23話 塔の浄化
「マロン、大丈夫?」
「あたしは大丈夫にゃ。いま回復魔法かけてるから喋らないで」
あたしはニャオトを抱きしめながら最大出力の回復魔法をかけている。傷はもう塞がったが、大量に流れた血がニャオトの体力低下を示している。
「マロンが無事で良かった」
「黙って」
回復魔法に全力を注ぐ。
階段を上がる足音が近づいてくる。戦闘終了を感じてエルフたちが来たのだろう。
大丈夫、もうちょいで回復するにゃ。
「ナオト殿?!と、そちらの方は、もしかしてマロン殿か?」
エレミアの声が聞こえる。
そうか、この姿はまだ誰にも見せてなかったにゃ。
「そう。こういうのに変化も出来るの。でもまだ誰にも言ってないから内緒にしてもらえると助かるにゃ」
「わかった。それで、ナオト殿は大丈夫なのか?」
「僕は大丈夫ですよ」
「だから、黙って!」
「・・・はい」
「そんなに危なかったのか・・・我らにもっと力があれば・・・」
「姫・・・」
お付きのエルフたちも意気消沈みたい。
―コレヲー
空間収納からミスリルの細い剣、レイピアが出てくる。移動中にこっそり作ったもので、上位精霊を呼び出すためのものにゃ。
「これで上位精霊が呼び出せるはず。1本しか作れなかったけど。でも、魔力消費激しいから、もっと頑張らないとダメにゃ」
「な、なんと・・・。すまぬ。」
「僕からもありがとう、マロン」
「べ、別に。少しでも戦える人が多い方があたしたちも楽だからにゃ」
「持ってるだけでも凄いものだとわかるレイピアだ。今使っているものと使い心地も一緒だ。どう借りを返すべきかもわからぬ・・・」
「借りとかいいから、頑張って使えるようになって」
「そうだな、これで役に立てるのだからな」
と、迷宮の空が暗くなり、ただの天井が現れる。ボス部屋の真ん中にぽっかりと扉だけが浮き上がる。
「あれは、迷宮核の部屋だにゃ」
「ボスが倒されたことで出現したのか」
「んじゃ、手っ取り早く『浄化』してくるにゃ」
ニャオトもだいぶ回復したので、あたしは猫の姿に変化して、扉に向かう。
扉は押すと音もなく開く。中は六角形の部屋になっていて、六本の柱と壁で囲まれている。真ん中に台が置いてあり、そのうえで迷宮核が赤く輝いている。
「マロン、大丈夫?」
平気にゃ。何にもない。
では、『浄化』!!
あたしの体から出た青い光が、迷宮核を包み込む。
どくっどくっと迷宮核が心臓みたいに動く。
赤い光が徐々に薄くなり、輝きを止めた。浄化完了にゃ。
その一瞬。
部屋の角に立っている柱からさっきの蛇ほどもある太さの鎖が六本、あたし目掛けて飛んできた。
一瞬の出来事に反応が遅れる。ニャオトへの全力の回復魔法に続いて、『浄化』で少し疲れていたのだろう。
鎖が生きた蛇のようにあたしの体に巻き付くまで何もできなかった。
でも、こんなの何とでも・・・ならない。
なに?
―対スキル封印ヲ確認、対魔法封印ヲ確認、対精霊封印ヲ確認―
―対抗出来マセンー
え?
―転移魔法発動ヲ確認―
え?
「マロン!!」
あ、ニャオトの声だ。
一気に前の前が暗くなる。やば、これ、罠?やられた・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
迷宮核の部屋にマロンが入っていく。
回復魔法でだいぶ回復したけど、まだ本調子じゃないなこれは。
さっきの戦いは油断したわけじゃない。でもマロンが攻撃されると気づいた瞬間、体がほぼ勝手に動いた。
もう誰も死なせない。
全部僕が守る。
その決意はあっけなく破られる・・・。
『浄化』の力の奔流がこちらにも感じ取れた。
『浄化』が終われば、また城に帰って、魔王を倒しに行かなくちゃ。
え?
『浄化』が終わると同時に大きな音が響く。扉から見えた光景は、鎖にぐるぐる巻きにされたマロンの姿。
「マロン!!」
叫ぶが体が動かない。
扉の中の景色が黒に変わり、何も見えなくなる・・・。
「マロン殿!?」
エレミアが扉の中に入るが、そこにはもう何もない。
「転移魔法か?」
転移魔法というのがあるのか。
これは、罠だったんだ・・・。
もしかして、はじめから狙いはマロンだったのだろうか?
どっちにしても、僕は、マロンを、守れなかった・・・。
「うわあああああああああああああああ!!!!!!!」
どうしようもなく叫び声が止まらない・・・。
「落ち着け、ナオト殿!」
落ち着いてなんかいられるか。
「あれは転移魔法だろう。おそらくマロン殿のスキルなどを封じて、強制的にどこかに飛ばした。我々にもマロン殿が『浄化』するのはわかっていたからな。間違いなく狙いはマロン殿だ。この手の込んだ罠を見れば、仕掛けたのは間違いなく魔王だろう。マロン殿が狙われることに何か心当たりはないか?」
心当たり?そんなものあるわけない。
「魔王が勇者を狙うならまだわかるが、狙われたのはマロン殿だ。きっと何かある!」
あ、もしかして・・・。
「もしかして・・・」
「なんだ、なんでもいい」
「前に姫が囚われたことがあった」
「北方領でのことだな?」
「たしか、『浄化』スキルを闇の力で反転させることで迷宮核を生み出すスキルに変えることが出来る、だった」
「それだ!王女の『浄化』ではなく、マロン殿の『浄化』を狙ったのだ」
「・・・『浄化』を」
「闇の力での反転となるとそう簡単にはいくまい!」
「た、たぶん」
「すぐ殺されるわけじゃないとすれば、まだ間に合うのではないか?」
そうか、まだ間に合うかも。
いや、間に合わせる、間に合わせるんだ!
「行くぞ、ナオト殿!」
「ああ」
マロン、必ず助けに行くからね。