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異世界は猫(?)と共に(仮)  作者: 藤間ココロ
第二章 勇者
15/40

幕間 夢2 江戸(?)

突然テイスト変わりますが、辛抱してお読みください。

幕間は次の章の最後にまた書くので、一度読み飛ばしていただいても大丈夫です。

 目が覚めてもそこはいつもと変わらぬ日常。世の中はこんなに変わりつつあるのに、僕の日常はなにも変わらない。そう思ってた。



 嘉永6年6月。その日世界が変わったという人もいる。変えたのは黒船。将軍様の世になって300年、徹底して外国を排除し続けたこの国に突如現れた刺激物。

 強力な軍事力をもって幕府を屈服させたのはペリーとかいう外国人だという。幕府は揺れに揺れた。


 嘉永7年11月。


「おい菊太郎、どうした、ぼーっとして?」

「え?あ~すまないね、なんだって?」

「だからさ、内緒の集まりがあるんだけど、一度一緒に行こうって言ってんの」


 僕に話しかけているのは幼馴染の加助。久しぶりに現れたと思ったら何だか意味の分からない事を言っている。


「去年奉公先を飛び出しちまってさ、行先のない俺を拾ってくれた命の恩人がさ、若いもん集めてちょいと話したいことがあるんだと。んで菊太郎にも来てほしくてさ」

「なんで僕なのさ?」

「そりゃ~俺と菊太郎の仲じゃねえか」


 どんな仲だよ。ただの幼馴染だろ。


「おとっつぁんに内緒でそんなの行けないよ」

「16にもなってまだそんなんかよ~。もうさ、おれらいっぱしの大人だぜ?」

「でもなんか怪しいし・・・」

「頼むよ、それなりに人数揃えないと俺も立場ってもんがあるんだ」

「知らないよ、そんなの」

「頼む、幼馴染の一生のお願いだ」


「菊太郎!?どこだい?」


「おとっつぁんだ・・・」

「やべ、いるのがばれたら大目玉くらっちまう。明日の夜、迎えに来るからさ、じゃあな」

「ちょ、加助!!??・・・ほんとにもう・・・」


 加助は縁側から裏庭に抜けていってしまった。昔からすばしっこいのが取り柄だって自分で言ってたけど。


「菊太郎?ここにいたのかい?なんだ誰か来てたのか?返事もしないで」

「ごめん、ちょっと庭を見てただけ」

「相変わらずぼ~っとしてるねお前は。ちょっと用事を頼まれてくれ。酒井屋さんにこれを届けてくれ」

 差し出されたのは風呂敷包。


「なんだい、これ?」

「そんなもんは知らなくていいんだよ。ほれ、いっといで」

「・・・はい」


 酒井屋と言えばおとっつぁんと碁敵の旦那さんの店。まあ中身にそんなに興味があるわけじゃない。まあぱっと行ってくるか。

 うちはおとっつぁんが始めた乾物問屋。大きな店ではないが、まあまあ忙しい。店には番頭さんや丁稚さん、川沿いの倉庫には荷揚げの若い衆なんかも何人かいてそれなりの所帯にはなってる。

 番頭さんに声をかけてから外に出た。


「あら、菊太郎さん、早くからお出かけ?」

 通りの向いの伊勢屋の娘、おはなが声をかけてくる。店の前の掃除の最中らしい。おはなも幼馴染だ。

「酒井屋さんまでちょっと」

「気を付けて」

 おはなの笑顔に元気が出てくる。この界隈では人気の娘だし、ぼちぼち誰かと夫婦になるのだという噂も。相手が僕じゃないのが寂しいけどね。伊勢屋さんとうちだとそう格の違いはないと思うけど、おはなの父親は野心家だ。良いところとの縁談をまとめて家業を広げるつもりなんだとおとっつぁんも言ってたしな。


 そんなことを思いながら歩き出した途端になんだか体が揺れたように感じた。

「え?」

 その違和感はすぐに正体を現す。

 足元が大きく揺れ始める。


「地震だ~~~!!!!」

 誰かの叫びが通りに響く。


「きゃ~~~!!」

 聞き覚えのある声、おはなだ。


「おはな!!??」

 振り返るとおはなが地面に座り込んで叫んでいる。


 建物が揺れている。伊勢屋もうちも。目に見える範囲の全てが揺れている。

 と、どしゃーんと大きな音がした。少し先の店の屋根から瓦が落ちたようだ。見るとそこかしこで瓦や飾り付などが落ちてきている。

 伊勢屋の屋根も揺れて、瓦がずれている。


「危ない!!」

 声を出したのが先か、駆け出したのが先か。おはなの元に駆け寄り手を引く。腰が抜けたようなおはなはしかし、血相を変えた僕の顔に危機を感じたのかよろよろと立ち上がって屋根の下から避ける。

 そこにどしゃーーん、瓦が落ちる。


「いや~~~!!!」

 おはなの手を引いて頭を覆い、抱きしめるような格好で僕たちは立ちすくんでいた・・・




 幸い大きな揺れはその一度だった。小さな揺れは何度かあったが。落ち着いて確認をするとうちにも伊勢屋さんにもそれほど大きな被害はなかった。地震で一番怖いのは火事が起こることだが、幸い朝食の時間帯を終えていたこともあり、火の気が少なかったのだろう。ただそれはこの町だけのこと。こんなに大きな地震だと広い範囲で揺れただろうから、もっと大きな被害がある町もあるかもしれない。


「菊太郎、隣の部屋の片付けもお願いね」

「は~い。おかっつぁんも足元気を付けてね」

 家の中はおかっつぁんが先頭に立って片付けを。おとっつぁんは川沿いの倉庫の無事を確認しに走って行った。僕のお遣いもとりあえずは延期。まあしょうがない。

 そんなこんなで一日中片付けやら手伝いやらであっという間に太陽が沈んでいった。簡単に夕餉を済ませたあと、部屋に戻るとすーっと障子が開く。

「加助!?」

「菊太郎、しーーーー」

 口の前に人差し指を立てて加助が入ってくる。

「・・・どうした?」

「いや、迎えに来たんだよ」

「え?こんな状態でやるの?」

「俺もそう思ったんだけど、これもいい機会だなんていわれてさ・・・」

「その、命の恩人さまってのは一体どんな人なんだい?」

「そりゃー、お前、とっても立派な人さ。これから世の中は変わる、その中心にいるべきなのは俺たちみたいな若いもんだって言ってくれてさ~。俺は感動した」

「・・・へ~」

 その恩人の話は長くなりそうだったが、とにかく顔を立てるつもりで来てくれとお願いをされた。加助は他に人を集められなくて苦労をしてるみたいだった。


「まあ、今夜はみんな疲れて寝てるからばれないと思うけど・・・」

 加助の懇願に負けて付いていくことにする。

 実はさっきの加助の話が気になっていた。これからは僕たちの時代になるのかもしれない。将軍様だって黒船にはかなわないということみたいだし。




 加助に連れていかれたのはどこかわからなかったが、裏口のようなところから入ると大きなお屋敷みたいなところだった。

 その中の大きな広間にはたくさんの人がいた。中には僕みたいな町人もいたが、少し汚れた着物をまとった浮浪者みたいのもいた。

 加助は僕から離れて、広間の奥にいる集団に近寄り話している。あの中にその命の恩人がいるのかな?


 と、一番奥の襖の前に加助とは違う若者が立って、凛とした声でみんなに話始めた。

「みなさん、今夜はよく来ていただきました。それでは、お頭をお呼びしますので、一同頭をお下げください!」


 え?そんなに偉い人が来るの?お頭って呼ばれてるの?

 と思ったが、みんなにつられて頭を下げる。

 すーっと襖が開く音がした。


「おいおい、こんな坊主に頭を下げろってのは違うよ、みんな頭をあげてくれ」

 野太い声が広間に響く。そーっと頭をあげると奥には黒い袈裟をつけた大きな体をした僧侶が笑顔で立っている。

 なんだかこういう場に似つかわしくない感じがした。なぜ僧侶?


「こんな大変な時にありがとう。こう集まってもらったのは他でもない。今世の中は大きく変わろうとしている。これからは武士ではなく、町人や農民が力を持たなければいけない時代が来る。それをみんなに知ってもらいたい!」


 僕たちが力を持つ時代・・・

 僧侶の話は続いた。

 黒船来航により幕府の威信は地に落ちた。各藩は自国の力をつけるために潜み、都の天子様も将軍様に苦情を申し付けているそうだ。幕府は右往左往している。

 これはそのうち国を二分する戦争が起きると僧侶は言う。


「今日だけではない、最近地震も増えている。これは御仏もこの国を危ぶんでいる証拠だ。今日の地震は江戸より西のほうからやってきた。西国では大きな被害が出たと聞いている」


 そして僧侶は予言のように言った。


「本当はもう少しみんなに聞いてほしいことがあるのだが、実は明日も地震が来る」


 え?みんな戸惑う


「今日よりも大きいうえに、たぶん火事が出る。だから今夜はここまでにしてみんな帰って明日に備えるのだ。いいな、明日も揺れて火事だぞ。今日の揺れで傷んだ家もあるだろう。無理な時は逃げてでも命を守れ、いいな、必ず生きろ!!」


 突然のことにみんな動揺しているが、まずは帰ることにしたのだろう。当たらなくても明日も後片付けなどが続くだろうし、遅くなるのは避けたい。

 加助が寄ってきてなにか言っていたが、帰り支度の騒々しさで良く聞こえない。

「じゃ、明日な」

「うん」


 生返事で家に帰る。

 あの僧侶の言ってたことはなんだったのか。頭の中でぐるぐる言葉が回っていたが、疲れもあって寝た。



 そして次の日。


 この国は、また揺れた。


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