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キミの心  作者: 小日向ライ
第1章 姫宮有栖
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8話

「秋瀬、あの電話の後のメッセージってどういう意味なんだ?」


教室に入り、秋瀬の姿を見つけるや否や、俺は秋瀬にそう訊ねていた。唐突に電話を切られ、突然送られてきたあの意味不明なメッセージ。

妹に訊ねても、罵倒されるだけで終わってしまったので、直接本人に聞いた。


「ん? あーあれね。ちょっとうとうとしながらだったから、私もよく分からないんだよね。まあ大した意味はないから気にしないで」


秋瀬は顔色一つ変えずに、淡々と述べた。

俺としては、納得のいかない、満足できない答えだったが、これ以上の追求は秋瀬を困らせるだけなのでやめておくことにする。


「そうか。秋瀬にもそういうミスとかあるんだな」


「そりゃあ、誰だってミスはするよ。最近、なんか変だし……」


「変? 変って言うと?」


秋瀬は一瞬俯いたが、すぐに顔を上げて。


「うーん説明しにくいんだよね。でも多分そういうことなんだと思う」


1人で納得していた。秋瀬と話す時は、だいたい秋瀬の中で全てが完結して、俺は話についていくことができない。


「いや、どういうことだよ……」


「これはまだ青山くんに言うべきじゃないと思うんだよね」


「そ、そうか。何か困ったことがあったら言えよ? 力になれるかどうかは分からないけれど話を聞くぐらいなら、俺にも出来るんだからさ」


「そういう優しさは無責任だと思うなー。相手に対しても、自分に対しても……」


秋瀬は頬を膨らませて、不貞腐れたように机に突っ伏した。なぜだか分からないが、不機嫌のように見える。最近の秋瀬は珍しい事ばかりする。もしかしたら、誰かが秋瀬になりすましているのではないかと思ったが、疑うまでもなく、目の前にいるのは正真正銘秋瀬蛍だった。

これがもし、誰かの変装だとするならば見事なものだろう。


「どういう意味だ?」


「……何気ない優しさが、時に相手も、自分自身も傷付ける可能性があるって話」


確かに優しさは無責任だとはよく聞くけれど、誰かの優しさに救われる人間もいるわけで。

そもそも、俺の場合は別に秋瀬に優しくしようとかそういう考えではなく、本当に心配をしているだけなのだけれど。


「でも、冷たくするのも違くないか?」


「誰も冷たくしろとまでは言ってないよ。ただ、人間関係ってホントに難しいから……」


そう言ってから、顔を上げて、椅子から立ち上がった秋瀬は、教室を出て、どこかへと行ってしまった。なんだか、逃げられたような気がする。



「ふーん。不幸が移るから近づかないでくれるか?」


昼休み。校庭の自販機の前。俺は別クラスではあるけれど、仲のいい女子生徒の雪代凛(ゆきしろりん)に秋瀬とのことを相談した。すると、思いがけない罵倒が飛んできたのだけれど。


「その言葉地味に傷付くぞ」


「いや、だってあたしはあんたのこと嫌いだし……」


雪代は汚物を見るような目で俺を見てくる。仲がいいと感じていたのは俺だけだったようで、どうやら嫌われていたらしい。しかし、まだ彼女がツンデレという線も考えられるので、その希望に掛けてみることにする。


「本気で嫌そうな顔するのやめてくれる? 俺はゴキブリか何かなのか?」


「それはゴキブリさんに失礼だろ。謝れよ。今すぐ謝れよ」


非常にゴキブリを尊敬しているようだ。御丁寧にさんまでつけている。様とつけられていたら、将来ゴキブリと結婚でもするのだろうかと心配していたかもしれない。


「すみませんでした」


失礼な事を言ったのは事実だ。誠心誠意謝った。


「ついでに私にも謝れよ」


「それは意味が分かんねえぞ……」


雪代に謝る理由は見つからなかった。むしろ、俺は彼女の毒舌な言葉によって傷付いたからこちらが謝って欲しいくらいなのだけれど。


「……」


急に雪代は黙り込んだ。口を開かずに、じっと俺の顔を見てくる。なんだかこの状況前にもあった気がするのだが、気のせいだろうか。


「おい。どうした? 大丈夫か?」


「あっごめん。あんたとの会話容量オーバー」


容量オーバーだった。たまに人との会話が面倒臭い時に雪代が使っている手法だ。ちなみに俺はよく使われる。もしかしたら、本当に嫌われているのかもしれない。


「どんだけ容量少ないんだよ!」


「あたしともっと話したいなら良い方法があるけどどうする? 試す?」


このパターンは初めてだ。いつもなら、その日は本当に無視され続けて、次の日になったら話せるようになっているのだが。雪代もさすがにやりすぎたと反省したのだろうか。


「お前に任せるよ」


「……あんた誰?」


名前を忘れられた。人の名前をアルバムの写真を消去するみたいに忘れられても困るんだが。

秋瀬や姫宮ならここで冗談だと笑って返してくれるのだが、雪代の口角が上がる気配は感じられない。終始真顔だ。


「記憶を消して空き容量を確保しやがった!」


「え? それってどこまでが苗字なんだ?」


名前を名乗ったと勘違いされた。雪代は首を傾げて、真剣に考えている。もしも、これが演技だとするならば、俺は彼女を褒め称えるべきなのかもしれない。


「名前を言ったわけじゃねえよ。ツッコミだよ」


「分かった。ツッコミ、このペースで話してたら1日で容量オーバーになるよ」


「名前また勘違いしてるし、記憶を消しても1日しか持たねえのかよ……」


「本音を言うとこれ以上ツッコミと話したくないんだ」


俺の名前がツッコミになりつつあることにはもう面倒なので触れないでおく。それよりも俺の心は再び深く傷付いた。


「俺何かしたか?」


「……」


容量オーバー。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  物語に吸引力がありますね。  ミステリアスな女の子が次々に出てきて、先が気になります。主人公くんにも、いろいろ事情がありそうだし……。 [一言]  現実から半歩だけ、夢の世界に足を踏み入…
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