14話 魔石集めと初依頼
魔石が欲しいとヨアヒムから騎士団へ依頼があったので、今日は近衛隊が魔物狩りにゃ。あの暑苦しいおじさんたちと少しでも離れたくて、ニャオトにお願いして一緒に連れ出してもらった。ニャオトの肩に乗って。
魔物狩りに向かう場所は王都の西の森。以前あった迷宮は浄化されたみたいだが、奥には魔物がまだまだいるという。
「そもそも魔物ってどうやって発生しているか実はわかってないんです」
行軍しながらフリッツがニャオトに説明している。
ゴブリンやオークなんかの一部の魔物は人間のメスを襲って生殖することはあるが、ほとんどの魔物は生殖機能がないことがわかっている。迷宮の中で迷宮核が魔物を生むように、自然界でもなんらかの魔物を生むシステムがあるのだろうと。
「で、魔石は比較的強い個体に入っていますね。ゴブリンから出てくることはごく稀です。この西の森の奥地ではハイオークやキマイラが見つかったことがあります。今日もいくらかの魔石は取れるでしょうね」
「ハイオークやキマイラって、かなり強そうじゃないですか?」
「1対1ならそうかもしれませんけどね。近衛隊での討伐になれば問題ないですよ。あ、ナオトさんなら一人でも余裕でしょうけど」
と、笑顔でナオトを見るイケメン。
「あ、足を引っ張らないように頑張ります・・・」
「またまた~」
うん。おじさんのあれよりはかなりマシだ。今日はこっちで正解だにゃ。
「ずいぶんと仲良くなったもんだな」
イザークが寄ってくる。
「今日は少し俺達にも手柄をわけてくれよ?」
「え?」
「普通にやったらナオトとマロンで全部やっちまうからな・・・」
「いや、そんなことは・・・」
「ほら、隊長も自分と同じこと言ってますよ~」
「俺たちの訓練も兼ねてるからな。ま、気軽に見ててくれよ、な」
西の森に入ってしばらくすると斥候部隊からの伝令がくる。前方に魔物の群れを発見。
近衛隊は隊列を組んで進む。前に盾を持った部隊。その後ろに剣や槍、その後ろに杖で、一番後ろに弓の部隊。あたしたちは弓の部隊と一緒にされた。
魔物の群れ、主にオーク。まずは最後方の弓部隊から一斉射撃。オークの前衛に弓が降りかかると足が止まる。そこに盾の部隊が突っ込んでさらに足を止め、ひるんだところに剣や槍の部隊がとどめをさしていく。
にゃるほど、言うだけあってなかなか統率の取れた部隊運用みたいだ。
群れの後ろにはまだ後続がいるみたいで、一度隊列を立て直す近衛隊。
「なんだ、少しおかしいな」
後方で指示をしているイザークが訝しむ。
「どうしました?」
「こいつら追い立てられているような動きだ」
「え?」
「後ろになにかいるぞ、こりゃ」
―コカトリス、ヲ感知シマシター
「イザークさん、コカトリスだそうです」
「おいおい、そんな大物がかよ」
コカトリスは鳥型の魔物で、石化の煙を吐くことで知られているそうだ。その煙を浴びると数分で石になるらしい。
「大人数だとかえってまずいか。ナオト、フリッツと頼めるか?」
「は、はい、いきます」
足止めをくっている群れの脇を迂回してニャオトとフリッツと後方から迫るコカトリスに向かう。
「大きいですね、これ」
見えてきたコカトリスは鶏のような外見だけど、5m以上ある大きな化け物だ。頭の周りに紫色の煙が漂っている。
「ちょっと特殊な個体ですね。あそこまで大きいのはなかなか見ませんよ」
フリッツが言うのだからそうなのだろう。
「マロン!」
火の玉!!
手始めの火魔法は命中したが、大したダメージを与えたようには思えない。
次!
風の刃!!
羽毛が飛んで行ったがそのぐらい。
「先に行きます!」
フリッツが風を纏いながら槍の突撃。胴体部分に槍が刺さって血が飛び散る。
コケ~~~~~~!!!
ニャオトは続けて走っている。鶏の足目掛けて剣を振る。太い足にもダメージはあったみたいで体がぐらつく。
土の槌!!
あたしは大きな土の塊を鶏の頭上に出現させて落とす。
グエッ!!!
頭の部分が地面に着く。
「行ける!」
ニャオトが剣を振りかぶると鶏の頭に叩きつける。
クエェェェ~~~!!!
「やったか?」
「それフラグ、ですよ」
コケコケコケコケ~~~~~~~!!!!!!!
首を持ち上げてコカトリスが叫ぶと同時に紫の煙が嘴から噴出された。
「竜巻!!」
風よ吹き飛ばせ~~!!
フリッツとあたしの風魔法が煙が届くのを防ぐ。
「聖なる光よ、敵を切り裂け!!」」
勇者となったニャオトが取得した聖光魔法。いろいろ試してるみたいだけど、今回は魔法剣として剣に纏わせ、斬撃とともにコカトリスに飛ばす。
コ、コケ~~~!!!!!
光の速度の斬撃、コカトリスは縦に真っ二つに裂ける。
「これは、反則的な威力ですね。相変わらず」
にゃ~
「す、すみません」
「そこで謝られるとこっちが困るんですよ、ほんとに」
「は、はい・・・」
コカトリスが倒されると残りの魔物たちは確実に近衛隊が討伐した。
魔石も結構とれたみたいだし、まあ良かったにゃ。
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「さて、今日呼んだのは依頼があってな」
魔石収集のための魔物討伐から戻ると王様に呼ばれた。
「各地にいる貴族たちに魔王討伐のための協力を頼んでるのだが、一向に返事が来ない領地がある・・・。勇者に様子を見に行ってきてほしいのだ」
「は、はい、構いませんが。僕で大丈夫でしょうか?」
「ん~、実は少し面倒な相手でな・・・」
王様が言うには相手は北方領ローレンツ公爵。広大なうえに魔物が多く住む北方領を代々治めている貴族で、王族の次に位が高い。5年前に代替わりした現公爵は若く、野心もあり、かといって他の貴族が協力を言ってくる中、無視をされたままにもいかないと。
「ますます僕の手には負えない気が・・・」
「常に魔物との戦いを行っている北方領では直接的な戦闘力がものをいう。勇者の力を見れば返事をくれると、そう思っているのだがな」
「・・・わかりました。どこまでできるかはわかりませんが、やってみます」
「すまないが頼む。猫、マロンであったな。勇者を頼むぞ」
にゃ~。ばっちりでしょ。
「馬車は用意してある。護衛とともに明日向かってくれ」