11話 守る
暑い夏ですね
サラサラの金髪はきりっと揃えられ、青い目はどこまでも爽やかな笑顔とともにこのオスを印象付けている。イケメン、フリッツ。
「ナオトさんのことはイザーク隊長から聞いていました。ぜひ一度手合わせを願いたい。」
「おい、フリッツ、いきなりすぎなんだよ、お前は。」
「いえ、これは譲れませんよ、どうですかナオトさん?」
フリッツの眼はニャオトを値踏みするでもなく、ただ純粋に力試しをしたいとキラキラ光っている。
「え、え~と、」
もじもじしてるニャオトの手をがっちりつかんでフリッツが笑う。
「ね?」
「え~、イザークさん、大丈夫なんでしょうか?」
「まあ、特に問題はないんだ、これが。どうだ、こいつとやってみてくれないか?」
「で、では、はい。」
全員が練習の手をとめて、二人に注目しだした。
フリッツは長い棒を持っている。軽く振るとビュンと音が鳴り、風がこちらに届く。かなり強そうにゃ。
―鑑定シマスー
名前:フリッツ・クラウフマン 種族:人間 年齢:18歳 性別:男 ジョブ:「騎士」
ステータス レベル35
所持スキル:「突攻撃」レベル30 「斬攻撃」レベル15 「身体強化」レベル20 「風魔法」レベル10
所持スペシャルスキル:「槍術士」レベル10
あ、これはかなり。
対するニャオトは、まあ落ち着いてるかな?
「では、始めるか。あくまで訓練だからな、フリッツ。」
「わかってますよ、イザーク隊長。」
お互いに少し離れた距離で構える。
「はじめ!!」
「いきます!」
フリッツが声をかけて突進。ニャオトの胴体目掛けて棒を突き出す。早いにゃ。
ニャオトは半身になってかわしながら木剣を薙ぐ。フリッツが後ろに下がって避ける。
「まだまだ。」
体を回転させて大振りで棒を叩きつける。それを木剣で止めると、下に押さえつける。足で踏まれる前に棒を引き、連続の突き。それを木剣でそらしながら懐に飛び込む。下から振り上げる剣の軌道から体を避けて、棒を叩き落とすが、そこにはニャオトはもういない。
「ってあのフリッツの攻撃をあそこまでかわせるのかよ。」
観衆の声。
「さすがですね。では、これは?」
フリッツがぶつぶつなにか言ったあとに巻き起こる風。竜巻のようにフリッツの体にまとわりついている。
観衆がざわつく。
一瞬何が起きたのかわからなかった。フリッツの体がニャオトの目前に移動している。その速さのまま突き出した棒はニャオトの頭に向かっている。
まずいにゃ!
が、ニャオトは間一髪顔をそらせてその突きを躱した。
その頬に赤い線が走り、血が滲む。
「お~~!!」
躱されたのを見て取るとフリッツはすぐ引く。
もう一度距離をとって構える。
「今度はこちらから。」
ニャオトが地を蹴って猛然と前に出る。カウンターの突きを最小限の動きでかわすと、また懐まで潜り込む。と、ニャオトが飛びあがって木剣を上から振り下ろす。両手で持った棒で迎え撃つ。と、バキッと鈍い音がして棒が折れる。
「なっ!」
フリッツの脳天に落とされる木剣は当たる寸前に止まる。
「お~~~~!!!」
「・・・フリッツが負けるなんておれ見たことないぜ。」
「あれが勇者かよ。」
「・・・自分の負けです。」
「あ、いや・・・はい。」
ぺこりとニャオトが頭を下げる。
フリッツの方はまだいくらか呆然としている。
「俺が言った通りだったろ?」
「イザーク隊長・・・噂以上でした。」
回復魔法にゃ。
ニャオトの頬の傷が消える。
フリッツがニャオトの手を握る。
「まだこの城にいますよね?これからも手合わせをお願いします。」
「あ、はい。」
ニャオトは恐縮しながらも返事をする。
イケメンに手を握られて、少し顔を赤くするのはどうかと思うけどにゃ。
「自分たちは日々魔王への対策で訓練を重ねています。600年前の勇者が守ってくれたこの世界を、今度は自分たちの手で守るのです。」
「あ、あの、僕は・・・」
じっと見つめあう二人。
と、ニャオトがフリッツの手を離す。
「ま、また手合わせお願いします。」
ペコリ。
イケメンは優しく見守るだけだよ。さすがイケメン。
メイドに連れられて今度は城下を見渡せる広いベランダに行く。
「うわ~、広いですね。建物があんなにたくさん。それに人も。」
入った時は馬車の中かから何も見えなかったので初めて見る町。
城より高い建物はないが、たくさんの建物が整然とならび、そこを行きかう人々は声こそ聞こえないが活発に動いている。
「あちらが市場がある通りで、そちらは貴族街、その先に職人街などがあります。一番奥に見えるのが正門です。」
「ナオトー!」
姫が駆け寄ってくる。
「ここにいたのね。どう、この国は?」
「こういう街並みは初めて見たから、うん、綺麗だね。」
「ふふ、わたしここから見る景色が大好きなの。」
「わかります。」
「あ、そのうち街中にもいきましょうね。色々見せたいものもあるし。」
「は、はい。」
みんなで街並みを眺める。
「生まれた時からこの町を見て育ったわ。12歳の時に浄化スキルを持っていることが分かって、それからはこの景色はただの景色じゃなく、守るべき国民の姿になった。魔王出現におびえて暮らすのではなく、わたしにもやれることが出来た。」
急に真面目な顔になったにゃ。
「王族として生まれ、浄化スキルを持ったわたしはやらなきゃいけないの。だからね、ナオトは、いいのよ。」
「え?」
「怖さはわたしにもわかる。誰もが立ち向かわなくてはいけないなんてことはない。ナオトはこの国の人でもないし。もちろん、この国に来たからにはわたしたちがナオトも守るわ。ただの客人として楽しんでよ。それだけ言いたかったの。じゃあ、わたしはこれで。」
言うだけ言って姫は去って行った。
「守る、か。」
残されたあたしたちは、しばらく景色を見ているだけだった。