17話 公爵の野望
頭が重い・・・身動きが取れない。目は開いても暗い、ここはどこ?
「おお、さすが王女。意識が戻るのが早いな」
暗闇の中、どこか遠くの方から公爵の声が聞こえる。
「・・・公爵?」
「すまないな、こんなことになってしまって」
「え?」
「俺にこんな想いがあるなんて自分でも分かってなかった」
「公爵・・・?」
語りかけているようでもあるが、独白でもあるような。
「なあ、俺の妻にならないか?」
「・・・それはお断りしたはずですが・・・」
「状況は日々変わるからな。まあ、考えておいてくれ。お休み」
姫の意識が遠くなっていく・・・。
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広い地下室に整然と並べられた黒い棺。100、いや200はあるかも。空気もどこか冷たく感じる。いや、実際に寒いのだろう。
「なんだこりゃ?」
「・・・開けてみるしかないでしょうね」
フリッツが一番近くの棺の上にかぶさっている蓋を動かす。重い蓋がずれると中には、
「・・・やはりというかなんというか、人、ですね・・・死んでる・・・?」
青白い顔をした人間のオスが目を閉じて横たわっている。
「これ全部かよ?」
イザークが他の棺も開けてみる。こっちには人間のメス。同じように青白い顔をしている。
「呼吸も脈もないな」
触ったにゃ。すごい。
「墓地、ではないよな。保管所?何のために?ダメだ、わからん」
「奥に扉がありますね」
入口の反対側、遠くに確かに扉がある。
棺の間を通って向かう。
頑丈そうな扉が近づいてくると、
―結界ガ張ラレテイマスー
結界??
「結界、だそうです。ここに」
一見なにもなさそうな空間に硬い感触があり、その先に進めない。
「・・・どうか、帰ってもらえないだろうか?」
「公爵!!??」
どこからか公爵の声が聞こえた。遠くから?いや、頭の中に直接話しかけられているみたいにゃ。賢者の声みたいに。
「まだ準備が出来てないんだよ、頼むから引き返してくれ・・・」
「公爵!まさか姫を攫ったのですか?」
「・・・そうなるかな。嫁にもらうことにした」
「どうして!?」
「諦めて帰ってくれ・・・」
「すみませんが、それは出来ません。説明を!公爵!!」
ニャオトが叫ぶ。
「・・・説明できるぐらいならこんなことしないんだが・・・。しかたない、ちょっと大人しくしていてくれ」
公爵の声のあとに地下室にギギギーっと音が響きだす。振り返るとたくさんの棺の蓋が動きだして、中から頭が見え始めた。
「う、動いたぞ!!??」
―吸血鬼ノ眷属ト思ワレマスー
「吸血鬼の眷属!?」
「ナオトさん、吸血鬼って言いました?」
「賢者によると吸血鬼の眷属、とのことですが・・・」
わらわらと棺から出てくる人々。
「結界を破って進むか、この人たちを倒すか・・・」
―結界ハ強力ナ攻撃破レル可能性ガアリマス。眷属ノ支配ヲ外スニハ、吸血鬼ヲ倒スシカアリマセン。ソレデモ元ノ人間ニ戻レル可能性ハ低イー
「結界は攻撃で破れる可能性があると。この人たちは吸血鬼を倒すしかない、と。」
「なら、やるしかないですね」
フリッツの魔力が急激に高まる。
「行く!!」
風の魔法の力で推進力を高め、持っている槍は雷光が輝き、瞬足の突きを見えない結界に対して打ち付ける。
パキン!!
ガラスが割れるような音が響く。
「やったか?」
「いえ、まだです。一層ではないですね、これ」
後ろからは操られた人々が近づいてくる。ホラーにゃ。
「もう一度だ。みんなでやろう」
イザークが魔力を込めて剣を発火させ、フリッツの雷、ニャオトは聖光をまとわせる。あたしは、ん~、土魔法かな。溜めて~~~~
「いくぞ!」
「いけ~!!!」
にゃ~~~~!!!
パリーーーン!!!
「割れた!!」
「扉を開け、行くぞ!!」
急いで扉の中に入り、閉める。
中は床一面がほのかに輝き、なにやら文様のようなものが書かれている。その中心には白い棺。さっきまで見ていたものとは明らかに違う。
そして、棺のそばには一人の魔物が佇んでいた。黒いマント、赤い目。こいつが吸血鬼か。
「よく我の結界を破ったな」
―鑑定シマスー
名前:カストロ 種族:ヴァンパイア 年齢:350歳 性別:男 ジョブ:「吸血鬼」
レベル?????
所持スキル:「吸血魔法」レベル50 「変化」レベル50 「隠蔽」レベル????? 「幻惑」レベル30 「結界魔法」レベル20
所持スペシャルスキル:「吸血」レベル50
「我は魔王様の配下、ヴァンパイアのカストロ。ここまで来た実力は認めるが、さて、邪魔はしてほしくないな」
「その棺に姫が入ってるのか?」
「そうだろうな。で、どうする?」
「もちろん、助ける!」
「我を排除できるか??」
「公爵はどこだ!?」
「それの答えは自分たちで見つけるのだな」
吸血鬼の背後に赤い翼がゆっくりと広がる。と、翼から羽が何本も飛んでくる。
土の壁!!
土の壁に刺さった羽はじわっと溶け出してまた翼に帰っていく。
「あれは、血液か?」
「吸血鬼は血を操ると言われていますからね」
再度羽が飛んでくる。
土の壁!
と、壁を避けて後ろにいたあたしたちに向けて羽が飛んでくる。
「やらせん!」
イザークの炎の剣が羽を切り裂く。ジュッと蒸発する音、効果はあり。
「聖光剣!!」
ニャオトが羽を掻い潜り吸血鬼に魔法剣を振る。
「これはまずい魔法だね」
吸血鬼が言うと黒い霧が体を包み、そしてニャオトの剣がすり抜けた!?
よく見ると吸血鬼の体は小さな何かに分裂して攻撃を避けたのにゃ。
「蝙蝠?吸血鬼は『変化』を使うと聞いたことがある!」
黒い小さな蝙蝠たちはまた集まって吸血鬼に戻る。
戻るところを狙ってフリッツが槍の突撃。雷も伴っている。が、また蝙蝠に分裂する。
フリッツの雷撃は変化した蝙蝠の数匹に効いたようだが、まとまって吸血鬼に戻るとダメージは残ってなさそうだ。
「このまま続けるのも楽しいんだが、やらなきゃいけないこともあるからね。少し眠ってくれないか?」
吸血鬼の両眼が怪しく光る。
と、景色が変わる。
地下室から、ここは、森の中??
立っている開けた草地の周囲が高い木で囲まれている。ここは・・・最初に目覚めた場所!ニャオトもその他二人もいない。
よく見ると足元に白い皿がおいてあり、中身はお魚。これは食べるしかないにゃ。もぐもぐ・・・く~、新鮮でうまいにゃ~~~!
ほっぺが落ちるとはこのこと。
ん?いいのかこれ食べて?
―吸血鬼ノ幻惑魔法ノ力デスー
―解除シマスー
賢者の声とともに森の景色が溶け、地下室に戻る。
「幻惑への抵抗が可能なのか、その猫!!??」
吸血鬼の顔が少し引き攣る。
「危険だ、排除する!」
赤い羽が今度はあたしだけに集中して飛んでくる。
「火の玉分裂!」
小さい火魔法を羽にぶつけて相打ちさせる。
火に弱いのは見たにゃ。そして、
「行け!火の鳥!!」
本体に向けて圧縮された火と風の魔力を飛ばすと、蝙蝠に分裂して避ける。
それも何度も見た。ここは新しい魔法を使う。
「重力魔法!!」
鎧を軽くするための付与魔法を何度か使っていると、いつの間にか『重力魔法』が使えるようになっていた。
簡単にいうと物を重くしたり、軽くしたりする魔法にゃ。
重力魔法で蝙蝠たちをまとめて地面に叩きつける。
「くっ、こ、これは動けないっ!」
蝙蝠から人型に融合しても動かせない。
「こんな存在は予想外だ。ローレンツ!早く来い!!」
と、空間の一部が歪み、人影が現れる。公爵にゃ。
無表情に剣を構えている。
ニャオトたちはたぶんまだ幻惑の中にいて、床に倒れたまま。重力魔法を解除しないと公爵に対応するのは難しいが、賢者の演算が始まる。
「ローレンツ、その猫は危険だ。一緒に・・・ぐはっ!!!ど、どういう・・・」
公爵は吸血鬼の頭の部分に自分の剣を刺す。
「先ほど剣に聖水を塗ってきた。これでは無理だろ?」
「ローレンツ、貴様裏切るのかーーー!!??」
剣が刺さったところから吸血鬼はぼろぼろと崩れて、塵になっていく。
「マロン、だったな、勇者たちを起こしてくれ」
その無表情が変わることはない。