16話 公爵の力と異変
訓練用の木剣を持って訓練場に立つ。周囲を観客が囲み、その中には姫たちもいる。対戦相手がゆっくりとやってくる。
「待たせたな。準備はいいか?」
「はい」
「では、行こう」
軽く言うと力を抜いたまま、公爵は踏み込んで木剣を突いてくる。
木剣を合わせて切っ先をずらし、そのまま上段から打ち下ろす。ニャオトの剣を身を低くしてかい潜った公爵は振り向いて正眼で向き合う。
「うん、まだ甘さはあるがさすが勇者よ、隙がない。ので、こう行こうか!」
公爵の体が回転すると片手に持った剣を薙いでくる。避けようと下がるニャオトだが、回転と片手に持ち替えたことで思ったより剣が伸びてくる。
虚を突かれて剣を合わせる。
胴を狙った剣を防ぐが、目の前の公爵が一瞬消えた。
「え?」
身体を低くして視界から消えた公爵は片手剣をニャオトの足元へ伸ばす。
視覚ではとらえきれないニャオトは殺気を感じて躊躇なく上に飛び上がる。その足元を公爵の剣がくぐる。
「これも防ぐか」
速いにゃ。
「行きます!」
態勢を整えたニャオトが一気に距離を詰め、剣を薙ぐ。
対応する公爵の剣は下段からの振り上げ。だが、切っ先が地面に付いた?と、地面の土ごと振り上げ、土くれがニャオトの顔に飛ぶ。
またも奇襲を受けるが今度はニャオトが冷静。顔だけで土くれを避けるとさらに距離を詰め連続突き。避ける公爵の首元にニャオトの木剣がピタッと付けられる。
「こりゃ参った」
おお~~!!
「やはり強いものとやりあわないとだめだな。鈍った」
「いえ、本気は出されてなかったと思いますが」
「ほう、そう来るか」
公爵の瞳がキラリと光った。
「面白い、これが勇者か。感服いたした。さあ、今夜は宴だ!朝まで騒ぐぞ!!付き合ってもらうからな、勇者よ」
「え?は、まあ・・・」
戸惑うニャオトの顔を見ながら高笑いをしながら去っていく公爵。
日が落ちて、公爵の屋敷の広間ではパーティーが始まる。楽団が音楽を奏でる。
大きなテーブルにはたくさんの料理が並び、居並ぶ人々は豪華な服に身を包む。
ニャオトも用意された貴族用の服に着替え、姫はヒラヒラのドレスだ。
「では、王女と勇者に。乾杯!」
公爵の声にグラスをあげる。
「公爵!」
「どうされた王女?」
「その、王かの書状への返事はどうされました?」
「・・・それは明日、場を設けますので、今宵は楽しんでください」
にやりと笑うその姿も様にはなってるにゃ。イケオジにゃ。
「であれば、明日・・・」
あたしにもおいしい料理が用意されていたのでガツガツ食べる。うまいにゃ。ん?ニャオトが見えない?あ、端っこでメスたちに捕まってる。
「勇者様、これも美味しいですわ」
「この飲み物はこの北方で取れる果実を使って・・・」
「お強いんですね~。こんなに華奢なのに」なでなで
「あ、ちょっと、それは・・・」
「勇者様~、これも食べてください~」
囲まれていちゃいちゃ。イラッ。そ~っと。ガブッ!!
「い、痛っ!!」
ふ~
「公爵は噂以上、ですかね?」
「そうだな、ナオトとのあれでも手を抜いていたみたいだしな」
「ワクワク、自分もそのうち戦えますかね?」
「ん?どうかな。お前はそればっかりだな・・・」
「公爵が以前姫に結婚を申し込んだという噂は?」
「本当らしいぞ」
「どんな野望があるんですかね?国王の座を狙ってる?」
「知るか。俺たちが考えても仕方ない」
「まあそうですけどね。そんなことより飲みすぎないでくださいね、護衛ありますから」
「わ、わかってるよ。うまいんだよ。どれも」ぐびっ
おなかいっぱいにゃ。たくさん食べた。そろそろ寝るにゃ。
「なんか普段とは違う疲れが・・・」
部屋でくつろぐニャオトは少し顔が赤い。
「お酒飲んだの?」
「え?あ、もしかして少し入ってたのかも。色々勧められたから・・・」
「まったく。ほら早く寝るにゃ」
肉球ほっぺに、ぺとっ。
「冷たくて気持ちい。お休み、マロン」
「お休み」
翌朝。
ドンドンドン、
「ナオトさん、すみません、ナオトさん!!」
扉をたたく音。フリッツの声。
「どうしました、フリッツさん?」
「すみません、姫が、消えてしまいまして・・・」
「え??どうして??」
パーティーが終わった後、イザークとフリッツは姫の部屋の前で寝ずの番をしていたらしいのだが、早朝気づくとなぜか寝ていたらしく。
「慌てて部屋に入ってみると姫が消えていました・・・。飲みすぎたわけでもないのに急に寝てしまって・・・」
「イザークさんは?」
「公爵に言いに行っています。公爵の屋敷に不審者が入ってきて姫をさらうなんてことはとてもじゃないけどありえないかと」
「どういうこと?」
「犯人は屋敷の中に、というか、公爵では」
「まさか!?」
人の走ってくる音。
「ナオト!フリッツ!」
「どうでしたか?」
「そ、それが・・・誰もいないんだよ、この屋敷!」
「え?」
屋敷の中から人が消えた?これはどういうことか。姫がいなくなっただけじゃないのか。どちらかというとあたしたちだけが取り残されているということかにゃ?
「まずはこの屋敷内の探索ですかね?」
「そうだな、何が起きているのか把握しないと」
「行きましょう!」
屋敷の中は本当に人の気配がなく、一部屋一部屋見ていくが誰もいない。パーティーが開かれた広間もすべて片付けられてなんの跡も残っていない。調理場や使用人の部屋も。
「ここは公爵の部屋のようですけど」
「見てみるしかない、いくぞ」
鍵もかかっていない部屋を開けると、やはり誰もいない。執務室であろうその部屋は大きな机のうえに書類などが残っている。壁には書棚などが並び、魔物のはく製の頭みたいなのも飾ってある。あれは鹿?かにゃ。
「ここにもいない。というか、人がいた痕跡がないのが変ですよね?」
「そこだな。いよいよ王都に連絡を取らないといけないか」
あの鹿、こっちを睨んでるみたいにゃ。生意気にゃ。
「この鹿、すごい角ですね」
「それはグレートディアーって魔物だな。確かその角は薬にもなるはずだ」
「へ~、そうなんですか」
何気なく鹿の角をニャオトが触ると、ゴゴゴーっと音がして、書棚が動く。
「え?」
そこにはぽっかりと空間が現れ、下に向かう階段があった。
「こ、これは?」
「いくしかないですね、隊長」
「そうだな」
「誰か残りますか?」
「・・・いや、あまりに状況がわからなさすぎる。みんなで行こう」
「こ、これは」
かなりの数の階段を下りてきた先にある地下室は、見たことない光景が広がっていた。
「棺、ですね」
だだっぴろい空間の床に、整然と棺が並べられている・・・