剣!!」
前に見た時より炎が強くなっている。
ワータイガーは最小限の動きで躱すと、イザークさんに向けて拳を繰り出す。
ガキンッ!!
間一髪『結界』が間に合った。
「ほお、なかなかの防御魔法だ」
「ありがたいことにな、もらいもんだ」
「ならば、遠慮なくいかせてもらう!」
叫ぶとワータイガーの体が大きくなる。服がはじけて体毛が伸びる。口からは牙が伸びて、四つん這いに。
大きな虎に変貌する。
虎の体がぶれ始めると、1体だったのが、2体、3体、4体に増える。
「分身?」
その1体ずつがそれぞれイザークに攻撃を始める。剣を振って牽制するが体をすり抜ける。
「なにっ?!」
一瞬のスキに背後からの攻撃がきたが、『結界』に阻まれる。
「厄介だな」
「どっちがだよ!」
イザークの剣が虎をとらえるが、またすり抜ける。
「では、こうするか」
4体が同時に襲い掛かってくる。
ガキンンンッ、バリッ!!!
『結界』の一部にひびが入る。
「なにっ!?」
「やはりな、魔力量によってどちらにせよ限界があるのだな、それは。ならば続けるのみ」
そこから虎の怒涛の攻撃が始まる。
イザークさんも剣で応戦するが、実体をつかめない。
「ふはっはーっ!死ね!!」
「イザークさん、右のやつだ!!」
僕の声に反応したイザークさんが右端の虎に切りつけると、血が飛ぶ!
「な、なんだと!?」
分身していた虎が1体にまとまる。腕から血が流れている。
「火炎剣!!!」
最大火力の火炎剣を振り下ろす。縦に真っ二つに斬られた虎が声もなく絶命する。
「な、ナオト殿、なぜわかったのだ?」
「・・・勘、かな」
「・・・へ?」
「ほら、僕、幸運MAXだから」
「くっ、答えになってない・・・」
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暇だにゃ~
闇魔法への抵抗は賢者様に任せてるし、体は動かないし、暇だ。
魔王の部下にずっと見られてるし。
ん~、早くニャオト助けにこないかにゃ。
一人で来るかな?
あのエルフに特製レイピア渡したから一緒に来るかにゃ?
姫はさすがに来ないだろうけど、フリッツとかは一緒かにゃ?
せっかくだから助けてもらった時のことでも考えよう。
きゃ~、ニャオト助けてくれてありがとう~ハート。
人間のメスに変化して、裸で抱き着くのもありか。
ん~、違うか・・・。
―抵抗シテイマスガ、残リ1日程度デ敵ノ術ガ完成シテシマイマスー
えーーー??
くだらないこと考えてたけど、こりゃピンチかも・・・
闇の猫・・・
それも格好いいかもにゃ。
いか~ん、そんな姿でニャオトに会うわけにはいかない。
頑張れ賢者様!!
早くこいこいニャオトー!!