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キミの心  作者: 小日向ライ
第3章夏色小春
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32話

「こはるちゃん? もちろん知ってるよ。奇跡の子だよね?」


次の日の朝。蛍にこはるについて訊ねてみたところそんな台詞が返ってきた。

どうやら、奇跡の子という異名は学校では結構、噂として広まっているらしく知らない生徒のほうが珍しいようだ。言われてみれば、あんなに破天荒な生徒が目立たないほうがおかしな話だった。


「当たり前のようにそう言われると知らなかった俺がちょっと恥ずかしいな」


「だけど、今回の件だけに関しては知らなかったほうが良かったのかも知れないよ?」


知らなかったほうが良かったかもしれないとはまた物騒な言葉だ。こはるの行動はぶっ飛んでいて、先輩に対して不躾ではあるけれど、知らないほうがいいと思うまでのことではない。

そんな俺の心情を察してか、蛍は不敵な笑みを浮かべて。


「今はそう思っていなくても勇人くんはきっと後悔する。こはるちゃんとの付き合い方は考えた方がいいと思うよ?」


「面白くて可愛いらしい後輩だけどな。関わっていて後悔することなんてないように思えるけれど……」


まさか、裏では名の知れた不良とかだろうか。

不良でなければ殺人鬼だろうか?さすがにそこまでの現実離れはしていないはずだ。現実というには程遠いところに俺たちは足を踏み入れているのかもしれないけれどここにきて殺人鬼が登場するなんてことにはならないと思う。


「私もこはるちゃんを何度か見たことがあるんだけどね。事故に遭う以前と今のこはるちゃんを見比べたときあの子の性格の変わりように私は驚いたよ。記憶を失っているようだけれどあの子にはそれ以外のなにか理由がある気がする。例外があるような気がするの」


真剣な眼差しで蛍が俺を見据えてくる。事故に遭う以前のこはるを蛍が知っていたことに俺はまず驚きなのだが。それよりも性格が変わっている?例外がある?蛍が何を言わんとしているかが俺にはまるで理解できなかった。

まあ、ほとんど蛍は俺に分かるようには説明してくれないのだけれど、今回は特に分かりづらい。しかし、蛍の口ぶりから察するにこはるも何しからの問題を抱えているということでいいのだろうか?


「一気に言われて少しついていけないんだが、とりあえず事故に遭う以前の性格ってのはどういうものだったのか教えてくれないか?」


「今とは対称的とも言っていいほどの性格だよ。もっともそっちのほうがこはるちゃんの本当の性格なのかな? って感じはするけれど。内気で静かで人に怯えるように俯いていたよ。だから、正直今のこはるちゃんを見たとき最初はこはるちゃんだと思えなかったんだよね」


意外で衝撃的な返答だった。確かに、容姿だけを見れば大人しそうな顔をしていたけれどまさか本当にそうだったとは思わなかった。今の性格のほうが俺としては印象深いのでそちらのほうが定着してしまっているが、もしも事故以前のこはるに最初に出会っていれば、もしくは事前に知っていれば、そう簡単に今の性格を受け入れることはできなかったかもしれない。

性格が変わったというだけで大袈裟に言い過ぎなのかもしれないけれど、今回のこはるの件はそこが大きな鍵を握っているような気がする。

気がするというだけで根拠もなければ確証もないのだけれど。

そもそもまだこはるが何かの問題を抱えていると決まったわけではない。いや、こはるの様子や言動からしてそれは確定したも同然か。

でなければ、自分には何もないなんて台詞は出てこないだろう。


「記憶を失ったことで今までこはるの心のうちに閉まっていた、閉じ込めていた感情が溢れ出したってことなのかな? たとえば、こはるが大人しくなってしまうような何かしらの原因があってそれを忘れたことで元々の性格に戻ったとか?」


「なるほどね。私が見たこはるちゃんこそが偽物で今のこはるちゃんのほうが本来のこはるちゃんじゃないかって勇人くんは言いたいんだよね?」


「偽物って言い方はどうかと思うけれど、まあ、大体、概ね、そんな感じだ。実のところはこはるにしか分からないんだろうけれど」


今となってはそのこはるにも分からないのだろうけれど。こはるは自分には何もないって言ってたしな。それは事故以前の自分のことを無意識に指していたのではないだろうか。高さにも車にも怯えないこはるが人間に怯えていたかもしれないなんて想像もできない。

いや、この世で1番怖いのは人間かも知れないのだから何もおかしくはないのか。


「こはるちゃんにしか分からないか。奇跡の子ねー。悲劇の子の間違いだと私は思うな……」


「そもそも、誰が名付けたんだよ。そんな異名」


俺の問いに蛍は首を傾げる。何か変なことを言ってしまっただろうか。思い返してみるけれど特に変わったことは言っていないように思う。


「知らなかったの? 名付けたのも広めたのもこはるちゃん自身だよ? 廊下で叫びまわってたし間違いないと思うよ」


すごく痛い子だった。そばにいてそれに気付けないのもどうかと思うが、これは気付きようがないように感じる。まさか自分自身で奇跡の子なんて言っている子がいるとは普通思えないだろう。それは事故以前のこはるを知っていた蛍からしてみれば衝撃を受けても仕方がないだろう。内気だと思っていた少女が廊下で叫びまわっているなんて光景を見せられて驚くなというほうが無理な話と言える。


「知りたくなかったよ、そんな事実」


「だけど、それが現実で真実で事実なんだよね」


現実から目を逸らすなと訴えるように蛍が言う。


「それで、蛍の意見をもっと具体的に聞かせてくれないか?」


「私の意見なんてないよ。強いて言うなら世間の常識で今回の件を考えないほうがいいって思うだけだよ」


世間の常識なんて最近の俺にはなくなってきていると思うのだけれど、今回の件もまた常識というものが通用しないらしい。

しかし、いったいこはるはどんな問題を抱えているのだろうか。


「一応、肝に銘じておくよ」


そういった後に丁度、授業を始めるチャイムが鳴り響いた。

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