表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミの心  作者: 小日向ライ
第1章 姫宮有栖
5/38

4話

翌日。というか、デート当日。待ち合わせは午前9時に学校近くの公園。休みの日にまで早く起きるはめになるとは思いもしなかった。おかげで少し眠い。どうして、公園なのかを姫宮に訊ねてみたところ、どうも人混みが苦手のようだ。なんにでも、すぐに順応しそうなだけあって、それを聞いた時は衝撃だった。今の時刻は、午前の8時50分。約束の10分前。俺は既に公園に到着している。公園には、俺以外の姿は見当たらなかった。とても静かでなんだか落ち着く場所だった。


「待ち合わせか……」


俺は、無意識にそう呟いていた。待ち合わせにはちょっと嫌な思い出がある。だけど、今更、そんなことを考えていてもなんの意味もない。

俺が今生きているのは現在であって、過去では無いのだから。

しばらくして、姫宮がこちらに走ってきた。

人混みでないだけに、知り合いが近付いてきたら、すぐに分かる。

俺は姫宮に姿を見て、少しだけ安堵する。


「センパイ、ごめんなさい。待ちましたか?」


俺が待っていた時間はほんの10分程度。こんなものは俺にとって待ったとは言わない。1時間掛かっても2時間掛かっても、直接文句を言うつもりはない。


「待ってない」


「ふーん、センパイって変わり者って言われません?」


姫宮は考え込むようにしてから、そう訊ねる。

変わっているのは、姫宮や秋瀬であって俺は変わっていないと思う。一般的、普通、冴えないという言葉が俺ぐらい似合う人間はあまりいないだろう。最後の方は自分で思ってて悲しくなってきた。


「言われたことないな」


「変態ってセンパイって言われません?」


逆になってる。逆になってる。

正しくはセンパイって変態って言われません?だろう。それとも、変態なのは確定なのか。俺は姫宮の前で、変態的な事をした覚えはないんだけれど。ちなみに、姫宮以外の前でも、した事はない。


「人を変態呼ばわりするな」


「センパイ呼ばわりしてるんですよ」


そう言うと、センパイが悪口みたいに聞こえるからやめて。これから、センパイって呼ばれる度に、ああ、この人は今俺を蔑んでるんだな、なんて考えたくない。


「人をセンパイ呼ばわりするな!」


「じゃあ、なんて呼べばいいんですか? 青山?」


「せめて、さんをつけろよ……」


「失言しました」


とても失礼な後輩だった。そして、失言の仕方が酷い後輩だった。しかし、姫宮だったからこそ、こんなにも打ち解けて、現在デートという形で話をすることも出来ているのも事実。普通なら、こうはいかないだろう。そう考えると、姫宮の警戒心や防衛本能が少しばかり、不安になってくるけれど、そんな心配を俺がしてもあまり意味がなさそうだ。


「ところで、センパイ。今日の私について何か言うことはありませんか?」


スルーしていたのに、まさか相手から言ってくるとは誤算だった。今日の姫宮はいつもとは印象が少し違った。流石に、休みの日に制服は着てこないだろうから、服装に多少の変化があることには目をつぶろうと思ったけれど、まさか、白のワンピースを着てくるとは思わなかった。それに若干化粧もしているようで、頬はほんのり赤く、逆に唇の赤みは薄い。肩まで伸びた黒髪もいつもより艶がある気がする。

正直言って、可愛い。しかし、そんなことを言ったら、この後輩は調子に乗るに違いない。


「なんか、いつもとは違う装備だな」


「可愛いって言って貰えて嬉しいです」


「どんな都合のいい耳してるんだよ……」


姫宮には何を言っても、都合のいいところだけ抜き取られそうだ。不都合は認めない。きっと彼女はそんな人間なのだろう。


「じゃあ、センパイに服を褒めて貰えたところで、どうして私がセンパイの名前を知っていたのかでしたったけ?」


「おっ話してくれるのか?」


正直諦めていたのだが、どうやら話してくれそうだ。


「そういう約束ですから。言っても信じないと思いますけれど……」


「それは聞いてみないと分からないな」


言わなければ、言われなければ、相手に伝わらないことだってある。分からないままでは、知らないままでは、いつまでたっても何も始まらない。


「じゃあ言います」


姫宮は深呼吸してから、笑顔ではない真剣な表情でこう告げた。


「私は、視界に入った人の心の声が聞こえるんです……」


その言葉が、俺の心に深く染み渡った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ