31話
こはるを家まで送ることにして、俺たちは公園を後にした。1人で帰らせて、また危険なことをされては、たまったものではない。外もだいぶ暗くなってきたし、どちらにしろ1人で帰らせるべきではないだろう。こはるの家は俺の家とは真反対の方向にあるようで、こはるを送った後帰るのが大変だなんてどうでもいいことを考えながら歩く。
すると、こはるが訝しげな表情を浮かべて、口を開いた。
「うーん。随分とこはるに構ってきますが、あなたがそうする理由はなんなんでしょうか? こはるがいつ、どこで、何をしていようがあなたには関係ないのでは?」
確かに、こはるの行動が特別俺に何か影響を与えるというわけではない。いや、もう既に影響は受けてしまっているのかもしれないが。それに、知ってしまった人間のことをそう簡単に放っておける程俺は人間が上手くできていない。
「そんなに寂しいことを言うなよ。こはるは友達を作りたいんだろ? 俺は単純に1番最初の友達としてそれに協力したいだけだよ」
俺の言葉にこはるがため息をつく。とんでもなく失礼だった。
「もう友達を解消したいというのは言わないでおきますけれど、あなたの考えはとても自分勝手で独りよがりだとしか思えないです。それと、間違ってますよ。こはるは友達を作りたいんじゃなくて作らなければいけないんですよ……」
友達を解消したいというのは、言っているようなものだけれど、ここは敢えて聞かなかったことにしておこう。そもそも、俺たちの関係は友達以上に薄っぺらい関係なのかもしれない。
俺の考えが自分勝手なのは認めるが、友達を作らなければならないという点にはすんなりと納得することができなかった。
「うーん、それってどう違うんだ?」
「願いか使命かの明確な違いがあります。こはるは友達を作らなければならない。そう思うんです」
こはるの答えを聞いて、更に分からなくなる。友達はいた方がいいのかもしれないけれど、必ずしも作らなければならないというわけではないだろう。友達を作らずに生活できている学生も世の中にはいるのだから、友達が絶対的に必要になるということもない。むしろ、友達に裏切られたり、騙されたりする人間だっているのだ。
「こはるの人生だからこはるが決めればいいけどさ。何かに縛られずにこはるのしたいことをやっていけばいいと俺は思うけどな」
「こはるは何がしたいんでしょうか……」
「それは俺に聞かれても困る」
自分がどうしたいかなんていうのは、自分が知っている事だ。それを他人に求めてしまっては、それは他人の意見であり、自分のしたいことではなくなってしまうような気がする。
「おそらく、こはるには自分というものがないんでしょうね。みんなが持っている信念だとか夢だとか、そういったものがこはるにはないんですよ。こはるにはなにもない……」
記憶がなくなっているのだから、そう思うのも仕方がない気がする。以前の自分がどんな人間だったのか思い出せないというのは、そう簡単で単純な話ではないだろう。難しくて困難な話になってくる。そんな人間に、そんなこはるに俺はなんと言ってやればいいのだろうか。
迷いながらも、悩みながらも、自然と俺の口が開く。地面から噴き出した温泉のように言葉が漏れる。
「こはるがなにもない人間だったら、少なくとも俺とこはるはこうして話してないよ。こはるに惹かれるものがあったから、俺はこはるの力になりたいと思った。信念だとか夢だとかはこれから先の人生でゆっくり見つけていけばいいんだよ。周りに流されることなんてない。自分のペースで進んでいけばいいんだ」
「そこまで言うなら、こはるはこはるのしたいことを見つけようと思います。だけど、1人では大変だと思うんですよ。だから……」
こはるの言葉が止まる。なんだか、もじもじしていてとても恥ずかしそうだ。俺も意地悪ではない。これから先に続く言葉をある程度は予想できる。
「ああ、手伝うよ。乗り掛かった船だからな」
「本音を言うと、こはるは別の船に乗り移って、あなたが乗り掛かったというその船だけ沈んで欲しいのですけれど、そこまでの贅沢を言うのはやめておきます」
思いっきり、本音が漏れていて、まったく贅沢を言うことをやめれてはいないけれど、これも1つの照れ隠しと受け取っておこう。
「とりあえず、明日からはこはるの本当にやりたいことを見つけないとな。何か候補はあるのか?」
「うーん、本を読むとか?」
意外な返答に驚く。こはるの性格から察するに、外で遊ぶアウトドア系タイプかと思っていたのだが、読書に興味があったとは。俺はそんなに本を読むというわけではないけれど、図書館の場所くらいは知っている。放課後にでも一緒に寄ってみるか。
「分かった。それなら、明日の放課後、校門前に集合だ。ちなみに窓を飛び降りたりしたらだめだぞ?」
「階段を飛び降りればいいんですね。わかりました!」
何も分かっていないようだった。念の為、放課後すぐにこはるの教室に向かった方が良さそうだ。1人にしておくと、色々と危険すぎる。
「じゃあ、今日は送ってくれてありがとうございました」
「ああ、気にしなくていいよ」
いつの間にか、こはるの家に到着していたようで、こはると別れてから俺は1人夜の住宅街を歩く。空を見上げると星がとても綺麗だった。




