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異世界は猫(?)と共に(仮)  作者: 藤間ココロ
第三章 野望
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幕間 夢3 夢に酔う

 目が覚めるといつもと違う日常。こんなことが僕の身にも起こるのか。物語の世界だけだとなんとなく思っていたけど。そう、確かに僕の世界は変わった。


 僧侶の予言は見事に当たった。

 翌日の夕方、まだ前日の片付けが終わっていないときにその揺れは起こった。浅草では大きな火事になったらしい。

 半信半疑だったあの予言。これは信じざるを得ない、ということなのか。


 大っぴらに予言の内容を言うわけにはいかなかったので、店の中では地震は何度も来るからと言って回るしかなかったが、そのおかげで大した被害にはならなかった。


 数日後、また加助がこっそりやって来た。


「菊太郎、おれが言ったとおりだったろ?」

「え?なにが?」

「すごい人だって」

「まあ、そうだね。でも何で地震が来る日を当てることが出来たんだろ?」

「そりゃあスゲー人だから、じゃないか」

「う、うん、まあそうなんだけど」

「でな、また一度集まろうって話なんだけど、行くよな?」

「・・・うん、まあ。おかげで被害が少なかったからね・・・」

「んじゃ、今夜また迎えに来るからさ」



 そして、その夜。

「今夜も集まってくれてありがとう。感謝する」

 大柄な僧侶は頭を下げる。


「聞いたところではこの間集まってくれたみんなのところは地震の被害が少なかったと。何よりだ。さて、前回も話したが、この国は大きく変わろうとしている。そこで、皆の力を貸してほしいというのが俺の頼みだ」


 再度頭を下げた後持ち上げた顔は笑っていた。


「今の将軍の世は間違ってる!」


「え?」ざわざわ


「日々一生懸命働いてるみんなは毎日苦しい生活を送ってる。一方幕府の偉いさんたちははどうだ?みんなから吸い取った金で悠々と暮らしてやがる。これを俺は変えたい!頑張ったもんが頑張っただけ良い暮らしが出来る世の中に」


 広間から身じろぎ一つ音が消えた。


「そのためには俺一人ではだめだ。同じ志を持つ仲間、目の前のみんなが必要だ」


「そりゃあ、世の中がおかしいってのはわかるが、俺たちに何が出来るってんだ?」

 誰かがぼそっと言ったその言葉は、思いがけず大きく広がった。


「だよな、そう思うよな。でもな、よく考えてほしい。初代将軍徳川家康は幼少のころは人質として織田家や今川家を行ったり来たりしていた。もっと前はどうだ?源氏だ平氏だって夜盗の真似してた時代があったんだ。それにくらべりゃみんなの方がマシじゃねえか?」


「それでも俺たちだけでは限界があるのも確かだ。が、実は俺達には後ろ盾がある!名前はまだ言えないが、さる西国の殿様が俺たちと同じように幕府のやり方に疑問を持っている。きっかけは黒船だ。そこで俺たちに力を貸してくれるということになったのさ」


 ざわざわ


「ぐ、具体的にどうするつもりなんですか?」

 思わず口に出てしまった。

 僧侶と目が合った。

 にやりと笑う顔。


「そこの若様、良く聞いてくれた。目指すのは打倒幕府!必要なのは金と力。金は西国の殿様がどうにかしてくれる。力は数だ。賛同してくれる人を増やす。そして、幕府を倒すために幕府に不満を持つ外様大名も取り込んで、天子様を担ぎ上げて幕府を亡くす。王政復古って言うんだ」


「それは幕府と戦争するってことじゃないんですか?」


「戦は馬鹿な武士たちのもんだ。俺たちはあくまで平和に、頭脳と策略で平和に事を成す!!」


 言い切った僧侶はすがすがしい顔をしている。


「そうだ、新顔のみんなにはまだ名乗ってなかったな。俺の名前は義仙。見ての通りの坊主崩れだ。そこの若様、名前は?」


「き、菊太郎、です」


「菊太郎。荒唐無稽な話に聞こえるかもしれない。みんなもそうだろ。でも声をあげなきゃ何も変わらねえ。一度騙されたと思って俺に力を貸してくれねえか?もし俺が間違ったら、その時は。その時は俺の首を刎ねてやってくれよ」


 熱い口調から一転、優しく澄んだ声音で自分の首を叩きながら語る僧侶から全く目が離せなかった。知らず知らずに胸に熱いものがこみ上げてくる。


「わかりました。僕は、やります」


 俺も、俺もとその場にいる人間が手を挙げ、声をあげた。


「ありがとう。本当にありがとう。さて、今から俺たちは仲間だ。よろしく頼む」




 そこからはあっという間に時間が過ぎていった感じがする。

 その場にいた全員が名前を書く用紙。いわゆる血判状か。そこにはこう書かれていた。

『憂国隊名簿』

 僕たちの名前は憂国隊と決めていたらしい。国を憂う、か。まるで昔話の英雄にでもなった気がする。

 そこで隊の十条の隊則も発表された。

 秘密をばらすなとか、結束を乱すなとかそんなところだ。組織は隊長に義仙さん。その他に副隊長が三人、参事が十人。参事十人の下に各十人ずつの組が配置された。僕は加助と同じ組で、参事は喜平治さんという、僕と同じ商人風の人だった。



「これからはそれぞれの組に指示を出すので、参事の命令で動いてくれ。もちろん普段は今の仕事を続けて、空いてるときに無理しない程度に手伝ってくれればよい」

 副隊長の一人が言う。

 そこで全員に銀色に鈍く輝くひょうたんがついた根付が配られた。


「これは憂国隊の証だ。ゆめゆめ無くすことのないように。では、今日のところは解散だ」



 組の中で連絡方法を決めて、屋敷を出ようとする。


「そこの、菊太郎といったか?」


「は、はい」


「隊長がお呼びだ、こちらへ」


「え?あ、はい」


「菊太郎、おれ先に行くな。また明日」

 加助が先に帰る。

 呼び止めた人について廊下を歩くと、ある部屋の襖の前で止められる。


「隊長、菊太郎を呼んできました」


「入ってくれ」

 襖が開けられると小さな部屋。茶室かな?そこに大柄な隊長が一人で座っているのものだからさらに小さく感じられる。


「まあ、そこに座ってくれ。人払いを」

「はっ」

 隊員の人が出ていく。


「そんなに緊張するなよ、取って食ったりはしねえ」

「は、はい」

 正座をして隊長と向き合う。


「さっきはありがとうな。菊太郎の質問で俺の言いたいことがみんなにも少しは伝わっただろう」

「は、はい」


「加助から聞いている。お前は優しくて賢いとな。確かにそうなんだろう」

「い、いえそんな・・・」


「だがな、人の上に立つとなると優しいだけじゃダメだ」


 え?なんでこんな話になってるんだ?

 でもおとっつあんにも前に言われたな。番頭や丁稚に舐められないように強くあらねばならぬと。


「菊太郎。俺はお前に期待している。早く俺の右腕になれ」


 そ、そんな、急に・・・


「って言いたかっただけだ。まずは組の中でしっかりやってくれ。な~に、お前ならそんんなに時間かからずここに来るさ」

 自分の右側の床をとんとんと叩きながら隊長が笑う。


「は、はい」



 帰り道はどう帰って来たかもわからないぐらいふわふわしていた。

 店の跡取りという以外特に長所もない自分に目をかけてくれた隊長の言葉が胸にじわっとくる。


 翌朝、特に大きな変化もない家。地震の影響でまだ修理出来てないところもあるが、商売を始めている。


「菊太郎!酒井屋さんまでちょっと頼まれてくれないか?」

「は~い」


 いつもの風呂敷包を持って店を出ると、また向かいのおはなが掃除をしている。


「おはよう、菊太郎さん」

「おはよう、おはな」


「あれ?なんかあった?」

「え?」

「なんだか雰囲気が違うような?気のせいかしら?」

「気のせいだろう。なにもないよ」

「そう?まあいいわ。あ、あのね、菊太郎さん」

「なんだい?」

「あ、いや、また今度ではいいわ。今度相談したいことがあって・・・」

「そうかい。それじゃあ今度おやつの時間にでもおいで」

「ええ。気を付けていってらっしゃい」



 でもその約束はしばらく果たせなかった。憂国隊としての役割が始まったのだ。

 仕事の合間に加助やその他の隊員が1日置きぐらいに現れては参事からの依頼を告げていく。その内容はそう難しいものではなかったが、正直どんな意味があるのかわからない指示が多かった。

 手紙みたいなものを武家屋敷や大きな商家に届けるようなこと。まあ、仲間を増やすとか秘密の言伝などだとは思うが、役に立っているのかがわからない。

 僕が多少得意だったのは同世代の若者を集めて隊への勧誘を行う時だった。顔の広い加助が連れてきた人たちに世の中の事や憂国隊の志なんかを熱く語る。

 あの時の隊長の熱さを思い出しながら話すとまるで乗り移ったように言葉が出てくる。僕が説得するたびにどんどん仲間が増えていく感覚。


 時折隊長に呼ばれては、ほめられ、その次にはまた熱が入った演説ができるようになるという循環。

 自分でもこんなにうまく話せるとは思ってなかったが、不思議なものだ。


 そう、正直あの時の僕は調子に乗っていた。なんでもできる気になっていたのだ。本当に世の中を自分たちで変えられると思っていた。


 でも、そんなわけないんだ。


 夢はいつか覚める・・・


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