24話 囚われの猫(?)
気が付くとそこは、真っ暗な場所・・・。そして、スポットライトのように少し離れた場所がそこだけ明るくなる。
「目覚めたか、猫よ」
誰にゃ?
スポットライトを浴びているのは、黒いマントの男・・・?
あたしは相変わらず鎖にがんじがらめにされて、空中に浮いている。
「ようこそ魔王城へ。おれが魔王だ」
こいつが魔王。
ん~、見た目は人間と変わらないけど?
頭には髪がない。ハゲってやつ。別に角が生えてるわけじゃない。顔はどちらかというと日本人寄りかにゃ?体もごついけど迷宮のボスたちほどじゃなく、人間の範疇にゃ。
「見た目が人間と変わらない、か。確かにな。まあ、そんなことはどうでも良い。猫よ、我らの道具となるが良い」
あたしの横の空間に黒い玉が現れる。闇魔法に似てる。
「前にも聞いたと思うが、説明してやろう。お前の持っている『浄化』を闇の力で反転させると、迷宮核を大量に生み出すスキルへと変化する。その力を持って魔物の力を強化し、この世界を闇に染めるのだ。その闇の玉は配下たちの闇のエネルギーの塊だ。徐々にお前を闇に染めてくれることだろう」
そもそも、無理に生み出さなくても迷宮できるにゃ。なんで迷宮核が必要なの?
「迷宮は魔力が濃い場所に自然と迷宮核が生まれて出来るものだが、迷宮核には魔物を強化する力がある。人為的に生み出すことが出来れば・・・、それ以上の説明は必要ないだろう?始めるとしよう」
魔王が手を前に出すと、黒い玉からあたしに力が流れ込んでくるのを感じる。
抵抗しようといろいろ思い浮かべるが、魔法もなにも使えない。
これはさすがにやばいにゃ。
「時間はかかるな。お前たち、あとは見張っていろ!」
「はっ」
暗がりに部下たちがいたのか。
当たっていたスポットライトが消えて、魔王はいなくなった。
賢者でも無理?
―少シ時間ヲ稼グコトハ可能―
んじゃ、一秒でも長く抵抗しよう。
きっと。きっとニャオトが助けにくるにゃ!
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エルフたちは非常に協力的だった。
マロンが攫われてすぐに塔から出ると、馬車が用意されていた。
「ペ、ペガサス?」
「エルフ王家の天馬馬車だ。即刻用意させた」
どや顔でエレミアが胸を張る。
2頭の白いペガサスが大きな翼をはためかせて立派な馬車を引いている。
「ペガサスなんて本当にいるんだ・・・。さすが異世界」
「急いで王都に戻るのだろう?少しでも早く着くためには、これがベストだ」
「ありがとう」
素直に感謝を伝える。
「う、そういうのもいいな・・・」
「ん?」
「い、いや、なんでもない。早く乗れ」
御者が扉を開ける。中は向かい合わせのふかふかの席がある。中に入ると後ろからエレミアが乗ってくる。
「え?」
「え?」
「・・・ついてくるんですか?」
「・・・行く」
「・・・そうですか」
「あ、あれだぞ、人間の王に迷宮の件の礼も言わなくてはいけないし、マロン殿にはお世話になったのだ。これでじゃあさようならというわけにはいかない!もちろんナオト殿を守る、というのもあるぞ・・・」
「・・・そうですか」
「・・・嫌か?」
「いえ。頼もしいですよ」
「うっ・・・それも効く」
「え?」
「いや、行くぞ」
扉を閉めて、向かい合わせに座る。
馬車が動き出す。
「姫―!頑張ってください!」
「父上への報告は頼んだぞ!」
「はい!」
エルフたちの見送りを受けて、走り出す馬車は、スピードが上がると浮き上がる。
窓から見るとペガサスが羽ばたいている。
「揺れも少ないし、快適ですね」
「そうだな、空を飛ぶことで邪魔も入らない」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」
なんだか少しエレミアの頬が赤く見える。
「お、王都に着いたらどうするつもりだ?」
「そうですね。まずは王様に報告をして、魔王に関する情報を聞いて、本拠地が分かればすぐに向かうつもりですけど」
「そ、そうか。わたしも行くからな」
「止めても無駄っぽいので、どうぞ。もちろん足手まといなら置いていきますからね」
「ふん!このレイピアの力を使いこなして見せるから心配は無用だ」
「姫もついてくるとか言わないといいけど・・・」
「姫?ああ、ユリア姫だな、『浄化』持ちの」
「はい。北方領の時に危なかったので、連れていきたくはないんですけど」
「行きたがりそうなのか?」
「ん~、どうですかね。本当は一人で行った方がいいとは思ってるんですけど」
「その姫は置いて行け、わたしと二人で行くぞ。そして、ふっ・・・」
「それもなんか変なんですけどね・・・」
窓の外を見ると雄大な自然が眼下にある。この世界は科学が発展していなくて、魔法は使うが自然と共存している。昔の地球もこうだったんだろうなあと思う。
この世界で僕はマロンと二人。絶対に助けなくては。
きっとマロンも僕の助けを待っているはずだ。
マロン、待っててね。
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「どうだ?」
「どうも例の『賢者』スキルが抵抗しているみたいです」
「まあ、想定内だろう?」
「はっ!」
「時間はあるのだ。じっくり準備しろ」
「はっ!」
「もちろんその前に勇者がここまでたどり着くかもしれんがな。それはそれで楽しみだ」
「魔王様?」
「ふっ、昔のように共倒れするか・・・。それも一興だが、俺たちの選択が世界を変えるぞ、勇者!」