18話 戦いの結末
賢者が解析した幻惑を使ってニャオト達を起こす。
「公爵!?吸血鬼は!?マロン?」
「カストロは俺が倒した」
公爵を訝し気に見る3人。たしかに倒したのは公爵にゃ。でもにゃ~。
「説明をしてもらえますか?どうしてここに魔王の配下がいたのか」
イザークが代表して聞く。
「ふ、言葉はいらないと思うが。所詮俺にはこれしかないからな」
公爵は剣を抜いて構える。
体から溢れる殺気は冗談ではないと感じさせるのに十分だった。
たまらず3人もそれぞれの武器を構える。
「遠慮はするな、俺は最初から本気で行くぞ!」
声と同時に公爵の背後から赤い翼が広がり、瞳が赤く輝く。
「そ、それは!?」
それには応えず剣が振り下ろされる。
回避しながらイザークが剣を薙いでけん制する。が、それに構わず公爵はニャオトに切り掛かる。
ニャオトの剣が公爵の剣を止める。
「あなたも吸血鬼になった、ということですか?」
無言のまま公爵の剣は何度も振り下ろされる。
背後からきたフリッツの突きを体を捩じって躱すと、今度はフリッツに向けて剣を振る。
フリッツが距離を取る。
赤い翼が軽く羽ばたいたかと思うと、公爵の体が宙に浮き、フリッツ目掛けて飛ぶ。
「飛ぶのか!」
突撃を回避するが、地下室の壁に当たる前に旋回し、剣を構えなおしてフリッツに向かう。
低空飛行の斬撃は、剣の直撃ではなかったが身体同士のぶつかり合いでフリッツが跳ね飛ばされた。
背中をもろに壁に激突させたフリッツは崩れ落ちる。
追撃を狙う公爵の動きを2人が割って入ってけん制する。
「はああああーーー!!」
イザークが魔力を込めると火属性の剣から炎が立ち上がる。剣を振ると炎の先が公爵を掠める。
「いいぞ、さすが近衛隊だ」
そのすきにフリッツに近づいて、
回復魔法!
「次はどうかな」
カストロも使った赤い羽根の弾丸が襲ってくる。
動きを止める!
重力魔法!!
公爵に重力がかかり動きが止まった隙に、ニャオトとイザークの剣が迫る。
ニャオトの剣は首を、イザークの剣は左腕を切り落とす。
「やったか」
と、切り落とされた首と左腕が黒い蝙蝠に変わり、また元の場所に集まって、首と腕に戻る。重力魔法の力も弾き飛ばされたようだ。
「やっぱり吸血鬼になったんですね。なぜですか!!??」
「力が欲しかったのだよ。600年の長きに渡りこの国は次の魔王出現に怯えながら生きてきた。それを私の代で終わらせるために・・・。と言っても理解はできまい」
「魔物になることで解決できるとは思いません」
「それこそ意見の相違というやつだな。俺はこれが最善手だと思った、それだけだ」
「姫は?その棺の中でどうなっているのです?」
「王女の持つ『浄化』スキルだが、カストロ曰く闇の力で反転させることで迷宮核を生み出すスキルに変えることが出来るらしいのだ。その棺の中に眷属たちの力を集めることが出来るという仕組みだ」
「姫も魔物に変えようと!!??」
「どこまで変わるかはわからん。だが、俺の伴侶として手厚く迎えよう」
「そんなこと許してたまるかっ!」
「俺が憎いか?なら、俺を倒して王女を救う以外ないだろ?やってみろ!!」
背中の赤い翼が公爵の全身を覆い、徐々に皮膚に浸透していく。公爵の形はしているが、全身赤い魔物に変わっていく。
「近衛隊の名にかけて姫を取り戻す!」
回復したフリッツが風と雷を纏い突撃する。
あたしも、土の槍!!
雷槍と土魔法が公爵の体に突き刺さる。腕が吹き飛び胴体に穴が空くがすぐ回復する。
グアアアアアア!!!
赤い魔物はニャオトに切り掛かる。
剣をいなすが、構わず振り回す。横合いからイザークが切りつけ、フリッツが突き刺すが構わない。ニャオトだけをターゲットにしている。
「無視され続けるわけにはいかない!俺にも近衛隊隊長の意地がある!!」
イザークの炎の剣が首に突き刺さる。
それを気にもせず、公爵の剣がイザークに向かって振るわれる。一瞬反応が遅れたイザークの剣を持った右腕が肩口から切り落とされた。
「イザークさん!!」
土魔法連打!!
少しでも牽制になればと放った土魔法。
その土の塊の一つが腕ごと地面に落ちるイザークの剣に反射して赤い魔物の体に突き刺さる。予期せぬ角度からの攻撃で魔物の動きに隙が出来た。
「いまだっ!聖光魔法――!!」
ニャオトの剣だけではなく体も光に包まれる。
「マロン!追加だ」
強力に圧縮させた火と風の魔法をニャオトの剣に飛ばす。
衝撃から立ち直った赤い魔物が向かってくるところにタイミングばっちり。
「魔法剣、シャイニングフェニックス!!」
聖光魔法に火の鳥を同時に纏わせたニャオトの剣が縦に赤い魔物の体を切り裂く。
「グ、グゲエエエエエ!!」
聖光魔法は勇者だけに与えられる魔王討伐のための魔法。その力は魔物の能力を切り裂き、滅するためにある。
今のニャオトの最大級の威力を込めた魔法剣は、赤い魔物の回復能力を妨げ、体を覆っていた赤い翼が剥がれ、公爵の体が現れた。
「さ、さすがだ勇者よ」
「マロン、イザークさんに回復魔法を!」
フリッツがイザークの下で止血作業をしている。
回復魔法!!!
「勇者よ、とどめを・・・」
「姫は、大丈夫なんですか?」
「カストロが死んで、眷属からのエネルギー供給は止まってるはずだからたぶんな」
すっかり人間の姿に戻ってきた公爵は自分の剣を握りしめ、ニャオトと対峙する。
「もう止めましょう」
「ここまでやったら、死ぬしかないんだ俺は。最後は戦いの中で死にたい!」
渾身の力をこめて振りかぶった剣を下す。ニャオトは躱すだけ。
何度も振るわれる弱り切った剣。
「頼む、情けをくれ!」
「嫌です!」
「そんな弱腰で魔王が倒せるのか!?」
「・・・それは」
「勇者よ、これからも魔王はお前の全てを奪おうとしてくるぞ。跳ね返せなくなったときが終わりだ。こんな人間一人殺せないで、なにが勇者だ」
「うるさい!」
ニャオトの剣を持つ手に力が入る。ダメにゃ。よくわからないけど、それはダメな気がする。ニャオトー。
ゆっくりと持ち上がるニャオトの剣が、すーっと公爵の体に入っていく。
抵抗もなく受け入れた公爵は笑みを浮かべて。
傷口から大量に血が噴き出る。頭からかぶって赤に染まるニャオト。
「さ、さすが、勇者よ。あ、ありがとう・・・」
倒れた公爵の体はぼろぼろと崩れ去っていく。
「う、うわーーーーーーー!!!!!!」
真っ赤なニャオトは剣を握りしめたまま、泣き崩れる。
間隔あいていつもすみません。
章終わりです。
幕間挟んで新章にいこうと思います。