表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミの心  作者: 小日向ライ
第3章夏色小春
34/38

33話

昼休み飲み物を買いに、校庭の自動販売機に行くと、クールにペットボトルのお茶を飲む雪代の姿を発見した。不思議にも雪代は立っているだけでも絵になりそうだ。そのまま近づいていくと相手も俺に気付いたようで嫌な顔をされる。蛍の発言も分からないことだらけだったが、分からないことと言えば、どうして俺がここまで雪代に嫌われているかも分からない。


「雪代、奇遇だな」


「あたし、あんたが思っているよりもあんたのこと嫌いなんだけれど……」


 初手から攻撃力の高い言葉を放たれる。好きと嫌いは一緒のように思っている俺だけれど、ここまでダイレクトに言われるとさすがにダメージがある。もしかして、毎回嫌いと言わないと話すことができない呪いにでもかけられているのだろうか。はぐらかされてしまうかもしれないけれど、そろそろ俺を嫌う理由を聞いておいてもいいかもしれない。 

 でないと、改善のしようがない。


「えっと、俺のどこが嫌いなのか教えてもらってもいいか?」


「全部と言いたいところだけれど、それじゃああんたは納得しないだろうな。強いて言うなら、偽善者ぶってるところだよ」


 全部なんて絶望するしかないけれど、偽善者というのも心にくるものがある。

 しかし、案外的を射ているので、否定することができない。過去の俺から今の俺が存在しているのは一種の奇跡のようなものだ。まるで、どこかの奇跡の子のように。比べるのも失礼で、事情も全然違うのだけれど、性格が変わったという点ではこはると俺はどこか似たようなものがあるのかもしれない。


「そいつは嫌われても仕方がないな」


「別にあんたの行いが間違っているとは言わない。人間は誰かを騙して、嘘をついて、自分を偽っているようなやつばかりだからな。だけど、正しいとも思えない。誰が正しいとかはないんだろうけどさ少なくともあんたの行いは正しくはないよ」


「それって間違っているって言っているのと同じじゃないか? まあ、確かに俺は正しくはないよ。正しいと思った人間の真似をしているだけだ。言うなら俺は偽物だな」


 あいつは正しかった。あいつだけは正しいと思えた。正しさで満ちていて、俺も満たされた。ただただ、ぬるま湯に足だけ浸かっているだけだった俺を溺れさせてくれた。前が見えないほどの暗闇から俺を連れ出して明かりで照らしてくれた。


「あんたもいろいろとあるみたいだな。それでも同情はしない。正直言ってあんたのことなんてどうでもいいからね。どうでもいいし、あんたに芽生えた嫌いという感情はどうしようもない」


「偽善者ってだけでそこまで嫌いになるもんなのか。どうでもいいのに嫌いなんてのもおかしな話だ」


「嫌いになるよ。大嫌いだ。そもそも偽善者とか言っちゃったけどさ、本物の正義があるのかも怪しいものだよ。まだ悪人のほうが信じられるぐらいさ。覚えておいて損はないと思うよ。勇者や英雄だって人間だ。ずっと正しいままでいられる人間なんて存在しない。善人だって時と場合によっては悪人になりえるんだよ」


 雪代はいったい何を体験してきて、何を見てきたのだろうか。ここまで雪代が熱くなるのも珍しい。だが、雪代が言うように人は変わる生き物だ。普段冷静な雪代が今こうして熱くなっているし、大人しかったらしいこはるは現在危なっかしい活発な女の子だ。有栖の友人だった人間も嫉妬心から変貌を遂げてしまったように人はいつ、何が原因で変わってしまうか分からない。


「やっぱり人は今の自分を大人しく受け入れるしかないのかな。でも、それこそ我慢して自分を偽っているってことだよな」


「そんなの考えだしたらキリがないのかもしれない。だから、そんなくだらない考えは切り捨てるほうが世渡りするうえでは効率がいいかもね」


 言葉の矛盾を理解することはまだ俺たちには早かったようだ。ここは潔く諦めるのがいい判断だろう。しかし、今回はこんなにも雪代と話せたのだから案外ラッキーデイなのかもしれない。投げかけられた言葉はラッキーとは程遠いところにありそうだけれど。


「とりあえず、俺は雪代にこれ以上嫌われないように努力してみるよ」


「そこまであたしに嫌われないことが重要だとは思えないけどな。まあ、あんたに本音をぶつけたおかげで少しはストレス発散になったからな。よし、これやるよ」


 そう言って、雪代は持っていたペットボトルを俺に渡してきた。それほど頭が回らない俺でもこのペットボトルがどういうものかは何となく想像がつく。意外な行動に驚きを隠せない。


「でも、これって……」


「関節キース。あたしはもう飲まないからな。いらないなら捨ててくれても構わない。嫌いだからってそういうのを気にするほど器が小さいわけじゃないからな。ただ、軽蔑するってだけだ」


「最後の発言でこのペットボトルがゴミに変わったんだが」


 今以上に嫌われないようにしようとしている矢先に軽蔑されてしまっては意味がない。

 つまり、俺はただ単にゴミを渡されただけということになる。いくら嫌いと言っても俺への扱いがひどすぎる。というか、間接キスは器の大きさなんて関係ないと思うのだけれど。


「ふふ。冗談だ。好きにしてくれて構わないよ。誰かに言いふらしたりもしないさ。それがご褒美になるかは分からないがたまにはいいだろ」


 少しだけ微笑んで、雪代は恥ずかしがるそぶりも見せずに去っていった。

 1人取り残されてどうしたものか迷う。受け取ったものを捨てるのも逆に申し訳ない気もするし、飲んでしまうのそれはそれで申し訳ない気がする。どうして、雪代があんなにも平然としていられたのか不思議なくらいだ。いったい、どうするのが正解なんだろうか。考えれば考えるほどだんだんと喉が渇いてくる。今日がラッキーデイというのはあながち間違いではなかったということで飲んでしまってもいいのだろうか。


「結局、飲み物何も買ってなかったしな」


 最後にそんな言い訳をしながら、お茶を口に含んだ。気のせいかもしれないけれど、そのお茶はなんだかとても甘く感じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ