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キミの心  作者: 小日向ライ
第1章 姫宮有栖
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3話

「青山くんは姫宮さんのことが好きなの?」


俺が再び、姫宮について、秋瀬に話すと、そんな問いが返ってきた。


「いや、別に好きってわけじゃないけど……」


「けど?」


「気にはなる」


嫌いというわけでもないし、好きという感情があるわけでもない。中間。でも、それを伝えるにはどの言葉が相応しいか考えた挙句出た答えがこの言葉だった。振り返ってみると、気になるなんて好きと言っているのとあまり変わらないのではないかと思う。だから、言ってしまったことを後悔。

しかし、秋瀬は馬鹿にした態度を取るわけでもなく──────


「ふーん。気になるのは言いけれど、気を付けた方がいいよ? なんでもかんでも好奇心で関わっていたら、いつかきっと痛い目にあうから。 青山くんが1番よくそれを知っているんじゃない?」


「ああ。そうだな……」


少しは反省したと思っていたけれど、やはり人間の癖や性格はすぐに変えられるものじゃないみたいだ。改めて、考える必要があるかもしれない。


「もし何かあったら、私に言ってくれればいいから。解決は出来ないかもしれないけれど、話を聞くぐらいのことは私にも出来るから」


「いつもありがとな。そういえば、姫宮が秋瀬は姫宮が俺の名前を知っていた理由を分かっていたって言っていたんだけれど、分かってるのか?」


思い返してみれば、秋瀬と姫宮の会話をした時、いつも以上に本題から話を逸らされていたように思う。

別に、それが悪いというわけでは無いのだけれど、単純にどうしてなのか気になった。


「やっぱりそうだったんだ。信じ難い話だけれど、有り得ない話じゃないかも」


「1人で納得しないでくれよ……」


「ごめんね。これは私の口から言うべきじゃないと思うから」


そういうことなら仕方ない。どうせ、明日になれば本人から直接聞けるのだ。早いか遅いかの違いだ。もっとも、姫宮が素直に教えてくれればの話だけれど。どうしてだろう。教えてくれないような気がする。


「それもそうだな。いや、そもそも、秋瀬は知らないのが普通で、知ってることが異常なんだから、今ここで答えを聞けないのが当たり前だよな」


「そんなに褒めないでよ。まぐれだよ。まぐれ。ほら、私ってまぐれを抱いて生きているような人間だから」


これは褒め言葉に入るのだろうか。普通より、異常と思われる方が嬉しいなんてやっぱり秋瀬は変わり者だと思う。

後、まぐれを抱き枕みたいに言われても反応に困る。抱きまぐれ。実在するのなら、俺も欲しい。


「これだけ引っ張っておいて、答えは誰かに聞いたとかだったら、がっかりするなー……」


「言っておくけど青山くんが期待するような秘密じゃないからね? 姫宮さんが自然に振る舞えていることの方が、不自然なんだから……」


なんだか、あまり楽観的に考えていい話でもなさそうだ。助けて欲しいと言っていたのだから、姫宮が何らかの悩みを抱えているということでいいんだろうか?

疑問は尽きない。俺に分かることは姫宮は頼る相手を間違えているということだけだった。





「明日はセンパイと、デート! デート!」


俺の少し前を上機嫌に姫宮が歩いている

秋瀬との会話の後、特に何もなく、放課後になり、俺は校門の前で、姫宮と偶然出会った。

これも偶然かどうか怪しいものがあるけれど、偶然ということにしておこう。そして、せっかくだから一緒に帰ろうと姫宮が提案してきた。断る理由もなかったので、了承して今に至る。


「なんで、俺は出会って2日の後輩とデートすることになってるんだろうな……ていうか、デートは絶対お前がしてみたいだけだろ」


「そんなことありませんよ。やっぱりセンパイは他の人とは違うみたいですし」


俺には他人と比べて、特にこれといって変わっているとこは見当たらないはずだ。それどころか、俺ほど平均的な人間なんて他にいないと思う。


「どこが違うんだよ」


「うーん、優しいところでしょうか?」


「なんだか、思い付かなくて、苦し紛れに出したような答えだな……」


えへへと苦笑いを浮かべる姫宮。正解だったらしい。出来れば、もう少し隠して欲しかった。


「でも、優しいって思うのは本当ですよ? 裏表がないっていうか、傍にいて安心するっていうか、とにかく、センパイは優しいんです!」


無理やり押し切られた感が凄かった。というか、会って2日程度で人の裏表なんて分からないだろう。

考えていると、姫宮はにこっと笑って俺の顔を覗き込んでくる。

そして。


「センパイとはこれからも一緒に話したいと思ってるんです。だから、私の事嫌いにならないでくださいね?」


「もうすでに、嫌われているという発想はないのか? 」


別に、嫌っているつもりないし、これからも嫌いになる予定はないけれど、まあ一緒にいて流石に少しは疲れたりはする。


「ないですね。それどころか、センパイは私のことが気になっている。違いますか?」


「いや、無関心だな」


「私に嘘をつくのは、他殺行為ですよ?」


「それ絶対お前が殺してるだろ! 嘘をついたやつを殺すってどんな凶悪犯だよ」


柄でもなく、叫んでしまった。姫宮はにこやかな笑顔を浮かべる。それにしても怖すぎる。この可愛らしい笑顔の裏には、一体どんな悪魔が潜んでいるのだろう。

だけど、今のこの笑顔には無理をしているような印象は全く見受けられなかった。


「センパイがどうしてもと言うなら、付き合ってあげてもいいんですよ?」


「今のお前の発言の後に付き合えるか。命がいくつあっても足りない気がする」


「そうですか。では夜道に気を付けてください」


どちらを選んでも殺されるらしい。夜は家から出ないようにしよう。


「だけど、センパイ。正直な話、私って可愛いと思うんですよ。料理も出来ますし、発育もそこそこ良い方だと思います。振る理由なんてないと思うんですけれど」


自信過剰過ぎやしないだろうか。でも、1番タチが悪いのは、それがあながち間違ってないということである。

概ねその通りなところが、またこの子をこんなふうに育ててしまったのかもしれない。


「俺は誰かと付き合うつもりはない」


「でも、センパイも私のこと可愛いって……」


「俺、姫宮にそんなこと言ったか?」


言ったような気もするし、言っていないような気もする。人の記憶というのは、本当に曖昧だ。


「私の気の所為かもしれないですね」


そう言うと、姫宮はにっこりと笑った。



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