6話
「もしもし?」
「はい、もしもし。青山くん、どうかしたの?」
俺が掛けた電話に対して、秋瀬が答える。
あの後、姫宮とは、多少の雑談を交わし、昼食を一緒に食べてから、解散となった。本当は問題解決に急ぐべきなのだろうけれど、話したくないことを無理に聞き出すという行為は、今回の件に関して言わせれば、遠回りだ。しかし、ある程度は姫宮について理解を深めていく必要がある。だから、本人以外で、姫宮の事を知っていそうな人物を考えてみたところ、俺の知り合いの中では秋瀬ぐらいしか浮かばなかった。
けれど、本来ならば、秋瀬も姫宮について分かっていることは、俺と同じぐらいの筈なんだけれど。
「うーん。いきなり電話掛けておいてあれだけど、今、電話大丈夫そうか?」
「そうだね。本当にいきなりだったからちょっとびっくりしたよ。でも大丈夫だよ」
どうやら、忙しいというわけではなさそうだ。
少しだけ、クラス1の成績を持つ女の子の休日というものがどんなものなのかは気になるけれど、それを聞くのは、また次の機会にしよう。
「姫宮の話なんだけど……」
「あー姫宮さん。そうだった。そうでした。確か今日は青山くん、姫宮さんとデート! してたんだっけ?」
なんだか、含みのある言い方だった。やはり、優等生として、勉学に励めと言いたいのだろうか。
「デートって程じゃないよ。ただ一緒に出掛けたってだけだ」
「それを世間一般的には、デートって呼ぶんじゃないの?」
姫宮も、デートって言ってたし、やっぱりデートということになるんだろうか。でも、ほとんど、雑談してただけだったような。
「そうかもしれないけれど、俺が話したいのはデートのことじゃなくて」
「姫宮さんのことなんだよね? 私に話しても、特に意味はないと思うんだけれど……」
そう。これは俺の勝手な都合。本来ならば、秋瀬に姫宮のことを話しても意味なんかない。無意味でしかない。本来ならば、姫宮のことは俺の方が知っているはずだ。俺は姫宮と直接話をしている。おそらく、秋瀬は見かけたというだけで、直接会話まではしていないだろう。だから、これは俺の勝手な都合で、勝手な希望。秋瀬なら何か分かるのではないかという期待でしかない。
「姫宮の抱えている問題については分かった。だから、それを知った上で秋瀬の意見を聞きたいっていうのが、本音かな?」
「そっか。私には姫宮さんが羨ましいよ」
羨ましい。心の声が聞こえることを言っているのか? だったら、そうだとしたら。
「別に羨ましいってものでもないだろ。まあ、利点もあるっちゃあるけど、やっぱり人の本音が見えてくるっていうのは恐ろしくないか?」
「え? あっうん。そうだね。ちょっと軽薄だった。気にしないで」
秋瀬が何かを羨ましがるなんて珍しい。あまり欲がないとは思っていたけれど、やはり欲しいものはあったりするんだろうか。意外と、可愛い服やアクセサリーに憧れたりしているのかもしれない。
「こんな話をするのも変な話だけどさ、秋瀬だったら、もし姫宮と同じような状況になった時どうするんだ?」
答えはすぐには返ってこなかった。少し悩んでいるようだ。しばらくして、秋瀬の透き通った声が聞こえてくる。
「その時になってみないと分からないけれど、私だったらやっぱり青山くんを頼るかな……」
「どうして俺なんだ? 秋瀬は友達も多い方だろ?」
俺と違ってなんて言ったら、虚しくなるだけなので、敢えてその言葉は口にはしなかった。
いないわけではないんだけれど、多いとは言えない。
「それは秘密です」
そこで突然、電話が切れた。正確に言えば、切られた。それがなぜなのかは分からないけれど。
すると、携帯の液晶画面に文字が映った。
秋瀬:333224゛294゛888
意味不明だった。何かの問題だろうか?
俺には分からなかったので、この事を妹に話すと妹はしばらく考えた後にこう答えた。
「私はお兄ちゃんが嫌い」